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イアン王子は焦り、モヤモヤする

ルミナスと出会う前からの獣人の国イアン王子視点の話です

「姉上!なんで俺は一緒に連れて行ってもらえないんだ!」

 イアンは、グラウス王国都市の外へと続く門の前で、第一王女である姉に抗議していた。


「…お前はまだ未熟だ。一緒には連れていけない。」

 そう答えたのはイアンの姉。

 グラウス王国の第一王女である。


 サリシア・フェイ・グラウス王女

 グラウス王国第一王女であり、国の防衛・戦時の際の要となる隊の隊長を任されている。

 金色の髪は癖っ毛で長く伸びているのを、一つで結んでポニーテールのようにしている。瞳の色も金色で、父親の国王と同じ獅子の獣人だ。

 動きやすいように袖が短い服と、ショートパンツに革のブーツを履き、鎧は胸当てだけ付けている。サリシア王女は腰の左右に短剣を下げた両手剣の使い手だ。そして服から出た腕や足の筋肉は逞しく、よく鍛えていることが分かる。


「サリシア隊長、そろそろ出発を…。」

 隊の仲間がサリシアに声をかける。


「そうだな。…イアン、今回小隊で動く任務だ。もし戦闘があった場合お前は足手まといになる。隊に入れるよう鍛錬に励め。」

 そうイアンに言葉を残し、サリシアは隊に戻っていく。そして隊は馬に乗り、あっという間にイアンの視界から遠ざかっていった。



「――ッくそ!いつまでも子供扱いして!俺だってもう戦えるんだ!!」

 その場でイアンは地団駄を踏む。

 イアンは5歳年が離れた姉が苦手だ。

 どれだけ鍛えても認めてくれず、かと言って姉には敵わないことも分かってはいる。剣の腕も腕力も…。


 今回サリシアが向かったのはグラウス王国の都市部から離れた村への巡回任務だ。大小様々な村が各地に点在してあり、村では最近獣人の子どもが行方不明になっていて攫われている可能性があるらしい。子どもの捜索と、被害を抑える為の巡回及び、犯人を見つけた場合は討伐任務を父親である国王から受けている。


「お兄さま?城に戻りましょう…?」

 イアンの様子に恐る恐る声をかけてきたのは、グラウス王国の第二王女。

 姉が任務に出ると聞き、見送りをしたくてイアンと共に一緒に来ていたのだ。


 ライラ・フェイ・グラウス王女

 ライラも父親似で獅子の獣人だ。金色の瞳に、金色の癖っ毛を肩まで伸ばし、水色のワンピースを着ており、イアンとは年が10歳離れていてる。


「……俺は少し狩りをしてくるから…ライラは先に城に戻っていて。」

 ライラにそう告げると、一目散に森へ向けイアンは走っていった。

 妹に自分のかっこ悪い姿をこれ以上見せたくなかったのと、憤った気持ちを狩で発散させて、気持ちを落ち着かせたかった為だ。



 その行動が後で後悔することになる、と知らずに―――………



 イアンは獣人の中で、決して身体能力が劣っているわけではない。母親似の猫の獣人であるイアンの長所は、素早い動きと身軽で柔軟な体にある。

 イアンは森の中を素早く駆け抜ける。途中兎を狩つつ、猪を見つけた時は木の枝に飛び乗り、真上から腰に下げた短剣で猪を一撃で仕留めた。


 大分気持ちが落ち着いた為一息つき、仕留めた獲物を回収して戻るか…と今度は来た道を逆走していく。



 …すると、途中でこちらに向かって走ってくる数人の兵士の姿を視界に捉えた。


「どうしたんだ?何かあったのか?」

 イアンは立ち止まり、兵士に問いかける。


「イアン王子!王女は…!ライラ王女がこちらに来ていませんか!?門番の話だと、イアン王子が森に向かって、一緒に森に行ってくると言って後を付いて行ったみたいなのですが…!」


「いや…森に入ってライラの姿は見ていないが…。」

 ライラが俺の後を付いてきていた?俺は自分の事しか考えず、ライラに気づきもしなかった…。


 そうイアンが思っていた時――

(村では最近獣人の子どもが行方不明になっていて攫われている可能性がある)

 ―――まさか!?


 嫌な考えがイアンの脳裏を過ぎり、すぐに兵士に命じる。

「一人は戻って捜索の兵士の応援要請を!残りは俺と一緒に来い!」

 すぐさま行動を開始したイアンは、兵士と共に付近の捜索をする。


 もし攫われたとしても、まだそんなに遠くには行っていないはずだ。イアンは焦る気持ちを押さえて必死に足を動かし続ける。


 ライラ!無事でいてくれ!!


