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ルミナスは、質問する

 

 鮮やかな緑色の瞳に、赤い唇。

 毛先がクルンと巻かれた艶やかな長い髪。

 風でなびいて、耳に髪をかける仕草を目にすると、同性の私でも思わずドキッとしてしまう。

 料理以外も薬や石鹸作りなど、器用に何でもこなす博識な………



 リゼ様。



 ニルジール王国の国王陛下と関われそうな人物は、他にリゼ様しか思い当たらない私は、指輪を口元に近づける。


「リゼ様、質問があるんですけど……」


 今大丈夫ですか? と指輪に話しかけると【 あら、ルミナスちゃん。ええ、大丈夫よ。】と、リゼ様の落ち着いた声が返ってきた。


「ニルジール王国では、獣人と白き乙女に不敬を働く者は、何者であろうと重い罪が課せられるそうです。…リゼ様が国王陛下に何か言ったんですか?」


 内心ドキドキしながら質問する。知らないと言われたら、私の勘違いでした!と謝るつもりだ。数ヶ月前に指輪を回収してきたリゼ様とフラム様は、その日のうちに戻ってきたけど、回収した時に国王陛下と話をしているから……


【 ふふ…ちょっと忠告しておいたのよ。 】


 予想通り、リゼ様が発端のようだ。

 リゼ様の艶やかな声を聞いて、ガックリと項垂れていると、指輪からリゼ様が続きを話す。



【 光の者であるルミナスちゃんと、ルミナスちゃんが大切に想っている獣人の国に手を出したら、国を滅ぼすと王に告げたの。】



 リゼ様は本気で国を滅ぼしかねないと感じて、私はゴクリと唾を飲む。

 周りを見回すと伯爵達は唖然とした様子で、指輪から発せられる声に困惑しているようだった。



「それでは…白き乙女は私の事で間違いないんですね。」


【 そうよ。民達に知らせる時に光の者と言っても理解されないから、ルミナスちゃんとイアン君の子孫の事も考えて、白き乙女と獣人にしたのよ。】


 口元に近づけてる手が、僅かに震える。

 リゼ様が私とイアンの子供や、その子孫の今後まで考えてくれていることに驚いた。


「……ありがとうございます、リゼ様。何かお菓子をお土産に買ってきますね。」


【 ふふ… ルミナスちゃんが帰ってくるのを、楽しみにしているわね。】


 声色が明るくなったリゼ様の声に、私は思わずクスッと笑む。【…ゴホ、ゴホ…ンッ…】と指輪から、自分の存在をアピールするような咳払いが聞こえてきた。きっとリゼ様の近くにはフラム様もいるのだろう。


「これからニルジール王国に入る予定です。ニルジール王国から移動する時に、次はフラム様に声をかけますね。」


【 ええ、気をつけてね。ルミナスちゃんを苛める奴がいたら、すぐに言ってちょうだい。そいつには自分から死にたくなる程の、苦痛を味わわせてやるわ。】


【…そうじゃなぁ…。】


 リゼ様はさらりと怖い事を口にするけど、頼もしいリゼ様とフラム様の存在に嬉しく思いながら、「また連絡します。」と言って、会話を終える。


 私は手をゆっくりと下ろして軽く息を吐き、目線を前に向けた。


「……皆さんと一緒の席で、突然他の方と話し込んでしまって申し訳ありません。今のは、わたくしの力の1つです。」


 マドリアーヌ伯爵と、夫人は2人共瞬きを繰り返し、「まさか…」「本当に…」と声を零した。


「ルミナス様のお力は、本当に素晴らしいですわ。」


 エクレアは胸の前で手を合わせながら、笑顔で私を見つめている。


「キャロル、先ほどの貴方の質問に答えましょう。わたくしが、白き乙女で間違いないわ。」


 キャロルに視線を移して、私はニコリと微笑む。

 疑問が解決してスッキリしたね。

「……っ……は、はい…ありがとう…ございます…」キャロルは絞り出すように声を出して、引きつった笑みを浮かべていた。エクレアはすぐに私の力を受け入れてくれていたけど、理解が追いつかないのかもしれない。


