表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/265

ルミナスは、項垂れる

 

 カン カン カン カン カン カン カン


 もしもしかめよ〜と可愛らしい声で歌を口ずさみながら、テンポ良く音が鳴っている。私は固唾をのんで、クレアの手元に注目していた。


 ぽろっと玉が落ち……


 ガッカリした顔で「あ〜…」とクレアが声を漏らす。………20回位してた! パチパチと私が拍手すると、クレアは照れたような笑みを浮かべる。


 テーブルの上には、クレアの考案( 前世の記憶参考に ) した試作品が並んでいる。私たちはソファに座り、クレアに1つずつ説明と実演をしてもらっていた。今は、けん玉の技をいくつか披露してもらった所だ。リバーシの注文が殺到して、一時期は店内が客で溢れていたけれど、予約してもらって客足は落ち着いたとクレアから聞いた。


「クレア上手だね!」


 凄い凄いっ! と私が褒めると、ぽっと頰が赤らんだクレアは「……ルミナスも、やってみて。」と言って、けん玉を手渡してくる。


 ………前世では、小さい頃に遊んでたけど……


 立ち上がると、クレアがやった時よりも周りに注目されているような気がした。皿に玉を乗せ「もしも〜」と、緊張しながら始めると……



「あっ!!」



 一回しか出来なかった私は、ガクッと項垂れる。


 ………前世でもそうだった。全然、出来ない。


 はぁ…とため息を吐き、けん玉を返そうとしたら、クレアは口を両手で押さえながら肩を震わせて、必死に笑いを堪えていた。


「〜〜〜っ、てっきり……わたしより、出来ると…」

「出来ないよ! 」


 むぅ…としながらクレアに、けん玉を差し出す。


 小学生の頃、けん玉を上手くなりたくて家で密かに練習を重ねたけど、結局できず、友達の輪に入ることが出来なかった。受け取ったクレアは「ごめんね。」と軽い口調で言って、アハハと笑う。ラージスがクレアと私を交互にチラ見して、不安そうにしてるのは……まぁ、気にしないことにしよう。クレアと私が急に仲良くなって、違和感を感じているのだろう。


「ルミナス。アクア様には珍しい品をお土産にしたいと言ってたよな。この、けん玉が良いんじゃないか?」


 イアンがクレアから、けん玉を受け取る。

 紐を垂らし、左右に玉を揺らして真剣な表情のイアンが、なんだか可愛いい。心が和みながら「ん―…そう、だね……」と返して、テーブルの上にある品々に、私は視線を向けた。


 ・リバーシ改……駒が円形ではなく札のように四角い形をしてる。足つきではなく、盤上のみで、シンプルに作られた物だ。凝った細工は一切ない。貴族達からの注文の品が全て納品でき次第、次は平民用として売り出そうとしてる品だそうだ。


 ・コマ回し……まだ1つしかないけど、数を増やしたいと言っていた。


 ・布製のボール……クレアの自作で、聞いた時は裁縫スキルの高さに驚いた。中には鈴が入れてある。転がすと綺麗な音が鳴って、マナが手に取って遊んでいた。王子誕生の知らせを耳にして、赤ちゃんの玩具を沢山作りたいと、クレアが楽しそうに話していた。


 ………リバーシは持ってるもんね。イアンの言う通り、けん玉をお土産にしたらアクア様…喜びそう。


 アクア様が遊んでる姿を想像するだけで、口元がにやけそうになる。でも『 試作品 』と言ってたから、売り物じゃないよなぁ……と私が考えている間に、イアンが「いくらだ? 」とクレアに尋ねていた。


「お気に召したなら、無償で…」


「リバーシの金を払っていない。俺たちは買い物をしに来たんだから、ちゃんと金を払う。」


 クレアの言葉を遮ったイアンが、腰に下げている小袋を手で揺らして、貨幣のぶつかる音が鳴った。


「かしこまりました。本日お持ち帰りなさるなら、新品をお渡しできませんが…それでも構いませんか?」


 クレアが尋ねて、イアンが私に視線を向ける。私が頷くと「大丈夫だ。」とイアンが返答した。


 ………良かった、売ってもらえるんだ。


 新品を用意してもらったら、作るのに日数がかかるだろう。お土産として持って帰れるのが一番良い。グラウス王国に届けてもらうのも悪いし、試作品と言っていたけど、十分に商品として売れる品だ。


