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ルミナスは、謁見する

 

 私たちが謁見の間に着くと、重厚感のある両開きの扉がゆっくりと開かれる。


 城内の廊下を歩いている時にシルフォード王子が、お疲れではございません? 応接室に飲み物をご用意致しましょうか? と気遣うような口調で度々尋ねてきたけど、陛下が謁見の間に既にいると聞いて、ここまで案内してもらった。


「…ルミナス様、誠に申し訳ございません…。シルフォード、いい加減にルミナス様のお手を離すんだ。」


 すぐ後ろからアンジェロ王子が声を潜めて話したけど「父上の前まで、僕はルミナス様を案内します。」シルフォード王子は笑顔で返して私の手を繋いだままだ。このやりとりを廊下を歩いている時に何度もしていた。私が拒まないから、アンジェロ王子は無理矢理私とシルフォード王子の手を離すことをしないのだろう。


 シルフォード王子が右隣で…

 左隣にはイアンが私と手を繋いでいる。

 何故かイアンが対抗心を燃やすかのように、私の手を掴んで離さないのだ。

 私をエスコートするように2人は、手を繋いだまま謁見の間に足を踏み入れる。


 ふかふかの赤い絨毯(じゅうたん)の上は、土足で歩くのがもったいなく思ってしまうほどだ。

 広くて壮麗(そうれい)な謁見の間は、入り口から奥まで敷かれた絨毯の左右に、壁際に全身鎧を(まと)った者達が等間隔で立っていた。兜を被っていて全く微動だにしない姿に、まるで鎧の飾りが並んでいるように見える。この者達はきっと騎士だろう。


 緊張感漂う謁見の間の雰囲気に、萎縮しそうになった私は、隣を歩くイアンにチラリと視線を向ける。真っ直ぐ前を見据えているイアンの凛とした佇まいと、繋がれた手の温もりを感じて軽く息を吐いた私は、しっかりと前を向いた。


 部屋の奥は数段高くなっていて、煌びやかな椅子が2つあり、陛下と王妃様が座っている。

 そこから一段下りて、男女左右に分かれて立っているのは王族だろう。豪華な衣装に身を包んでいる人達の姿を見て、馬車の中にはマドリアーヌ領で受け取ったドレスとイアンの服があったから、謁見する前に着替えれば良かった…と今更ながらに思った。

 けれどマナはドレスを持っていないし、ワンピース姿で仕方ないと割り切る。


 段の側には陛下の側近らしき人が、2人立っていた。1人は全身鎧を(まと)って兜を手に持ち、緑色のマントを羽織っている。装いから騎士団長と推測するけど、ガルバス騎士団長やゼルバ騎士団長のような体格とは違い、長身でスラリと伸びた手足が印象的だった。

 もう1人の重鎮であろう人は、首から腰の位置ほどまである、緑色のストールのようなものを前に垂らしている。頭の部分に違和感を感じて、まさかカツラだろうか…と思ったけど、そっと私は視線を逸らした。


 ……え〜っと…王子が3人と、王女が2人…かな?王妃様は子沢山だなぁ…あっ、一夫多妻みたいだし、側妃様がいるのかな?


 あまりジロジロと見るのは不敬だろうと思って、僅かに目を伏せながら歩いて段の手前で足を止めると、後ろから付いてきていたアンジェロ王子が私たちの横を通りすぎる。シルフォード王子は名残惜しそうに…そっと手を離して、イアンも私から手を離す。

 シルフォード王子はアンジェロ王子と共に他の王族と同じように立ち、その時に国王陛下が思案顔でシルフォード王子を目で追っていた。

 後で叱られるんじゃ…と、私は少し心配に思う。


 ……イケメンと美女ばかりだなぁ…。シルフォード王子以外、なんだか強張った顔をしているように見えたけど……


 馬車の中で打ち合わせした通り、イアンを挟んでマナと私が並び立つと、私とマナは半歩後ろに下がる。私たちは床に片膝を付けて跪き、頭を垂れた。

 ……おっ! 動きが揃った気がする!

 謁見といえばこんな感じだろうと、私の脳内イメージを2人に伝えていた。

 ぶっつけ本番だったけど、なんとかなるもんだ。


「……どうか、楽にしていただきたい。」


 穏やかな澄んだ声が耳に入って、私はゆっくりと頭を上げる。私たちの動きが予想外だったのか、言葉をかけられるまでに幾分か間があって、僅かに動揺しているように感じた。

 陛下の羽織っている深い緑色のマントは、金糸で細かい刺繍が施されている。長い緑色の髪を前に垂らしていて、白い陶器のような肌をした顔は、病気を疑うほどの白さだ。


 ……え? 大丈夫?


