ルミナスは熱くなり、イアンは眠りにつく
――――服ぅ! ……あれっ? どこで脱いだっけ!!
キョロキョロと辺りを見回して探している間に、イアンが扉越しに何か喋ってるけど、最優先で服を探しているから全然耳に入ってこない。せっかくイアンの方から来てくれたのに…こんな姿見られて、1人で何やってんの? とか思われたら、恥ずかしくて死ねる。
――――そういえばっ!!
ベッドの近くで脱いだことを思い出した私は、寝室に向かって最短距離で走り……
「〜〜〜〜ったぁ!!」
慌てすぎて、壁の角に思い切り足の小指をぶつける。その場にしゃがんで鈍い痛みに悶えていると、寝室の方にある扉が開いていることに気づいた。
「あっ」
こちらを見て固まってるイアンとバッチリ目が合った私は、カァ…と羞恥で顔が熱くなる。
「こ、こ、これは…えっと……」
言い訳が思いつかない。目線を落として口を噤んでいると、こちらに来たイアンが手を差し伸べてくれた。「あ、ありがとう…」かろうじて声が出せて、その手を取ると、グイッ!と引き寄せられる。右腕だけを使って力強く抱きしめられて、ドキドキと心臓の鼓動が早まった。
「そんな格好でいたら…俺に襲われるぞ。」
「いいよ。」
つい、反射的に返してしまった。
恐る恐る顔を上げると、イアンの顔が真っ赤になって口をポカンと開けている。腰に回されていた腕の力が緩み、私の言葉が信じられないといった様子で、え…?と開けたままの口から声を漏らした。
「いま…」
「あっ! い、イアン! 何か用事があって来たの?」
へらりと無理矢理に笑みを作って見せれば、イアンはキョトンと目を丸くした後、口元を綻ばせた。
………待ち構えてたと思われたかな?
先ほどの襲っていいよ発言を無かったことにしたくて誤魔化すように、早口で喋ってしまった。
「今夜はルミナスと一緒にいたくて…来たんだ。」
一度目を伏せ、慌てて目線を上げたイアンは目のやり場に困っているのか、視線を彷徨わせていた。
「私も、イアンと一緒にいたいと思ってたよ。こ…これ、これね。今日買った肌着なんだ。着心地がすっごく良くて、動きやすいよ。」
レースでふわりと広がった部分を指先で摘み、にこっと微笑む。別に気合を入れてた訳じゃないよ。ただ着てみただけだよ〜と口には出さずに目で訴えかけていると……
「よく似合ってる。」
イアンの顔が間近に迫り、耳元でそっと囁かれた。
耳から全身に電流が走ったような感覚がして、キュンと胸が締め付けられる。
「……う、うん…でも恥ずかしいから、服を着るね。」
声がうまく出なくて、上擦ってしまった。
そんな私に、腕を解いたイアンが柔らかく目を細めて、私の頰にキスを落とす。
「もっと見たい。……見せてほしい。ルミナスの恥ずかしがる姿を見るのは、俺だけだ。」
独占欲剥き出しで私を見つめるイアンは、私の首筋にそっと指を這わせる。髪を指にからめて口元に近づけ、愛おしそうに髪にもキスを落とした。はらりと指にからめていた髪を解いて、後ろに流してくれたけど、肩に一瞬イアンの指が当たったのを感じて、ゾクゾクする。自分の体温が熱いのか、イアンの手が熱いのか分からない。
「……さ、先に行ってるね。」
声を振り絞った私は、イアンが広間の蝋燭の火を消してる間に、寝室に移動する。どうせ寝るだけだと思って、服はベッドの上に脱ぎ捨てられたままだ。
私の選択肢は二つに一つ。
このまま肌着姿でいるか、
服を着るか………
寝室の方は明かりを消さずに、ベッドで横になった私は薄い布団を自分にかけて、イアンが来るのを待つ。こちらに来て一瞬立ち止まったイアンは、ベルトを外して壁に剣を立てかけると火を消し、私の隣に横になった。真っ暗になった視界のなかで、イアンが私の肩にそっと触れてくる。
「……服、着たのか。」
「えっ、うん。」
イアンの声が少し残念そうに聞こえた。
結局、私はワンピースを着てしまった。
見たいってイアンは言ってたけど、やっぱり恥ずかしいし、怪我してるイアンに無茶させたくない。
「また…今度、着るね。」
そう言ってイアンの方に顔を向けると、前髪を上げられておデコにキスされた。「…ん。分かった。」と静かな声で返したイアンの吐息がおデコにかかって、くすぐったいと思いながら口を結ぶと、ちゅっ、と唇にも柔らかい感触が当たる。暗くてイアンの顔がよく見えないけど、優しくキスをされて、とても私を大切に想ってくれてるように思えた。
「ルミナス…その………」
イアンが何か言いかけて、言葉が途切れる。
ベッドの軋む音が僅かに聞こえて、イアンが私から離れて、頭を枕に沈めたようだった。「どうしたの? 」と気になって私が声をかけると「……肖像画はどうなったんだ?」と間を開けてイアンが質問してきた。まだ完成してなく、私が眠ってしまったことを話すと、小さく笑い声が聞こえてくる。
そろからは王都に来てからの思い出を振り返りながら互いに喋り、ウトウトしてくるとイアンに腕まくらをしてもらって、私はイアンの温もりを感じながら眠りについた。
―――――――――――
すーすーと規則正しい寝息が耳に入る。
俺の腕を枕のようにして、安心しきって眠りについたルミナスが、愛おしくて堪らない。
………結局、聞けなかったな……。
ルミナスの部屋に訪れたのは、もちろん一緒にいたいのもあったが、俺の知らないルミナスの隠し事を教えてもらおうと思ったからだ。扉を叩いて話しかけても返事がないから寝たのかと思ったが、声がして開けた先で見たルミナスの姿に我を忘れそうになり、左腕を治してもらおうかと、一瞬馬鹿な考えが浮かんでしまった。俺のために新しく肌着を買ったのだろうか。もしそうなら嬉しいな。ルミナスの恥ずかしがる姿も、こうして隣で寝てくれるのも俺だけだと思うと、嬉しさのあまり口元が緩んでしまう。
「愛してる…。」
穏やかな表情で眠っているルミナスに、囁きかける。明日から旅が終わるまでは、2人きりでこうして過ごせないのが残念だが、仕方ない。
暫くルミナスの寝顔を見つめ、このまま腕の中にずっと閉じ込めていたい気持ちになりながら、俺は眠りについた。




