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ルミナスは、視線を走らせる

 

「あれが…さっき言っていた『 銃 』か?」


「そうだ。公爵も長さの違う物を腰に下げている。」


 私と同じように向こう側を覗き見ていたイアンが、顔を引っ込めると小声でアルと問答を交わしていた。いつのまにかアルは銃のことを、イアンに伝えていたみたいだ。


「……なンだァ? ソレ…」


 バルバールの、怪訝そうな声が聞こえてくる。

 どんな物か知らなくても、初めて目にした銃に警戒しているようだった。


「バルバール。さっさとタクトと去れ。兵にお前は連れて行かれるだろうが、抵抗せずに大人しくしていれば良い。 」


 お前は昨夜…何もしてないのだからな。と言って、フィーユの隣に並び立つ公爵は、蔑むような目をして口角を釣り上げた。


「バルバール兄ちゃん……。」

「クッソ…気に食わねェ…!」


 バルバールは舌打ち混じりに声を上げ、その場からは一歩も動かない。(しば)し沈黙が続き、ラージスは剣の柄を握りしめたまま、倒れたままのリグレットや公爵たちを警戒しているようだった。痺れを切らしたのか、公爵はフィーユの肩に手をのせて口を開く。


「そういえば…私の領地に移った子達は、よく働いているぞ。孤児院の子達だけでなく、その子達の身も……私の意思で、どうにでもなるが。」


「〜〜〜〜〜!?」


 バルバールが、固く拳を握りしめる。

 公爵に殴りかかりたい気持ちを、必死に堪えているように見えた。子どもたちを人質にして脅しているような口ぶりの公爵に、私は怒りが湧き上がってくる。


「ルミナス、魔法は使わなくていいからな。俺たちだけで事足りる。……指輪の場所は分かるか?」


 イアンが私のすぐ側に来て、使命に燃えているような意志の強い金色の瞳と目が合った。


「ルミナスは、ここから動くな。…オレ達に任せておけ。」


 力強く、優しさのある低い声が耳に入ってきた。イアンと張り合うように側に来たアルは、軽く手首を鳴らしている。ここから飛び出す準備をしているようだった。


「指輪は、公爵が羽織っている上着のポケットに入ってる。でも…私だけ隠れてるわけにはいかないよ。魔法が使えなければ戦えないけど……」



 イアンとアルを交互に見た私は、言葉を紡ぐ。



「公爵の注意を、引きつけることは出来るから。」



 自然と、顔が(ほころ)んだ。


 2人がどんな反応を示したか、見てはいない。すぐに前を向いて、足を運ばせたから。私の指輪を取り返すために、イアンとアルが協力するような姿勢を見れたことに、心のどこかで嬉しいと感じている自分がいる。リヒト様なら一瞬で(かた)がつくだろうけど、私にとって、これほど頼りになる人達は他にいない。


 足を滑らせないように、しっかりと地に足を付けながら歩く。ポツポツと空から落ちてくる雨が軽く頰や腕に当たり、私の高ぶる気持ちを冷ましてくれるようだった。少し湿ったように感じる髪を後ろに流しながら前を見据えていると、ラージスが振り向いて目を見開く。



「 !! ……なぜ……っ……何故、ここにいる!? 」


 私を目にして声を上げた公爵は、まるで幽霊でも見たかのように顔色を悪くして、驚きに打ち震えていた。銃を構えているフィーユは口をキュっと結び、その場に立ち尽くしている。


「る、ルミナス様っす……。」

「は……? 」


 顔を振り向かせて私に目を向けたタクトは、ぱっちりとした大きな瞳を丸くさせている。バルバールは眉をしかめたまま目を細めて、私を凝視していた。近づいて分かったけれど、タクトとバルバールの2人は全身酷く濡れているし、土汚れが付いていた。


 ラージスがいる手前で足を止めた私は、頰に手を当てながら小さく首を傾げ、口を開く。


「クラッセ公爵。地下室にわたくしを閉じ込めるなんて……あんまりだわ。」


「 !? そんな…っ…! ルミナス様に対して、なんという仕打ちを…ッ!! 」


 眉をしかめたラージスが声を張り上げ、身を引き締めるように剣を振り、公爵に向かって切っ先を向ける。肩を僅かに震わせて力んでいるように見えた私は、その背中を見つめながら「ラージス。クレアは城にいるから、安心してちょうだい。」と声をかけた。

 バッ!! とこちらに顔を向けたラージスにニッコリと微笑みかけると、安堵したような笑みを浮かべたラージスは、再び前を向く。


「タクト、バルバール、2人は下がっていて。…小屋の中に、縛る物がないか探してくれるかしら?」


 チラリと倒れているリグレットに視線を向けると、察してくれたのか2人は小屋の方に向かってくれる。うつ伏せで倒れたままのリグレットは気絶しているのか動く様子が未だに無いけれど、手足を縛って拘束しておいた方が良いと私は考えた。


「一体、どうやって地下室から出てきたのだ…!」


 歯をギリッと噛み締め、公爵は怪訝そうな顔をしていた。わざわざリヒト様の存在を教える必要は無いと思って、公爵を睨みつける。



「クラッセ公爵。クレアを拐って孤児院の地下室に軟禁し、わたくしとマナに睡眠薬を飲ませたうえ、地下室に閉じ込めた。実行したのが全て貴方でなくても、指示を出した貴方の罪は重いわ。さあ……」



 私は、手を前に差し出す。



「わたくしの指輪を返してもらうわよ。」



 その瞬間、後ろから風が私の横を吹き抜ける。

 前に立っていたラージスが気配を感じたのか身体を捻らせたけれど、黒い風はするりとラージスを避けて公爵に向かっていった。



「―――――――くッ!!」


 公爵の耐えるような声と、金属音が鳴り響く。風は止まり、その黒い背中が視認できた。私からハッキリと見えないけれど、アルが暗器を取り出して公爵の振るった剣とぶつかったようだ。


 不意に私の後方からバシャ! と水たまりに足を入れたような音がする。


 ………イアン? でも………


 アルのように私の横を通り過ぎていかないことに、前に顔を向けたまま、私は怪訝に思った。


(いや)しい、身分の分際で……っぐぅう…!フィーユ! 早くコイツを撃てええええッ!!」


「やめなさい! この状況で(あらが)っても無駄よ! フィーユ! 今すぐ銃を捨てなさい!! 」


 公爵の言葉に被せるようにして私が声を張ると、フィーユは躊躇しながらも、銃口をアルに向けた。

 すると……フィーユに向かって走っていく人影が視界に入り、私はギョッとする。




「いい加減に、しやがれッ! この、バカ女ァ!!」




 バルバールが、一心不乱に手足を動かす。その姿にフィーユは狼狽えて、目を剥いていた。バルバールを撃つことも出来ただろうけど、フィーユは銃口を下げる。眉尻を下げてホッとした顔をしているフィーユに、バルバールが勢いよく体当たりをした。


 2人は地面に吸い込まれるように、音を立てて倒れる。


 目まぐるしく状況が変わっていくなかで、ラージスはアルの姿に困惑しているようだった。何も知らないラージスからしたら、アルも捕らえるべき相手だろう。アルに剣を向けないように私が声をかけようとした……






 その矢先






 小さい悲鳴が聞こえて、私は視線を走らせた。


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