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ルミナスは、準備する

 レイラさんに野菜を少し渡して、私とイアンは再び城へと歩きながら目指す。ここまで来れば、城まではすぐだ。途中広場からやってきた子供達に、一緒に遊ぼうと素敵な誘いを受けたけど、後で広場に行くと言って城に向かった。



「料理長、ここに置いておくよ。」


 城の厨房に来て、イアンがドサリと籠を隅に置く。料理長は籠の中身を見て「おう。ありがとなっ。」と言って、ニンマリと笑みを浮かべた。城内の人にも私が作った野菜を毒味…じゃなくて、味見をしてもらっている。皆に食べてもらって、感想を聞くと私のやる気がアップするのだ。


「ほれっ。焼きたてだぞっ。」


 料理長がパンの入った袋をイアンに手渡し、「明日からはアクア様が来ますから。毎日美味しいパンを、ありがとうございました。」と私がお礼を言って頭を下げると、料理長は「おぅ。」と返事しながら、ヒラヒラと手を振ってきて、私とイアンは厨房から出て行く。毎日食べるパンは、城に野菜を届けに来た時にもらっていた。ログハウスのキッチンに(かまど)も作ったけど、パンの作り方が分からなかった。料理長に作り方を教えてもらっても、私にはサッパリだ。リゼ様もパンは作った事が無いらしく、料理長が持っていけっ。と気前よく自分達のパンを焼いてくれる事になったのだ。




「幌馬車の用意は出来ているぞ。必要な物が他に無いか確認しておけ。」


 修練場の方へ行くと、サリシア王女が隊の人達と鍛錬をしていて、私達が向かって来たのを見て木剣を箱に戻して話しかけてきた。サリシア王女とイアンの二人が私の目の前で、マントは…食料は…武器は…と馬車に積み込む荷物の話をし始める。


「あっちぃ〜。」


 隊の人がパタパタと手で顔を仰ぎながら、息を切らしている。見れば隊の人達は皆汗だくだ。日差しが強いし、今日は風もあまり吹いていなく、熱中症になりかねないと心配になり「皆さん! 冷たい風やりますよー!」と声をかけた。ワッと歓声が上がって、期待に満ちた目で隊の人達が私を見つめる。隊の人達はこの場所で、私が魔法を練習する姿を幾度も見た事があるから、戸惑うような人はいない。


 私が手をかざすと冷たい風がヒュウッと吹き始めた。


「水分補給もマメにしてくださいね!」


 大きな桶が修練場の隅に置いてあり、水をドプンと魔法で入れながら、私は声をあげた。「ありがとうございます!」「生き返るー!」「助かります!」と口々に隊の人達が言って、桶に元々入っていたであろうコップから、水を飲む隊の人達の姿を見ながら、私はニコッと微笑む。あまり冷たい風が吹き続けるのは、体を冷やし過ぎると思い、再び手をかざして風はピタリと止んだ。今は魔法を同時に複数行使出来るようになり、瞳を閉じなくてもイメージ出来る。


「お前たち、ルミナスは明日からいないのだからな。甘えるのは今日までだぞ。」


 サリシア王女の言葉に、隊の人が一人むせていた。隊の人達が「もう明日かぁ」「俺も付いていきたい」と言ってサリシア王女が「未熟なお前らが付いて行ったら、ルミナスの足手まといにしかならん!」とキツイ言葉を浴びせられていた。

 隊の人達は「明日見送りをしたい」「オレも!」「隊長〜」とそれぞれ言って、サリシア王女から「フン。明日は壁の上から不審な者がいないか全員で見張れ。」と任務を与えられていた。要するに壁の上から見送りしろと言っているのだろう。隊の人達が「任せて下さい!」と声を揃えて、ビシッと背筋を伸ばしていた。

 湖で一緒だった時から、私と話をしたい人がいたみたいだけど、サリシア王女とイアンの目があるから、中々話しかけられなかったそうだ。私が修練場を借りるようになると、隊の人達と話をするようになり、この数ヶ月で大分打ち解けた。皆明るく優しい人達ばかりだ。


 厩舎(きゅうしゃ)に幌馬車があるとサリシア王女に言われ、私とイアンは幌馬車に乗り広場へと向かう。



「ルミナスさん来てくれた!」「ルミナスさんっ!」


 広場の近くに馬車を止めて、私が広場に入ると気づいた子どもが声をあげながら駆け寄ってきた。母親達は私と目が合うと軽く頭を下げてきた。キャッキャとはしゃぐ10人くらいの子供達に囲まれて、私はデレデレだ。「今日は暑いけど具合悪い子はいないかな?」私が子供たちに声をかけると「大丈夫ーっ!」と子供たちが元気な声で答えてくれた。