 ……大丈夫。すぐに慣れるよ。


 リゼ様の事を詳しく話すと余計に混乱させてしまうと思った私は、それ以上は何も言わずにグラスを手に取りワインを飲んだ。


 ……リゼ様って、ニルジール王国が嫌いなのかな…


 ログハウスで生活している時に、ニルジール王国の魔人だったリゼ様に、観光に行こうと決めた私は情報収集しておこうと考えて、どんな国かと尋ねた事がある。


『 城から殆ど出たことが無いから、あまり私の話は参考にならないわ。』


 リゼ様が人間だった頃に一体どんな暮らしをしていたか気になったけど、リゼ様は暗い表情をしながら口を(つぐ)んで話さなかった。


「ルミナス、この後どうする? ニルジール王国に向かうか?」


 イアンの声に反応した私は、お兄様の真似をしてグラスを回していた手をピタリと止める。

 私が顔を横に向けて口を開こうとしたら「もう…行ってしまわれるのですか…?」と、エクレアの悲しげな声が耳に入った。視線をエクレアに向けると、眉尻を下げて、しょんぼりとしている顔が目に入る。


「…イアン王子。お急ぎで無ければ、本日は是非とも我が城でお過ごし下さいませ。エクレアは帰ってきてから、皆様の訪れを何よりも心待ちにしておりました。ご友人を1番に出迎えたいと、何度も門に足を運んでいた程です。」


 伯爵が落ち着きを取り戻したようで、穏やかな口調で提案してくる。「お、お父様…」とエクレアが、恥ずかしそうに頰を赤らめた。

 市民達や門番が笑顔で私たちの訪れを喜んでいたのは、エクレアの影響もあるのかもしれない。

 領民達に慕われているエクレアの姿を、容易に想像できた。


「マナは賛成です。エクレアさん、マナは花の名前を沢山覚えたんですよー!」


 自慢げに話すマナに対して「まぁ…是非わたくしに教えて下さい。」とエクレアが、嬉しそうな笑みを浮かべた。私はイアンと顔を見合わせて頷くと、イアンが伯爵に視線を向けて口を開く。


「マドリアーヌ伯爵、今夜はお世話になります。」


「かしこまりました。皆様の旅のお疲れが少しでも癒えれば幸いでございます。客室のご用意も既に整えてありますから、すぐにでもご案内できるのですが…」


 伯爵は視線を彷徨わせると「その…」と言葉を繋げて「エクレアからは、もう1人いらっしゃると事前に聞いていたのですが…」

 いらっしゃらないのでしょうか? と尋ねられて、私は足下(あしもと)の地面に視線を向けて「リヒト様。」と名を呼んだ。


「リヒト様は、普段わたくしの影の中にいますけど、食事の時や夜は外に出ていますので、客室はご用意していただきたいわ。」


 伯爵が私の影から出てきたリヒト様の姿を目にして、ガタンッ!!…と勢いよく椅子ごと倒れた。

 目を見開き、まるでお化けを見たような顔をしている。

 ……顔見せは大事かと思ったけど、怖がらせちゃったかな。


 敵をビビらせるには効果的だけど…リヒト様の登場の仕方を変えることは出来ないだろうか。

「…わたしは戻る。食事の時にまた姿を見せよう。」と背後でリヒト様の声がして、はい。と私が返事をすると、影の中に戻っていった。

 伯爵はエクレアと夫人の手を借りながらゆっくりと立ち上がって、椅子に再び腰を下ろす。伯爵が軽く咳払いをすると、動揺してしまった事に対する詫びを言いながら頭を下げてきて、私も驚かせてしまった事を謝罪した。



「エクレアから聞いた話は全て事実よ。城に招いたからには……覚悟しておいて下さいね。」



 私がにっこりと微笑むと、伯爵は苦笑いを浮かべていた。別に脅しているわけじゃないけど、事前に私の力をエクレアから聞いているのなら、遠慮なく魔法を使う気でいる。

 隣でイアンが「お風呂には入りたいな…」と零しているし、私もそのつもりだ。


 いつのまにか、テーブルの中央にあったクッキーは1枚も残っておらず、エクレアに見せたいものがあると言われた私たちは、城の中へと移動することにした。



 ……ニルジール王国の国王陛下が、少し可哀想だな…


 さわさわと薔薇が揺れるのを視界に入れながら歩く私は、顔を知らない国王陛下の事を考える。

 数ヶ月前の争いで起こった出来事を、国王陛下がどれだけ知っているかは分からない。オスクリタ王国とサンカレアス王国が兵をグラウス王国に向けた事や、オスクリタ王国に新王が即位し、ジルニア王子が死罪となった事は流石に知っていると思うけど……



 突然リゼ様に指輪を回収されて、脅しのような忠告を受けて……混乱したに違いない。



 旅の間に色々な事を知った私は、複雑な想いを抱きながら足を進めた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次話は、ニルジール王国側の話になります。

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