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ルミナスは、到着する

 

「豆は僕が収穫したんだよ!」

「おてちゅだいしたのぉー!」


 子供達は母親が木製の長テーブルの上に載せたスープを指差しながら明るい声を上げた。スープの具材は畑で収穫した野菜のようで、「頑張ったね。」「えらいね〜」と私は2人の頭を、交互に撫でながら褒める。


 今私達は村長の家にいて、昼の食事をする所だ。


 私が村長の家に行き子供達に挨拶すると、2人とも喜んでくれた。子供達も一緒に畑を案内してくれる事になり、従者のルカには馬車と馬を任せて、護衛のマイクとダルを引き連れ私達は畑に向かった。

 村では家ごとに畑をもち、各自で収穫をして村長は村を代表して広場に野菜を売り行くと、お兄様が教えてくれた。村長は毎日広場に売りに行くわけじゃないそうだ。収穫が少ない日もあるのだろう。私達は村長が管理している畑に行き、収穫間近のオクラやシソ…グラウス王国にも無かった野菜を近くで見れて私は大満足だ。子供達が一生懸命に何の野菜か教えてくれる姿が可愛かった。


 畑仕事をしている村人達の姿も見かけたけど、私達に向かって頭を深々と下げていて、会話することはなかった。畑から戻ってきた後すぐに立ち去るつもりだったけど、マナと一緒に子供達とお喋りしたり、広場内で追いかけっこして遊んでいたら結局昼になってしまった。私はヒールだったから走れなかったけど、速く走るマナを見て子供達は大興奮だ。マナがイアンを挑発して2人で広場内をぐるりと一周する競争が始まり、結果はイアンの圧勝だった。


 都市内の広場に比べると村の広場は規模は小さいけど、広場に面した場所には村長の家以外にも木造二階建ての建物があって、絵看板は付いていなかった。

 食事をして国境に向かおうと私は考えたけど、パン屋は? と疑問に思って村長に尋ねると、村人達は月に数回、パン焼き(かまど)のある建物を共同で利用して、自分たちで食べる分をまとめて焼いてると教えてくれた。



「お口に合うと良いのですけど…。」

「美味しいわ。」


 私はスープを口に運んでいた手を止めて、不安げな表情をしている母親に向かって微笑みかける。

 この村は都市から近く、村から国境までもそれ程かからないとお兄様から聞いて、都市に戻ってから食事にしようと考え直した私は村での食事は諦めたけど、母親がもしよろしければ…とスープを皆にご馳走してくれる事になったのだ。パンも…と言われたけど流石に遠慮した。


 野菜具沢山のスープは、とても美味しい。

 マイクとダルは既に食べ終え壁際に立っていて、ルカは馬車に戻って待機している。私が皆のコップに魔法で水を注いで氷を入れると、村長と母親は唖然として、子供達は大はしゃぎだ。


「村長、畑の作物が盗まれたりはしていないかな?」

「……いえ。村人達からは何も聞いてませんが…」


 お兄様からの問いかけに、村長は手に持っていたスプーンをテーブルの上に置きながら答えた。

「それなら良いんだ。」とお兄様が言って薄く笑みを浮かべ、コップを手に持ち口に運んでいる。



 みんな食事を終える頃、村長の家の前には馬車と馬の用意がされていた。畑を見せてもらった事とご馳走になったお礼を言って私達は家の外に出ると、馬車に乗り込もうとし……


「……帰りゅのー?」


 悲しげな声が耳に入る。母親の隣に立つ女の子が、眉を下げて、つぶらな瞳で私を見つめていた。

 可愛い。お持ち帰りしたい。

 子供達と一緒にいたい気持ちを堪えて、私は村長の家の横に生えている木の側に歩み寄り、木の幹に手を当てて魔法を行使する。


 家の前で横並びに立つ村長達の前まで行くと、私は魔法で作った小さな木造りの置物を、子供達に1つずつ手渡した。


「しゅっごーいっ!」


 手の平の上に置物を乗せた女の子が、弾んだ声を上げた。その隣で男の子は「これって…猫だよね!」と置物を持ちながら、にっこりと笑う。

 ……見かけなかったけど、ここら辺にも猫がいるんだ。

 私は顔を振り向かせて、後ろに立っているイアンとマナに視線を向けながら「そうだよ。耳も尻尾も同じでしょう?」と子供達に声をかける。すると子供達は「おなじぃー!」「うん!」と満面の笑顔で答えた。


「それは2人にあげるね。」


 またね…と言って子供達の頭を撫でる。2人は嬉しそうにしながら置物を持って「ありがちょ〜」「ありがとーございますっ!」とお礼を言って、母親と村長は深々と頭を下げていた。


 緩やかなスピードで馬車が進み出し、私は馬車の窓から、大きく手を振っている子供達の姿を見て微笑ましく思いながら村を後にした。



「ブライトさん…作物が盗まれることがあるんですか?」


 馬車が国境に向かって進む中、お兄様の隣に座るイアンが質問する。イアンは食事の席で村長とお兄様が会話していた内容が気になったようだ。


「…領内では今までそのような事は一度もございません。ですが…他の領地では、盗みを働く(やから)もいますので…」


 憂いを帯びた表情をしたお兄様は、領民を心配しているのだと私は思った。

 都市内を全て見た訳じゃないけれど、広場や先ほど立ち寄った村も、治安は良く領民は平和な暮らしをしているように見える。けれど他の領地では違うようだ。


「お兄様、オスクリタ王国との国境には関所はあるのですか?」


「せきしょ…?」


 疑問符を浮かべているお兄様に「なんでもありません。」と私は慌てて言う。どうやら、この世界には関所が無いようだ。


 山道を抜けた後、関所がどこにも見当たらなかった事に疑問を抱いた。イアンに聞いても知らなかったし、そもそも国の境目が山だったり川だったりで、もし関所が道沿いにあったとしても、その道を避ければ関所の意味が無いように思える。


 ……そういえば、都市内に入る時すんなり通されたけど、お金取られたりしないのかな?


「お兄様、都市に入る時に税を取っているんですか?」

「…ルミナスの口から出た言葉とは思えないね。」


 お兄様が目を丸くして私を見つめる。

 うっ…唐突すぎたかな。今までお兄様とそういった会話をした事ないし…でも気になったんだから、仕方ない。シルベリア領を発ったら、ニルジール王国までの道のりは、他の領地を通って進む事になるから、知っておきたかった。


「都市内に入る際、領民からは徴収していないけど、商人や旅人からは通行料を払ってもらうよ。」


「俺たちは払ってませんが…」


 イアンも私と同じように疑問に思ったようだ。グラウス王国では町に入る時に通行料なんて無かった。他国との交流が無く、人間が訪れる事は(まれ)にしか今まで無かったから、税を課す意味は無かったのだろう。「イアン王子達から徴収なんてしませんよ。」とお兄様は和かな笑みを浮かべた。


 ……マドリアーヌ領以外は都市も町も無視して進もうかな。寄る度にお金がかかってしまうなんて…


 野宿で決定だ。いや、魔法で快適な旅が出来るから不便なんて無いんだけどね。商人や旅人はお金がかかって大変そうだ。



「そろそろ着くかな。」



 お兄様が窓から外の景色を眺めながら言って、その後すぐに私達は本来の目的地に到着した。

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