蹂躙
美味しいダンジョンからキャンディグミスライムが溢れ出す。続けて侍饅頭熊、ジン、ジニーにゴーレムたち。私とタイムが敷いていた全ての制限を解き放って、無制限に増え続けるモンスターたちはダンジョンの内に止まることは出来なくなる。楽しい楽しいお祭りの始まりだ!
私の心の変化を現すように、私が望まなかったはずのスタンピードが、今、私の望みによって進軍を始める!
すでに頭のいい種族、ジンたちは制御できるのが分かっているし、何度か実験してキャンディグミスライムや饅頭熊、ゴーレムたちも制御できるのが分かった。満を持しての出陣である。
ゴブリン程度ならキャンティグミ数匹が掛かれば倒せる。普通は村人より強いゴブリンだが、今のチョスケー村の村人たちは平均でDランク。最低のFランク相当のゴブリンなんてお茶の子さいさいだ。お茶の子さいさい……。言ってみたけど意味は良くわからない。実はお菓子関連の言葉だった。
と、とにかく蹂躙劇は、今、始まった。
キャンティグミが進化して生まれたキャンディボールがごろんごろんと転がりつつゴブリンを薙ぎ倒す。
「ストラ~イック!」
「ストライク! って何?」
「ボーリング……、は、この世界に無いのか。あれくらいなら再現できそうだな。まあその内に金策でやってみるよ」
「タイムは頼もしいね~。エブリタイム頼り出すよ?」
「頼ってイーゼル」
「絵画に開眼?」
「描く未来は幸福な降伏。敵のな! 的な?」
なんかタイムがノリノリで駄洒落を言ってるし!
……サンキュー相棒。私と君で未来を掴もう。
いくよっ!
「ヘルストームッッ!!」
私の強烈な風魔法は敵の大隊を一撃で砕く。マチェールとタイムもそれぞれの魔法、火と水で敵を蹴散らした。すごい魔力の嵐が巻き起こる。流石にSランクオーバー三人の魔力は、伊達じゃないよ!
「魔法初使用! かっけー俺。つか、スゲー魔法使えたあっ!?」
「タイムはダンジョンコアに込めた魔力全部で出来てるから私と変わらないくらい魔力があるはずだよ?」
「マジで?!」
まあダンジョンコアに込めた魔力がタイムの魔力の最大値になってるかは不明だけれど、今のタイムが適当に放った水の魔法は私のそれと遜色はなかった。多分そういうことなんだろう。タイムの魔力は私の魔力を受け継いでるんだ。
これなら古代神殿くらい倒せる。あんなもの駄洒落を繰り出して笑いながら蹂躙してみせるよっ! さあガンガンいくよっ!
「サウザンドエアブレットおおおっ!」
戦場を覆い尽くすほどの風の弾丸を撒き散らす。敵に当たったところで圧縮されていた空気が解放されて大爆発し、撒き散らした肉片そのものが散弾となって更に周辺の魔物を蹴散らす。
爆風はもちろん風の力。私の魔法は破壊エネルギーの塊なのだ。
全力で攻める。敵はすでにオーガやトロールのような下級の巨人になっているがその奥に控えているサイクロプス程度なら、私たちにとっては雑魚でしかない。どんどん進軍していく。
後ろから侍饅頭熊の軍勢が、しっかりとした指揮で軍隊として進軍を始めた。ザッザッ、と足を踏み鳴らしつつ進軍していく侍饅頭熊たち。先程、急遽進化をさせた侍饅頭熊大将が指揮を採っているようだ。どんな味か気になるよね?
タイムが言うには饅頭熊は最終的にはSランクの侍饅頭熊大将軍になるらしい。頼もしいねっ! 味も気になるね!
侍の軍隊はどんどん雑魚を掃討していく。もう私たちが前に出る必要は無いみたいだね。この辺りでのんびりと急速に休息。ぷぷっ!
あ、ジンの軍隊が大爆笑して敵が凍りついていく!? 思わぬ助太刀をしてしまった?!
「今日だけは駄洒落無尽蔵に放っていいぞー」
「タイムのお許しが出たしいくよっ! 大敵との対敵は油断大敵! 敵が魔法を撃ってきた? うっ、敵を討ってきます! 破壊して墓石に入れてやれ!」
「うおおっ、寒いけど敵も残らず凍りつく!!」
ジンたちが大活躍だ。駄洒落を言ったのはだれじゃ! あ、サイクロプスが凍った!
ジンたちも進化種のティーポットジンとスイーツボックスジニーになっている。ああ、実食しなくちゃ駄目な魔物が溜まってくねっ!
マチェールがよだれを垂らして侍饅頭熊大将を見つめてるよ! マチェールって健啖家だった! そう言えばコアルームに登ってきた時に口にクリーム付いてたし!
ご馳走はこの後に提供するから!
今はいくよ! いくよいくよ! 美味しいダンジョンは無敵だよっ!
進軍するケーキとチョコとクッキーのゴーレム。残念ながらゴーレムは進化が間に合わなかったよ。
タイムが、薙ぎ払え! 溶けてやがる、暖かすぎたんだ、それでも世界で最も美味しい一族の末裔か! とか一人芝居している。意味は分からないけどとにかくすごい興奮している。だいたい末裔じゃなくて第一世代だしね?
◇
三日ほど私たちの美味しいダンジョンはスタンピードを続け、ついに周辺の魔物たちを駆逐することに成功した。
生態系は私たちのダンジョンが守る。全部私たちが改編するけどね。ビスケット領の魔物は全部美味しいダンジョン産になるだろう。
私はこの時に気づいたんだ。ダンジョンマスターって、結局は自然も含めて全てを破壊する魔王の一角なんだと。
私は魔王。そして冒険者の彼はいずれは勇者と呼ばれるようになるだろう。
ねえ、エルレア様。私たちにハッピーエンドはあるのかな?