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美味しいの意味が違う

 魔法陣に魔力を注ぐ。深緑の杖が魔力操作を補助してくれて、私の莫大な魔力をぐんぐんと陣に注いでいった。

 しばらく魔力の嵐が辺りを包む。私ほどの魔力だと単純な魔力をぶつけるだけで強靭なトロールさえ気絶させるほどだ。具体的には、普通の農民が十なら王国の宮廷魔導師が五百、私は五千ほど。後の相棒にチートだろぉっ! と、また異世界の言葉で突っ込まれることになる。

 しかしここまで魔力が無いとダンジョンは作れないのだ。百年に一人の天才と言われる私や母でなければ無理だ。二人じゃん! くっぷぷっ。やはり私はギャグセンス有るね! 北風が強まったけど!

 やがて魔法陣の中心にとても大きな魔石が現れる。ダンジョンコア……。これが伝説のダンジョンコアである。


 ダンジョンコアは多くのダンジョンに存在すると言われているダンジョンの造形を作り替え、モンスターを発生させコントロールする究極の宝であり、兵器だ。ちなみにここ数十年間一度も採取された事がなく、それを見れる人もごく一部の貴族、王族のみとあっては、伝説の、と言わざるを得ない。岩猿追えない……岩猿なのに俊足……くっぷぷっ!

 はあ、寒いしさっさと進めよう。独り言多くなってきたし北風が強まるし。


 この禁術書に書いてある通りだとすればこの私の体の半分ほどの大きさもあるこの魔石にタッチして、望む迷宮をイメージすれば迷宮が出来上がるらしい。

 それにしても大きな魔石だ。真っ黒で、ロゼンジ・ステップ・カットに似た菱形をした魔石は、私が込めた凄まじい魔力をたたえ冷たく輝いている。国王陛下の頭より輝いてるなあ。あ、陛下には内緒ね。物凄く良くしてもらってるのに怒られちゃうよ。

 王様が良くしてくれる理由は、実利の面で言うなら私の魔力を他所にやりたく無かったから。それと元第三王子の恋人だからだね。逆に言えば王子様とそう言う関係になれなければこんな禁術書を使ってダンジョンメイクなんて選択肢は得られなかったんだと思ってる。

 私の愛しい人、エルレア王子様には頭が上がらないよ。

 そしてこの目の前の伝説……。彼と付き合えなければこんなものと出会う機会も、訪れなかっただろう。


 早速手を触れてダンジョンメイクを……ごくりっ。

 お、大きいなこれ、本当に。触る前にイメージを固めておこう。

 冒険者が集まるダンジョン……初心者からベテランまでが大金を稼げるような「美味しい」と誰もが思うダンジョンを……。

 そうイメージしながら歩みを進める。手に魔石のひんやりとした硬い感触が伝わってきた……かと思うと更に石は私の魔力を吸収して魔力嵐を起こす。私の銀の髪がたなびき、美しい女性の声が響く。


『あなたの望みは「美味しいダンジョン」で良いのね?』

「きええあああっ、喋ったあああっ!」


 強烈にビックリした私は大声で叫んで激しく狼狽する。石にも「おちつけ」と言われてしまった。石の意思……ぷっくくっ! あー、冷たい風で落ち着いた。


『私は星の女神。あなたの望みを叶えましょう。今ここに、美味しいダンジョンを!』

「女神様ああっ?!」

『おちつけって』


 どうやら石の声かと思ったその声は女神様のものらしい。過去には女神様を体に降ろせる聖女なんかもいたらしいけれど、すでに伝説になった存在だ。だが確実に女神様がいたことは分かっているのでこの星の人たちは皆信心深く、悪い人が少ない。少ないだけで割といるけどね。

 しかし禁術に伝説の石に女神様、今日は驚くことが一杯だ。


『では、仕切り直して……今ここに、美味しいダンジョンを!』


 女神様に仕切り直させちゃったよ。もっと落ち着いた美人を目指さないとね。こんなだから友達にも子供扱いされるんだ。先に私に恋人ができたから「どっちが子供かなあ?」とか、言ってからかってやったけど。ふふん。……こう言うところが子供だね。ごめん友よ。元気かなあ、ミリアム、マチェール、そして、リリーナ。

 と、目の前のコアが光を放ち始める。他事考えてる場合じゃ無かった。更に猛烈な魔力嵐と共に私の周囲に強い光の嵐が巻き起こり、強烈な浮遊感が起こる。

 気が付けば私は牢獄のような暗い部屋の中にいた。……何か甘い匂いがする。クッキーかケーキのような匂いだ。ふと壁を見詰める。これ……。

 かりっと壁を引っ掻いてみるとブロックかと思っていたそれが剥がれた。……クッキーだよこれ。かじってみると甘い。

 私のダンジョンはどうやらお菓子のダンジョンになったようだ。……あっ、美味しい。


 ……。


 美味しいけど、美味しいけどっ、美味しいの意味が違うっっっ!! 女神様のくせに勘違いとかっ!! 私の魔力を返せっっ! 一晩寝たら回復するけど!


 はあ、落ち着こう。また子供扱いされる。こうして私の失地回復を賭けたダンジョンメイクは、女神様の勘違いからお菓子のダンジョン経営という、思ってもみない展開をすることになったのだった。


 ……昔お菓子の家に住む魔女のお話とか読んだなあ。子供心に「美味しそうだけど太っちゃうよね」とか思ったっけ。

 ……あ、こっちの茶色いのチョコだ。床材までビスケットだ。……太らないように気を付けよう。つか蟻とか蜂が集ってきそうだな……。それはどうやらダンジョンの設定で防げるらしいけど。お菓子のダンジョン……。

 お菓子のダンジョンなんておかしいね。ぷっくくっ! はあ。もうダンジョンの中なのに何故か冷たい風が吹く。








 このお話はシルビアの腹黒さが出てきてからが本番です。

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