「ルミナスしゃん、まほーやりゅ?」


 犬獣人の小さな女の子…ミミちゃんが、首を傾けながら聞いてきた。可愛い。可愛すぎる。私はミミちゃんの頭を優しく撫でながら頷き、広場の中央に向かって手をかざす。広場の中央には、私が以前作った木製の大きなタライがある。子供達6人くらいは余裕で入れる大きさだ。本当は噴水を作ろうとしたけど、水を私がいなくても出るように出来なかった。


「猫だーっ!」「しゅごいっ!」


 子供達が大きな瞳をキラキラと輝かせながら、広場の中央に視線を向けている。タライの中には、私が魔法を行使して作った、猫の氷像がある。

 私は氷魔法も出来るようになっていた。アクア様達も知らない魔法だったけど、私が暑い日に氷が欲しいなぁ…と思って試しにやってみたら、コップの中に氷を作り出せたのだ。




「ルミナス、そろそろ行こう。」

「うん。皆…またね。」


 イアンが声をかけてきたため、私は子供たちと鬼ごっこで遊んでいたのをやめる。数日前に私が国を出ることは、子供たちにも話してある。「行かにゃいで〜」と言ってミミちゃんに、ワンワン泣かつかれた時は焦った。私は子供たちに向かって手を振りながら広場から出る。出る時に子供たちは笑顔で手を振り返してくれたけど……ミミちゃんが目に涙を溜めているのが見えた。ぐっと涙を流さないよう堪えながら、笑顔で手を振ってくれている。国を出る事を伝えてから、遊んだ後は抱きついて中々私を離そうとしなかったけど、今日は抱きついてこない。もしかしたら母親に何か言われたのかもしれないと思った。


 私はイアンと共に、門までの道のりを馬車に乗りながら進む。途中でレイラさんの店に寄ることも忘れない。母猫を刺激しないように、そっと子猫の様子を見させてもらった。子猫達は母猫のお腹に集まりミィ、ミィと可愛らしい声を出している。癒される。

 ずっと見ていたい気持ちになるけど、今日は明日に備えて準備がある。私とイアンは店をあとにして、馬車で再び進み、門を抜けてログハウスまで戻った。



 それから私とイアンは、明日の出立の為に幌馬車に載せる荷物の最終確認をして過ごし、日が暮れる前に早めに食事やお風呂を済ませて、部屋で休むことにした。イアンは今日、ログハウスに泊まることになっている。


「お湯が冷めないうちに、お風呂に入ってくるわ。」


 リゼ様がそう言って部屋を出て行くのを、室内にある椅子に座りながら見送った。各部屋の家具も全て木製の造りになっていて、私とリゼ様の部屋はシングルサイズのベッドを横並びに壁際に設置し、反対の壁際にはクローゼットと、机と椅子、そして机の側には棚がある。顔を横に向けて棚を見ると、猫、兎、羊…様々な形の木製の置物が並んで飾ってある。一番のお気に入りは、やっぱり猫だけど…兎も可愛い。カルメラさんが作って私にプレゼントしてくれたのだ。この置物はこの場所に残していくことにする。私は机の引き出しを開けて、中から宝石箱を取り出し机の上に乗せた。


 ……宝石箱…持って行かない方が良いよね。


 持ち歩くわけにいかないし、失くしたら大変だと思った私は、開いた宝石箱をそっと閉じて、引き出しの中へと戻した。宝石箱の中には、紐付きの鍵と、刺繍入りのハンカチ、無色の宝石にヒビの入った指輪。それと…無色の宝石が付いた指輪が四つ。この指輪は元々、各国の王が所有していた指輪だ。数ヶ月前に回収して魔力を戻した指輪を、リヒト様は全て破壊しようとしたけど……私が持っていたいとお願いをして、受け取ったのだ。魔力のもたない指輪を破壊するのは簡単だ。長年各国の王とアクア様達の繋がりのあった証を、簡単に無くしてしまって良いのだろうかと私は考えた。リヒト様達は、この指輪を私の好きにして良いと言ってくれて、こうして宝石箱に入れている。





 私はベッドに歩み寄り、ゴロンと転がって仰向けになる。初めての馬車の旅を楽しみに思いながら、私はゆっくりと瞳を閉じた。


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