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ルミナスは、後に続く

 

「 ルミナスさん! だっ、大丈夫ですか!? 」


 雨の音に混じって焦っているマナの声が、すぐ側で聞こえてきた。生ぬるい雨が、顔や体に当たる。地面が濡れていたようで、背中の方から服に水が染み込んできて気持ちが悪い。体に走った鈍い痛みに私は眉をしかめるけれど、自己治癒のおかげですぐに痛みは消えて、閉じていた瞼をゆっくりと開けた。


 目の前には濡れているツインテールの髪が前に垂れて、覆い被さるようにして私を見つめるマナがいた。


 ……うぅ…痛かった…。


 マナの元に行くには、一番良い方法だと思ったのだから多少痛みを伴うことは仕方がないと割り切る。塔にいるイアンめがけて瞬間移動した時に、怒られて危険だからと自分の中で封印していたから、数ヶ月ぶりに瞬間移動を使った。


「マナは…大丈夫?」


「はい! 驚きましたけど大丈夫ですよ! ルミナスさんが突然現れたのは…これで二度目ですね。」


 立ち上がったマナが濡れた前髪を指で払いながら小さく首を傾げてアハハっと軽快に笑い、私もつられて口角が上がる。

 一度目は勝手に練習台になってもらったんだ。

 あの時のマナの顔を思い出して笑いを堪えていると、も〜っ! とマナもその時のことを思い出しているのか、唇を尖らせた。


 地面に手を付けて上体を起こした私は、立ち上がって周りを見回す。


 今自分がいる場所が、王都を取り囲んでいる石造りの城壁の上だと分かった。城や広場にある塔、街並みが見える。全身びしょ濡れのマナが風邪を引いたら大変だと思って、魔法を行使して私とマナを包むように円形に薄い水の膜のバリアーを張って雨を防ぐと、全身を風魔法で乾かした。


「ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべたマナに、小さく笑みを返した私はマナと向かい合って口を開く。


「マナ、城の外に1人で出たらダメだよ!」

「あっ、ごめんなさい…。」


 しゅんと肩を落として俯いたマナは反省の色が見えるけど、何かあったら…と心配だった私は怒らずにはいられなかった。イアンが変だったのは発情期がきたからだろうと私の考えを説明すると、目をぱっちりと見開いたマナが、あ〜〜っ…と納得を得たように声を漏らす。私はマナと発情期に関することを話してはいなかったけど、知っていたようだ。


「そっかぁ…母さんから発情期のことは教えてもらってましたけど、イアンがそうだと全然気づきませんでした。私とリヒト様のことは気にせずに、発情期が終わるまで部屋でシテても大丈夫ですよ?」


「……え!?」


 ニコリと笑みを浮かべたマナは、自分が良い提案をしたかのように軽く胸を張っていて……私はマナの口から出た言葉を飲み込めずに固まる。

 冷めた心に火をつけられた気分だ。発情期は、スルのが当然なのだろうか。サリシア王女の体験談しか聞いてないから他が分からない。


 ……イアンに、食べられちゃうかと思った…。


 本能をむき出しにしたような、艶めかしいイアンの姿を思い返せば、ドキドキと胸が高まってくる。

 とりあえず城に戻ろうか…と声をかけると、マナが元気よく、はいっ!と返事をしてくれて隣に並んだ私は歩き出した。



「あ〜あ、私も早く恋人見つけないとなぁ…」


 歩きながら独り言を零したマナを横目で見ながら、私はマナの手を掴む。立ち止まったマナがキョトンとした顔をして驚いていたけど、私はガッチリと両手でマナの手を握りしめた。


「マナは、今でもイアンが好き…?」


 内心ドキドキしながら質問した私に、え? とマナは首をかしげる。真剣な表情の私を見てか口をキュッと結んだマナは、んん〜…と視線を逸らして何か考え事をしているようだけど、私に視線を戻すと口を開いた。


「国にいた時は、まだ好きって気持ちがあったんですけどね〜…」

 今はこれっぽっちも。と言ってニカッと笑ったマナを見て、私は胸をなでおろす。


「部屋を飛び出して行ったから、ショックを受けたんじゃないかって…心配だったんだ。」


「えっ! 違いますよ! 邪魔しちゃって悪いことしたなぁ〜って夢中で走ってたら、いつのまにか壁まで来ちゃって…壁の上なら人があまりいないかなって、つい…」


 私がジト目で見ていると、すぐ戻るつもりだったんです〜…。とマナが申し訳なさそうに目線を下げて、私の手を握り返す。


「……その…ルミナスさんには感謝してます。マナ、国を出て本当に良かったです。大好きなものができたし、友達も沢山できました。毎日がすっごく楽しいです!」


 へへっと頰を赤らめて照れたような笑みを浮かべたマナに、じわりと胸が温かくなってきた私は感慨深い気持ちになる。手を離した私たちは、再び足を動かし始めた。


「恋人は…焦らなくても良いんじゃないかな?」


「う〜ん…発情期がきたら我慢するの辛いそうなので、その前に良い人見つけたいんですけどねー…。」


 溜息混じりに話したマナは、むむぅ…と唸るような声を出すと何か言いたそうに私をチラ見してきた。

 どうかしたの? と私が歩きながら尋ねると、マナは頰を指でかきながら躊躇しているようだった。暫し沈黙が続くと、意を決したように私をジッと見つめる。


「あの……ルミナスさんって、イアンとシテるんですよね? 初めてって…痛かったですか?」


 もじもじしながら聞いてきたマナに、カーッと私は顔が一気に熱くなる。口をパクパクと開くことしか出来ずに内心動揺しまくりで、集中力が切れた私の魔法が消えてしまう。防いでいた雨が当たり、わぁっ! とマナが驚いて声を上げた。


「〜〜〜〜っし、し、シテないよ!」


「……え……ええっ!? まだなんですか!? エクレアさん家で、イアンと夜寝てたじゃないですか!」


 足を踏ん張って否定した私に、マナが口を大きく開けてビックリしている。エクレアからイアンと同じ部屋で過ごした事を聞いたのか、知っていたみたいだ。

 は、初めてキスをしたけど…と伏し目がちに照れながら報告すると、…え!? と再び驚いた声が上がる。マナのなかでは、どうやら私とイアンは色々とシテると思われていたようだ。


「…イアンが苛立ってたのは、我慢してたからかもしれませんね。発情期の間は高ぶった感情の抑制ができなくなるみたいだから、相当溜まっ…」


 マナの言葉が途切れて、私は羞恥で俯き気味だった顔を上げる。雨が降り続くなか、マナは街並みを見渡して集中して音を拾っているようで、何かあったのかと疑問に思っているとマナが振り返った。



「……子どもが泣いてる声が聞こえます。行きます、……よね。」



 仕方なさそうに笑うマナは、私が行くと答えると思っているみたいだ。行かない選択肢は私のなかに無い。私は地面に手をついて魔法を行使し、1人分の幅ほどの小さな手すりを作った。それを見たマナが小さく笑むと「付いてきて下さい!」声を上げて駆け出す。


 マナに置いてかれないように、私は地面をうねるように動かした。


次話 別視点になります。

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