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ルミナスは、複雑な心境を抱く

 

「…私はグレイス商会と、シルフォードはコメルサン商会と懇意にしております。湖でアジール達が、大変お世話になりました。誠にありがとうございます。」


「ダイス会長を盗賊から救っていただき、ありがとうございました。」


 アンジェロ王子とシルフォード王子が、それぞれお礼を述べて、2人揃って頭を深々と下げた。応接室で陛下からお礼を言われたけど、2人は懇意にしている商会のことだから、改めて言いに来たみたいだ。


「…盗賊退治をした時のご勇士を、是非この目で見たかったです…。もしよろしければ、魔法を見せていただけないでしょうか…? 」


 ゆっくりと頭を上げたシルフォード王子が、期待の色が混じったような瞳で私を見つめてくる。

 シルフォードっ! とアンジェロ王子が眉間に皺を寄せながら声を上げて、シルフォード王子がしゅんと肩を落とした。別に魔法を見せても構わないと思った私は魔法を行使して、頭上に小さな火の玉と水の玉を生み出す。


 人差し指を立てながらクルクルと頭上で回すと、アンジェロ王子は呆然として、シルフォード王子は頰をほのかに赤く染め、拍手をしながら喜んでくれた。


「…シルフォード王子は、前会長と副会長とも懇意にしていたのか?」


 不意にイアンが問い詰めるような口調で質問して、魔法を消した私はハッとする。鋭い眼差しをシルフォード王子に向けていて、ちょっ…イアン…。と私は囁きながらイアンの肩を軽く叩く。

 イアンの剣幕に俯いてしまったシルフォード王子が、可哀相に見えたからだ。


「い、いえ…シルフォードは、もともと懇意にしている商会はありませんでした。次期会長の決まらないコメルサン商会を取り潰そうとしていた時に、シルフォードが今の会長…ダイスを連れてきたのです。」


 口籠るシルフォード王子の代わりに、アンジェロ王子が答えてくれた。元々ダイス会長は行商人をしていたと前に話していたけど、シルフォード王子が連れてきたという言葉に私は驚く。…そうなのか? と、イアンが声をかけるとシルフォード王子は、…はい。と頷いて答えた。


「以前は…」


 アンジェロ王子は何かを言いかけていたけれど、口に手を当てて、話すのをやめてしまった。アンジェロ王子の表情が暗くなったように見えて、「……以前は…誰が、前会長達と懇意にしていたのかしら?」と私は疑問に思って質問する。


「以前は…兄上が…その…」

 アンジェロ王子は目線を落として、言いにくそうに言葉を濁す。アンジェロ王子の兄…ということは、まだ紹介されていない第一王子のことだろう。


「謁見の間にいらっしゃらなかったので、わたくし気になっていましたの。アンジェロ王子のお兄様とは明日のパーティーで会えるのかしら?」


 私が薄く笑みを浮かべると、アンジェロ王子はチラリとシルフォード王子に視線を向けた。「ルミナス様に正直に話すべきだと思います。」とシルフォード王子に言われたアンジェロ王子は、少し躊躇しながらも意を決したように目線を上げて、重たい口を開く。


「……明日のパーティーに、兄上は…出席致しません。第一王子、コルテーゼ・フウ・ニルジールは、騎士による厳しい監視のもと、一室に軟禁しております。ルミナス様方との接触も禁じられているため…滞在中に会うことはないでしょう。」


 アンジェロ王子の話を聞いて、軟禁…? とイアンが怪訝そうな声を漏らした。辛そうに顔を歪めるアンジェロ王子は、コルテーゼ王子を軟禁していることに対して不満を抱いているように見える。


「なぜ……?」


「罪人のジルニアと結託していた疑いがかかっております。兄上は…否定を繰り返していますが…」


「それは…確かなの…?」


「確証はございません…サンカレアス王国内に潜んでいた者達の荷物から、コメルサン商会の商人に渡している兄上のサイン入りの許可証が出てきたそうです。サンカレアス王国から知らせを受けて、会長達を問い詰めようと騎士を向かわせようとしていましたが…殺されてしまいましたので…」


 私の度重なる質問に対して、アンジェロ王子は丁寧な口調で答えてくれた。けれど、胸に手を当てて辛そうな表情をしたままだ。潜んでいた者達とは、きっと塔の中にいた者達のことだろう。


「アンジェロ兄様が、いくら心を痛めても…コルテーゼ兄様の疑いを晴らすのは難しいですよ。ジルニアが外交に我が国を訪れる時は、決まってコルテーゼ兄様が対応していました。それに、コメルサン商会から許可証が盗まれたと報告も受けていなかったみたいですし…」


 シルフォード王子がソファに深く座りながら、アンジェロ王子の話に補足するように言葉を続ける。


「前会長達の口封じに、コルテーゼ兄様が暗殺者を差し向けた可能性も…」


「兄上がッ! ――っ――そんな、愚かな事をする筈がないんだッ!!」


 シルフォード王子の言葉を遮り、アンジェロ王子が勢いよく立ち上がって声を荒げた。胸の内に溜まっていた不満が爆発したかのように、拳をつくり身を震わすアンジェロ王子は、怒りを露わにしている。


「ルミナス様の前で…落ち着いて下さい…。」


 ため息をついたシルフォード王子に対して、唇を噛んだアンジェロ王子は私たちの方に体を向き直すと、申し訳ございません…と沈んだ声で謝罪しながら頭を下げた。ゆっくりとソファに腰を下ろして乱れた呼吸を整えるかのように、ふーっ…とアンジェロ王子は深く息を吐く。シルフォード王子は、私と話す時の可愛らしい雰囲気はなく、どこか大人びた雰囲気があった。


 私はシルフォード王子とアンジェロ王子の、コルテーゼ王子に対しての温度差を感じる。


 ……兄弟皆が仲良く…とは、いかないのかな…。


 王族に生まれた立場もあるのだろうけど、継承権で争うようなことが、あったりするのだろうか…と考えた私は、目の前にいる2人を見ながら複雑な心境を抱いた。


「…ルミナス様が、気に病む必要はございません。」


 どうやら私は顔に出ていたようだ。シルフォード王子に気遣うような口調で言われてしまった。

 私を安心させようとしているのか、にこりと微笑むシルフォード王子に、私も薄く笑みを返す。


「この件に関して父上は…きっとルミナス様方に話すつもりは無かったでしょう。」


 身内の恥を晒すわけには参りませんから…。と小声で言ったシルフォード王子は、カップに手を伸ばして口へと運んだ。私もカップに手を伸ばし、紅茶を飲みながら思考に耽る。コルテーゼ王子が…もし、ジルニアと結託していたとしても、軟禁された状態の今では何もできないだろう。



「アンジェロ王子は、兄を信用してるんだな…」


 仲が良いのか? とワインを飲んでグラスを置いたイアンが質問する。アンジェロ王子は頰を指でかきながら、そう…ですね…と呟くような声を漏らした。


「私と兄上は、異母兄弟ですが…幼い頃から兄上には…よくしてもらいました。」


「いぼ…兄弟…?」


 アンジェロ王子の言葉に、イアンは首をかしげている。聞きなれない言葉に疑問を抱いているようだ。

 ……側妃様がいるんだ……

 王族の内情が気になった私は、アンジェロ王子に尋ねることにした。


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