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イアン王子は、ルミナスを見て固まる

グラウス王国に入る時からのイアン王子視点の話です。十三話、十四話と話の内容は同じになります。

 ――やっと森を抜けた…。


 イアンにとって見慣れた門が見えてくる。


 いつも狩に行く時、この門を通り森に行っていたイアンにとって森の中など庭も同然であり、あっという間に抜ける筈だった。


 …ライラを置いていかないように、ゆっくり走っていた自覚はあるけど、思っていたよりも着くのに時間がかかってしまった…。


 それはそうだろう。怪我をしているルミナスを気遣いながら走っていたのだ。遅くなって当たり前である。


「ライラ王女!無事でなによりです!」

 門番のハンスがライラに話かけ、二人が門の前で話始めた。…ふと、イアンはハンスがこちらを見ていることに気づく。


 …人間に警戒しているのか?気持ちは分かるが、ルミナスさんを警戒するのは間違っている。


 イアンはルミナスと出会ったばかりで、知らないことの方が多い。しかしイアンは、ルミナスが危険な人間ではないと確信していた。

 


 ハンスに中に入れていいのか、と問われてイアンは自分が不審者じゃないことを保証する、と言った。この国の王子の保証付きだ。そう言われてはハンスも折れるしかない。その後ハンスが他の兵に運ばせるかと提案し、イアンはその提案を即座に却下した。


 最初森で、他の兵にこの人を運ばせようと思ったけど…今は俺が背負っているんだし、最後まで俺が責任もって面倒みてあげないと!


 イアンはルミナスを抱えている腕の力を僅かに強めそう決意した。その姿は使命感に燃えているようにみえる。



 イアン達が門の中を通る際、ハンスがまだこちらを見て何か言いたげだったが、イアンは構わず中に入る。


 門を抜けてから、イアンの背でルミナスはずっと辺りをキョロキョロと見回している。チラッと後ろをみて様子を伺ったイアンは、ルミナスが笑顔なことに気づく。イアンも自分が暮らしている場所に興味を持つ、ルミナスの姿を嬉しく思った。


 …城までゆっくりと歩こう…ライラも森でずっと走りっぱなしで疲れただろうし…。


 イアンは隣で少し疲れた様子を見せているライラを伺いながら、歩幅を狭めてゆっくり歩こうとする。

 ライラはまだ子供だ。獣人とはいえ、流石に疲れもある。ルミナスも街並みを見れるようにとの、イアンの気遣いだったが、ルミナスは急にイアンの背に額を押し付け顔を伏せてしまう。


 急にどうしたのか…そう思ったイアンは、周りの人が皆こちらを見ている事に気づいた。


 …俺やライラではなく、皆ルミナスさんを見ているな…。


 興味深々な者、警戒している者と視線は様々だが、中には明らかに敵視している者もいる。

 二百年ほど前には種族間での争いがあったのもイアンは知っているし、今でも獣人を奴隷扱いする人間がいるのも知っている。特に今は獣人の子供が攫われているんだ。警戒する者がいるのは当たり前だろう。


 ……ルミナスさんを怖がらせてしまったかな…。


 人間が獣人というだけで差別的に見るのと、俺たちだって同じ事をしているじゃないか…そう思ったイアンは、さっきまで楽しそうに町を見てたルミナスの姿を思い出し、悲しい気持ちになった。


 イアンが「……獣人が怖い?…国に入らない方が良かったかな。」と言うが、ルミナスから返ってきた返事は「そんな事はないです。ここはパラダイスです。」と聞きなれない言葉だった。


 ……怖がってはいない、のかな?


 ここまで来る間、獣人のライラや俺に好意的に接しているのに、他の獣人のせいで獣人皆を嫌いになられるのがイアンは嫌だったのだ。


 ルミナスが獣人を怖がる事も、ましてや嫌いになることなどありえないのだが…イアンがそれを知るすべはない。



「あの…今どこに向かっているんですか?」

 ルミナスからイアンに質問してくる。

 そういえば国に行くとは言ったけど、これからの事を話していなかった。そう思ったイアンは、ルミナスにこれから向かう先の事を話していたのだが、その声はサリシアによって遮られてしまった。


 ――なぜ姉上がここに!?


 サリシアの聞きなれた声に、イアンは思わずビクリと肩を揺らす。できれば聞き間違いであってほしかったが…振り返ると視線の先には、やはり姉のサリシアの姿があった。


「あ…姉上?なぜここに?任務はどうしたのですか?」

「ライラが攫われてイアンが助けに行った、と私達の方にライラの捜索に来た兵士に聞いたのだ。」


 その言葉を聞いてイアンは思わず心の中で舌打ちする。


 ――兵を姉上の方角に向かわせるんじゃなかった!


