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数ヶ月後

 

「ルミナス、今日収穫する分はトマト…それとトウキビ?」


「うん!」


 イアンは大分収穫に慣れてきたようだ。せっせと籠に野菜を入れていってる。私は他の野菜に魔法で水を与えながら、その様子を見ていた。空を見上げれば大分日差しが強くなってきている。季節でいえば、今は夏だ。この世界には前世と同じように、春夏秋冬の季節の変化がある。学園生活をしている時は季節ごとにイベントなんかもあった。



「ルミナスちゃん、食事にしましょう。」

「はーい。」


 ログハウスの窓から顔を覗かせて、リゼ様が声をかけてきた。もうお昼の食事のようだ。私とイアンは作業していた手を止めて、テラスに籠を置いたイアンと共に、玄関から中に入る。

 ログハウスの裏手に作った畑の規模は、それ程大きくないけど、実験を兼ねて色々な作物を育てている。とれたて野菜を魔法で作れなかったけど、収穫間際の野菜を想像したら上手く出来た。それでも、野菜や果物に詳しくない私は、畑仕事をしている村人に会いに行って、実際に畑を見せてもらったりしたのだ。私が上手く想像出来なければ、味が変になったり失敗もあったけど。畑には村人から分けてもらい、種から普通に育てている野菜もある。





「いただきます。」



 6人が声を揃えて食前の挨拶をした。食卓にはアクア様の両隣にフラム様とリゼ様が座り、私の両隣にイアンとリヒト様が座っている。それぞれテーブルの上にはパンや野菜、フルーツが載ってる皿と、豆のスープ、フォークやスプーン全て食器は木製だ。私はまずスープをいただく。おいしい。塩加減が絶妙だ。

 リゼ様が一日三食、皆の食事を用意してくれていた。私も一度キッチンに立ったけど……リヒト様が味見と言って鍋から一口すくって飲んだ後、スプーンを床に落とした。それ以来私がキッチンに立つ事はない。リヒト様は美味しい、と言っていたけど……私も味見したら、すごく、不味かったのだ。



 私はパンを咀嚼しながら、ログハウス内を見回す。

 アクア様に、魔法で作りだした物は再び自分で戻そうとしない限り、無くならないと聞いた私は、ログハウスの内装を数日かけて整えた。


 全て家具類は木製の造りになっていて、一階には食卓にキッチン、ソファにテーブル、お風呂場やトイレ、二階へと続く階段があり、二階には部屋が五部屋ある。水道の仕組みがよく分からないので、シャワーや蛇口から水が出るようにするのは無理だった。ログハウスの側に井戸を作り、そこから水を汲むか、魔法で水を出している。洗濯は洗浄魔法で楽チンだ。トイレは穴を深く掘ったボットン式。お風呂はどうしても作りたかった。水と火の魔法を合わせればお湯が出来るので、毎日の私の癒しになっている。初めて風呂に浸かった時は涙が出そうになった。



「私とイアンは、食事が終わったら町に行ってきます。」


 食事の手を止めて皆に話しかけると、皆は頷いて了承を示した。ログハウスの一階部分が出来上がると、アクア様達がここに暮らしたいと言って、この数ヶ月は私とリゼ様で一部屋、アクア様とリヒト様で一部屋、フラム様が一部屋使っている。皆自分の空間に戻らず、ログハウスで共同生活をしていた。他の二部屋は物置として使ったり、客室用にしている。陛下やサリシア王女が興味を抱いて、交代でログハウスで寝泊まりした事があった。ちなみにイアンは、毎日城からログハウスを往復している。



『ルミナスちゃん、私達は家族同然よ。かしこまった言葉遣いは不要だわ。』


 一緒に暮らす時にリゼ様に言われてから、私はリゼ様達に対して砕けた口調になっていた。様付けも不要と言われたけど…呼び捨ては失礼だし、結局そのままにしている。イアンにも『敬語をやめてほしい』とお願いされて、敬語をやめた。慣れるまで時間はかかったけど。



「私達は小屋にいるわね。」


 食べ終わった食器類を片付けながら、リゼ様が私に向かって話した。ログハウスの側には小屋があり、私とイアンが二人で行動している間は、薬草を採取したり小屋で薬作りをリゼ様とフラム様がしていた。リヒト様も薬作りをしていたけど……


