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イアンは、重ねる

イアン視点の話になります。

 


 ………



 ……………

 


 ……うっ……っ………



 ゾワゾワするような違和感を体に感じた俺は、ゆっくりと重い(まぶた)を開ける。薄暗いなかで体をそのままにして顔を動かせば、グラスやワインボトルが置いてあるテーブルや、ベッドの柱が視界に入る。


 今自分がベッドに横になっていると思い至った俺は、体を起こそうと手をついて、上半身を上げ―――



「イッ―――っ!?」



 途中で尻尾から鈍い痛みが全身に伝わってきて、誰かに尻尾を握られていることに気づく。

 体に力が入らなくなって、ガクンと肘が曲がり、再びベッドに体を沈めそうになるのを、プルプルと震える腕でなんとか耐えた。


 ……る、ルミナス……?


 顔を振り向かせて、ルミナスがベッドに横になってる姿を目にする。尻尾を両手で握っているルミナスは、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


 ……な、なんで、ルミナスが俺と一緒に…………


 恐る恐る慎重に体を起こした俺は、胡座をかいて混乱する頭を落ち着かせようと、深く息を吐く。

 俯いていると、床の上に投げ落とされて置かれたような、自分の剣があった。

 いつも寝るときはベッドの側や、壁に立てかけて用心に備えている筈なのに……



 額に手を当てながら項垂れた俺は、ムズムズする尻尾に意識を向けないようにして、記憶を辿る。



 客室まで案内されてリヒト様が去り際に、無理強いはするなよ…と俺に言ってきて、その時は意味が分からなかった。けれど、扉を開けるとルミナスの声と姿を見て、まさか…と思った。リヒト様はきっと、ルミナスがどこにいるか魔力を探って分かっていたのだろう。廊下を進んでる間、お風呂は素晴らしい! とマドリアーヌ伯爵が興奮気味で俺に喋りかけてきてたから、客室の方に耳を傾ける事をしなかった。


 薄い布の服を着たルミナスは、丈は長くても深く開いた胸元が俺の目にはバッチリ見えて、薔薇の花びらが浮いた風呂に入ったからか、いつもより香りが強く感じたような気がした。

 伏せた長いまつ毛が目元に影を落として、今すぐ抱きしめたくなる衝動に駆られた俺は、緊張で乾いた喉を潤すためにワインを飲んだ。


 ……ニルジール王国に着いてからの話をして……


 全身が熱く感じるのは、心臓がずっと鳴りっぱなしのせいだと思っていた。頭がボーっとしてきたのは、ルミナスの色香にあてられたと思った。


 ……あれ? そのあと…どうしたんだ?


 記憶が曖昧で、よく分からない。

 欲望に負けてルミナスを襲ったとしても、流石に覚えている筈だが……柔らかい感触が胸に当たったような………


 ……まさか、俺は酔っていたのか?


 サーっと血の気が引く。

 自分の服装は風呂から上がった後と変わりはなく、シャツとズボンを着ている。

 ルミナスを襲ったのか、酔って眠ってしまったのか定かでは無いが、どちらにしても……



 最低だ。



 体を少しずつズラして、ルミナスの様子を伺う。


 尻尾をそっと動かしてルミナスの手から逃れようと試みると、ギュッと握り締められた。唇を噛み締めて声を上げないように必死に堪えていると「…イアン…」突然名を呼ばれて、ビクリと肩が跳ねる。

 ルミナスはスリスリと尻尾を手でさすり、瞼は閉じたままだった。寝言を呟いただけみたいだ。

 目のやり場に困った俺が視線を彷徨わせると、ルミナスの腰の辺りまでは大きな布がかけられていた。

 俺は手を伸ばして、肌触りの良い布をそっとルミナスの肩までかけて、ホッと息をつく。


 ……起きたら、どんな顔をするだろうか……


 ルミナスの愛らしい寝顔を見ながら、心に不安が()ぎる。怒るだろうか。呆れるだろうか……

 無防備なルミナスをずっと見ていたい気持ちになりながら、俺はゆっくりと手を伸ばす。ルミナスの頭を撫でると、髪がサラリと流れて…ずっと触れてたくなる。


「……んっ……イアン………」


 眠そうな声で名を呼ばれて、また寝言だろうと思った俺は、あと少しだけ…と思いつつ頭を撫で続ける。



「 イアン 」



 ハッキリとした声で呼ばれて、視線を移せば…パッチリと瞼が開いてるルミナスと目が合って、慌てて俺は手を引っ込めた。

 バクバクと心臓が速まって、自分の胸に手を押し当てた俺は、言葉が出ないでいると……



「 ……おはよう。」


「お、おはよう…ルミナス…。」


 はにかんだ笑顔のルミナスを見て、胸が締め付けられる想いになる。「まだ暗いね。……あっ! もしかして寝顔見てたの?」とルミナスが言って、恥ずかしそうに顔を枕に埋め……



「 !! ッう―――っ……る、るみな…っ……し、しっぽ……っ……」



 グイッと尻尾を思い切り引っ張られて、ビリビリと全身に衝撃が走りながら、なんとか口を動かした。


「わっ!? ごっ、ごめん!」


 ルミナスは俺の尻尾を握っている自覚が無かったようで、尻尾から手を離すと上体を起こす。

 ルミナスにかけていた布がズレて、ギョッとした俺は慌てて顔を逸らした。



「…イアンに抱きついたら、そのままベッドに倒れて驚いたよ。眠ってるイアンを移動させて、私も隣で横になってたら、いつのまにか寝ちゃったみたい。」


 覚えてない? と問われて、「……ごめん…覚えて、ない…」顔を逸らしたまま俺が謝罪すると、僅かにベッドの軋む音が耳に入って、ルミナスがベッドから降りたようだった。


 ほんの少し室内が明るくなってきて、日が昇り始めているのだろうと思った俺は、ベッドから降りようと端に移動して靴を履く。

 ルミナスを放って寝てしまった自分を、切り刻みたい気持ちになった。


 座ったまま俯いていると…先ほどベッドから降りたルミナスが、俺の正面まで歩いてくる。


「もし覚えてなくても…昨日たくさん好きだって言ってもらえて…嬉しかったよ。」


 優しい声を聞いた俺は、ゆっくりと顔を上げる。

 ルミナスを見るとガウンを羽織っていて、照れたような笑みを浮かべていた。

 俺は床に足を付けて立ち上がると、目を丸くしたルミナスの背中に手を回して、抱き寄せる。


「ごめん…。」


 俺が再び謝罪すると「大丈夫だよ。」とルミナスが言って、俺の背中に手を回した。まるで子供をあやすように背中をポンポンと軽く叩いてきて、ふふっと軽い笑い声が聞こえてくる。


「イアンって、お酒に弱いんだね。」


 酔ってるイアンは可愛かったよ。と言って、クスクス笑うルミナスの声に、俺はうぅ…と唸るような声を出す。自分が何をしたかハッキリと分からないけど、笑ってくれてることに安堵しながら、俺はルミナスに顔を近づけた。




 長いまつ毛が一瞬上下に揺れたあと、瞼を閉じたルミナスの、柔らかそうな唇に優しく触れるように……





 唇を重ねた。





 そっと唇を離すと、俺だけでなくルミナスも息を止めていたのか、はぁ…とお互いの吐息が間近で感じる。窓から陽の光が差し込み、室内が明るくなってきた。




 頰を赤らめて、恥ずかしそうに身じろぎしたルミナスを、俺は幸せな気持ちで胸がいっぱいになりながら……強く抱きしめた。


次話 ルミナス視点になります

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