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ルミナスは、湯に浸かる

 

「ルっミナスさぁ〜ん! これ見てください!」


 バンッ! と勢いよく扉を開けて入ってきたのはマナだ。ツインテールの髪を揺らし、満面の笑顔で上機嫌なマナは、手提げ籠を持っている。

 アンジェロ王子に王族の内情を教えてもらい、シルフォード王子にグラウス王国のことを知りたいと言われて話し込んでいると、突然イアンがマナが来た…と呟いたから私たちは扉に視線を向けていた。

 何故マナだと分かったのかイアンに聞くと、走る足音がマナだったそうだ。城内で走るのはマナくらいかもしれない…と思って、私は苦笑する。


「ま、マナ様…侍女と護衛の者は…?」


 1人で突然入ってきたマナに、アンジェロ王子が目を丸くしている。……あっ! とマナが間を空けて声をあげた。庭園まで行く時はきっと付いていたのだろうけど、忘れていたみたいだ。もしかしたら後を追ってきてるかもしれないけど、マナのスピードに付いて来れなかったのだろう。

「ごめんなさい…。後で謝っておきます。」

 マナが眉尻を下げて申し訳なさそうに目線を落とした。いえ、大丈夫ですよ。とアンジェロ王子が優しく声をかけている。


「る、ルミナスさん。これ…これ見て下さい。」


 マナは話題を変えて私の隣にすかさず座ると、籠の中身を見せてきた。もしかしたら言いつけを破って1人で行動したことを気にしているのかもしれない。


 籠の中には……お菓子が、たくさん入っていた。


 マカロンとクッキーを完食していた私は、もうお菓子は…と思いながらも、小さなタルトや、マフィン、カットされているアップルパイなど、美味しそうなお菓子達にゴクリと唾を飲む。

 これ、どうしたの? と聞くと、庭園でお茶をしていた時に出されたものですよ。とマナが笑顔で答えた。正妃様も王女達もお菓子には一切手を伸ばさず、食べたいけど誰も食べないから躊躇してしまったそうで、ルミナス様と召し上がって下さい。と王妃様に言われて持ってきたそうだ。きっとマナはお菓子をガン見していたにちがいない。


 甘いものは至福だけど、体型維持の天敵でもあるから王妃様達は手を付けなかったのだろう。


「アンジェロ王子と、シルフォード王子も召し上がりますか?」


 ニコニコとマナが2人に聞くけど、2人とも遠慮して断っている。2人の前には、小皿に載せたマカロンがまだ残っているし……


「寝ちゃってて、ごめんね…。楽しかった?」

「はい! とっても楽しかったですよ〜。見たことない花もありましたし…あっ、花を後で部屋に持ってきてくれるって言ってました。」


 マナの楽しげな様子に、こちらまで気分が上がってくる。アンジェロ王子が、妹達が失礼なことを言いませんでしたか? と控えめに尋ねると、仲良しになりましたよ〜と明るい声でマナが返した。


 予想はしていたけど…コミュ(りょく)が高いマナを尊敬する。


 ……そういえば…リリアンヌ王女はマナと年が近いんだっけ。


 先ほどアンジェロ王子から教えてもらった、王族の簡単なプロフィールを私は頭に思い浮かべる。


 正妃様の子供はコルテーゼ第一王子と、スティカ第三王子。年は22歳と、14歳。


 あとは側妃様の子供で、アンジェロ第二王子が私と同い年で18歳。シルフォード第四王子が12歳。

 リリアンヌ第一王女が16歳で、メイシャ第二王女が10歳。


 シルフォード王子が一番背が低かったから、末の子が王女と知って内心驚いた。側妃様が謁見の間にいなかった理由を聞くと、身重で出産を控えているため、あまり自室から出なく、明日のパーティーも欠席するそうだ。出産前に訪れてしまって城内をバタバタさせてしまったことに申し訳なく思った。



「ディナーの前にお風呂の用意が整いましたら、侍女がお声をかけに参ります。」


 それまで、ごゆっくりお過ごし下さい。と穏やかな表情で話したアンジェロ王子は、シルフォード王子と一緒に部屋を退室して、使用人達がカップを片付けたり紅茶を入れ直してくれて、下がってもらった。


「……リヒト様。お菓子食べませんか?」

【いや、わたしは大丈夫だ。】


 指輪から返事を返された。リゼ様なら喜んで食べるけど…リヒト様は甘いものを食べてる姿を見たことがないから、もしかしたら苦手なのかもしれない。

 テーブルの上には、マナが持ってきたお菓子が使用人の手により綺麗に皿の上に載せられている。


「イアンは?」

「俺は…これで最後にする。ルミナスが食べたらいい。」

 イアンは自分の小皿に残っていた、ピンク色のマカロンを手にとってパクリと食べる。ルミナスさんっ!一緒に食べましょう!とマナが弾んだ声で話しかけてきて、そうだね。と私は返した。マナと一緒にお菓子を食べながら庭園での事を詳しく聞くことにする。




 …………………





 ……………




 ………





「ゔ〜っ……ディナーは無理かも……」


 お風呂に肩まで浸かりながら独り言を呟いた私は、はぁ〜…と深く息を吐く。この後ディナーなのに…欲張ってお菓子を食べ過ぎてお腹が全然空いていない。むしろパンパンだ。普通だったらお腹を壊していたかもしれない。

