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ルミナスは、立ち寄る

 


 オスクリタ王国との国境にある、絶壁を見てみたい。



 お父様にその事を伝えると、私の要望はすぐに通った。馬車と護衛の準備は出来ていた為、私達はそのまま馬車に乗り込み、国境を目指して城を発つ。



「ブライトさん、門は何箇所あるんですか?」


 街路を走り続けて、馬車が門に差し掛かる。すると窓から外を見ていたイアンが、隣に座るお兄様に顔を向けて質問した。お父様に同行するよう言われたお兄様は、私達と一緒に馬車に乗っている。


「城門は3箇所ありまして、今馬車が通過する門は国境に向かう道と繋がっております。」


 お兄様が丁寧な口調で答えた。


「今俺達だけなのに、部屋で話した時のような口調で話さないんですか?」とイアンが少し不満げな表情をしながら言って、「…あの時だけですよ。」とお兄様が答えると、イアンは諦めたようにプイっと顔を窓の方に戻した。


 ……2人で話す機会があったのかな?


 お兄様の正面に座る私は2人のやりとりを見てて思ったけど、夜寝る前はどんな風に過ごしていたか、イアンとお互いに話をした訳じゃない。私がエクレア達といたように、イアンも……


 いやいや、変な妄想するな私っ!


 お兄様が部屋を訪れたとしても、流石に泊まりはしないだろう。気持ちを切り替える為に、私は窓から外の景色を眺める。ゆっくりとした速度で馬車が進む中、見晴らしの良い草原の先に、建物らしきものが密集しているのが見えた。


「お兄様、あちらに行ってみても良いですか?」

「あっちは…村に行きたいのかな? 」


 私が指し示した先を、お兄様も窓から見てくれた。

「はい。」と私が笑顔で頷くと、お兄様は後ろにある連絡窓を開けて、御者に行き先の変更を伝える。

 マナとイアンも私に反対意見はなく、私達は進路を変えて、国境に行く前に村に立ち寄ることにした。


「畑目当てで行くんですね。」


 隣に座るマナが、私の腕をツンっと指で突きながらニッと笑う。私が言わなくても村に行きたい理由はお見通しのようだ。へへっ…と私が笑うと、マナに頰を軽く突かれて、私もマナの頰を突き返そうとし……



 俊敏な動きで避けられ、私の指は空を切った。


 私とマナは、ハハっとお互いに顔を合わせて笑い合う。


 馬車内が和やかな空気に包まれている中、マナと2人でお喋りを続けていると、馬車の揺れる感覚が増したように感じて窓の外を見る。村に向かう道は道幅が狭くなっているようで、そのまま眺めていると収穫後の麦畑が視界に入った。グラウス王国を出立して山道を抜けた後も、よく目にしていた光景だ。






「よ、ようこそ…いら、いらっしゃ…ました。」


 馬車の扉が開くと、上擦った声が耳に入ってくる。

 男性が帽子を手に持ち、こちらに向かって深々と頭を下げていた。他に村人の出迎えは無く、村にある広場内に停めた馬車の前には男性1人と、その近くに馬に乗るダルの姿がある。

 私が畑目当てだと知ったお兄様は、窓を開けてダルに『畑の案内をする者1名のみで出迎えは構わない。』と先に村へと馬で駆けさせて、私達の来訪と伝言を伝えにいった。


「…村長、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私の妹とイアン王子は寛大な心をもっているからね。」


 お兄様が男性の前に歩み寄り、穏やかな口調で告げる。男性は村の村長のようだ。

 村長は恐縮そうな様子で「へい…」と返事をして頭を上げ、見覚えのある無精髭の顔が目に入った。


 ……あ、この人…! オクラを売っていた人…だよね?


 今日は少し風が強く、生ぬるい風が頰を撫でる。

 翡翠色(ひすいいろ)のドレスに身を包み、髪は編み込んで一つにまとめている私は、平らな土の上をヒールで歩きながら村長の前まで歩み寄る。


「急に来てごめんなさいね。畑を見せてもらったら、すぐに立ち去るわ。…昨日広場にいたわよね?」


 平民は同じ装いが多いし、確認する為に村長に質問する。昨日一緒にいた子供の姿も広場内には見当たらなかった。「昨日は…ありがとうございました。」と村長が帽子を胸に当てながら、ペコペコと私に頭を下げてくる。


「オクラはとても美味しかったわ。」


 私は満面の笑顔で、昨日食べたオクラの天ぷらを思い出しながら感想を述べた。すると村長は、くしゃりと目尻に(しわ)を寄せて、嬉しそうな笑みを浮かべる。



「ルミナスさまーっ!」「るみなしゅしゃま〜」


 可愛らしい声で名を呼ばれて、私が今いる場所の斜め前にある広場に面した、木造二階建ての建物に視線を向ける。一階の扉のドアが開けられていて、子供が2人顔を出していた。「だめよ!家の中にいなさい!」と女性が子供達を叱る声がして、扉が勢いよく閉められる。


「…あの子達はいつもは広場で走り回っているじゃないか。家の中に閉じ込める必要は無いよ。」


「ですが…また失礼なことを言うかもしれませんので…。」


 お兄様は村に何度も訪れた事があると、村に着く前に馬車の中で話を聞いていた。お兄様の言葉を聞いた村長は申し訳なさそうにしながら、チラリとイアンに視線を向ける。イアンとマナの2人はマントを羽織ってはいない。村長は広場でのことを気にしてるんだろう。どうやら、あの家は村長の家で、先ほどの声は村長の奥さんと子供達のようだ。


「呼ばれたら応えてあげないと、子供達に失礼だわ。」


 村長は私の言葉を聞いて目を丸くし、隣にいるイアンが「ルミナスは子供好きだもんな。」と言って、後ろで「ね〜」とイアンの言葉に同意するような、マナの声がした。


 グラウス王国では獣人の子供達にかなり癒された。もちろん人間の子供も可愛いし、柔らかそうなフニフニのほっぺを撫で回したいし、好意を向けられたら嬉しくてたまらなくなる。

 前世では何歳で結婚して子供は男女2人産んで…と将来設計を立てながら、子供の名前をどうするか…キラキラネームにするか…と悩みながらノートに書き綴った記憶がある。


 ぼっち時代の痛い記憶だ。




 私は軽やかな足取りで、子供達の元へ向かって歩き出した。

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