ルミナスは、紹介される
「私の弟フェラート・クラッセ公爵と、クラッセ公爵が懇意にしてるマルシャン商会のロリエ会長です。」
「お初にお目にかかります。」
「お、お初にお目にかかりましゅ…」
最初に壇上に上がってきた男女は陛下と挨拶を交わした後、陛下から紹介されて私とイアンに向かって頭を下げてきた。私はカーテシーをして、イアンは軽く頭を下げて返す。
肩で切り揃えられた緑色の髪に、金の瞳。
落ち着いている風貌のクラッセ公爵に対して、ロリエ会長の方は顔を赤くして緊張からか、陛下の前だけでなく私たちの前でも言葉を噛んでいた。
……クレアに似てる……。
ピンク色の髪を見て、まさかクレア…なんて思ったけれど、ロリエ会長はクレアの親類だろうか。
ハーフアップにしている長いピンク色の髪に、垂れ目な水色の瞳は、落ち着きなく視線を彷徨わせている。ロリエ会長は自分がこの場にいることに、恐縮そうにしているようだった。
マルシャン商会に何故クレアがいるのか、その経緯は知らないけど、親類が商人をしているからだったのかもしれない。
「イアン王子。パーティー後にリバーシを献上させていただきます。その際にロリエ会長から使い方の説明も致しますので、皆様でお楽しみ頂ければ幸いです。」
イアンの前に立ち、深い青色の燕尾服を着ているクラッセ公爵は商品によほど自信があるようで、余裕のある笑みを浮かべている。ありがとうございます。とイアンがお礼を述べて笑みを返した。
リバーシが気になっていたし、お店に直接行かなくても目にすることができるのは嬉しい。
そういえば…
『貴族様の屋敷に直接商品を売り込みに行った』
前にダイス会長がクレアのことを話していたけど、まさか公爵相手に売り込みに行くなんて、クレアはなかなか度胸がある。
……いや、無鉄砲なのかな…。
陛下がクラッセ公爵に声をかけて、2人は再び礼を取ると壇上から降りて、広間にいる人達のなかに入っていった。ロリエ会長が段を降りる時に、ぎこちない動きだったから、段を踏み外すんじゃないかと内心ハラハラしたけど。
その後、
同じような流れで陛下から紹介された貴族達と、挨拶と軽く言葉を交わす。マナとリヒト様の方には行かないように陛下が誘導しているのか、挨拶されるのは私とイアンだけだ。マナは全種類のお菓子を制覇するつもりなのか、給仕に頼んでは1種類ずつお菓子を皿に載せてもらい満族そうにしている。リヒト様は黙々とワインを飲んで、広間内にいる人達を見下ろしていた。
「…ルミナス様。」
お疲れではございませんか? と陛下が丁寧な口調で尋ねてきた。平気ですわ。と言って私は微笑み、隣に視線を向けると、イアンも問題なさそうに軽く頷く。顔を振り向かせていた陛下は私たちが大丈夫と確認すると、段の下に控えている騎士に目配せして、次の人を呼びに行った。
「僕もダイス会長の所に行ってきます。」
私とイアンの後ろに立って、静観していたシルフォード王子が段を降りていく。マルシャン商会の会長とは会ったけど、次は王子と王女たちが懇意にしている商会長たちの番みたいだ。
騎士に声をかけられたアンジェロ王子が、2人の男性を引き連れながら、こちらに向かって歩いてくる姿が視界に入る。
壇上に上がってくると、陛下と挨拶を交わした2人の男性は私とイアンの方に体の向きを変えた。
「アジール副会長とは顔を合わせているからご存知でしょうが、こちらはグレイス商会のルコット会長です。」
アンジェロ王子から紹介された2人が、私とイアンに頭を下げた。アジールさんは私と目が合うとパチリと軽くウィンクしてきて、私は口に手を当てながら、思わずクスッと笑ってしまう。インテリな雰囲気のある丸眼鏡をかけているルコット会長が、アジールさんを横目で見ながら軽く肘で突いていた。
……ドレスのこと、パーティーがあることを知っていたから、湖ですぐに会えるって言ったんだね。
パーティー前、私とマナは別々の部屋で支度を整えて、私がマナの様子を見に行くとアジールさんがいて驚いた。
マナのドレスはアジールさんがデザインしたそうで、アンジェロ王子から注文を受けた時に丈の長いドレスをあらかじめ作っていたけど、マナと実際に会って急遽、丈の長さを手直ししたそうだ。
動きやすくて可愛いです! と言ってマナが喜んで、くるくると部屋で回っている姿に、アジールさんも嬉しそうにしていた。
アジールさんとルコット会長がアンジェロ王子と一緒に下がると、次はスティカ王子が2人の男性を連れてやってきた。スティカ王子が懇意にしている商会は美術品を扱う商会で、スティカ王子は絵画を眺めるのが好きだそうだ。
「……ルミナス様が、も、もし、よろしければ、城内には絵画が飾られている、部屋が、あります、ので……」
「まぁ、そうでしたの。滞在中に是非とも見てみたいわ。…スティカ王子がご案内をお願いしますね。」
辿々しく言葉を紡いだスティカ王子に、私は手を合わせながら笑顔で返す。コクコクと頰を赤らめながら何度も頷いたスティカ王子は、会長達を連れて段を降りると、そそくさとテーブルのある壁側に向かって歩いていった。もしかして、パーティーの間ずっと壁際に立っているのだろうか。
スティカ王子の次はリリアンヌ王女がメイシャ王女と共に、商会長達を連れてやってきた。メイシャ王女は懇意にしている商会はないそうで、リリアンヌ王女は以前コルテーゼ王子が懇意にしていた、菓子類を扱う商会だった。
「お土産に、日持ちする菓子もございます。」
私がお菓子好きと知ってるのだろう。
ニコニコと愛想の良い笑みを見せる会長に「ええ。広場に行ったら店に行きますわ。」と返して微笑むと、会長と副会長が嬉しそうに顔を綻ばせた。
……あとは、シルフォード王子とダイス会長……
コメルサン商会は今副会長がいないと聞いたから、ダイス会長1人かと思っていたけど、来たのはシルフォード王子と2人の男性だった。1人はダイス会長だ。陛下と挨拶を交わしている姿を見ながら、もう1人は誰だろう…と私は首をかしげる。
「お久しぶりでございます。皆様の眩いばかりのお姿を近くで拝見できて、誠に光栄に存じます。こちらはコメルサン商会で働いている、商人のヘンリーでございます。」
シルフォード王子は口を閉じたままで、藤色の目を細めて穏やかな笑みを浮かべているダイス会長が、隣に立っている男性を紹介した。
「……ヘンリーは……俺が怖いのか?」
不意に怪訝そうな声を出したイアンに、ヘンリーがビクリと肩を震わせた。




