表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/265

ルミナスは、牢屋へと向かう

 


 ――薫ちゃん…なんで見てたのに助けてくれなかったの?



 ごめんなさい



 ――なんで毎日登校すんの?誰もお前に来てほしくないって!クラスのゴミ!



 ごめんなさい



 ――先輩…なんで助けてくれなかったんですか!



 ごめんなさい



 ――使用人を叩くなど!お嬢様おやめください!



 ごめんなさい



 ――産まなければお母様は亡くならなかったのに!



 ……私は産まれてこないほうが良かったの…?



「―――――ッうっ…。」

 重い瞼をゆっくりと開けて、ルミナスはベッドに仰向けのまま天井を見つめる。嫌な汗が額から流れて頰をつたい、ハァ…と深く息を吐いた。



 …嫌な夢を見た気がする……なんだっけ…。


 夢の内容が思い出せなかった為、まぁ夢だしいいやと早々に思い出すことを諦めた。


 …そっか私サリシア王女に部屋に案内してもらって、すぐ寝ちゃったんだ…。


 ルミナスは体を起こし辺りを見渡す。家具は全て木造の造りになっていて、一人用のベッドとテーブル、椅子があるだけだ。部屋に入った後少し休もうとベッドに横になって、熟睡してしまったらしい。


 部屋に窓は一つもなく、今が朝なのか分からなかった為、ルミナスは部屋から出ようとベッドから降りて立ち上がろうとし…手元に何かある事に気づく。


「ネックレス…どうしよう。」

 高価な物だと分かってはいるが、早々に処分してしまいたいルミナスだった。手に持っていても仕方ないと思い、首にネックレスをつける。

 そして扉へと向かい取っ手に手をかけ……


「うわっ!」


「ふひゃっ!?」


 …扉を開けると目の前にはイアンがいた。イアンはいきなり扉が開くと思っていなかったのか、驚いた表情でルミナスを見ている。ルミナスもイアンがいると思っていなかった為とても驚いた。

 変な声を出してしまった…とルミナスは少し恥ずかしそうに俯く。


「あ、えっと…朝の食事持ってきたんだけど、疲れてると思って…部屋で食べた方がゆっくりできるんじゃないかと…あ、後着替えも!」


「わぁ!嬉しいです!ありがとうございます!」


 イアンは両手にパンとスープを持ち、肘に服をかけている。ルミナスは寝汗をかいて気になっていたのと、昨日食べた食事を思い出し、笑顔でイアンにお礼を言った。

 中に運ぶから…とイアンは部屋の中に入りテーブルの上に食事を置く。


「――ッ服の色は!俺が選んだから…!」

 顔を赤くしながら、イアンはルミナスに服を手渡した。


「あ、ありがとうございます。」


 服を受け取りルミナスがお礼を言う。イアンの手渡し方が素早かった為、危うく手から落としそうになっていた。

 服を両手で広げて見てみると、今着てるものと同じワンピースで色は黒だった。

 …そういえば、前世ではよく黒色を好んで着てたな…。

 前世の薫のコーディネートは基本的に黒、茶色、灰色の三色で構成されていた。 明るい色は自分に似合うとは思えず、暗い色の方が精神的に落ち着くためこの服の色は嬉しい。

 ルミナスは服を眺めたまま薄く微笑んだ。



「――ッお、俺は、出て行くから…ゆっくり休んでて。」

 ルミナスの様子を見ていたイアンは、そう言って部屋を出て行こうとしたのだが…ルミナスが「イアン王子!待ってください!」と言って引き止めた。


「私イアン王子にずっと、言いたい事があったんです。森の中で私つい夢中になって、イアン王子の耳を触ってしまったこと…あと急に泣いて困らせてしまったんじゃないかと…王子に対しての数々の非礼、申し訳ありませんでした!」


