タイムの質問タイム②(タイム視点)
んじゃ引き続き経済や周辺情勢の話な。
「お金の価値として、そうだね、私のお給料は平民の、年間収益五万グリン、の三十倍はあるよ。子爵だからね。伯爵になると二百倍は超える。土地を持つ貴族は自分の領地で稼いだ分をもらうことも出来るけど、そうするとお給料はもらえなくなるし納税の義務もあるよ。二割程度だけど国家予算は莫大なことになるね。そこから法衣貴族と呼ばれる領地を持たないで代官とかしている貴族のお給料が払われているから、王だから幾らでも使えるなんてことはないよ。以前の拡張空間にアイテムを入れるタイプのポシェットの買値がだいたい十万グリン。平民だと二年分のお給料を全く使わなかったら買えるかな? って額なので領地を持たない段階の私だと数ヵ月お給料の二割くらいを貯金したらなんとか買えるかな、くらいだよね。ちなみにまだ所領で得られる税金は王都に没収されてます! 払い戻しも有るんだけどそのシステムは複雑だから割愛ね」
「おう、頭痛くなってきたわ。次に行こう。次は交易だな」
「一般的には交易はアイテムバッグの良いのを持った商人さんが問屋を作って、そこから商品を買って加工したりして各店舗が売り出すよ。この問屋は一旦人手を通して物資を分配するシステムだから手間の分は物価が高くなるって問題は有るんだよね」
「問屋ね。日本ではもう聞かれなくなったなあ。今もあるんだったか? 卸売業者がそれに当たるんだっけ?」
「農家さん、漁師さんから直接卸す流れを各店舗だけでやるのは難しいからそれに似通ったシステムはあると思うよ? ギルドとかもそれに似たシステムでこの世界にもあるしね」
「あー、現代のギルドって農協とか漁協とかかあ。まあその辺はこのダンジョン経営には深く関係しないだろうし置いとこう」
「そうだね、大事なのはアイテムバッグとかダンジョン産物資が高く売り買いされることだもん。しっかり冒険者さんたちに稼いでもらわないと!」
「あんまり稼がせたら引退されそうだけどな。次は周辺情勢だな。今は南の国と敵対してるんだっけ?」
「南のボンロー帝国と東の月女神皇国、それと、このノーランド国内で内戦の可能性が有るんだよね」
内戦?! 流石白銀の魔女とか呼ばれてるだけあって内戦までコントロールする気?
この国はシルビア周辺の貴族だけを見ると平和に見えるんだけどなぁ。
「残念ながら。私の愛する第三王子エルレア様が冒険者になった理由の一番は自分が政争に巻き込まれるのを避けたから。これが一番大きかったんだ。現在は第一王子、ヨウィス王子派のリチャード=バングレイブ公爵を中心とした連合とヘルマン・クリムゾン公爵を中心とした第二王子、ウェルニー王子派が小競り合いを繰り返してるよ。スタンピードで第三王子派だった私たちの力が削がれたのも問題ね。今は中立だし、舵取りする役割の私たちが自分の領地に掛かりきり。良くないよね、この状況。そこでティーナ王女殿下を女王にしようと言う動きも出てきたし、国内は混沌だね。ちなみに今の私は王女派の姿勢を見せ始めたところ」
「内戦にも絡むつもり?」
「当然だよ。国が倒れたら外国勢力も古代神殿も相手にしてる場合じゃなくなるし、下手したら隙を突かれる羽目に陥るんだからね」
「いやー、ほんと色々考えてるよな。流石は白銀の魔女ってことか」
シルビアは他国の貴族についても調べている。風の精霊ジンたちを使った、これがシルビアの戦略の一つだな。国内の貴族についてはすでに調べ尽くしていたりするんだろうか?
