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ルミナスは、振り向く

 

 体に痛みは…どこにもない。

 横向きに倒れたけど、アルの腕が私の体を力強く支えてくれていた。扉が閉まる音がした後に施錠されたような音がして、アルの体で見えなくても公爵たちが地下室から出て行ったのだと分かった。


 ……銃を、公爵も持っていたんだ……。


 フィーユは銃口を向けてはいたけど、撃ったのは公爵だろう。ハッキリとは見えなかったけど、フィーユが持っていた物よりも短いサイズの銃を、公爵は腰に下げていて取り出したのだと思った。


「ルミナス様……っう…だ、大丈夫ですか…?」


 クレアの心配するような声が耳に入ってきて、身じろぎした私は「ええ…大丈夫よ。」と返してアルの胸に押し当てられていた顔を上げる。


「アル…ありがとう。貴方に怪我はない?」


「平気だ。あの飛び道具はかなり速いが、狙いは正確ではないようだな。」


 アルは、僅かな間に銃の分析をしていたようだ。落ち着いてるけど、胸から聞こえる心臓の音がやけに早いような気がした。きっと私が前に出ようとしたせいで危なかったのだろう。


 アルが私の手を取りながら立ち上がらせてくれて、扉の方に視線を向けると、やはり誰の姿も残っていなかった。


「わたし達…閉じ込められちゃったんですか?」


 床に横になっているクレアは、顔色が悪いように見える。「そうだな。」とアルが返して、扉をジッと見つめながら、これからどうするか考えを巡らせているようだった。サリシア王女の腕力なら破壊できるかもしれないけど、頑丈そうな鉄製の扉を破るのは人の手では無理だろう。


 私はクレアの側に近寄って、両膝を床につける。薄暗いなか、うっすらと目を開けているクレアは嗚咽(おえつ)を漏らしていた。


「…わたしたち、…死んじゃう…のかな… 」


 しゃくり声を上げて不安そうなクレアに、私は枷が付いたままの手を強く握り締めて「大丈夫よ。」と安心させようと声をかけた。


「…オレを好きな奴なんて本当にいたのか? そんなに死にたくないと思ってるなら、他人のために動かないで、自分の身を第1に考えて行動した方がいい。」


 アルは、クレアに銃弾から助けてもらったことに対して、これっぽっちも恩を感じていないようだった。クレアはムッとした表情をして、水色の目に力を込める。


「〜〜〜っ、いるよ! (かおる)先輩はアンタが、大好きなんだからね! 妄想を綴ったノートに暗殺者と王子の絡みを書いて、枯れてる心を(うるお)し」


「ひぃああああああああっ!! や、や、やめて! ノートのことは秘密って、約束したじゃ…な…ぃ……」



 …………ん?



 シン と静まり返って、クレアと私は見つめ合ったまま固まる。


 前世、頭の中の妄想を書き綴ったノートがあった。休憩時間に更衣室で書いていた時は、周囲に人がいないのを必ず確認していたから、唯一、ノートのことを知っているのは……


「み、未央ちゃん…?」


「ルミナス様……え…?」


 さっきは、秘密を暴露(ばくろ)されて咄嗟に言い返してしまったけど、前世の記憶をもっていて『 薫 先輩 』 と呼ぶのは、未央ちゃんで間違いない。クレアの方は私が前世の記憶をもっていること自体知らなかったのだから、驚きは半端ないだろう。


 目を皿のようにしているクレアは、キュっと口を結んだあと、泣き腫らした目からは再び涙が溢れ出した。


「ほんとに……っゔ!」


 体を急に起こそうとしたクレアが、痛みに顔を歪めて声を上げた。慌てて私は頭を支えて、そっと床に下ろす。


『 アンタを、好きな人がいるから… 』


 クレアの言葉が頭を()ぎる。

 私のことを覚えていて、私のことを想ってアルを助けた事実を知って嬉しく思いながら、ゆっくりと口を開いた。


「未央……いいえ、クレア。…先ほども言ったけど、話をするのは外に出てからにしましょう。」


 お互いに…話したいことが沢山あるわね。と言って薄く笑みを浮かべた私に、クレアも小さく笑みを返してくれた。


「よく、分からないが…ルミナスは、ここから必ず出す。オレや他の奴は、別に死んでも構わない。」


「……ねぇ。アンタが前に言ってた『名を呼んでいいのは1人だけ』って…もしかして…ルミナス様?」


 ルミナス様のことが好きなの? とクレアが直球な質問した。若干声色が高くなって、なんだか声に元気が出たような気がする。アルが銀色の目を瞬かせて俯き、そうか…オレは…と何か納得したように呟くと、私に視線を向けた。


「ルミナスに名を呼ばれるだけで、オレは心の底から生きてることを実感できた。今まで自分の意思で何かをしようとも、誰かを想ったことも一度もない。」


 アルの熱い眼差しに、体が強張る。自然な動きで手を取られて、立ち上がった私はアルと向かい合う。



「 好きだ…。ルミナスのことを考えると…オレは冷静でいられなくなってしまう。」



 甘い声に、クラっと立ちくらみしそうになった。


「きゃああ!ど、どうするんですか、薫…ルミナス様っ!」クレアの弾んだ声が聞こえてくる。さっきまでの、閉じ込められて暗くなっていた雰囲気はどこにもない。クレアは前世で好きだったと知っているから、この状況を楽しんでいるようだ。


 アルの手が私の頰に触れてきて、ハッと我に返った私は、パシッと軽く手を叩いて払う。伏せた目線を上げてアルを見ると、ショックを受けたような顔をしていた。そんな顔もするんだ…とゲームでも見たことない表情に少し驚く。先ほど銃弾から助けようとしてくれたし、好意的なのは嬉しいけど…イアンと婚約している私に軽々しく触れるのはいただけない。


「わたくしはイアンの婚約者です。貴方の気持ちに応えることは、できません。」


 私がハッキリと口にすると、目を細めたアルが無言のまま床に跪いた。


「オレはずっと…闇の中で生きてきた。光に手が届くとは思っていない。だが、今アイツは側にいない。オレにルミナスを守らせてほしい。」


 切実そうに想いを語るアルに、私は返す言葉が思いつかなくて口を(つぐ)む。


「ルミナス様! グラウス王国が一夫多妻なら、問題ありませんよ!」


 クレアが、アルともくっついちゃえ的なノリで言ってきて、私は軽くため息をついた。


 ……イアン、今頃どうしてるかな……。


 リヒト様に任せてきたから、どうなったか気になる。私はクレア、アル…壁際で横になっているマナ、1人ずつ順番に目を向けた。



「まずは…ここから出ましょう。指輪がなくても、わたくしは魔法を使えるの。クレアの傷を治して、それから…」


「ルミナスが癒す必要はない。」



 話している途中で遮られた声に、私はバッ! と後ろを振り向いた。


次話 別視点になります。

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