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ルミナスは、完食する

 

「この肉料理を…もっと食べたい。」

「私も私も〜っ! 」


 側に控えていた給仕(きゅうじ)が、イアンとマナの声に反応して、一礼すると料理を取りに行った。


 ……2人とも気に入ったんだね。


 ローストビーフを何回もお代わりするイアンとマナが可愛くて、私は小さく微笑む。綺麗に盛り付けられた最初の一皿をあっという間に平らげた2人は、次から大盛りでお願いしていた。いっそのことテーブルごと持ってくれば…と思ったけど、他の人たちもいる場だから、独占するのは流石に悪いだろう。


「……シルフォード王子は、ここにいて良いのか?」


「僕は広間にいる人たちの、顔と名前を全て把握しています。今は美しいルミナス様の側に、少しでもいたいのです。」


 私とイアンの後ろに立っているシルフォード王子は、にっこりと笑みを浮かべて、質問したイアンがピクリと頰を引きつらせている。

 パーティーが始まってから、シルフォード王子は壇上に上がってきて他の王子、王女達はずっと挨拶をして回っているようで、こちらには戻ってきていない。

 段の下には騎士団長と数人の騎士達が立っていて、人を寄せ付けさせないような雰囲気を放っていた。


 給仕が私たちの所に料理や飲み物を運んでくれて、

 壇上にいるなかで、マナとイアン以外は食事は終えて今は食後のワインを飲んでいる。


 ……座ったままのパーティーは初めてだけど……


 正直、すごく楽だ。


 楽師団の生演奏が流れる広間内を見回すと、中央付近でリリアンヌ王女はメイシャ王女と一緒に、女性達と話をしているようだ。人が集まっているところは、きっとアンジェロ王子がいるのだろう。


 ……あれ? スティカ王子は?


 もう一度広場内をじっくりと見回すと、壁際に金髪の人物を見つけた。広間内に他に金髪がいないから、スティカ王子で間違いない。数人と話しをしているようで、壁に背を向けて立っている。


「ルミナス様、デザートはいかがですか?」


 後ろから話しかけられて「そうね…給仕に伝えて、持ってきてもらおうかしら。」悩みながら返すと、シルフォード王子は満面の笑みを浮かべた。


「僕が取ってきます。」


 明るい声で言ったシルフォード王子は、私が呼び止める間も無く、段を降りて行ってしまった。

 申し訳なく思いつつも走って追いかけるわけにもいかないので、私は椅子に座ったまま待つことにする。


「ルミナス…この後は陛下から貴族や会長達の紹介と、ダンスをして終わりだよな?」


 声を抑えて話しかけてきたイアンに、私は頷いて返す。酒場を後にして城に戻ってくると、すぐに侍女達の手によって支度を整えて、パーティーの段取りを陛下と宰相を交えて、私たちは打ち合わせをした。


 椅子が用意されたのは、陛下の配慮によるものだ。


『 気兼ねなく、パーティーを楽しんで頂ければ幸いです。 』


 陛下の言葉に私たちは、喜んで椅子に座ることにした。私以外はパーティーの経験が無かったし、沢山の人と挨拶や言葉を交わすのは疲れる。名前を覚えきれないし、同じような言葉の繰り返しで、短時間で打ち解けるような会話ができるわけもない。

 陛下が食事の後に、上流貴族と王族が懇意にしている商会長のみを、こちらに呼んで挨拶を交わす手筈になっている。それで十分だ。


 イアンの席に給仕がお代わりを持ってきて、美味しそうに頬張るイアンを見ながら、私はクスっと小さく笑う。「…ん?」こちらに目線を向けてきたイアンに、私は軽く首を振ってワインを口にした。


