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イアン王子はパニックになり、決心する

食堂に入ってからのイアン王子視点です。十五話、十六話と話の内容は同じになります。

「―――イアン?――座ら――のか?」



「…え、あ…はい…。」


 姉上の声がした…なんて言ったんだ?俺は耳はいい筈なのに、聞き取れなかった。早く行かないと…。


 イアンがそう思い、足を一歩前へ出そうとしたが再びサリシアから「ルミナスの隣に座れ」と声をかけられる。


 ―――ルミ、ナ、ス、さんのとなり!?


 サリシアの声で静まった心臓の鼓動が再び速まる。


 落ち着け…!お、おちつけ!別に戦場に行くわけじゃないんだぞ!なにを緊張しているんだ俺は!


 イアンは自身を鼓舞し、なんとか動き椅子に座る。




 …俺も何か喋った方が良いのだろうか。でも、楽しそうに話てるのを邪魔しちゃ悪いよな…。


 イアンの隣に座るルミナスは、サリシアとライラと楽しそうに会話をしている。内容は森の中でのことで、ルミナスがうさぎちゃんは可愛いかったです…触りたかったのに逃げられてしまいました…とか、熊に遭遇したら寝たふりが良いか…と聞いたりしていた。


 兎の話では…


 ――食料にする獲物の兎のことを、うさぎちゃん…て…なんだよその可愛い言い方は!

 触りたかったら、俺が何匹でも生け捕りにしてくるよ!


 熊の話では…


 ――寝たふりなんて絶対ダメだって!食われちゃうって!危なすぎるよこの人!


 …と、色々とルミナスに突っ込みたかったイアンだったが、サリシアがルミナスに、兎は死んだものだが城内にいるぞ?触るか?と言われ、ルミナスが首を横に振って拒否していた。熊はサリシアとライラの二人に危険だ!と注意されていたので、イアンはずっと口を閉じていた。


 そして料理が運ばれてきた。


 サリシアが「肉はイアンが狩で仕留めたやつだぞ。」と言って、自分が森で仕留めていた事を思い出す。


 …兎も仕留めてたけれど、言わない方が良いな。


 サリシアも言わなかったので、イアンも言わないでおくことにした。


 ルミナスが食前の挨拶をし、サリシア達同様に疑問に思ったイアンだったが、町で聞いた時なんでもない!と拒否された為、黙ることにする。


 …町でも聞きなれない言葉を言ってたっけ…なんだっけ?ぱ…ぱらいら?…いや、違う気がするな…。ライラも真似してあの時言ってたし、ライラに後で聞いてみるか。


 そんな風に考えていたイアンだったが、ふと隣を見るとルミナスが勢いよく食べ進めるのをみて驚く。


 ルミナスの食べるスピードは速いが、決して下品な食べ方をしているわけではない。そしてルミナスは言葉を発しているわけではないが、おいしい、うれしい、と全身で言っているように感じられた。


 ルミナスの正面に座るサリシアは、そんなルミナスの様子を微笑ましく見つめ、ライラも笑顔でいる。


『国に行ったら、たくさん美味しいもの食べさしてあげるから。』

 イアンは森でルミナスに言った言葉を思い出す。


 …ルミナスさんが満足してくれるなら…嬉しいな。


 イアンはルミナスの隣でそう思いながら食事が終わるのを待っていた。

 サリシアが途中で席を立って出て行き、飲み物を持ってきただけですぐに戻ってきたので、あまりイアンは気にしていなかったのだが…ルミナスが食事が終えると、持ってきたコップをさり気なくルミナスの前に差し出していた。


 ――くそ!なんで俺はただ座っているだけで動かなかったんだ!


 その様子を見てサリシアのさり気ない気遣いに驚き、そして気づけない自分を叱咤するイアンであった。


 そしてルミナスは再び聞きなれない言葉を言い、今度はサリシアとライラの質問に答える。


「自分自身の糧になってくれる生命への感謝と、作ってくれた人への感謝を表す言葉です。」


 ルミナスの答えにイアンは感心していた。


 …感謝を…そんな意味があの言葉にあったんだ…。今まで俺は食事に対してそんな風に考えたことなかったな…。


 そしてライラが自分もやる、と言ってサリシアも真似をしルミナスに教えてもらっている。


 …俺も、教えてもらえるかな?


 イアンはルミナスに尋ねようと口を開くが、なかなか言葉が出てこない。落ち着け、落ち着け…と思いながら一度ゴクリと唾を飲み込み、なんとか言葉を絞り出す。


「ルミナスさん…俺にも教えて…ほしい。いい?」


 ―――よし!なんだ簡単だ!言えたじゃないか!


 フゥ…と言えた事に満足したイアンだったが、ルミナスがこちらを向いて「はい!もちろん!」と笑顔で答えるのを直視してしまい、また鼓動が速くなってしまった。


 ―――だめだ!なんでた?ルミナスさんの顔を見れない!しかも……近い!


 背負っていた時の方が距離は近かった筈だが、イアンは隣同士で座っている距離がやたらと近く感じた。

 教えるためにルミナスが椅子に横向きに座り直し、こちらを向いているが、イアンはルミナスの方を見れず下を向いている。


「手は合わせるんですよ?」 ルミナスから声が聞こえるがイアンの動作はぎこちない。


 ―――せっかく教えてもらってるんだ!しっかりしろ!