次は宗教か……個人的にはあの女神様を崇める気にはなれないよな……。
「宗教ね。前にも言ったけど神様が実在するからね。みんなその宗教、女神教の教徒で、基本的には仲良し。ただ、星の女神様と月の女神様が戦乱を愛しているらしくて小競り合いくらいだと止めてくれないんだよね。本格的な戦争も起こるし、でも世界レベルの戦争になったらさすがに女神様が直接止めるよ。人類根絶なんて女神様も楽しくないだろうしね。人間にしてみれば迷惑な話だけど、相手は神様だからね」
「神様を倒すとかはしないの?」
「いや、だって神様悪くないんだよこれが。戦争するのは人間だから。神様はけしかけてもイタズラレベルだし、それを大戦争にするのは人間だから。まあそもそも神様死んでるんだけどね」
「魂の世界の存在ってことだよな。それに戦争の火種は作ってそうだけど、燃料は人間が持ち込むってことか」
「火種は煽り方で家事になるか鍛冶になるか火事になるか変わるからね。まあ抽象的な話だよね。この世界の諺だけど。問題が起こってそれを解決する、その流れで私たちは成長して来たのだもの、問題が起こらない社会ってそれは凍りついてるようなものだしね」
「何となく分かるな。温い平和に浸かってると敵なんかどこにもいないって錯覚も起こるもんな。そんなわけないのに。その結果自分含め自分の家族が悲惨な目に合うなら目も当てられないぜ。さて、次は」
「人間の軍隊以外の敵対的存在についてだね。まずは瘴気なんだけど、これって私が良く放つ殺意のこもった魔力のことなんだ」
「え、つまりシルビアが瘴気を出してるの?」
「って言うか、魔力を持っている人の敵意、殺意は全てこの瘴気に当たるのね。つまり出してない人なんてほとんどいないの。魔力は全ての物に宿ってるからね。例えば私がお兄ちゃんの前で大怪我を負わされたりしたら、お兄ちゃんの瘴気でここからチョスケー村辺りまでの住民はみんな死ぬかもね」
「あぶねえっ!」
原子爆弾みたいな兄妹だな! でもそれを中和する働きもあるからこそ世界が瘴気に包まれたりはしないんだろう。
「もちろん、瘴気は吸収すれば肉体にいくらかのダメージを残すものの、排出される時にはただの魔力に戻るからね。通常なら植物も吸収してくれるし。浄化の魔術も効くし格上の人ならダメージを受けずに戻せるよ。つまり私の出す瘴気はそうとうヤバイ」
「どうすんの?! けっこう出てるよね?!」
「この部屋にはマチェールやタイムがいるから問題は無いよ。それに私自身が吸収するからね。格下でもある程度強い人なら瘴気に完全に耐えられるし。マチェールとタイムならちょっと寒気を感じるくらいだよ。私が本気でなければだけどね」
怖いわっ! やっぱりシルビアは人間核弾頭らしい。
次は敵対的なダンジョンか。そもそも他のダンジョンって俺は古代神殿しか知らないからな。
「この周辺の大きなダンジョンは五つあるよ。美味しいダンジョン、古代神殿、火の迷宮、海の迷宮、機械文明遺跡だね。まあこの内、火の迷宮と海の迷宮はそれぞれに管理者がいるから下手なスタンピードは起こらない。敵対的なのはなんと言っても古代神殿。機械文明遺跡は冒険者が度々入る場所にあるから問題ない。場所はそれぞれ、火がクリムゾン公爵領、海がサンディ伯爵領、古代神殿は辺境伯領北東、そして機械文明遺跡は王都。美味しいダンジョンはここ、ビスケット子爵領だね」
「この五つで冒険者の取り合いになるわけだね。でもクリムゾン公爵って……」
「そうだね、ヘルマン=クリムゾン公爵はこの国の宰相でもあるから、目障りになったら潰される可能性も。火の迷宮の歴史は長いし別にマスターもいるのだけど、現在の火の迷宮の直接的な管理者はヘルマンの息子、ジェフ=クリムゾン。大して魔力がないからダンジョンメイクは出来ないし、推測だけど、あくまで魂を預けていないタイプのガーディアンとして、代理としての管理なんだけどね。私この人に何回か求婚されたんだよね……」
「ペド野郎か」
「タイム……後で瘴気の実験しようね……。まあ彼はティーナ王女殿下にも言い寄ってたからね。ティーナ王女を正妻に、私を妾にって考えてるみたいだよ。私の魔力が目当てなんだろうね。ティーナ殿下は、その、ふっくらしてる方だよ。胸が……。くそう……」
「血の涙?! まあ好色な野郎ってことか。いつかち○こ切り落としてやらないとな」
「それだと火の迷宮と戦争になるけどね。まあ望むところだけど。あと、中規模以下の、野良ダンジョンや未知のダンジョンはたくさんあるはずだから、いつか潰して回ろうね」
「おう」
しかし国内情勢もたいがい物騒だな~。文明レベルは進んでそうなのに野蛮な星だよ全く。
「科学的にはどれくらい進歩してるんだ? 飛行船はあったよな」
「科学的が分からないけど流通は飛行船と商人のアイテムバッグが主体だね。飛行船のような錬金機関は機械文明遺跡から採取されてるよ。冷蔵庫とかエアコン? それに似たアイテムもあるね。だから魔物によって地上の流通は遮られてるから新鮮な食品なんかは凄くお高め。そもそも、繰り返すけど食品の価格が高くなってるからね。だからこそこの美味しいダンジョンは美味しいのかも知れないね。ただ、流通はゆっくりだから領内では物余り状態になって値段が下がりそう。流通、保存のためにもアイテムバッグが大量に得られるようにしたいな」
なるほどね、ほとんどは現代社会並みになってるけど流通は陸の流通がほぼ寸断されているから地方に行くと物価が高くなるから発展も遅れる。そんな感じなんだろうな。




