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国王への謝罪と、今後の方針

サンカレアス王国にいる国王、宰相、騎士団長の話になります。十二話の騎士団長が息子を知る、の後の話になります。

 ルミナスが森の中でライラやイアンと出会っていた頃……―――



 サンカレアス王国 王都城内

 レギオン王の執務室では、ガルバス騎士団長が報告と謝罪に訪れていた。


「誠に申し訳ございません国王陛下。処罰をどうか私に…。」


「もうよい、(おもて)を上げよ。」


 執務室の椅子にレギオン王が座り、その正面にガルバスは跪き頭を下げている。


 執務室に訪れたガルバスは、ルミナスが未だに見つからないことの報告をしていたのだが、もう一つ報告があると言い、突然跪き謝罪の言葉を口にした。ラージスと会話した内容、ルミナスを犯罪者呼ばわりしたことも全てレギオン王へと告げた。…そして今再び謝罪の言葉を口にし、親として責任を感じているガルバスは、レギオン王に自分への処罰を願い出ていた。


「そなたが親として責任を感じ処罰を受けると言うならば、私もマーカスと共に処罰を受けなければな…。」


「陛下が処罰を受けるなど…!」


「そうだな。私もそなたが処罰を受ける必要はないと思っておる。罪を感じるならば心に留めておき、国の為に今後も尽くし行動で示せばよい。」



「――はッ!我が力は国に仇なす者を屠る剣となり、国を守る盾となりましょうぞ!!」


 ガルバスは跪いたまま、誓いの言葉を口にする。国王と国への忠誠を新たに決意し、その姿は気迫に溢れているように感じられた。レギオン王はその誓いに頷き「頼りにしているぞ、ガルバス騎士団長。」と言った。



「…さて、ルミナス嬢の捜索だが…。」


 ガルバスがその場で立ち上がったのを見て、レギオン王は今後の事を話そうとしたが…


 コンコン


 ……扉からノックの音がし、扉の前に立つ衛兵がヒューズ宰相の訪れを告げる。通せ、とレギオン王が答えると扉が開きヒューズが部屋に入ってきたが…ヒューズの後ろにもう一人おり、ガルバスとレギオン王は何故ここに?と疑問を抱く。


 ヒューズと共に入ってきたのは、マシュウ・ハウバスト。


 ヒューズ宰相の息子だ。

 灰色の髪は肩より少し長く、後ろで一つに結んでいる。マシュウの灰色の瞳は怯えているのか揺らいでいて、体も小刻みに震えていた。


「国王陛下の御前に愚息をお目通りするのは、大変失礼かと思ったのですが…実はマシュウが陛下に直接謝罪の言葉を申したいとのことで…よろしいでしょうか?」


「ああ…構わない。申してみよ。」


 マシュウの怯えた様子が気になったが、それには触れずにレギオン王は許可を出す。


「…陛下の御前であるのに跪かないとは…何をしているのだマシュウ。」


「――し、失礼いたしました国王陛下!」


 ヒューズは冷たい視線と声を放ち、マシュウはビクリと肩を揺らし慌ててその場に跪く。


「へ、陛下に申し上げます!わ、私は学園にいる際、王子がクレア嬢と懇意にしていると分かっておりながら…ッ報告を怠っておりました!――大変申し訳ございません!」

 マシュウは跪いたまま深く頭を下げる。手足の震えが大きくなり、その姿は死刑宣告を待つ罪人のようだ。


「…謝罪を受け入れよう。もうよい、下がれ。」


「――ッはい!失礼いたします!」


 マシュウは立ち上がりその場を退室しようとし…

「マシュウ、屋敷に戻るなら馬車を使うのは許しません。歩いて帰るように。」とヒューズに言われ「…はい父上…。」と返事をして項垂れながら退室していった。


 パタンと扉の閉じる音がし、レギオン王がヒューズに話しかける。


「…そなたの息子が報告していたとしても、マーカスの様子を見る限りでは避けられない事だったかもしれんがな。」


「いえ、報告があれば卒業パーティーの件も未然に防げましたし、なにより知っていれば対応出来る事はあった筈なのです。報告を怠ったマシュウには罪があります。」


「うむ…そうだな…。」


 マシュウが罪に問われるならば、ガルバスの息子であるラージスにも、なんらかの処罰を与えねばならないだろう。そして我が息子マーカスにも…どのような処罰を与えるべきか頭を悩ませるレギオン王であった。



「陛下、それでは報告を申し上げます。」


 ヒューズはガルバスの隣まで歩み、モリエット男爵についての報告をする。

 ヒューズは使用人からの情報で夜中に男爵が屋敷の中を歩き回り、何かを探している様子だったこと。そして地下室には使用人が入れないことを聞き、男爵邸に来訪し地下室で見聞きしたことを告げた。


