パーティーの始まり
ルミナス達が城に戻り、支度を整えている頃……
城へと通じる道には豪華な馬車が列になって並び、門では招待状をもつ者と同伴者の確認がされていた。
歓迎パーティーの行われる絢爛豪華な大広間は、中央の天井に蝋燭の火が多数灯された、大きなシャンデリアが吊り下げられている。壁に取り付けられた燭台の蝋燭の火の明かりもあり、広間内は明るく温かみのある空間となっている。
傍らには楽師団が楽器の調律をしており、壁際には立食形式のため豪勢な料理がテーブル上に載せられていた。
豪華な衣装と装飾品を付けた貴族達と商会長達が城の大広間に続々と入場し、互いに挨拶を交わして歓談していると、アーチ状の窓や硝子扉から夕日が差し込み外は薄暗くなっていく。硝子扉の左右には正装の騎士服に身を包み、腰に剣を下げている騎士が立っていた。
「これより国王陛下、ならびに王族の方々がご入場致します。」
騎士団長の声に、広間内にいる者達の視線が大広間の右奥に向けられる。そこにはアーチ状の階段があり、階段下にはグラース騎士団長とカール宰相が控えていた。
そして……
階段上の扉がゆっくりと開かれると、ハウベルト王と王妃、王子、王女達が入場する。
金糸で細かい刺繍が施されている深緑色のマントを羽織る王と、王子達は燕尾服に身を包んでおり、王妃と王女達は色とりどりのドレスを着ていて、首には煌びやかな宝石を身につけていた。
端整な顔立ちと気品溢れる王族達の佇まいは生きる美術品のようであり、広間内にいる者達は魅了されて、口からは思わず感嘆の溜息が漏れる。
階段を降りた先には数段高い位置に、国王と王妃の座る椅子が用意されていて、段に上がり2人が椅子に腰を下ろすと、王子と王女達は段の下に左右に分かれて並び立つ。
コルテーゼ王子の姿がないことに、誰もが声に出さずとも怪訝に思う者達は多くいた。
「グラウス王国からお越しのイアン・フェイ・グラウス王子殿下、ならびに婚約者のルミナス様。ご友人のマナ様とリヒト様がご入場致します。」
騎士団長の良く通る声は、静かな広間内で貴族と商会長達の耳にしっかりと届き、扉に視線が集中する。
「ルミナス、足もと気をつけて…」
「うん、ありがとう。」
階段をゆっくりと降りながら、気遣うような口調で囁くイアンの声に、ルミナスも声を抑えて返す。
空色の燕尾服に身を包んでいるイアンは、爽やかな印象を広間内にいる者達に与える。
『 白き乙女 』
イアンのエスコートのする腕に手を添えて、薄く笑みを浮かべているルミナスの清楚な佇まいと美しさに、誰もが見惚れていた。
首元が大きく開いた純白の、長袖のドレスに身を包み、足首まで長さのある裾の辺りには金銀の糸で織りなす刺繍が、足を運ばせるたびに煌めく。
首には海をそのまま切り取ってきたかのような色と輝きを放つ、アクアマリンの宝石が付いたネックレスを付けていて、編み込みされ後頭部でまとめた髪に、頭には金の花冠をのせている。
精巧な冠の花は、ダリウスからの要望により作られたもので、ルミナスの母が好きだったセラスチウムの花をモチーフに作られたものだ。
王族のみならず、広間内にいる女性で白色を纏う者はいない。女性で白色の衣服を着ることは、昔から許されていないという名残があった。その理由を知る女性はいないが、白色は最も尊き色として各国の王が数百年前に国民に伝えていた歴史があるからだ。
「……階段を飛び降りないようにな。」
「も〜っ…分かってますよ。」
イアンとルミナスの後ろからは、マナのお目付役のようにリヒトが並んで階段を降りてきた。
普段着ている白色のローブ姿で、端整な顔つきと珍しいオッドアイの瞳をもつリヒトは、マナをエスコートするようなことはせずに、淡々と足を運ばせている。
マナは黄色のドレスに身を包み肩を露出していて、腰には赤色のリボンが付いている。いつものツインテールの髪はおろしていて、侍女達の手により巻かれた髪はゆるくウェーブがかり、花の飾りが髪に付けられている。
広間内にいる女性達は、ドレスの丈が短いことに驚いた。マナのドレスは膝下までで足が見えているが、はしたないと思う者はいなかった。ふんわりと裾が広がって、軽い足取りで階段を降りながらニコニコと笑顔が絶えないマナは、広間内にいる者達に可愛らしい印象を与える。
4人は階段を降りると、壇上まで歩みを進めた。
何度も城内でパーティーに参加したことがある者達は、大広間に入ってから椅子の数を見て、怪訝に思っていた。国王と王妃の椅子が置かれている少し奥に、左右に分かれて2つずつ椅子が置かれていたからだ。
今までの開催されたパーティーでは、王子と王女も椅子に座ることがなく、ジルニアが訪れた時に開かれた歓迎パーティーでも貴族や商会の者達と交流を図るために、椅子は用意されなかった。
こちらから、むやみに話しかけて良い相手ではない。
王と同じ壇上に椅子が用意されていることで、そう心の中で思う者達が多くいた。
ルミナス達が椅子に腰を下ろすと、王が立ち上がって広間内を見回し口を開く。
「……人間と獣人は相容れぬと、そう思っていた者が大半であろう。」
静寂な空間を切り裂くような王の鋭い声に、皆が固唾を呑んで、耳を傾ける。
「しかし、そうではない。私は2人の婚約に、心からの祝福を捧げたいと想っている。」
ルミナスとイアンを指し示すように腕を伸ばした王は、胸に手を当てながら広間内にいる者達に訴えかけるように語りかけた。
「我が国にイアン王子方がお越し頂いた歴史的な日を、共に祝おう!」
熱のこもった王の声が響き渡った。
王が軽く両手を広げると、その言葉に応えるように、広間内は大きな拍手に包まれる。
すると……
ルミナスとイアンが椅子から立ち上がり、揃って礼をしたことで、一際大きな拍手が湧き上がった。
拍手の嵐が鳴り響くなか、王が手を軽く上げると拍手が止み…楽師団が曲を奏で始める。
パーティーの始まりだ。
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次話 ルミナス視点になります。




