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ルミナスは、感嘆の息を漏らす

 

「雨止まな〜い……」


 マナが車内から外を見ながら、独り言を漏らした。

 その声が、どことなく元気が無いように聞こえた私は、座っていた腰を上げてマナの隣に移動すると、御者台の背もたれに掴まりながら外を眺める。雨の勢いは弱まったけれど、小雨が降り続いていた。

 今私たちは、整備された道から少し逸れた草原の上、木の側に馬車を停めていて、雨宿りをしている。


 ……アジールさん達は、もう王都に着いたかな…


 これから向かう行き先が同じ王都だと出立前に聞いた私は、もう素性もバレて魔法を使ってるのを散々見られたから、道のりを共にしようと思って声をかけたけど、魔法を惜しみなく使う私に対して申し訳ないようで、アジールさんに丁重に断られてしまった。

 私も魔力を借りてる立場なんだけどね。ぽんぽん魔法を使っていてアクア様達は魔力の減りを感じているだろうけど、特に何も言ってはこない。

 アジールさん達とお互いに進むペースも違うだろうし、仕方ないと私は思ったけど…タクトは少し残念そうな顔をしていた。


『 王都に着いたら、すぐにまたお会い出来ますわ 』


 アジールさんは予言めいた言葉を残して、私たちより先に湖から出立している。


 雨宿りしている私たちの馬車の前を、道なりに幌馬車が通っていくのが視界に入る。私たちは雨が降れば馬車を止めるけど、小雨程度なら濡れるのも構わずに、馬車を走らせている人達もいた。スピードは落としているみたいで、御者の人は大抵マントを羽織ってフードを被り、雨を凌いでいる。


 ……のんびりと進んできたけど、あれから4日経ったし……


 もう少しで王都に着くかな。そう思いながら隣に顔を向けると、マナは雨が上から降ってくるのを目で追っているようで、顔を上下に素早く動かしていた。

 ……暇なんだね。

 マナの可愛さに、私は顔が(ほころ)ぶ。


 車内には、私とマナ以外に人の姿はない。


 イアンとリヒト様は今、2人で影の中に入っている。湖から出発した日から、イアンがリヒト様にお願いして、食後や、雨宿りしている間は影の中に入るようになった。あれだけ嫌がっていたのに自ら入りたがったイアンに驚いたけれど、五感で捉えられない影の中は攻撃を回避する良い鍛錬になるそうだ。

 剣を使ってはいないけど…最初影から出てきた時にイアンの顔が腫れていて、疲労困ぱいしてる姿を目にした私はリヒト様に思わず怒鳴ってしまった。

 手加減するなと言われたからって、リヒト様は容赦なさすぎる。


「あっ! 雨止みましたよっ! 」


 イアンー! リヒト様ー! とマナが私の足下の影に向かって声をあげた。すると、すぐに影の中から2人が姿を現わす。少し息を切らしているイアンの顔は無事だけど、服の下は痣だらけなんじゃ…と私は心配になる。イアンは頑なに魔法で癒されるのを拒むから、魔法をかけることはしない。


「…イアン、少し休んだら? リヒト様に馬を操ってもらって…」


「いや、大丈夫…」


 すぐ出発する。と言ったイアンは軽く呼吸を整えると、マントを羽織ってフードを被り、御者台に腰を下ろした。


 顔が腫れた時は、イアンの代わりにリヒト様に馬を操ってもらい馬車を進めてもらっていた。

 マナは馬に乗ったことがないため無理で、私も馬車を引かせるとなると自信がなく、リヒト様が数百年ぶりだがやってみよう。と進んで引き受けてくれたのだ。私が怒鳴ったせいでは…きっと、ないと思う。


「イアン。王都に着いて門番に止められたら許可証を私が出すね。」


 イアンの背中を見つめながら私は声をかけたけど、「……ああ…」考えごとでもしているのか、気のない返事を返された。顔を晒せば素性がバレて騒ぎになるだろうから、フードを被ったまま城まで行ければと私は考えているけど……


「ルミナスさん。じゃんけんの他に何か面白い遊びは無いですか?」

「う〜ん…じゃあ、次はあっち向いてホイをやってみよっか。」


 なんですか、それー! と興奮気味にマナが食いついてくる。グラウス王国を出た後は、自分のいた国とは違う他国の外の景色にも目を輝かせて見ていたマナだったけど、旅を続けていると流石に同じような景色に飽きたのか、移動中外を見なくなっていた。