 ルミナスは勢いよく頭を下げて謝罪する。



 ……イアンから何も反応がない為、ルミナスは頭をあげてイアンの様子を伺う。


 イアンは顔を真っ赤にし、耳…耳…と呟いていた。



「…イアン王子…?」

 恐る恐るルミナスはイアンに話かける。


「――あ、いや、別に謝罪なんかいらないから!それに名前……イアンでいいし…。」


「えぇ!?それは絶対にダメですよ!王子を呼び捨てにするなんて、不敬すぎますよ!」

 慌ててルミナスは反論する。



「―――ッじゃぁ、二人きりの時だけでいいから!」


「…わかりました…。」

 本人が良いと言っているなら別にいいのかな…。そう思ったルミナスは頷き了承する。


 …でも名前で呼んでいいって事は、少なくとも嫌われているわけじゃないよね。


 ルミナスは安心し、あわよくばまた猫耳を触らせてもらえないかな、と考えていた。


 ルミナスは嫌われているどころか、好意を向けられているのだが…前世で男性に好かれた事が無いのと、イアンがゲームでヒロインの攻略対象者だったことが頭にあり、嫌われることはあっても、好かれるとは思っていないのだろう。



「…えっと…そろそろ俺は姉上の所に行かなきゃ…。」


「サリシア王女はどこですか?お世話になったお礼を改めて言いたかったんですけど…。」


 イアンは扉へ向かって歩いていた足を、ピタリと止める。


「今はやめておいた方がいい。姉上は捕らえた男たちの所だから。」


 イアンの声色が変わった。表情はルミナスに背を向けていて分からないが、先ほどまでとは違い淡々と話すイアンに、ルミナスは戸惑う。


「捕らえた男たちのところ…?…処罰が決まったのですか…?」第二王女を攫ったのだ。その事を男たちが知っていたか分からないが、罪が重い事は確実だろう…そう思ってイアンに聞いたのだが、イアンから返ってきた言葉は「拷問している」とルミナスの予想外の言葉だった。


「え?何故、拷問を…?」


「……ライラと同じように攫われた子達がいるんだ。男たちがその仲間の可能性があると、姉上は口を割らせる為に拷問している。」



「他にも子供が…!?」

 ルミナスは知らなかった。村の子供たちが行方不明になっていることを。ライラと同じように攫われた子がいることを知り、ルミナスは驚愕する。


「さっき姉上から聞いて知ったんだけど、子供達の手掛かりが何も見つかっていないみたいで、捕らえた男たちが唯一の手掛かりみたいなんだ。」


「拷問したら、子供達の行方がわかるんですか?」


「…いや、男たちが正直に話すかどうか…。」


「――ッそんな…!」


 ルミナスは足元がグラリと揺れたような感覚を味わう。手に力が入らず持っていた服が下にゆっくりと落ちた。




 私やライラ王女は助かった…。


 子供達は…?


 怖くて泣いているかもしれない。


 自分がどうなるか分からなくて恐ろしくて…。


 震えているかも。暴力を受けているかも。


 助けて助けてと叫んでいるかもしれない。


 


 助けなきゃ……!



 イアンの横を通り過ぎて、ルミナスは走り出す。


 突然走り出したルミナスに「ちょ…どこ行くのさ…!」とイアンが驚き、声をあげるがルミナスは構わず足を動かす。


 後ろからイアンがあっという間に追いつき、ルミナスを止めようと声をかけるが、何を言ってもルミナスの耳には届かない。


「―――ッ足の傷に障るだろっ!」

 止まらないルミナスの様子に、イアンは諦めてルミナスの腕を掴み、動きを止めさせる。ルミナスが一瞬痛そうに顔を歪めたが、それでも前に進もうとし、イアンが声を張り上げる。


「今姉上の所に行っちゃダメだって!」


「……早く…!早く行かないと!お願いします!行かせてください!」


 イアンはルミナスの必死な様子にハァ…と息を吐く。

「…牢屋の場所も知らないくせに…。俺が連れてくから…じっとして。」


 イアンはルミナスの腕を掴んだまま自分の方へと引き寄せ、横に抱き上げる。


 ルミナスが早く!急いで!とイアンを急かし、イアンはルミナスを抱き上げたまま、男たちとサリシアがいる牢屋へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