 マナとお喋りしながら食べ終えた後は、声がかけられるまでの間、再びイアンとダンスの練習をしていた。じーっと私とイアンをマナが見ていたから、マナも明日ダンスをする? と誘ったけど、マナは興味が無いようで断られたけど……


「マナ様の尻尾は柔らかいですわ。」

「っふぎゃ!! 尻尾はダメですっ!!」


 も〜〜っ…尻尾は敏感なんですからねー…。とため息混じりに言ったマナが、ふくれっ面で自分の体をゴシゴシ擦っている。

 そうでしたの…ごめんなさい…。と口に手を当てながら謝ったリリアンヌ王女は、それでもマナの左右に揺れている尻尾に興味津々で、目で追っているようだった。リリアンヌ王女はマナの後ろで椅子に座りながら侍女達に体を洗われている。

 その近くではメイシャ王女も、侍女達に体を洗われながら、そわそわとしていた。メイシャ王女もマナの尻尾が気になるのだろうか……


 王族の自室や風呂場、ディナーをする部屋は私たちがいた客室とは別の建物で、回廊を通ってここまで案内された。王族専用風呂は客室のリビングと同じくらいの広さで、洗い場の方がスペースが広く浴槽は5、6人ほどが入れる大きさだった。それでも十分だし、大理石のお風呂は段差がついていて、半身浴もできるようになっている。

 男女風呂場は別になっていて、リヒト様とイアンはもう自分で洗って風呂場から出ているかもしれない。私とマナが風呂場に来た時に王女2人も一緒になって、私を優先して侍女達が綺麗に全身を磨いてくれて、それはも〜丁寧に丁寧に、慎重〜な手つきで洗われた。



「ルミナス様…ご一緒しても…よろしいでしょうか?」


 リリアンヌ王女は、腰の辺りまであるストレートの緑色の髪がしっとりと濡れていて、肌に張り付いている。髪と同じ色の潤んだ瞳は私と目線を合わさずに、遠慮がちに目線を斜め下に落としていた。

 半身浴をしていた私が、もちろん良いわ。と答えてニッコリと微笑みかけると、リリアンヌ王女とその隣にいるメイシャ王女が顔を見合わせて嬉しそうに顔を綻ばせる。


 マナは先ほどリリアンヌ王女に触られた尻尾を丁寧に自分の手で洗っていた。


「ルミナス様…わたくしとメイシャにも石鹸を使わせていただき、ありがとうございます。」


「とても良い香りがしますぅ〜。」


 湯に浸かったリリアンヌ王女がお礼を述べて軽く頭を下げてきた。メイシャ王女は、濡れて肩に張り付いている自分の緑色の髪を指で絡めながら、バッチリとした髪と同じ色の目を僅かに細めて、満足そうな笑みを浮かべている。

 香り付き石鹸はこの国にあるけれど、薔薇の石鹸は初めて見たそうで、私が持参してきた石鹸に侍女達と王女達の食いつきが凄かった。それでも石鹸の話題で2人と話すきっかけができて私は嬉しかったし、最初は2人とも私に対して恐縮していたけど、会話を重ねるうちに少しは打ち解けた気がする。


「いつになるか未定だけれど、マドリアーヌ領で滞在中に、夫人がわたくしの石鹸に興味をもたれて、薔薇の石鹸を作ると話していたわ。」


「まぁ…あそこは薔薇の花が見事だと耳にしております。花祭りにも一度行ってみたいのですけれど…」


 なかなか…と言葉尻が小さくなったリリアンヌ王女は、王女としての立場から気軽に行動することは出来ないのだろうと私は思った。


「来年はマナ行きますよーっ! リリアンヌ王女もメイシャ王女も、一緒に花祭りに行きましょう。」


 ザブッとマナが湯に浸かりながら、楽しそうに話した。いえ、わたくし達は…と言葉を詰まらせるリリアンヌ王女に、マナが首をかしげている。


「リリアンヌ王女もメイシャ王女も、マナと友達になってくれましたよね。マドリアーヌ領には、友達のエクレアさんとキャロルがいます。皆一緒なら絶対に楽しいですよ!」


 友達が沢山できてマナ嬉しいです〜と言って、へへへっと照れたように笑うマナを見た私は、フッとつられて笑みを零す。


「わたくしもリリアンヌ王女とメイシャ王女と…友達になれるかしら?」


 私の言葉に2人は目を見開かせて呆然としている。

「……ダメかしら? 」

 私が頰に手を当てながら肩を落としていると……


「る、ルミナス様とご友人になれるなんて……っ……こ、光栄ですわっ!」


「はわわ〜…嬉しいですぅ〜。」


 リリアンヌ王女は頰を薔薇のように赤く染めて、上擦った声を上げた。のんびりとした口調で言ったメイシャ王女はキラキラと瞳を輝かせている。



「来年の花祭り…わたくしも行きたいと思っていたの。皆で行きましょうね。陛下もきっと許可してくださるわ。」



 ふふっ…と軽く私が笑うと、2人とも笑みを返してくれる。のぼせない程度に湯に浸かりながら、私たちは会話を弾ませた。


次話 別視点になります。

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