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闇が食らいつく

 トレーニングと攻勢のためのモンスターを産み出していくためにタイムと六階のモンスターを考えていると、少し気になる現象が起こった。

 現在このダンジョン最強の生物はグミスライム系になっていたのだ。

 理由はいくつか考えられる。一番最初に作った種で、進化の可能性が高い。一番冒険者と戦った種で、経験点が多い。一番このダンジョンで数が多い、等である。

 その結果進化を繰り返し、スパークリングキャンディグミという、ランクでいえばBのモンスターが生まれてしまっていた。例えるなら最下級の、A級冒険者には蜥蜴と揶揄される程度の存在ではあるが、下級ドラゴンを上回る存在である。あとで実食しなければ。

 六階に進化グミを移し、そのスパークリングをボスに置こうと決まる。これから九階層までは進化種を順番に配置していくことにした。グミ、熊、ジン、ゴーレムの繰り返しでBランク階層を組む。十階はいよいよドラゴンを出す。


「途中でいくつか階層を挟むか、一階層辺りの部屋数や面積を増やすか」

「階層を増やすならモンスターの種類も増やさないとね」

「そっちの方が楽しそうではあるんだよな。でもどんな種類を配置するか考えるのはめんどくさいなぁ」


 でもとりあえず階層をいずれは挟むことにして、今は各階層の面積を広げる方向で調整することにした。

 挟むとしたら倍にした方が分かりやすいけどそこまで大幅なリフォームは流石に大変だ。コスト的にもアイデア的にも。


 と、そこに異常事態が起こる。外から冒険者たちが逃げ込んでくるように走り込んできたのだ。早急に彼らを避難所を新しく作って移送する。

 どうやら外でゴブリンやらオーガがスタンピード気味に集まってきているようだ。これも予測していたことだが、このダンジョンが発生すると言うことは魔物たちの縄張りを荒らすということだ。最初にある程度奴等(やつら)を間引いたのもこの状況になるのを遅らせるためだった。


 早急にジンに外のビスケットギルドへの支援要請に出てもらう。彼らには村を守ってもらわないとね。S級クラウスさんとお兄ちゃん、ミリアムがいるのでエルダードラゴンの侵攻程度なら跳ね返してくれるだろう。お母さんが引き分けて命を落としたような古代竜クラスが来なければ援軍は必要ない。だけど、実際に魔物を狩るのは私たちだ。

 いよいよ本格的にダンジョンモンスターを進軍させる時が来た。まずはあなたたち周辺の魔物を私の美味しいダンジョンの、試金石にさせてもらうからね!

 この辺りの縄張りはキャンディグミ生息地にさせてもらおう。

 まずは饅頭熊、ジン、ゴーレムに早急な進化を促し侵攻するために増殖速度を最初の設定、最大値に持っていき、ダンジョン内の村人や冒険者たちは避難所に移動させる。ジンに説明に行ってもらう。

 マチェールにはこちらの大将として軍を進めてもらおう。マチェールが来てくれて、本当に良かった。

 はっきり行ってマチェール=ローゼズ男爵令嬢は強い。生粋の武闘派貴族であるローゼズ男爵領をして麒麟児と言われた少女だ。実力はSランク冒険者上位相当、今なら私もひょっとしたら負けるかも知れない存在なのだ。頼もしすぎる。

 だがその前にマチェールには提案しておかなくてはいけない。


「マチェール、永遠の命が欲しい? 貴族の多くは永遠の命を、それが苦しいものであるとは知らずに望むけれど」

「ん? ちょっと待って、それって……」


 あー、マチェールは脳筋だと思ってたけど仮にも貴族か。今の質問でこちらの意図は把握されたみたいだ。

 そう、本当はマチェールをもっとこのダンジョンに縛り付けつつその命を守る手段がある。

 ダンジョンコアに魂を預ける。

 つまり、私の完全な眷属として彼女を不老不死にするのだ。

 これは私にとってもとても恐ろしい手段だ。彼女を永遠に苦痛多き生に縛り付ける。

 私は良い。覚悟があるから。

 あのくそったれな古代神殿をこの命を掛けて破壊する。それはお母さんが殺された時からの決定事項だ。不老不死くらい受け入れる。

 でも本当は生と言うのは苦行だ。私たちは愛や趣味にすがることでその痛みを粉らわせるけど、生が永遠となればそれが如何に頼りないものか分かるはずだ。

 人生は苦行だ。それに彼女を永遠に縛り付ける。その決断は私には出来なかった。もちろんタイムもだ。

 タイムは最初に言ってたね。縛り付けられてる、酷い、と。君も生きるのはどう足掻いても辛いことなのは知っていたんだね。人生には別れが付き物だ。それが永遠に繰り返される。そんな恐怖に人は耐えられるんだろうか?

 今でも私は怖い。でも。

 こんな私の躊躇をマチェールは笑い飛ばした。


「それってシルビアと永遠に一緒にいられるってこと!? 賛成賛成、大賛成!」

「えっと、もう少し良く考えて? 大切な人を永遠に見送り続けるんだよ? 永遠の命なんて不幸でしかないよ?」

「シルビアがその不幸を受け入れた程度の覚悟なら私にもあるのよ」


 彼女の言ってることは一見すれば私のこの覚悟を軽んじている言葉だ。でも私はそれが同じ覚悟を持った同士の言葉なのだと理解できる。

 マチェールの婚約者はガーネット辺境伯嫡男、ミハエル様だ。

 まあ、察したかも知れないけど、今のガーネット辺境伯はリリーナ。ミハエル様は先のスタンピードで亡くなられた。マチェールにも私と同じくらいの、古代神殿に対する「恨み」があるのだ。あの大侵攻で愛する婚約者を失ったマチェールも、あのスタンピードの大きな被害者なのだ。

 私も苦笑しながら頷くしかない。タイムには私から説明し、マチェールを眷属認定することが決まった。

 そして、これがこの美味しいダンジョンを魔王軍と言わしめる、礎となった。

 周辺の魔物程度ではすでに、止められない。






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