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ルミナスは、笑みがこぼれる

 

 朝、目が覚めて寝室にある窓のカーテンを開けると、外はまだ日が昇っていなくて薄暗かった。


 ……少し早く起きちゃった。何しようかな…。


 ぼんやりと、今日の予定を頭の中で考える。パーティーまでは支度の時間を抜いても、好きなことをする時間が十分にある。広場で買い物したいけれど……それは明日にしよう。ついつい夢中になって、広場に入り浸ってしまいそうだ。


 ……そうだ。コルテーゼ王子に会ってみよう。


 コルテーゼ王子は軟禁中だけど、私から会いたいと願えば陛下は了承してくれるだろう。


『コルテーゼ兄様は…素直な人…ですね。』


 昨夜、コルテーゼ王子がどんな人か尋ねると、シルフォード王子は顎に手を当てながら答えて、可愛らしい顔が眉をひそめる姿に思わずシルフォード王子の眉間を指で押して、キョトンとされてしまったけれど…私の行動が予想外だったのか、可笑しそうに笑っていた。


 クローゼットにかけておいたワンピースを手に取り、着替えを済ませて、全身を洗浄魔法で綺麗にする。使用人には朝の支度は不要と話してあるから、日が昇って朝食が用意出来たら、部屋に運んでもらうことになっている。


 ……イアン、起きてるかな?


 寝室にある扉の前に静かに歩み寄った私は、昨夜のことを思い出して、自然と口角が上がってしまう。


 昨夜イアンの部屋に行こうか迷った私は、寝てるかもしれないと思って影移動して室内の様子を伺うと、うろうろしてドアノブに手を伸ばしては引っ込めて、何かに葛藤しているようなイアンの姿を見た。

 イアンが扉を開けたら影から出てビックリさせようと、いたずら心が芽生えてそのまま見ていたけど…扉の前に座り込んだイアンは暫く動かず、眠くなってきた私は戻ってベッドで寝てしまった。


 ドアノブに手を伸ばして音を立てないように、慎重に扉を開け……あれ?

 何か重たいものが扉の前にあるようで、これ以上開くことが出来ない。


 僅かに開いた隙間から室内を覗き見ると、薄暗くてよく見えなかったため、魔法で小さな火の玉を浮かして明かりにする。すると…猫耳が視界に入って、どうやら扉にイアンが寄りかかっていると分かった。

 無理やり開けるのをやめて慌てて閉めると、影移動してイアンの影から出る。


「…イアン? 大丈夫?」


 何かあったのかと心配になったけれど、イアンは眠っているみたいだ。寝ている姿をもっと堪能してから呼びかければ良かった…と心の中で少し後悔したけど、重たそうに瞼をゆっくり開けたイアンは、目の前でしゃがんでいる私と目が合うと、寝ぼけた声で「ルミナス…」と私の名を口にした。


「朝だよ。」


 くすっと私が軽く笑うと、ぼんやりとしていた目が見開いて…え…? と声を漏らしたイアンは、どうやら目が完全に覚めたようだ。

 胡座をかいているイアンは、自分の今いる状況を確認するように、キョロキョロと視線を彷徨わせる。扉の前で寝てしまっていたことに気づくと、恥ずかしそうに頭を抱えて俯いてしまった。


「…実は…扉の前でイアンが、私の部屋に来るのを迷っている姿を…影の中から見ていたんだ。」


 バッ!と顔を上げて「なっ…! 見て…っ〜〜!?」相当恥ずかしかったようで、言葉を詰まらせたイアンは、両手で顔を覆って項垂れてしまう。

 イアンの顔がハッキリと見えないけれど、きっと顔が真っ赤になっているに違いない。流石に影の中から覗いたのはプライバシーの侵害だったかな…と思って申し訳なく思った私は「ごめんね。もう、しないから…。」と言って床に両膝をつけると、未だに顔を両手で覆って隠しているイアンの顔を、下から覗くようにして見る。


「見てたなら…影から、出てきてほしかった…。」


 ポツリポツリと言葉を紡いだイアンは、羞恥心からか両手で顔を隠したままだ。

 怒ってるかな…と不安に思った私が、もう一度謝ろうと口を開きかけたけど……


 イアンの手がスッ…と私の頰に優しく触れてきて、ドキッと胸が弾む。


「……昨日…痛かったよな…。」


 私の下唇を這うように親指を動かしてきて、ドキドキした私は「へっ…平気だよ…。」と動揺して上擦った声で返してしまう。歯がぶつかったことをイアンは気にしていたみたいだ。今度は私が恥ずかしくなって目線を落としてしまったけれど、そっと唇から手を離されて、私は目線を上げてイアンを見つめる。


