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ルミナスは、謝罪する

 

 ……ホットドッグは失敗だなぁ…。


 みんなにパンとソーセージを、いっしょに(かぶ)りついて食べる事を説明しながら、自分も口にしたけど……

 ソーセージが落ちないように食べるのが難しかった。結局、女性陣は私が魔法で作り出した皿とフォークを使い、パンとソーセージを別々に食べた。


 ……あっ! パンを縦じゃなくて横に切ってサンドイッチみたいにすれば良かった!


 考えが浅い自分を残念に思いながら、テーブルの上にある、コップを手に持ち口に含む。

 食器類は全て石製(せきせい)で、なるべく厚さを薄くして作った。コップの中には水と一緒に氷を入れていたから、冷たい水がとても美味しい。


 コップをテーブルの上に戻し、カラン…と氷の音を聞くだけでも、涼しくなった気分になる。



「そういえば、名前を聞いて無かったわ。…ねぇ、名前を教えてくれない?」


 食事を済ませて一息ついた所で、私は顔を振り向かせて後ろに立つ兵士二人を見据えた。


「自分はマイクです!」

「だ、ダル…です…。」


 護衛の兵士は二人とも体格は同じだけど、デカイ声のマイクは赤茶色の短髪と茶色の瞳で眉毛が太く、もう一人のダルは、灰色の短髪と灰色の瞳、下がり眉だ。食事をする前に席へと促したけど、席に座って私が説明を終えると同時に、早食い競争みたいな勢いで食事を済ませて、すぐに私の後ろに移動した。もう少し休んでも…と言ったけど、護衛中ですので!…とマイクに言われたから、私はそれ以上何も言わなかった。


「二人はわたくしの力の事を、お父様かお兄様から聞いていたのかしら?」


「…い、いいえ…。ただ、自分達二人はブライト様と共にグラウス王国に赴き、不思議な現象の数々を目にしています。」


 私の問いかけにダルが答えた。魔法を目にしたのは初めてでは無かったようだ。詳しく知らなかったとしても、今日の一件でグラウス王国で見た魔法は私の力によるものだと、もしかしたら察しがついたかもしれない。


「そうだったのね…。わたくし達の護衛に付くなら、今後も見る事になるわよ。動じないようにね。」


「…はい。」 「ハッ!!」


 ダルは私の言葉を心に留めたかのように、灰色の瞳からは意思の強さを感じられた。

 マイク…声を抑えるようにしないとダメだと、もう一度注意するべきだろうか。でも、全身からやる気に満ち溢れているように見えるマイクの姿に、再び注意するのを躊躇した。

 後でイアンとマナの意見を聞いておこう。


 私はダルから少し離れて立つ、従者へと視線を向けて「貴方の名前は?」と尋ねる。


「……私は、ルカと申します。」


 従者の青年は頭に被る帽子を取りながら、一拍おいて名前を教えてくれた。ルカも兵士同様に食事を済ますと席に座る事はしなかった。



 ……ルカ……。


 どこか聞き覚えのある…そうだ…ルミナスが……



『 さっさと行きなさいよ! 』

『 貴方って鈍臭いわね! 』

『 そう…ルカというのね。貴方は侯爵家の使用人として相応しくないの。 お父様に言って今すぐ解雇してもらうわ!』

 


 王都で学園に通っていた時の記憶が、次々に思い出される。当時クレアの存在を知り、そしてマーカス王子に相手にされない自分に対して、不安と苛立ちが募っていた。見たことあると思っていたけど、ルミナスは使用人に関心が無く、記憶の隅に追いやられて思い出せなかった。


「…ルカ。貴方は王都でも御者をしていたわね。わたくしは以前、貴方に八つ当たりをしていた事を…今になって思い出したわ。」


 ごめんなさいね…と私は椅子から立ち上がって、しっかりとルカを見つめながら謝罪し、頭を下げる。


 言葉の暴力は、相手の心を傷つける。

 言った方は覚えてなくても、相手は一生覚えていることだってあるんだ。

 今更かもしれないけど思い出したからには、相手が誰であろうと…それが前世の記憶が戻る前の行いだとしても、きっちりと謝りたかった。



「ルミナス様。どうか頭をお上げください…人目もございます。使用人の私如きに、頭を下げてはなりません。」


 ルカの静かな声を聞いて、私は頭を上げる。確かに広場内には未だに人が沢山いるようだ。マイクとダルが私の前に立っていて広場内をよく見えないけど、子供のはしゃぐ声や足音、お店や井戸を利用する人だっているだろうし、馬の足音と車輪の音も聞こえてくるから、馬車も行き交っている。馬の世話をしたり馬車を停める人からは、私の作った休憩所の中だってよく見える筈だ。


「人目があっても関係ないわ。今わたくしは侯爵家に仕える使用人ではなく、ルカ個人に謝罪したのよ。」


 ルカは私の言葉を聞いて、目を見張らせている。


 ルカは侯爵家に仕える使用人であり、私は主の娘。

 立場がまるで違う相手に対して、同じ目線に立とうとする私は、身分制度のある国では異端の存在に見られるかもしれない。


 それでも…構わない。


 私は魔法を行使できる時点で異端の存在だ。


 そんな私を、想ってくれる人達がいる。


 私は自分の気持ちに…正直に生きていきたい。



 そう私が思っていると…


「私が未熟なのが悪いのです。ルミナス様のご満足いただく働きが出来ずに、私は領地へと戻される事になりました。…こんな私を解雇せずに、雇い続けて下さいましたダリウス様には感謝しております。」


 ルカの話を聞いて、私はお父様のお陰でルカが辞めていなかった事実を知りホッとする。

 記憶の中では、ルカはちゃんと仕事をしているように思えたからだ。


「わたくしからも、お父様に感謝しなければなりませんね。貴方は侯爵家にとって、必要な人よ。」


 ルミナスの言葉を否定するように告げて、私は薄く笑みを浮かべる。するとルカはぐっと何かを堪えるように固く口を結んだ後「…身に余るお言葉を頂き…恐悦至極に存じます…」と言って、私に対し頭を深く下げた。ルカは随分と言葉遣いが丁寧だ。もしかしたらセドリックから教育を受けているのかもしれない。



「ルミナス、もう座ったらどうだ? 今日はこの後どうする…?」


 話の区切りがついたからだろう。イアンに声をかけられて、私は再び椅子に座ってイアンに視線を向けると少しムッとした表情をしていた。

 大抵この表情をしている時は、ヤキモチを焼いて…

 ……ん? なんでだろう?

 どこにヤキモチを焼く要素があるのか分からなかった私は、とりあえずイアンと後で話をしようと思いながら、この後どうするかを考える。


「城に戻っても良いかな? お父様に私が力を使ったことを話しておかないと。」


 私の言葉を聞いたイアンは「そうだな。」と頷いて、マナとエクレアに視線を向けると、二人も「良いですよー!」「はい。」と笑顔で了承してくれた。


 ルカとマイクが私達の側を離れて、馬車と馬の用意に向かい、残った私達は椅子から降りて休憩所から出る。



「椅子やテーブル、全て元に戻すから少し離れて…」



「 なんだって!? 」





 突然聞こえた野太い声に、私は支柱に触れようとしていた手を止めた。

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