 暇を持て余しているマナに、私は車内で出来る遊びを教えて、慣れてくると次の遊びを要求される。


 じゃんけんは後半マナに負けっぱなしだった。

 私が出す瞬間の手の形を目で捉えて、瞬時にそれに勝つ手を出してくるのだ。動体視力を鍛える遊びですね! とマナに言われて、私は苦笑してしまった。

 私としては、じゃんけんは運試しのような遊びだったと思っていたけど、あっち向いてホイも、すぐにマナに負けそうな予感がする。


 ……イアンは遊びに、のってこないんだよなぁ…


 マナが、一回だけでもやってみようー! と誘っても、しない。とキッパリ断っていた。マナとイアンが対戦したら面白い勝負ができそうなのに。

 身体能力の高い獣人でも旅の疲れもあるだろうし、ここ数日は体を酷使しているようでイアンのことが心配になる。けれど、私があまり無理しないで…と言っても、イアンは鍛錬を休むことをしない。


 最近はイアンと会話のキャッチボールができていないように感じて、曇り空のせいもあってか、なんだか…しょんぼりした気持ちになる。


 イアンは、きっと王都に着いたらアルと戦うことを考えている。数ヶ月前の争いの時のように、イアンが傷つく姿はもう、絶対に見たくない。酒場に行く気満々のようだったし、やる気になってるイアンには悪いけど…私が先にアルを見つけて魔法で拘束しよう。




 それからは雨が降ることはなく、順調に馬車は王都に向かって進んでいき……




 翌日


 日が昇った後すぐに出発して道なりを暫く進んでいると、王都の城壁をイアンが視界に捉えた。

 私の目には見えないけれど…門の前には、かなりの馬車の列が並んでいるそうで、マナが「…素性を明かしましょう。」と真剣な表情で言っている。

「とりあえず行ってみよう。」と苦笑しながら私は返して、馬車の1番後ろに並ぶようにイアンに伝えた……



 けれど



「光ってる馬車がある……」


 馬車を進ませながら怪訝な声を漏らしたイアンに、どれどれ〜? とマナがフードを上に少し上げながら、じーっと前方を見ている。……光ってる?

 私がどんな馬車か想像がつかないでいると「ほんとだぁ〜何あれー…」と、マナがイアンの言葉に同意を示していた。半分だけ閉めているカーテンから私も前方を見てみるけど、やはり私の目にはよく見えない。


 馬車が進んでいくと、並んでいる馬車の列が私の目にも捉えられるようになり、陽の光をキラキラと反射しているような馬車が僅かに見えた。


「馬に乗っている、兵? 騎士、だろうか…。馬車の近くには、武装している人の数が多いようだ…」


 イアンにカーテンを閉められて、私とマナは車内に腰を下ろした。何かあってもイアンが対応してくれるだろう。リヒト様は「影の中にいる」と言って私の影に入っていき、成り行きに任せようと思った私は、車内で大人しくしていることにした。


 それから暫くして、馬車が動きを止めてイアンが誰かと会話をし始める。


 ……門番かな? 長い列があったにしては門の前に着くには早い気がするけど…今回イアンはフードを被っているし……


 誰と会話しているのか疑問に思っていると、不意にカーテンが開けられて私は目を丸くする。


 イアンがフードを下ろして、猫耳を露わにしていた。


「なんだか、偉い人がいるみたいですよ〜。」


 マナがよいしょと、腰を上げながら話した。

 私には聞こえなかったけれど、耳の良いマナには外の会話がバッチリ聞こえていたのだろう。


「俺たちが来るのは事前に分かっていたみたいで、出迎えに来たそうだ。」


 イアンの言葉を聞いた私は、立ち上がるとマナと一緒に念のためにフードを被ったまま、後ろから出ようと車内を移動する。アジールさん達が知らせたとしても、随分対応が早い気がしたけど…出迎えに来たなら姿を見せて挨拶しておこうと思った。



 締め切っていたカーテンを開けて……




 私は目の前の光景を見て、思わず感嘆の息を漏らした。


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