 イアンは心配そうに門でこちらを見ていた、ライラの姿を思い出す。


 イアンと兵達はサリシアと隊が向かった村の方角には向かわず、反対の方角に向かった。一種の賭けだったが、その賭けは見事に当たることになる。


 ――そして、ライラを発見することができた。


 嗅覚に優れた獣人もいるが、ライラの痕跡は獣の皮でも使って隠したのか、ハッキリと分からなかった。

 サンカレアス王国へと続く道を馬車が通った跡を見つけ、その道を辿ってきたが…見つからないようにするためか、途中で馬車の跡が消えていて、森の中を無理に進んだようだった。他の馬車と紛れていたり、他国に行かれていたら、見つけることはできなかったかもしれない…。

 馬車が止まっていたから、ギリギリ間に合ったのだろう。


 イアンと兵達が着いた時、ライラは男に捕まった状態で何やら女の人と口論している様子だった。

 四人いた男たちが、三人バラバラに辺りに散っていった為、兵達と協力し瞬時に気絶させていく。


 ――――あと一人!


 イアンは男たちを兵達に任せ、ライラの様子を伺う。


 あの女の人は?ドレスを着てる…貴族がライラのように攫われたのか?それともあの男たちの仲間なのか…?


 イアンは疑問に思うが、ライラを助ける為なら女でも容赦はしないつもりだった。

 ところが、女の人の行動がライラを助ける為だと気づき驚く。


 ――ライラと男の手が離れた!

 女の人に目線がいってる男は隙だらけだ。

 ――今ならライラを助けられる!

 先ほどはライラを人質に取られる可能性があり、動けなかったが今が好機だ!そう思いイアンは飛び出した。


 ライラもこちらに気づいたのだろう。

「お兄さまーー!」とイアンを呼ぶ。

 イアンは振り向いた男の頭に向かって、勢いよく蹴りをいれた。イアンのスピードとバネがある体で放った蹴りは、男を軽々と吹き飛ばした。


 打ちどころが悪ければ死んでるかもしれないが…ライラを攫ったやつだ、死んだとしても構わない。他の男たちは気絶させて捕らえているから話を聞けるだろう。

 イアンはそう思いながら、ライラに向かっていく。


 ……本当に無事で良かった…。しかしライラの頰が赤くなっているのを見て、怖い思いをさせて申し訳ない気持ちと男たちへの殺意が沸いた。

 


「助けてもらって、ありがとうございます!」

 女の人は自分に対し頭を下げて、お礼を言ってきた。


「……別に…。ライラを助けたかっただけだから。」

 つい、素っ気ない対応をしてしまったけども、本当にライラを助ける為で女の人を助ける為ではなかったし…。

 イアンはそう考えながら女の人の行動に戸惑っていた。


 この人貴族じゃないのか?国によっては人間は俺たち獣人を差別的な目で見る奴等もいる。特に貴族が。

 俺も王子という身分だけど…俺の国では皆が助け合いながら暮らしているが、他国では貴族が民に対し横柄な態度を取ることが多いと聞いた。俺は他国に行ったことがなく、実際に見たわけではないけども。

 …そもそも俺は女の人が苦手だ。特に年上の女の人が。…姉上の影響もあるだろうが獣人の女は強く逞しく、俺より強い人だって何人もいる。そして皆、姉上同様に年下の俺をいつも子供扱いする。



 女の人は「ルミナス」と名乗った。年上だと思って一応さん付けで呼んだけど…なんだか俺より子どもみたいな人だった。

 ライラに言われて背負うことになって動揺した。

 一瞬森の中にいる兵士達に目を向けたら首を振られてしまった。くそっ!イアンは心の中で悪態をつくが、貴族かもしれない他国の人を任せられるのは、皆嫌だったのだろう。


 女の人を背負う経験なんて今まで小さい子達位だから、なんだか気恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまった。しかも獣人の女と違い全く鍛えてないのか、凄くやわらかそうな体をしてる。あの程度の傷で動けなくなるのか…。姉上なら枷が付いてようが、鎖があろうが自分で引きちぎって走れそうだな、とイアンが考えてると…


 グウゥゥウ――…と、後方からお腹が盛大に鳴る音が聞こえて予想外の事に、思わず吹き出してしまった。「笑わないでください!」と真っ赤に抗議する姿に、男たちの仲間じゃないか、なんて先ほどこの人に警戒をしていたのが馬鹿らしくなった。



 しばらく森の中を進んでいて、いきなり耳を触られた時は心臓が飛び出そうなくらい驚いた。でもそのあと急に泣き始めてもっと驚いた。


 …誰だよ『ヒカル』って…。俺の耳を触りながら泣き始めたから獣人の男に恋人でもいるのか?

 …いや、そんなわけないか…それじゃあ人間の?

 聞きたい事は沢山あるけど、こんな所に枷を付けて一人でいたんだ、色々と事情があるのかもしれない。


 イアンはそう思いながらも、ライラに促されてまた走り出す。ルミナスは背中でずっと泣き続けていて時折「…ヒカル…ヒカル…」と呟いていた。


 だから誰だよそいつ!こんなにこの人を泣かせるのは!


 イアンはそう思いながらも、無言で走り続ける。




 …モヤモヤとした感情を残したまま。

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