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イアンは、伝える

96話〜98話ルミナスやアクア達と森で会う前までの、イアン視点の話になります。

 指輪を付けて嬉しそうにしているルミナスさんの姿を見て、俺は心が弾んでいた。

 ルミナスさんがリゼ様に顔を近づけたので、気になった俺は顔を横に向けようとしたが「イアン君を好きなのでしょう? 」とリゼ様の声が耳に入り、カーッと顔が熱くなって、慌ててルミナスさんとは反対に顔を横に向ける。ルミナスさんの答えが気になり、耳をこらしたが……何も聞こえなかった。



「ねぇ、ルミナスちゃんと結婚の約束はしたの? 」

「い、いえ…」


 リゼ様の唐突な質問に、俺は目を丸くする。ルミナスさんは今、父上と一緒に村長達と向かい合っていて隣にはいない。


「だらしないのぉ…。」

「イアンは、恋に関しては初心なんだよ? あんまり責めちゃダメだよ〜。」


 フラム様がため息を吐いて、アクア様はくすくすと笑って楽しげにしている。……くそっ。


「イアン君、今後ルミナスちゃんに私達の魔法を教えるつもりよ。その魔法を、どう扱うかルミナスちゃん次第だけれど。」


 リゼ様は足を組み、俺に顔を向けながら真剣な表情で話し始めた。


「ルミナスちゃんなら、自分の身を守ることは容易(たやす)い事だわ。……でも、イアン君にしか出来ない事があるの。」

「俺にしか…?」


 俺は自身の太ももにおいていた手を拳を作り、固唾を飲んでリゼ様の次の言葉を待った。


「ルミナスちゃんの、心を守ってあげてね。」


 リゼ様はそう言って、薄く笑みを浮かべた。

『心を守る』俺にはその言葉の意味がよく分からなかった。そのうちルミナスさんが父上とこちらに戻ってきた為、話はそこで終わった。マナが酒を注ぎにきて、俺のコップに注ぐ時に「後で二人きりで話がしたい」と囁きかけてくる。一体何の話があるのか、この場で聞こうとしたが……マナは(せわ)しなく他の人にも酒を注ぎに行ってしまった。


 父上が席を外し、アクア様達が過去に戦いあっていた事、魔獣の事、リヒト様の事を話した後、光の中に消えていき、姿が見えなくなる。また明日と言っていたから、ルミナスさんの指輪を通して声をかけてくるだろう。後で父上に報告しとかなければ……俺はそう思いながらルミナスさんに視線を向ける。話がしたいと思っていた。けれど、ルミナスさんの疲れている様子を見て思い留まる。




「……ぃアン…」


 ドキッと胸が高鳴り、俺はピタリと足を止める。ルミナスさんは今、俺の腕の中で寝ている。名前を呼んだのは寝言だったようだ。再び俺は城内を足音を立てないよう、慎重に歩き始める。

 ルミナスさんが過ごしている客室に着き、背中を使って扉を押し開けて中に入ると、ベッドに歩み寄る。ゆっくりとルミナスさんを下ろそうとし……


「イアーーン! ルミナスさんに何しッんぐぅ!?」


 マナの声で肩がビクッと跳ねた俺は、ルミナスさんをすかさず下ろすと、マナの口を手で塞ぎ自身の口元に人差し指を立てながら当てて、仕草で静かにしろと訴えかける。マナは察したようでコクコクと頷いてくれた。


「髪は解いた? ベルトは外した?」


 俺がマナの口から手を離すと、今度は静かな声で話して俺は首を左右に横に振る。マナがベッドに仰向けに寝ているルミナスさんに近づいて髪を解き、外したベルトをテーブルの上に置いた。

 俺はルミナスさんの側に寄り、体にそっと布をかける。さっきのマナの声で起きないか心配だったが、スースーと寝息を立てて良く眠っている姿に安堵した。



「俺の後を追いかけて来たのか?」

「ルミナスさんに変な事しないか、心配だったの。」


 部屋から出た俺たちは、城内を歩きながら話す。「それと……」マナが足を止めて、少し躊躇しながら何か話そうとしてるのに気づき、先を歩いていた俺も足を止めて振り返り、マナと向かい合わせになる。


「そういえば、話があるって言ってたっけ。」

「私ね、イアンの事がずーっと前から好きだったんだ。」


 突然の告白に俺は困惑する。

 ……何かの冗談か? マナが俺を? いや、マナは冗談なんか言わない。


「俺はルミナスさんが好きだ。この気持ちが揺らぐことは、俺が死ぬまでない。 ……マナの気持ちには、応えられない。」


 正直に自分の気持ちを伝えると、マナは「うん、知ってるよ。」と言って、俺の目の前まで歩み寄り、俯いていた顔を上げてニカッと笑った。


「ルミナスさんを好きなのは気づいてたし、二人の間に私が入る余地なんて無いのも分かってる。町の人たちは二人が仲良い姿を見てるし、そのうち二人の結婚話が上がりそうだね。……そうなる前にね、自分の気持ちを伝えたかったの。」


「マナ……ごめッはっ!?」


 謝ろうとしたら、思い切りマナに頰を拳で殴られて、突然の衝撃に思わず足元がふらつく。

「もー! 謝罪はいらないしっ!」

 フンッと鼻息荒く告げたマナが「うん! スッキリした。これからも友達として、よろしくねー!」と笑顔で言って、急ぎ足で俺の横を通り過ぎる。


「私もルミナスさんを好きだから! もしイアンがルミナスさんを泣かせるような事したら、また殴るからねっ!」


 いつもの調子に戻ったマナは、そのまま城内を走っていった。呆然とその場に取り残された俺は、殴られた頰を自身の手でひと撫でして、ギュっと拳を作ると城の外に出るために城内を走る。


