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ルミナスは、固唾を飲む

 

「ルミナス…っルミナス! ルミナス!」


 眩しくて固く瞳を閉じていた私の耳に、焦り混じりに何度もイアンの呼ぶ声が聞こえて「イアン!」自分がここにいるよ、とアピールするように私は片手を上げながら声を上げた。ガシッと上げていた手を掴まれて、ゆっくりと瞳を開けると、私を見つめながら安堵するような笑みをこぼすイアンの顔が目に入った。

 目が慣れてくると暗闇の中ではなく、自分が外にいることに気づく。陽の光が辺りを明るく照らしていた。


 でも、木々が自分のいる場所の近くには無く、足元に視線を落とせば、草が無くなり土が剥き出しになっている事に疑問を抱く。イアンにもう一度視線を戻すと、手には折れた剣を持っていた。耳の辺りの髪が片側だけ不自然な長さになっていて、血は止まっているようだけど…頰にはひとすじの傷がある。


「イアン…っ…頰に傷が…今、治します。」

「…いや、(かす)り傷だしすぐに治るから大丈夫。」


 イアンの頰に私は手を伸ばそうとしたけど、イアンは掴んでいた私の手を離すと、持っていた剣を鞘に収めて、手の甲で頰についていた血を拭っていた。


「あっ…! リヒト様は!?」

「リヒトなら、ここにいるよー。」


 視線をキョロキョロと彷徨わせていると、アクア様の声が聞こえてそちらに顔を向ける。私が立つ斜め後ろで仰向けに倒れているリヒト様と、その側に立つアクア様、フラム様、リゼ様の姿があった。


「皆様、怪我を…ッ大丈夫、ですか?」

「大丈夫よ。もう傷は塞がってるわ。」


 リゼ様がニッコリと微笑んだ。三人とも白いローブが所々血に染まっている。


 リヒト様は胸の辺りに剣で斬られたような跡があり、ローブや倒れている場所の地面が赤く染まっている。瞳は閉じていて黒い長髪が血にかかり、白い肌をしているリヒト様はまるで死人のように見えた。リヒト様の全身を覆うように土の檻があり、リヒト様の両腕と両足のふくらはぎには土の杭が打ち付けられていて、地面に縫いとめられるように拘束されている。きっとアクア様の魔法だろう。


「アクア様…大丈夫ですか?」


 苦しがっていたアクア様の姿を思い出した私は、心配になって声をかけたが「…うん、もう大丈夫。嫌な声が止んだから。」微笑しながらアクア様が答えた。どうやらアクア様に向けられていた魔法は解除されたようだ。私とイアンもリヒト様の側に近寄る。


「……リヒト様は死んだのですか?」

「この程度で死にはせんじゃろ…。」


 イアンの言葉に、フラム様が自身の髭を撫でながら答えた。深手に見えるリヒト様も自然治癒していくのだろう。私が暗闇の中にいる間に何があったか聞くと、リゼ様がリヒト様の影が草や木を呑み込み迫ってきていたこと。イアンが光の剣でリヒト様に向かって剣を振り下ろしたこと。その際に辺り一帯に眩い閃光が走り、光が落ち着き駆け寄ると、リヒト様が地面に倒れていただけじゃなく、地面にも亀裂が入っていて、私を閉じ込めていた球体は消え去っていたようだ。地面はアクア様が魔法で直したと教えてくれた。




「リヒトの魔力が変わってるように見えるけど…剣をその身に受けた影響なのかな?」


 アクア様がしゃがんでリヒト様をジッと見据えながら首を捻らせている。私もリヒト様の姿をよく見ると、身に纏う魔力が、僅かに変化したようだった。最初にリヒト様の姿を目にした時は、恐怖しか感じなかったけど…今は黒色の魔力が幾分か柔らかくなったように見える。


「もしかしたら、わたくしの魔力をリヒト様に流した影響かもしれません。」


 アクア様達は、私の方に顔を向けて目を丸くしている。……え? まずかったかな?



「確かにルミナスの魔力は、元々はリヒトのだけどさ。随分思い切った事をしたね〜。」


「むぅ…これ以上リヒトが力を得たら、どうするつもりだったのじゃ……?」


「ルミナスちゃんは見た感じ変化は無いようだけど……それでも、魔力を魔石以外に流し込むのは、何が起こるか予測できないし危険だわ。二度としちゃダメよ。」


 苦笑を浮かべるアクア様に、ため息を吐くフラム様、リゼ様が困り顔で私に注意をしてきた。私は三人からの言葉を受けて「はい…」と言いながら項垂れる。


 ……ううっ…考えが足りなくてごめんなさい。



「さて、どうしよっか…。リヒトなら僕の魔法を破って、すぐに出てこれるだろうしね。」


「儂等の魔法はリヒトに一切効かんかったしのう。」


「ねぇ、回復が追いつかない位まで切り刻み続ければ良いんじゃない?」


 リゼ様が一番怖い案を上げた。「僕達って死ねるのかな〜…」とアクア様が言いながらその場で立ち上がり、両腕を上げて空に向かって伸ばしている。


「また俺が剣で」

「その必要は、無い…。」


 私の隣に立つイアンの言葉を遮った弱々しい声に、皆の視線がその声……リヒト様に向かって集中する。


「アクア…魔法を解いてくれないか。」

「………っリヒト、お前…。」


 リヒト様の言葉に、アクア様が僅かに声を震わせていた。



『 アクア 』



 リヒト様がアクア様の名前を呼んだ。フラム様とリゼ様は魔法を解く事に難色を示し、警戒する視線をリヒト様に向けているけど、アクア様が地面に手をつき檻と杭を元の土へと還した。


 私は固唾を飲んでリヒト様の様子を見つめる。リヒト様は地面に手をつきながら、ゆっくりとした動きで上半身を起こした。腕や足……傷を受けた箇所から血が出ている様子は無く、既に自己治癒が始まっているのだろう。胸を片手で押さえながら項垂れているリヒト様は、長い髪が顔にかかり表情が伺えなかったけど、リヒト様は深く息を吐き、顔を上げる際に髪をかきあげて………





 ……瞳が……白くなってる。




 前髪で隠れていて見えなかった片目は、変わらず漆黒の瞳だけど、見えていた方の目が……純白の瞳に変わっていた。

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