美味しいダンジョンが美味しい
他の色も試してみた。オレンジやリンゴ、レモン、チョコレート味などだった。このグミスライムを食べると倒したことになるようで、体に経験点と呼ばれる力が入り、食べなかった部分が消失して、モンスターの核だけが残された。この核も美味しい。少し硬いけど。
「まんまグミじゃん。つか経験点って有るのかこの世界。レベル制?」
「レベル制? 魔力で人の力が変わるんだけど魔物やモンスターを倒すほど魔力は強くなるみたいだね。それを昔の人が経験点が稼げると言ってたみたいで、今でも経験点と呼ばれてるんだよ」
「へえ、所変わればって奴だな。その昔の人が俺みたいな転生者だったんだろう」
「そうかも知れないね」
ところでさっきから大変なことになっている。リスポーンポイントからグミスライムが出現し続けているのだ。グミスライム同士が押しくらまんじゅうになってるところでは何色か色が混じった大きなグミスライムになっている。タイムに確認してもらったところ、ミックスグミと言う別のモンスターに進化したらしい。他にもカチカチになったキャンディボールとか言うモンスターも誕生しているらしい。でもこのままじゃダンジョンが溢れちゃいそう。
スタンピードかな……早速。
ダンジョン経営の一番の問題点、モンスターの過剰増殖による暴走。スタンピードだ。私をもっとも苦しめた古代神殿のスタンピードを思えば、自分が作ったダンジョンで意図せずにそれを起こすなど、絶対に許せないし許されない。怒りや悲しみで目の前が一瞬暗くなる。
いつかはそれを戦力として使うつもりだとしても、それは完全に統率を取れる確信が持てないと、難しいだろう。
今の時点では、駄目だ。絶対。私が狩りに行く? 無尽蔵に湧かれては流石に勝てる自信がない。
「あ、増加速度調整とか限界出現数設定有ったわ」
「ッ!! タイム~ッ! 驚かさないでよ~、タイムほんと休憩! タイムでお願い!」
「こっちでも休憩をタイムって言うのな。例の転生者のせいかな」
とりあえず溢れなくてすんだようだ。ただいずれは意図してスタンピードさせないと戦力として使えないから意味がないし、進化自体は有り難いので適当に進化したモンスターを別の部屋を作って入れておこうかと言う話になった、が。
「今日はもうポイントが無いからな。あ、進化種は登録しておけば専用のリスポーンポイントが作れるみたいだぞ」
「ミックスグミとキャンディボールは登録しておこう」
そして食べてみよう。二人で未知のスライムの味を楽しみにするのだった。
◇
翌日、部屋を作ってそこにキャンディボール出現ポイントを設置。ポイントは昨日、最初にもらえたのが100ポイントだったのだが、今日は210ポイントになっていた。日毎に倍に増えるのかと思ったがどうやら発生したモンスターたちからポイントがもらえているらしい。
ボス部屋とやらをタイムが作って、そこにはミックスキャンディと呼ばれるいつの間にか進化していたモンスターを入れておく。このモンスターのリスポーンポイントはまた明日だ。
ちなみに私がいるこの部屋にはベッドとかテーブル、タンスが普通に置いてあってご飯やティーセットも魔力と引き換えに出てくる。お風呂もあるよ。
そんな感じなので暫くここで暮らしつつダンジョンを複雑化してモンスターも増やすことにした。
とりあえず一階部分はグミスライム生息地とすることに決める。美味しいし弱いしね。ちなみにキャンディボールやミックスグミは普通に戦えるようで、初心者冒険者が少し苦戦する程度の強さらしい。私にとっては雑魚だけれど。ミックスキャンディはなかなか硬いので武器で倒すのは大変だが熱に弱かった。魔法使いなら楽勝だ。
このダンジョンのラスボスは私なのでまず負けることは無いが、ボディーガードになるようなモンスターは早く欲しいな。今のままではこのダンジョンもすぐ壊されてしまう。私がいるとは言っても一人だけじゃね。
と、どうやらダンジョンに外からお客様が来たようだ。踏み込まれた瞬間に気配が察知できた。どうやらダンジョン内の状態は感覚で分かるようだ。
あ、村長さんのタカリヤさんだ! 何にも説明しないで来たから心配させてしまった。一晩帰ってこなかったら心配して探しに来るよね。
ダンジョンなのに「おいっすーっ!」とか挨拶しながら入ってくるタカリヤさんは村の人を四人引き連れて私のダンジョンに入ってきたようだ。
「なんかいい匂いがすんべよ~」
「ああ、なんか壁からも床からも甘い匂いがすんなあ」
「ちょっとかじってみろよ~」
「ん、んめっ! これはイケるな」
「お、俺も食う~」
そんなことを言いながら五人はどんどん壁を剥がして食べてる。壁が無くなっちゃうよ! と、思ったけどどうも壁はある一定以上は壊せないようだ。良かった。
やがて五人はグミスライムの変種、我らがキャンディグミを発見した。そのまま躊躇せずに食べ始める太った人。それを見て他の人も食べ始めた。
「ふおーっ、食ったら強くなる感じがするぞ!」
「シルビアお嬢様が「美味しいダンジョン作る」って言ってたのはこう言うことかあ。流石だな!」
……いえ、こんなつもりは無かったんですけどね。
流石にいつまでもお客様を放置も出来ないので私とタイムだけ使えるダンジョン内だけのピンポイントテレポートで五人の所へ向かった。タイムも着いてくる。なんか五人は日本のコメディアンに似てて気になるらしい。私には分からないな。
「タカリヤさん、こんにちは! 連絡が遅れてすみません、ここが私のダンジョンになります」
「おー、お嬢様、早速いただいてしまいました。許可も得ずすみませんなぁ」
「いいんですよ、ダンジョンなんだからお好きに食べて下さい。壁とかはあんまり剥がさないでくれたら嬉しいですけど」
「景観を損ねますからなぁ」
私とタカリヤさんが話してるとタイムは村人さんの後ろから着いていって、ちょんちょんとつついてちょっかいをかけては、村人さんが後ろを向く度に見付からないように後ろに回ってる。村人さ~ん、後ろ後ろーっ!
何故かタイムは足元のスイッチを踏むとたらいが降ってくるというトラップを大量に設置した。そして村人さんたちは狙ったようにそれを踏み抜いて金だらいの直撃を受けていく。なんかウケる。受けるのがウケる。
そんな微笑ましい村人さんたちを見ながらタカリヤさんに私がここで暮らすことを説明して、ダンジョン使用許可についても話し合った。このダンジョンがある程度大きくなるまでにも村の人には使ってもらって、五階ほど階層が出来たら徐々に冒険者を呼び込むということにした。
最近は小氷河期と言われるほど寒くて、更にスタンピードの影響もあり食料事情が悪かったこともあって、美味しいモンスターは村人さんたちに大変喜ばれたし、タイムも村人さんたちに見つかって、今はなんだかマスコット扱いされてる。女の子呼べそうだよねこのダンジョン。
他のお話を交互に投稿しているので、よろしくお願いいたします。もう一作追加する予定です。