 儚げな雰囲気のある陛下は、憂いを帯びた緑色の瞳でジッとこちらを見つめて、口を開く。


「…()は、ハウベルト・フウ・ニルジールである。遠路はるばる、よくぞ我が国に参られた。」


 陛下の言葉から始まった謁見は、こちらはイアンが代表して挨拶を述べる手筈となっているので、私は口を閉じたままイアンに頑張れー! と心の中でエールを送る。


「お初にお目にかかります。グラウス王国第一王子、イアン・フェイ・グラウスと申します。婚約者のルミナスと、(とも)であるマナと共に、私は他国を見聞(けんぶん)すべく旅をして参りました。急な来訪にもかかわらず国王陛下にご拝謁賜(はいえつ たまわ)りましたことに、心より感謝申し上げます。」


 スラスラと台本を読み上げるように挨拶を述べたイアンに、私は心の中で拍手を送る。普段一人称が『俺』だから、『私』と言い変えるのに違和感を感じていたイアンは、馬車内で練習していたのだ。私が挨拶するよりも、私たちの中でイアンが一番身分が高いから、頑張ってもらった。


 陛下は目を丸くして言葉が出ないようで、謁見の間がシンと静まり返り……


 クシュん


 ほんの小さなクシャミの音が、静かだった謁見の間にやけに響いて聞こえてきた。音の発信源はシルフォード王子だったようで「…失礼致しました。」と恥ずかしそうに口を両手で隠しながら、頭を下げた。

 ……か、カワイイ〜〜っ! クシャミの音まで可愛いなんてっ!!

 陛下は気を取り直すかのように、口元に手を当てて軽く咳払いをすると、隣に座る王妃様に視線を向ける。


 その後、陛下は王族と下座に控えていた2人を私たちに紹介して、スムーズに進んだけど……


 どうやら側妃様は元々いないのか…それともこうした場には出席しないのか…紹介された中にはいなかった。


 ……もう1人の王子はどうしたんだろう?


 椅子に座る陛下と王妃様以外の並び立っていた王族は、第二、第三、第四王子と第一、第二王女だ。第一王子がこの場にいないことに疑問に思ったけど、私はそれを口には出さないでおく。

 何か予定があったのかもしれないし、第一王子不在の理由を陛下はこの場で言わなかったからだ。


 ちなみにマナは、ずっと頭を垂れたまま微動だにせず、大人しくしていた。


 王都に滞在中、私たちに付く護衛については後ほど別室にて詳細を話すと陛下に言われた私たちは、謁見を終えて退室する。




 …………………




 ……………





「…イアンも、マナも、立派だったよ。」


 座り心地の良いソファに座っている私は、両隣にいる2人に小声で話しかけた。マナは満面の笑みを浮かべて、イアンは褒められて嬉しかったのか、照れたように笑う。


 謁見の間から出ると、すぐに私たちは近くの応接室に案内された。優雅な雰囲気のある応接室は、精巧(せいこう)なアンティーク調の調度品が置かれていて、テーブルの上には使用人が運んできた飲み物が置いてある。私は取っ手の無い陶器のカップを手に取り、紅茶を飲んで喉を潤す。

 両隣でも、グラスやカップを手に取る姿が視界に入った。使用人に飲み物は何が良いか尋ねられて、いくつか飲み物の種類を言われた時に、私とマナは紅茶、イアンはワインを頼んでいた。


 紅茶の種類が色々とあるようで、是非とも全部の種類を制覇してみたいものだ。


 大きなアーチ状の窓からは、たっぷりと日差しが差し込んでいて、温かい紅茶を飲んでホッと息をついた私は肩の力を抜く。陛下がどんな人か知らないから偉い人に会うのは緊張したし、謁見の間の雰囲気は、あまり、好きじゃない。


「ルミナス…シルフォード王子は子供じゃないからな…。」


 不意にイアンが小声で話しかけてくる。広い室内の壁際に使用人や護衛の人達が立っていて、室内の中央付近にいる私たちの会話は、小声で喋るとハッキリ耳にすることは難しいだろう。別に普通に喋っても大丈夫だとは思うけど…


 ……子供じゃない?


 イアンの言葉の意味がよく分からなくて、私は首をかしげる。アクア様みたいに見た目は子供、実年齢は……って訳じゃないだろうし。


「…ルミナスを見る時……男の目をしていた。」


 真剣な表情で囁いてくるイアンに、私は頭の中で更に疑問符を浮かべる。

 もしかして、シルフォード王子が扉から現れた時に、イアンも私と同じように女の子か男の子か判断がつかなかったのだろうか。


「そうだね。女の子みたいに可愛らしいけど、男の子だなんてビックリしたよね。」


 私が相槌を打ちながら声を潜めて返すと、イアンはガックリと項垂れて深くため息を吐いた。

 ……え? なんで??

 違ったのだろうかと思って私はイアンに聞こうと、口を開こうとしたけれど…イアンの猫耳がピクリと動いたのが視界に入る。






「……なんだか、大人数で来たみたいだ。」



 イアンの呟きに反応した私は、正面にある扉へと視線を移した。


次話、別視点になります。

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