 城の外に出て、門までの道に入る所に差し掛かると、姉上がこちらに向かってくる姿が見えた。俺は駆け寄り、ルミナスさんが休んだ事と、アクア様達が帰った事を伝える。


「イアン、お前も休め。父上には私から報告しておく。」


「俺は村人達と交流したり、ルミナスさんのネックレスを皆に聞いて回ろうと考えていたのですが……」


「お前は隊の一員になったのだ。今後は村にもお前を連れてくから、交流は幾らでも出来る。」


 姉上は薄く笑みを浮かべ、俺の肩に軽く手を乗せた。


「ネックレスは私が隊の者達に、父上が民達に尋ねておく。どうせお前は、明日もルミナスの側にいるのだろう? 今日お前は良く動いていたぞ。いいから、休め。」


 姉上の滅多にない褒め言葉を聞き、胸が熱くなる。俺は素直に「はい」と返事をして城に戻り、休むことにした。







「……トウヤが?」

「ああ。先ほど報告が上がってな。ネックレスか定かでは無いが、トウヤが何かを拾ってから壁に登ってきたのを見た者がいるそうだ。私や父上は、これからナハト王子と話をせねばならん。お前がトウヤの元に行って問い詰めてこい。」


 日が昇り、軽く庭で鍛錬をした俺が食堂に行くと、姉上も食事をする所だった。お互いに向かい合わせで椅子に座り、食事をしながら姉上の話を聞いていた俺は、戸惑いを感じた。


 トウヤは、ルミナスさんがネックレスを付けてる姿を見ているはずだ。まぁ、トウヤなら見逃してるか、忘れている可能性があるが……だが、トウヤの側には必ずシンヤもいる。シンヤは観察力も記憶力も良いから、ルミナスさんの物と気づいてるんじゃないか?

 もし、気づいてなくても城に届けそうだが……


 俺は怪訝に思いながらも、早速二人の元に行こうと食事後に、身支度を済ませて街中を駆ける。家を訪ねたが二人の姿は無く、俺は狩りに行ったのか…と思い門を通り森へ向かった。


 ……この辺りで、ルミナスさんと出会ったな。


 そう思いながら森の中で一度足を止めて、フゥと息を吐くと話し声が僅かに聞こえて、声のした方に足を進める。……二人の姿を見つけることができた。


「トウヤ、お前が壁の外で何かを拾ったのを見た者がいる。ルミナスさんのネックレスを持っていないか? 黒色の宝石が付いてるんだ。」

「ネックレス? 石……ッあーーっ! そうだ!拾ったの忘れてた! え? ルミナスさんのだったのか? 」


 トウヤはポカンとした後、慌てた様子で自身の腰に下げた袋から、ネックレスを取り出して俺に手渡した。トウヤの反応は、俺の予想していた通りだった。オレはため息を吐きそうになるが、トウヤの隣に立つシンヤに視線を向ける。


「シンヤは、気づいていたんじゃないか? なんでトウヤに教えなかったんだ? 」


 俺はネックレスを、自身の袋に入れながら問い詰めた。「うん。ルミナスさんのネックレスだと気付いてたし、トウヤが忘れていても、わざと言わなかった。」とシンヤが言って俯いた。トウヤはギョッとして、隣に立つシンヤに顔を向ける。


「シンヤ! なんで教えてくれなかったんだよ! 俺が責められちゃうだろッ!」

「ごめん、トウヤ。……ルミナスさんを困らせたくてさ。」


 トウヤが眉を釣り上げ声を上げ、シンヤは俯いたまま沈んだ声で話した。俺はシンヤに詰め寄り「何を考えてるんだ、シンヤ。」と低い声で再び問い詰める。


「ボクも最初は忘れてたんだ。街中慌ただしかったし、宴の準備を手伝ったり……落ち着いた頃に思い出して、急いでルミナスさんに届けようと思ったよ。けど」


 シンヤは口を結び、その先を言うのを躊躇している様子だった。「シンヤ、どうしたんだ?」とトウヤが今度は心配げにトウヤの顔を覗き見ている。


「マナが、泣いていたんだ。」


 シンヤの言葉に俺はドキッとする。マナが泣いていた? それは、俺と別れた後のことだろうか。


「え? 楽しそうに騒いでいたじゃないか。マナ泣いてなかったぞ。」


「ううん、目元が赤くなってた。 それに、マナは無理して笑ってるみたいだったよ。マナがイアンを好きなのも、イアンがルミナスさんを好きのもボクは気づいてた。ルミナスさんが悪いわけじゃないのは、分かってるけど、やるせない気持ちになって……。ボクはマナが、好きだから。マナが泣いていたのは、イアンに告白でもしたのかな?」


 トウヤはシンヤの告白に、驚いて固まる。俺もだ。俺はシンヤを見据えて「マナが泣いてたなら、俺が原因だ。」と告げた。……告白された事は言わなかった。シンヤは顔を上げて俺と目線を合わせると「そう」と一言呟く。


「ルミナスさんには、トウヤが忘れてたと言って渡しておく。」

「お、おう! 俺が忘れてたのが悪いんだからな!」


 トウヤは早口で捲し立て、シンヤは「ごめん」と震える声で言って項垂れた。


「町に戻るか。兄貴に頼んで修練場使わせてもらおう! 今日はオレと鍛錬しようぜ! なぁ、シンヤ。」

「そうだね、トウヤ。」


 トウヤがシンヤの肩に腕を回して、抱くようにしながら、二人は町に向かって歩いていく。俺もすぐに町に戻ろうと思っていたが……

 少し狩りをしてから戻ろうと思い直し、俺は木に登り枝の上に立ち、二人の後ろ姿を見送った。

次話もイアン視点になります。

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