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ルミナスは、防ぐ

 

 耳をつんざくような音に私も悲鳴を上げたくなる。誰かの恐怖からの悲鳴が伝染するように、瞬く間に広間内が喧噪(けんそう)で埋め尽くされ、それは……


 ほぼ同時に起こる。


『 天井が崩れる 』


 天井に目を向けていた私は、シャンデリアが落ちてくるのが視界に入った。

 その真下には爆発が起こる直前までダンスを踊っていたであろうアンジェロ王子とリリアンヌ王女、シルフォード王子とメイシャ王女がいて、咄嗟の事態に対応できずにいる、周りの人たちの悲鳴が耳に入る。


 ―――っ――危ないッ!!


 すかさず両手を上げた私は、魔法を行使して風の壁を生み出し、シャンデリアや崩れた天井の一部を受け止めるようにして、落下するのを防ぐ。



 アンジェロ王子達は体が硬直したようにその場から動けずに、天井を見上げることしか出来ていなかった。



「……怪我はないですか?」

「は…はい、ルミナス様……っ、…ありがとう…ございます。」


 風の壁が消えないように気をつけながら中央に歩み寄った私は、アンジェロ王子達の無事な姿を見てホッと息をつく。私の声に反応して答えたアンジェロ王子は、周りをキョロキョロと見回して今の状況を確認していた。


 広間内はザワザワと騒めいて、混乱している。


 ……さっきの爆発……火薬?


 魔法の可能性は無いから、爆発を起こしたのは火薬を用いたものだろうと頭の中で考えていると、メイシャ王女がペタンと床に崩れるようにして座り、甲高い泣き声を上げた。


「メイシャ、落ち着いて。ルミナス様が救ってくださったから…もう大丈夫だよ。」


 シルフォード王子がその場にしゃがみ、優しく声をかけながらメイシャ王女の背中をさすって宥めている。目元をぐしぐしと手でこすりながら泣き続けるメイシャ王女を見ながら、私は魔法が間に合わなかったら大惨事になっていたと想像して……



 ゾッとした。



「……皆さん落ち着いて下さい。これから、わたくしは天井を修復致します。念のため壁際に寄って下さい。」


 騒めいてる広間内の人たち皆の耳に入るように、風魔法で私の声を広げる。


 周りを見回すと、天井を見上げて唖然としていた人、声を荒げてパニックになっていた人、今の状況に混乱しながらも私の声が届いたようで、徐々に壁際に向かって動き出し始めた。泣き止まないメイシャ王女は、アンジェロ王子が抱きかかえ、騎士の人たちが私の言葉に従うように、貴族と商会長たちを壁際に誘導していく。


 壇上に視線を向けると、マナが私の方に向かって駆けてくる姿があり、リヒト様の姿がなかった。

 陛下が騎士団長と共に騎士たちに何やら指示を飛ばしているようだけど、直すことを最優先にした私は再び天井を見上げる。


 両手を上げて風の壁を固定したまま、天井やシャンデリアが元の状態に戻るようにイメージして魔法を行使した。


 ……集中して…私なら出来る……。


 みるみるうちに崩れた部分が修復していき、シャンデリアも元の状態に戻っていく。

 爆発の衝撃で消えた蝋燭(ろうそく)の火を灯して完全に元に戻ったのを確認すると、ふーーっ……と深く息を吐いて風の壁を消した。


 ………っはぁ〜〜〜…良かったぁーー……


 肩の力を抜いた私は上げていた両手を下げると、胸に手を当ててバクバクと緊張で早まっている鼓動を落ち着かせるために、軽く深呼吸を繰り返す。

 シャンデリアの真上で爆発が起こったなら、上の階がどんな状態になっているか分からないけれど……


 ひとまずはこれで大丈夫だ。



「ルミナスさん、さっきはビックリしましたね…。マナ、音に驚いて全然動けませんでした…。」


「ルミナス、平気か?」


 マナとリヒト様の声がして横に顔を向けると、伏し目がちに落ち込んでいる様子のマナと、私を心配げに見つめるリヒト様の姿があった。

 天井に意識を向けていたから、側に来ていたことに気づかなかった。リヒト様の姿が先ほど見えなかったのは、影移動して私の元に来たからだろう。



「――――静粛(せいしゅく)にッ!!」



 空気を切り裂くような威厳のある声に、水を打ったように広間内が静まり返る。

 壇上から降りていた陛下と正妃様が、騎士団長を連れてこちらに向かって歩いてきた。先ほど声を上げたのは陛下だろう。陛下は眉間に皺を寄せて、怒りを露わにしていた。



「……えっ、国王陛下!?」


 近くに来た陛下達が床に跪いた姿に、ギョッとした私は思わず声を上げてしまう。謁見の間で挨拶した後に部屋で跪いていた時とは違い、今は他の貴族や商会長達、大勢の目がある。


「騎士達に…爆発を引き起こした者を捕らえるよう、指示致しました……っ、……申し訳ございません。」


 切羽詰まったような声で謝罪を述べてきた陛下は、城内で…いや、私たちの歓迎パーティーの場でこのような事態になったことに対して、重く責任を感じているようだった。


(みな)を救って頂き……誠に、ありがとうございますッ!」


 言葉を続けた陛下が、頭を深々と下げてくる。

 僅かに震えていた声は、頭の中で最悪の事態も想像したがゆえだろう。その『 皆 』には、自分の息子と娘…アンジェロ王子達も含まれている。


「ルミナスさん。」


 私の腕を指で突きながら声をかけてきたマナは、キョロキョロと周りを見ていた。陛下に向けていた視線を私も周りに移すと……


 1人、また1人と…壁際に寄っていたアンジェロ王子達だけでなく、他の貴族や商会長達もその場に跪いて頭を垂れていた。

 みんな突然の爆発と私の魔法を目にして、頭の中では混乱しているだろうけど…陛下に続くようにして私に対して跪く人たちの姿を見た私は、どう応えたら良いか分からなくて戸惑いを感じる。



「……あれ…? イアンはどこですか?」


 マナの声にハッとした私は「あっ!」と思わず声を上げると、慌てて硝子扉のある方に向かって駆け出す。急ぎたい時はヒールの靴も、ドレスも煩わしく感じてしまう。私が突然走り出して周りが驚いているようだったけれど、周りの音が一切耳に入らないくらいに、今の私は焦りまくっていた。



 ――――ど、どっ、どうしよう!!



 広間の方に気が移って、アルのことが頭から抜け落ちていた。イアンが広間に入ってきてないから、まだバルコニーにいるのか、それとも―――……











 バルコニーに足を踏み入れるた私は、その光景に目を見開き、ヒュと乾いた息を漏らした。


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