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ルミナスは、店に入る

 

 扉を開けると、カランと可愛らしい鐘の音が鳴る。

 店に入り、落ち着いた雰囲気の店内を軽く見回すと、お客は誰もいないようだった。


「いらっしゃいま………っ!?」


 アンティーク調のカウンターにいるクレアがこちらに視線を向け、目を丸くして言葉を詰まらせた。


「〜〜〜ルミナスっ! 来てくれたんだ! 」


 嬉しそうに声を弾ませて、クレアが満面の笑みを浮かべる。もちろん。と私は心の中で思いながら、にっこりと笑みを返す。


「イアン。クレアさんって……ルミナスさんを呼び捨てにするほど、仲良しなの?」


「城にいる間に仲良くなったんじゃないか? 中庭でお茶飲んだりしてただろ。」


 ふ〜ん…と、私の後ろで声がした。

 その声が、少し不機嫌そうに聞こえたけど……


 ………そうだ! マナにクレアを紹介しなきゃ!


 そう思っている間に、カウンターの奥にある扉がバン! と開かれて、ロリエ会長が出てきた。その後ろから、ラージスも続けて出てくる。クレアが私の名を呼んだ声が、聞こえたのだろう。


「く、く…クレアちゃん? る、ルミナス様…… ?」


 おろおろしているロリエ会長は、私と目が合うと「い、いら…いらっしゃいませ。」と緊張した面持ちで頭を下げてきた。「もう…落ち着いてよ。」とロリエ会長に言ったクレアは、苦笑を漏らす。

 その間にラージスは、私たちに向かって深々と頭を下げていた。「いらっしゃいませ。」という言葉が、ラージスの口から出てきたことに違和感を感じたけど、本人は言い慣れているようだ。店で何の手伝いしていたか詳しく聞いてないけど、接客もしていたのかもしれない。


「クレア。ルミナス様と友人になったとは聞いていたが……呼び捨ては失礼に当たる。」


 立場をわきまえろ。と鋭く言ったラージスに、クレアは眉尻を下げ、悲しそうな顔をする。

 真面目なラージスには、クレアの言葉遣いが許せなかったのかもしれない。


「ラージス。わたくしがクレアに、そうしてほしいとお願いしたのよ。貴方の言葉はもっともだけど、クレアを責めないでちょうだい。」


 俯き気味のクレアの側に、私は歩み寄る。ラージスは「ですが…」と口籠もり納得を得ない様子だった。


「わたしが悪いから……大丈夫。」


 小声で言ったクレアに「ラージスみたいな人は、多いもんね。」と私はカウンター越しに、声を潜めて返した。クレアは、くすっと笑みを零す。


「公の場ではクレアに気をつけてもらうわ。客は今、わたくし達だけだから、別に構わないでしょう。」


「ルミナス様が、そう仰るのでしたら…」


 一方、ロリエ会長は「ルミナス様と仲良くなれて、クレアちゃん本当に良かったわね〜。」と言って涙ぐみ、母親目線で喜んでいた。



「……改めて紹介するね。クレアと私は同い年で、サンカレアス王国では同じ学園に通っていたんだ。色々あったけど……今は私たち、友達だよ。」



 カウンターから移動したクレアが、私の横に並び立つ。イアンとマナに向かって「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません。マルシャン商会で商人をしている、クレアと申します。」とキチンと名乗り、礼を取った。


「クレア。イアンが貴方に謝りたいことがあるの。」


 聞いてあげて。と私が囁きかけると、頭を上げたクレアはキョトンとして「…え?」と声を漏らす。軽く咳払いしたイアンが真っ直ぐにクレアを見つめ、真剣な表情で口を開いた。


「城だと謝る機会がなかった。…クレアが拐われた時に、俺は貴方に疑いの目を向け、リバーシをぞんざいに扱ってしまった。」


 すまなかった。と謝罪を述べて、頭を深く下げたイアンに「……え? え?」とクレアは、私とイアンを交互に見て戸惑っている。


 どうやらロリエ会長とラージスは、イアンがした事をクレアに言わなかったようだ。昨日、広場に行って買い物に行くと話をしていた時に、イアンがクレアに会いに行きたいと言った時は、正直驚いた。もともと私はクレアに会いに行くつもりだったけど、イアンは発情期で気が立っていたとはいえ、自分の行いを反省し、気にしていたようだった。


 アンジェロ王子達を見送った後、最初に行く店はここにしようと、私達はあらかじめ決めていた。


「イアン王子! どうか頭をお上げください!」


 ラージスが慌てた様子で、声を上げた。謝罪されるとは思っていなかったようだ。

 ロリエ会長は頰に手を当てながら首をかしげて、記憶を探っているようだった。イアンがラージスに掴みかかっていた時のことを、よく覚えていないのかもしれない。あの時はクレアが拐われたことで、頭がいっぱいだったのだろう。


「わたしがいなかった間に、何があったが存じ上げませんが……これからマルシャン商会と、良いお付き合いをしていただければ幸いです。」


 クレアが微笑み、頭を上げたイアンは「ああ。ルミナスの友人を無下にはできない。」と言って、薄く笑みを浮かべた。


「イアン王子優しいね。ルミナスは…そんなところに惹かれたのかな?」


 口を両手で覆い隠しながら、声を潜めて尋ねてきたクレアに、ドキッと心臓が跳ねる。


 ………あああ! もう! 私にだけ聞こえるように言ったつもりでも、イアンには丸聞こえだから! クレアに獣人のことを詳しく話しとけば良かった!


 本人を前にして言うのは、恥ずかしい。

 …かといって、何も答えずにいると、イアンはきっと落ち込んでしまう。



「……うん。」



 顔が熱くなりながら返答すると、クレアが口を隠したまま、ふふっと軽く笑う。聞き耳を立てていたイアンの頰が若干赤らみ、口を固く結んで、口元がニヤケてしまうのを耐えているように見えた。


 ………優しいだけじゃ、ないけどね。


 好きな部分を全て言ったら、キリがない。

 ふぅ…と息を吐き、イアンの隣に視線を移す。マナはクレアを観察するような眼差しで、ジッと見ていた。


「そうだわ!クレアちゃん、皆様に試作品を見てもらったら?」


 ニコニコしてるロリエ会長に、クレアが頷いて返す。


「……見る? 色々あるよ。」


 ぱちっとウィンクしたクレアに、なんとな〜く私は察しがついた。きっとリバーシ同様に、前世の記憶にある物を作ったのだろう。


 店番は他の人に任せるようで、クレアが上の階から女性を連れてきて、新規のお客様が来たら呼んでちょうだい。と指示を出していた。商談をするのはクレアの役目みたいだ。



 私たちは先ほどロリエ会長とラージスが出てきた、部屋へと案内される。


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