ルミナスは、食事を共にする
外に私が顔を出すと、顔を振り向かせてホッとしたような顔をしたイアンと、青色ツンツン頭のマントを羽織っている少年が、御者台の近くに立っている姿が視界に入る。
「…あっ! 同行者がいたんっすね。」
髪と同じ色の大きな瞳を瞬かせた後に、ニカッと笑みを浮かべて、両頬にえくぼができた少年は、イアンと同じくらいの年だろう。なんだか人懐っこそうな印象を受けた。
「私以外にも、あと2…」
そこまで言うと、後ろからツンツンと背中を指で突かれて、後ろに顔を振り向かせる。突いたのはマナで、車内を見るとリヒト様の姿が消えていた。
私の影をマナが指差して、影の中に入ったのだと察した私は、首をかしげている少年に向かって「あと1人いるの。」と話す。
「大丈夫っす! オレは声をかけてくるように頼まれて来たんですけど、1人でも3人でも大して変わらないっすよ!」
胸を張るようにして軽い口調で答えた少年に、1人から3人に変わると大分違うような気が…と思いつつ、突っ込むようなことは言わずに「それじゃぁ、一緒させてもらうね。」私は笑顔で返した。
少年の同行者がいる場所まで、馬車を移動させることになって、御者台にイアンを挟むようにしてマナと私が座る。
「両手に花っすか! 羨ましいっす! もしかして…2人とも恋人っすか?」
マントの隙間からワンピースを着ているのが見えたのか、マナも女性だと気づいた少年が、はーっ…と息を漏らして、キラキラした眼差しをイアンに向けていた。
「い、いや…1人は俺の婚約者だが、もう1人は俺の友人だ。2人とも恋人なんて有り得ないだろう。」
イアンが怪訝そうに答えると、少年は「…へ…?」と気の抜けたような声を零して、言葉を続ける。
「オレの住んでる国では、裕福な家庭しか奥さんと子どもを養えないから、結婚するなら数人もつのは無理っすけど…恋人だと誰でも数人いるのは当たり前っすよ? ニルジール王国の出身じゃないんっすね。」
どうやらニルジール王国は、一夫多妻の国なようだ。サンカレアス王国もグラウス王国も、国王陛下に側妃はいなかったし、オスクリタ王国はどうか分からないけど、お父様もお母様一筋だったから、一夫多妻が無い世界だと思っていた。
数人も恋人がいたら揉め事が多そうだと思った私は、引きつった笑みを浮かべてしまう。
「え〜……恋人を数人? 」
そんなの変だよー…とマナが不満気な声を出す。
フードを被っていて私の位置からは顔がよく見えないけど、きっとムッとした表情をしてるだろう。
「…俺たちの国では、1人の相手に生涯尽くすのが当たり前だしな…。なんで何人もと同時に関係をもつんだ?」
「ねー!変だよ! 変っ!」
マナがイアンの言葉に相槌を打った後に、少年に向けて強調しながら声をあげた。
国が違えば文化も違う。
私はそれで納得したけど……イアンとマナは納得がいかないのか、少年を睨んでいるようだった。
「お、オレに言われても困るっすよ〜…」
少年が一瞬たじろぎして、視線を彷徨わせる。
「あっ! 日が暮れます! 急ぐっすよ!」
話題を変えた少年は、私たちに向けていた体の向きを変えて、先導するように先を歩き始めた。
む〜っ…とマナが、唸るような声を出している。
少年の後に続くようにして、手綱を握っているイアンが馬をゆっくりと歩かせ始めた。
少し進むと空いたスペースの端で、川の近くに幌馬車が停まっていた。目を凝らせば、木々を背にして焚き火をしていて、その側には2人ほどいるように見える。薄暗くなってきた空の下、火の明かりに導かれるように馬車が進んでいき、橋の向こう側を見ると火の明かりが、ちらほら見えていた。
「……タクト。人数が増えたなら、先に教えに来なさいよ。」
「中にいると最初気付かなかったから、仕方ないっすよ。」
あっけらかんとした表情で言い放った少年…タクトに対して、火の側にいた女性がやれやれ…といった様子で、ため息をつく。焚き火を囲うようにして、1人が座れる程の大きさの木箱が、4人分用意されていた。
……女性で髪が短くて、ズボンを履いてるのは珍しいな……。
ユラユラと揺らめく焚き火の炎の前に立つ女性は、若葉色のショートカットの髪をサラリと耳にかけて、声色や体格で女性だと私は思った。
革製のベストにズボン、ブーツを履いていて、腰に細身の長い剣を下げている。
露出している肩や腕は引き締まっていて、普段鍛えているのか、私の筋肉のカケラも無い腕とは全然違う。
私とマナが頭にフードを被っている姿を見た女性は、髪色と同じ色をした切れ長の目を細めて、一瞬眉をひそめていた。
……怪しく思われても仕方ない。
せっかくだから一緒に…と思ったけど、あまり警戒されたくないと思った私は口を開く。
「あの…私たちは、別の場所に移りますから…」
「んまぁ! そんなこと言わないでちょーだい! こちらから声をかけたのだから、ご一緒しましょう〜。」
野太い声の女性言葉を聞いて、私はギョッとする。
声は立っている女性ではなく、木箱の上に座っている男性から発せられたものだった。
角刈り頭で濃ゆい顔の男性は、シャツの上に緑色のベストを着ていて、細身の体を縮こませながら手を前で組んで、クネクネしている。
……もしかして、オネエだろうか。
私とマナは言葉が出ずに呆然としていると……
「……男? 女?」
後ろからイアンの声がして、私は顔を振り向かせる。私とマナは先に馬車から降りて焚き火の近くまで来ていたけど、停まっていた幌馬車の隣に私たちの幌馬車を停めたイアンは、馬を木に繋げて食料の入ってる木箱を両手に持ってきていた。
「ふふっ…ワタシは体は男でも、心は女よ。御者台に座って心細くしているように見えたから、タクトに頼んで声をかけてもらったのだけど……貴方が座っていた人かしら? 」
バチっとウインクをした男性に、イアンは石化の攻撃を受けたように固まってしまった。
「……今から火を起こすのは大変です。立ち話もなんですから…食事にしませんか?」
「えっと…そうですね。」
立っていた女性の提案に、私は小さく頷きながら答えた。未だに固まったままのイアンに私は声をかける。ハッとした顔をして再起動したように動きだしたイアンが、木箱を焚き火の近くに置いて蓋をあけると、中から木製の皿やワインボトルを出していく。
……家族…には見えないけど……。
オネエの男性…アジールさんは二十代後半くらいだろうし、女性は私と年はそんなに変わらないように見える。3人の関係が謎で怪訝に思うけど、フードを被っている私たちに、向こうも同じように思っているかもしれない。
ひとまず私たちは、焚き火を囲んで食事を共にすることになった。