「まだ、日は昇りきってないな…」


 室内には日の明かりがカーテンを閉めている窓から僅かに差し込んでいて、ボソッと独り言のような声を漏らしたイアンは、私に顔を近づけてきた。


 ゆっくりと…


 私の頰に添えられたままの、イアンの手の温もり以外に、唇にも柔らかな感触が優しく触れた。

 イアンは失敗しないように意識していたのか、私が瞳を閉じてから唇を重ねてくるまで、間が空いていたような気がする。それがやけに長く感じて、途中で瞳を開けてしまいそうになった。


「……おはよう、イアン。」


 瞳を開けた私が照れ隠しに改まって挨拶をすると、綺麗な金色の目を細めたイアンも、おはよう。と返してくれて穏やかな笑みを浮かべた。

 朝から甘いひと時を過ごせて、蕩けそうな気分になった私は、このままイアンと2人きりでいたいなぁ…と思ったけれど……そうはいかない。


「支度が出来たらこっちに来てね。部屋で一緒にご飯食べよう。マナもそろそろ来ると思うから…」


 立ち上がった私がにっこりと笑顔で話しかけると、分かった。と頷いて返したイアンも立ち上がって、私が戻れるように扉の前から体を避ける。

 ドアノブに手をかけて部屋に戻る前に、イアンの全身を洗浄魔法で綺麗にすると、ありがとう。と言って優しい表情をしているイアンは、口元を綻ばせた。剣を振っている時の凛々しい表情も好きだけど、こうして優しい顔をしているイアンが大好きな私は、嬉しくて思わず笑みがこぼれる。



 ………………




 …………



 イアンの部屋から戻ってすぐにマナとリヒト様が来て、支度を整えたイアンと皆で朝食を済まして一息ついていると、アンジェロ王子が部屋に来た。パーティーまでの間どうするか私たちの予定を尋ねに来たアンジェロ王子に、コルテーゼ王子に会いに行きたいとお願いすると、驚かれたけど……


 陛下の許可をもらい、アンジェロ王子も同行して私たちはコルテーゼ王子の部屋に向かうことになった。


 ……あっ、シルフォード王子だ。


 回廊を歩いていると、護衛と侍女を引き連れて歩いてくるシルフォード王子の姿が視界に入る。

 手提げ籠を持っていて、近づくと美味しそうな匂いが漂ってきた。


「皆様おはようございます。…夢の中でルミナス様にお会えいできて嬉しかったです。おかげ様で朝の目覚めがとても晴れやかな気分になりました。」


 もしかして魔法で会いに来てくださったのですか? と首を傾けて微笑むシルフォード王子の質問に、私は可愛いなぁ〜…と心の中で思いながら「おはよう。魔法では無いけれど…夢の中に入れる魔法があったら素敵ね。」と笑顔で返す。私の両隣では、「おはようございます!」「おはよう…」マナとイアンもシルフォード王子に挨拶を返していた。


 ちなみにリヒト様は、朝食の後から私の影の中に入っている。


「ルミナス様がお菓子を大層喜んでいたことを料理人に伝えたら、張り切って作ってくれました。これを渡したくて部屋に行こうと思っていたのです。」


 侍女に持たせずに自分の手で運んできたシルフォード王子は、満面の笑顔で私に差し出してくる。

 後で食べよう。と思いながら、ありがとう。と言って私は籠を受け取った。


 ……昨日は庭園に行ってないし、コルテーゼ王子と会った後は、庭でお茶しようかな…。


 侍女の1人が、お持ち致します。部屋に運んでおきましょうか? と私に聞いてきたけど、断って自分の肘に手提げ部分をかけて運ぶことにする。


「どちらに行かれるのですか?」


 シルフォード王子の質問に、私がコルテーゼ王子に会いに行くと答えて、軟禁中なら兄弟でも会えていないだろうと思った私は一緒に行きましょう。と誘ってみたけど、僕は…遠慮しておきます。と、断られた。

 無理強いするつもりは無いので、シルフォード王子とは別れて、私たちは先へと進む。


 コルテーゼ王子のいる部屋は一番奥の部屋で、扉の前には騎士が2名と、グラース騎士団長がいた。

 もしかしたら私たちがここに来ると知らされて、わざわざ来てくれたのかもしれない。


 騎士の手により扉が開かれると、室内には正面に立っている人影が………





「――――ッこの、香りは……っ……わたしの大好物のチェリーーーパイじゃないかぁああっ!!」





 室内にいる人が、ガバッ!!と体を仰け反り、天井に向かって吼えるような声を上げて、突然の大声に驚いた私は「しっ、閉めて閉めて!」思わず後退りしてしまい、私の声に反応した騎士が慌てて扉を閉めた。


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