 ライラ捜索の際に、他の兵たちにサリシアが任務で向かっていた、村がある方角への捜索も頼んでいた。村で行方不明になっている子どもがいる為、その方角に犯人が向かう可能性も考えた為だった。


 …まさか姉上が自らこちらに来るとは…。


 姉上は人間に対して容赦がない。以前この町に立ち寄った商人の人間が、お店で働いていた女の人にひどい事をして姉上が半殺しにしたそうだ。

 その人間が何をしたかは、詳しく教えてくれなかったが…。


 それを知っていたイアンは、姉に警戒していた。

 もちろん無害な人間に対して、サリシアが何かするとは思っていないイアンだったが。


 ライラがルミナスの事をサリシアに言い、ライラの恩人か!とサリシアが言っていても、イアンの警戒心は変わらない。


 ――ルミナスさんは渡さない!俺が連れて行くんだ!


 そう思ったイアンはルミナスを背負っていた腕に、更に力を込める。


 しかしそれは、サリシアの手によりあっさりと解かれてしまう。そして、あっという間に馬で連れていかれてしまった。


 イアンはサリシアの素早さに呆然としたが、背中に背負っていたルミナスの感触が無くなり、いないことを実感する。


「――ッ姉上!待て!ルミナスさんは俺が…!」

 そう言って馬の後を追いかけようとし…

「お兄さま?一緒に行きましょう?」

 …ライラの声で踏み出そうとしていた足をピタリととめた。


「…そう、だね。一緒に城に帰ろう。」

 ライラを一人にはできない。しかも森でライラは誘拐されたばかりだ。

 とりあえず姉もひどい事はしないだろう。

 そう思いライラと二人で、城へと歩みだす…


 ……イアンの足は無意識に早歩きになっていたが。



 ルミナスがサリシアに連れられ、城内で色々とされている間…イアンとライラは、イアンの自室でルミナスが落ち着くのを待っていた。


「お兄さま、少し落ち着いてください。」


「お、俺は十分落ち着いている!」


 しかしイアンは自室をずっとせわしなく動いていた。ちなみにライラは歩き疲れた為、椅子に座り休んでいた。妹に指摘されるなんて…そう自分を情けなく思うが、サリシアとルミナスが気になって仕方がないイアンであった。



 ――そういえばルミナスさんはお腹が空いていた!


 森の中のことを思い出したイアンは、早速ライラを連れて自室を出て行き、料理人に頼みに行こうとする。しかし料理人に聞くと、既にサリシアに言われ準備している所だった。


 イアンはサリシアの手際の早さに感心しながらも、2人が食堂にいると聞き、すぐさま食堂へと向かう。


 もー!お兄さま待ってください!と後ろでライラに言われるが、構わず歩き続けていた。

 しかし食堂の前に着くと、あれだけ急いでいた足が今度は動かなくなってしまう。姉上に許可なく来てしまったが、来て良かっただろうか…そうして躊躇しているイアンを通り越して、ライラが勢いよく扉を開けた。


「ライラ!そんなに慌てたら転ぶ……」

 ライラに注意しながら中に入ったが…


 ―――え?ルミナス……さん?


 スッピン姿のルミナスを見て驚く。


 化粧をしていたルミナスが、醜かった訳では決してない。綺麗ではあったが、濃い化粧と派手なドレスを着ていたルミナスは、話した印象とは随分ちぐはぐな感じで、正直似合わないとイアンは思っていた。


 だが、今は違う。


 ストレートの髪は、櫛をよく通した為かサラサラとしていて、まるで絹糸のようだ。濃いアイメイクを除いたことで瞳の輪郭がハッキリし、長いまつ毛が瞬きする度に銀色の瞳がキラキラと輝いて見える。

 顔色も化粧で不自然に白かったが、今は本来の肌の色がでて自然な白さがあり、唇も化粧で真っ赤に塗られていたのが、元々のピンクの色をしており愛らしく見える。



 ―――俺はさっきまで、こんなに綺麗な人を背負っていたのか……。



 ドクドクドクッ…と心臓の鼓動が速くなる。


 体温が急上昇する。


 ――なんでこんなに鼓動が速くなるんだ?


 ――なんで何も言葉がでないんだ?




 頭の中が混乱して身動きできないイアンは…


 固まってしまった。


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