「ご購入頂きまして、ありがとうございます。」


 クレアがニコッと笑みを浮かべて、頭を下げてくる。並んで座っているロリエ会長とラージスも、揃って頭を下げてきた。


「でも……けん玉は、これ1つだけでしょう? 本当に売っていいの?」


 心配になって私が話しかけると「大丈夫だよ。」と笑顔で言ってクレアは、イアンがテーブルの上に置いた、けん玉を手に取り、隣に座ってるロリエ会長に手渡した。


「会長。けん玉を入れるサイズの木箱があるか、探してもらえますか?」


 キリッとしている商人モードのクレアは、母親に対しての呼び方や言葉遣いが変わってる。


「確か……クレアちゃん、前に色々なサイズの木箱を頼んでいたものね。」


 下唇に指を当てたロリエ会長は、ん〜…と声を漏らして、木箱がどこにあるか思い出そうとしているようだ。2人が並んでいると、姉妹に見えてくる。そしてクレアの方が会長っぽいと思ってしまった。


「ねぇ、ラージス君。一緒に探しましょう。」


 立ち上がったロリエ会長が、ラージスの腕をグイグイ引っ張り、立つように促す。ラージスはクレア1人を残してくのが不安な様子だったけど「私だけだと、ルミナス様方を待たせちゃうわ。」とロリエ会長が急かした為、仕方なさそうにラージスは立ち上がり、私たちに向かって一礼してから、部屋を出ていった。


 箱を用意してもらっている間に、イアンとクレアがお金のやりとりをする。新品じゃないから、クレアは売り出す予定の値段よりも、値下げしてくれていた。


「飲み物をお持ちします。少々お待ち下さいませ。」


 イアンから受け取った貨幣を、大事そうに手に持ちながら、クレアが席を外す。マナとイアンがリバーシ改で遊んでいる間に、クレアがトレーを持って戻ってきた。


「昨日作ったやつなんだけど…良かったら食べて。」


 クレアがテーブルの上にカップと、モザイククッキーが数枚載せられた小皿を置いていく。


 ………え? クレアが焼いたの?


 イアンとマナの前に置いている間、紅茶を飲んでみると…すごく美味しい。城の使用人が淹れてくれる紅茶も美味しいけど、クレアの淹れてくれた紅茶の味も抜群だ。次はクッキーを一口かじってみる。


 ………うまっ!!


 思わずクッキーとクレアを交互に見る。店で商品として出せるレベルだ。サクサク加減も中のしっとりした感触も絶妙だし、色が付いてる部分は紅茶を使ってるようだ。


「クレア。紅茶もクッキーも、すごく美味しいよ。カフェを開いたら大盛況しそうだね!」


 正面に座ったクレアに視線を向けて私が絶賛すると、クレアは苦笑いを浮かべた。


「ん〜…作るのは好きだけど、オーブンが無いから焼くのが大変だよ。調理器具は自分で作れないし、構造も知らないから…カフェを開くのは無理かな。」


 あれば良いな〜とは思うけどね。と言ったクレアに、同意するように私は相槌を打つ。メイドカフェに執事カフェ……コスチュームを用意して…と妄想はいくらでも湧くけど、現実的に考えると大変そうだ。


「オーブンだけじゃなく、ガスコンロがあれば便利だよね。私の魔法で色々作れるけど…調理器具は無理だな…」


 頰に手を当てながら前世の記憶を辿ってみるけど、イメージするのは無理だ。仕組みが分からない。そもそも料理をする機会の少なかった私は、調理器具に触れることがあまりなかった。


「火を起こすだけでも手間がかるし、なんでも手作業で作るから、時間がかかるのが難点だよ。リバーシを1つ作ってもらうのも…けん玉だって随分前に依頼して、最近ようやく1つ出来たんだ。どんな物か説明するのが大変だったけどね。」


 ふう…とクレアが軽く溜息をつく。


 クレアが魔法を使えてたら、あっという間にリバーシを大量に作っていたかも。けれど職人達だって仕事がもらえるから、時間がかかっても任せる方が良いんだろうなぁ…と私が考えていると………





「ルミナスさんが、クレアさんと話してる時……すごく……楽しそう……」





 ぽつりぽつりと、独り言のような声が聞こえてきて、私は顔を横に向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