 ……リヒト様が、パーティーに参加してくれて良かった。


 最初イアンを挟んで3人で並んで入場しようと考えていたけど、人と言葉を交わすこともないなら出席しても良いとリヒト様が言ってくれて、パーティーの間はマナと一緒にいてほしいと私がこそっとお願いした。私とイアンはダンスをしてマナから離れてしまう時間があるから、一人ぼっちにさせたくないと思ったからだ。マナなら平気ですよと明るく言ってくれそうだけど……

 

「お待たせしました。」

「あ、ありが……」


 シルフォード王子が戻ってきて、その手に持つ皿を見た私は目を丸くする。


 皿の上にはカットされたケーキと、その周りを囲むようにマカロンやクッキーなどのお菓子が、皿いっぱいに載っていた。

「どうかされましたか?」

 首をかしげながら皿を差し出してくるシルフォード王子に「…ありがとう。」と改めてお礼を言って受け取った。食べやすいように給仕がグラスを下げてくれて、ドレスを着たままなのに、こんなに食べて大丈夫だろうかと自分の体が心配になる。


 けれど、

 デザートの甘い匂いが漂ってきて、誘惑に逆らえなかった私は、ケーキから攻めることにした。


 ……ん〜〜〜っ! 美味しい〜〜〜!!


 見た目は飾り気がなく、うえに粉砂糖が振ってあるケーキは、前世の記憶にあるケーキと比べると素朴なものだ。

 一口毎に濃厚なバターの香りと、しっとりしたスポンジにラズベリーのジャムとクリームが挟まっていて、つぶつぶとした食感と甘さが口に広がって美味しい。


「…このケーキは…母も好きなんです。」


 私の前に立ったままのシルフォード王子が、嬉しそうに目を細める。


「とっても美味しいわ。いくつでも食べれそうね。」


 再び一口食べ進めると、陛下が聞き耳を立てていたのか給仕にワンホール用意させようと声をかけていたので、流石に遠慮してやめてもらった。


 ふと視線を感じて隣を見ると、イアンがじーっと私を見ている。……ケーキが気になるのかな?

 あまり甘いものにイアンは食いつかないけど、皿に載っていたローストビーフは完食しているし、この美味しさを分けてあげたくなった私は一口サイズにして、イアンの口に近づける。


「はい。あ〜ん。」

「………え?」


 キョトンとしているイアンの顔を見て、ハッとした私は固まる。私は甘いものを食べて、頭の中まで甘くなってしまったようだ。心のどこかで、やってみたいという願望もあったけれど……

 ……ああ! 周りの視線が痛い!!

 自分が今壇上にいて、パーティーの最中だというのに部屋にいるようなノリでやってしまった。


 しかもイアンがなかなか食べてくれないから、手がプルプル震えてくる。


「僕が食べても良いでしょうか?」


 ニコッとシルフォード王子が笑顔で声をかけてきて、ホッと息を吐いた私が手を動かそうとしたら、すかさずイアンがかぶりつくようにケーキを口に入れた。


 ……顔が真っ赤になっているけど。


 人前で恥ずかしかったのだろう。


「……うまかった…ありがとう…。」


 呟くように言ったイアンと目が合った私はふふっと軽く笑って、イアンも照れたような笑みを返す。

 いつのまにかシルフォード王子は私とイアンの後ろに移動して、私は残りのケーキとお菓子を一口ずつ味わうように食べ進める。


 結局、完食してしまった。


 パーティーでお腹いっぱい食べたのは初めてだけど、料理もケーキも大満足の私は、満ち足りた気分になりながら給仕に皿を下げてもらい、紅茶を飲んで一息つく。



「ルミナス様…よろしいでしょうか?」



 陛下が控えめに声をかけてきて、はい。と私は笑顔で答える。給仕にカップを下げてもらい、佇まいを直していると、騎士と共に男性と女性が私たちの方に向かって歩いてくる姿が視界に入った。




 ……え? ピンク色の髪……




 珍しい髪色を見て内心ドキッとした私は、あまり顔を合わせたくない人物の姿が頭を(よぎ)った。



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