 イアンは自分の手を見ながらそう思い、気持ちを落ち着かせようとし…ルミナスの手がイアンの手に触れてきて……


 ガターーン!!


 ……椅子から落ちてしまった。


 大丈夫ですか!?と心配する声がするが、イアンはたどたどしい返事しか返せない。


 ―――て、手が!ルミナスさんの手が俺の……!


 ドクドクドクドクドクドク


 イアンの心臓は爆発寸前である。


 ―――なんだ!?俺は攻撃されたのか!?

 もしかして俺は死ぬのか!?


 イアンは未知の経験に最早パニック状態であった。




「…お腹も落ち着いただろうし、そろそろ行こうか。」


 サリシアの声に、パニックを起こしていたイアンは冷静を取り戻す。姉の力は偉大である。

 いや、サリシアが僅かにイアンに対してのみ、殺気を飛ばしたのが原因だろうが…。


 サリシアとライラが話をしている間に、イアンは立ち上がる。父上と大事な話をすると聞き、イアンは崩れた身なりを整えた。



 その後ライラを食堂に残し、三人で国王の執務室へと向かう。ルミナスがずっと口を閉じ何かを考えているようだったのでイアンも黙って歩く。


 そして執務室の扉の前に着いたときに、サリシアがルミナスに緊張しなくても大丈夫だ、と声をかけた。


 俺も咄嗟に声をかけたが、また姉に先を越されたのが悔しく感じるイアンだった。


 …良かった…さっきまで思いつめている様子だったけど、もう大丈夫みたいだ…。


 ルミナスの様子を見て、安堵する。


 …さっきは俺どうしたんだ…いや、それより今は父上に会うんだ。集中しろ!


 イアンは姉が苦手ではあるが、父親の国王がもっと苦手だ。…というより、怖いともいえる。怒った時の父親が本当に怖いのであろう。先程までイアンの頭の中はルミナスで頭がいっぱいだったが、今はルミナス30%父親60%姉10%の脳内比率だ。

 …姉のサリシアよりルミナスが気になるみたいだが。


 そして、サリシアが扉を開けて三人は中に入り、父親である国王へルミナスを紹介した。


「わたくしはサンカレアス王国、ダリウス・シルベリア侯爵の娘、ルミナス・シルベリアと申します。」


 ―――やっぱり貴族だったんだ!しかも侯爵って…貴族の中でも上の位じゃないか。


 イアンはルミナスの挨拶を聞き、初めて出身とフルネームを知った。


 …ルミナスさん…挨拶の仕方綺麗だな…。


 そしてイアンは、ルミナスの立ち振る舞いに見惚れていた。もう頭の中はルミナス60%である。


 父上とルミナスさんの話を俺は、ルミナスさんの後方で黙って聞いていたが…何度も声を上げそうになり、その度に隣に立つ姉上に睨まれてしまった…。


 ……ルミナスさんが囚われた事を聞いて、相手への殺意が湧いた。


 ……髪の色は俺も気になっていたから、何か原因があるのかと心配になった。


 ……驚いたのは婚約者がいたことだ。しかも王子の婚約者…。いや、ルミナスさんにいて当たり前だとは思うけど、この国では姉上も俺も、そういうのは無かったし…。


 でもその後のルミナスの発言がイアンにとって一番衝撃を受けた。


 ……え?婚約…破棄?王子から言われのか?……他の女性と結婚?

 

 ルミナスの言葉を聞いた時、森の中で泣きながら名前を呼んでいたルミナスの姿をイアンは思い出す。


 ―――まさか!そいつがヒカルか?第三王子のことだったのか!


 もうイアンの頭の中はルミナス100%だ。

 そして王子への怒りが沸々と湧き上がる。


 ―――もし会う機会があれば、一発ぶん殴ってやる!


 イアンはヒカルと第三王子が合致したように思っているが、イアンの勘違いである。

 ヒカルは、ルミナスが前世で飼っていた猫の名前なのだから。


 レオドル王やサリシアは他国の婚約者も把握している。もちろん第三王子の名前がマーカスというのも知っているが、イアンは姉への対抗心ばかりで他国の王族情報を怠っていた。

 そしてイアンの勘違いをこの場で誰も訂正などできない。




 その後父上の行動にも驚いた。父上は人間を嫌っていると思ったから、ライラを助けた人だとしても頭を下げるとは…。

 父上はルミナスさんと今後のことを話していた。

 俺は先のことを全然考えてなかったけど…

 ルミナスさん国に帰るのかな?

 いや、帰る、よな…。

 でも国で酷い目にあったなら、帰りたくないんじゃないか…?


 イアンはレオドル王とルミナスの話を聞きながらも、考えを巡らせていた。

 ルミナスがすぐに即答しなかった為、イアンも色々と考えてしまったのだろう。


 ――今度は胸が苦しい……。


 ルミナスがいなくなる事を想像したイアンは、先ほどまで高鳴りが激しかった心臓が、今度はギュッと握り締められたように苦しく感じた。


 ……父上と話をしよう。俺はもうダメかもしれない…。


 自分の不調に危機感を感じたイアンは決心する。

 早く父親に言わなければ、と…


 …その不調の原因が何か、後ほど判明することになるのだが。


 そしてイアンは、その場に残ることにした。


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