「リヒトー。勝負しようよ。」


 今日こそ僕が勝つよ! とアクア様が気合いのこもった声を出す。その手には私が最近作った、木製のリバーシ台があった。アクア様が一番ハマった。リヒト様はやれやれ、といった感じで毎日アクア様に付き合っている。


 この数ヶ月の間で、私はアクア様達の魔法をマスターしている。森の中で魔法の練習をしたり、火を扱う魔法は町の中にある、修練場を借りて練習した。アクア様達の知らない魔法を行使した時は、すごく驚かれた。イアンは私が魔法の練習をしている間は、リヒト様と剣の手合わせをして過ごしていて、リヒト様は自分の剣の腕は鈍っている…と言っていたけど、未だにイアンはリヒト様に勝てたことがなく、悔しそうにしていた。



「イアン、しっかり掴まっててね。」

「別に手すりが無くても、俺は平気だけど…」


 ダメだよっ。と私がふくれっ面で言うと、イアンがくすりと笑みをこぼした。私はノースリーブのブラウン色のワンピースを着ていて、腰のベルトには袋を下げている。イアンは半袖のシャツに革製のズボンとブーツ、野菜の入った籠を背負い、腰のベルトには短剣と、もう一方には長剣をさしている。長剣は最近新調した物だ。私は剣が折れた理由をイアンから聞いたけど、リヒト様に壊されたとイアンは、サリシア王女に言わなかった。手合わせは木剣を使えとサリシア王女から叱咤を受けて、しばらくは短剣のみだったのだ。


 私の後ろに立つイアンが、しっかりと土の手すりに掴まったのを見て私は満足げに微笑み、振り向いていた顔を前に戻して、自身も腰の高さまである手すりに掴まる。前に進むようにイメージすると、足元の地面が僅かに盛り上がり加速しながらグングン進んでいく。ジェットコースター並みの速さだ。

 ログハウスから町まで、道を私は作った。草や木をなくし道幅は馬車一台ほどが通れるくらいで、地面を平らにした。ログハウスを訪れる人の為にと、自分が空を移動するより、こちらの方が安全だと考えたからだ。




 門が見えてくると徐々にスピードを落としていく。門番のハンスが笑顔で門を開けてくれて、私とイアンはそのまま魔法を解かずに、町の中へ入っていった。



「ルミナスさん!」 「ルミナスお姉ちゃん!」


 走るくらいのスピードで城を目指して進んでいると、町の子供達が数人、並行して走ってきた。私は手すりから片手を離して、子供達に向かって手を振る。イアンが何か野菜を投げ渡したようで「ありがとーっ!」と姿が見えなくなった子供達のお礼の声が聞こえてきた。



「ルミナスさーーん!」


 再び名を呼ばれて私は一旦止まり、手すりも元の土に還した。


「ラナちゃん、お母さんと一緒に来てたんだね。」


 レイラさんの店の前で、こちらに向かって手を大きく振っているラナちゃんの姿に、自然と顔が(ほころ)ぶ。店の前には幌馬車が止まっていて、カルメラさんの姿もあり、私に軽く頭を下げてきた。ラナちゃんに近づくと、ラナちゃんは木の枝を手に持っていて、足元の地面に絵を描いていたみたいだ。幌馬車は元々はオスクリタ王国の物で、数十台あった馬車は各村に分け与えられていて、現在村と町を行き来する人が増えていた。今も町の中では数台の馬車が行き交っている。


「あら〜。ルミナスちゃん〜。猫が赤ちゃんを産んだのよ〜。」


 のんびりとした口調で、フワリと髪を揺らして店から出て来たのはレイラさんだ。レイラさんは広場にいる猫に餌をあげたり、争いがあった時も家の中で世話していたらしい。お腹が大きくなっていた猫の為に、物置にいつでも出産して良いよう準備をしていたと前に聞いていた。赤ちゃんが産まれた報告に嬉しくなるけど、今は城に行く事を優先して、帰りに寄らせてもらうことにする。


「ルミナスさん、今日はお母さんとレイラさんの家に泊まるの! 明日は見送りするからねっ!」


 ラナちゃんがニコッと可愛い笑顔で私に話しかけてきて、撫で回したくなる気持ちになる。




 ………この数ヶ月、あっという間だったな。



 そう、いよいよ明日……







 私はグラウス王国を出立する。

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