「…宰相殿は使用人の伝手もあるのか?」


 使用人から情報を得た事を聞いたガルバスが、隣に立つヒューズへと顔を向けて質問する。


「いえ、昨夜男爵の屋敷の外で見張らせていた者がいたのですが、屋敷から怪我をした使用人の者が出てきまして…怪我の治療をし、事情を聞いたのです。男爵は使用人がいなくなったことには気づいていないでしょう。鞭で叩かれた跡があったことから、使用人を物のように扱っているのは明らかです。」


「なるほど…。」

 ガルバスはヒューズの答えに納得したように頷く。



「クレア嬢からも話を伺いたかったのですが、卒業パーティー後に馬車で男爵領へ向かったそうです。陛下、ルミナス嬢の捜索はどうなっているのでしょうか?」


「その件は私から話そう。」

 隣に立つガルバスが、先ほどレギオン王へ報告した内容をラージスの件も含めてヒューズへと伝える。


「……ご子息がそんな事を…。クレア嬢に暗殺未遂ですか…その件は私も調べてみるとしましょう。ルミナス嬢の捜索範囲を今後どうするかですね。すでに王都から出ているとすれば、国内だけではなく他国へ渡る可能性も視野に入れなければならないでしょう。そうなると向かう先は…私たちのいる国から北にある獣人の国グラウス王国、東にあるオスクリタ王国、西にあるニルジール王国、南は…小国がありましたが三十年前の争いで滅んでますので除外しましょう。」


「騎士団長とも先ほど今後のルミナス嬢の捜索について話そうと思っていたのだ。そうだな…南に向かう可能性は…ないだろう。」


 あの国にはもう何もないのだから…レギオン王は続けて発しようとした言葉は言わずに、ヒューズの言葉に相槌をして答えた。


「しかし、そうなると捜索範囲が広すぎて手が回りませんな…私も流石に国から出るわけには参りませんし…。」

 ガルバスが腕を組み、眉間に皺を寄せて思案する。



「騎士団には引き続き王都内の捜索を、そして国内の各領主達にルミナス嬢が行方不明だと伝え、領内や付近の捜索を依頼するとし、特に領内に入る馬車は中を改めるよう徹底して行わせるのだ。

 宰相はクレア嬢が受けたとされる暗殺未遂の調査と男爵の動向の見張りを引き続き頼む。

 各国については…オスクリタ王国はシルベリア侯爵の領地を通らないと、国境を抜けて国に入ることはできない。ルミナス嬢が行方不明なのは早馬で既に報せを出してあるので大丈夫だろう。ニルジール王国は我が国と交易もあり、友好関係を結んでいる。国王へ文を私の方で書いて送るとしよう。…問題はグラウス王国か…。」


 グラウス王国とは未だに友好な関係を築けていなく、交易もない…向かうとしたら警戒されないよう少人数で向かう必要があるな…。


 レギオン王はしばし考えを巡らせ……



 そして決断する。



「グラウス王国へはマーカス、ラージス、マシュウの三名を向かわせる事にし、ルミナス嬢の捜索依頼及び友好関係を築けるよう任務にあたってもらう。この任務を達成できたならば今回の件は不問とするとしよう。ラージスとマシュウにすぐに出立の準備をさせよ。マーカスには私から直接話す。」



「はっ!承知いたしました!」


 ガルバスとヒューズは頭を下げ部屋を退室する。



 今後の方針は決まった。


 それぞれが再び動き始める……。





 ――国王の執務室を退室後…



「その手の怪我、もしやご子息を殴られましたか?」


「…よく分かったな…。」


 ガルバスの手の平には包帯が巻かれていた。

 息子のラージスを殴る際、自身の爪が食い込み血が出ていた箇所である。

 ラージスは気を失ったあと、屋敷の使用人により部屋へ運ばれた。そしてガルバスの妻は夫の怒声に気づき、ずっと屋敷の中から成り行きを見守っていたのである。


「妻がな…大したことないと言ったのだが…。」

 ガルバスはその時の事を思い出す。

 あなたに殴らせてごめんなさい、私は母親失格です…と言いながら涙を流し、包帯を巻いてくれた愛する妻の姿を…。


「…恩情を与えてくださった陛下に、感謝しよう。ラージスがこの機会に名誉挽回できれば良いが…。」


「そうですね。宰相としては決して許せぬことですが、父親としては…マシュウにもこれを機に変わってほしいものです…。」



 ガルバスとヒューズはお互いに息子の元へと向かう。レギオン王が命じた任務を伝えるために。


愛する我が子が無事に任務を全うし、国に帰ってくることを願いながら……。


 

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