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マチェール

 ダンジョンに帰るとすでにモンスターがいなかった。コアルームは一目では分からない隠し部屋にしてあるが、五階までモンスターがいなくて一瞬背筋が冷えた。

 代わりに冒険者さんたちが大量にリスポーン待ちしている。早急にコアルームに戻ると人影が。ヤバい! コアが壊される?!

 と、一瞬思ったが、その人の真っ赤な髪と幼くも野性的な肢体を見てホッとした。


「マチェール! 来てたのね!」

「シルビアぁあ~ん、今日も可愛いわっ!」


 振り返ったかと思ったら一瞬で詰め寄られ抱き締められる。痛い~っ! マチェールは髪も目も真っ赤で炎のような見た目をしている。なんか口元にクリームついてるよ?! ケーキゴーレムを食い散らかしたね?!

 こういうところがマチェールが苦手なところだ。一番仲の良い親友グループの一人だけど、本人も健啖家で食べ物の前ではお子様になるのに私はお人形扱いされてしまうのだ。

 まあ大好きな友達の一人なのは間違いないよ?


 タイムにダンジョンの調整を任せて私はマチェールの相手をする。マチェールはもうAランクになっているらしい。凄く強いのはもちろん知ってるけど、まだ卒業から七ヶ月しか経ってない。早すぎると思ったがどうやら私と同じように学生時から魔物退治をしていたようだ。ちなみに私の冒険者ランクはBだ。実力は私もマチェールも、ミリアムやリリーナ、レイアスお兄ちゃんも、もちろんエルレア様もSランク相当のものを持ってると言われてるけどね。上位貴族ならB以上無いと駄目と言われてるけどこの世代は特に粒ぞろいなんだよ。S級冒険者の強い人も多いんだけどね。実戦経験は貴族より冒険者が上だし、うかうかしてはいられないんだけど。


 マチェールの故郷、ローゼズ男爵領はガーネット辺境伯領のすぐ北にある。山岳地帯に囲まれているために被害は少なかったが、あのスタンピードの被害者の一人だ。

 マチェールに侍女ジニーたちを紹介すると何故か彼女ジニーたちは怯えていた。どうやら侍女ジニーたちはコアを守ろうとマチェールとやりあったらしい。

 それはトラウマになっただろう。ジニーたちの実力はD以下に設定してあるのでSランク以上のマチェールにはまるで歯が立たなかっただろう。

 ごめんね、と、マチェールが謝るとようやく落ち着いたようで侍女らしく礼をしてお茶の準備を始めた。あとでケアしておかないとね。コアルーム限定でSまで持っていこうかな? まあダンジョンレベルが足りないし馬鹿みたいにポイントや魔力がかかるからそのうちに、だけど。


「ボンロー帝国の内戦はもうちょい続くみたいだね」

「そうなんだ? まあ私としては身内で削りあってくれるのは嬉しいし、まずは古代神殿に報復をかけて、潰したいからねえ」

「まあ情報を気にしておくのは良いことだよ。幸いここには優秀なスパイがいるんだし」

「ジンたちだね。風の噂は一番、脚が早いからね。例えば何故か帝国の交戦派の伯爵が風魔法で切り刻まれて犯人が見つかって無いとか」


 当然犯人は我がダンジョンのジンのひとりだよ。ジンやジニーを作る段階ではもう考えていた。

 ただ普通の貴族はジンくらいには負けないんだよ? 魔力強い人が貴族に召し抱えられて貴族の血縁はみんな魔力強いからね。前にも言ったけど魔力の強さがこの世界の人の強さなんだ。実戦経験は別だけどね。

 帝国の交戦派が戦闘力にしてE程度のただの豚を含んでいたから使えた策なんだけどね。豚をぶっ叩いて内乱を加速させたよ。ぷぷっ! ちなみにその貴族はこちらとの停戦条件に私を妾にとか言ってきた、タイム曰くロリコンのクズ野郎だったからタイムも嬉々としてこの策に乗ってくれた。最初は凍ってたけどね。

 はた目に見ると考えが飛躍してるように見えるかも知れないけど、貴族の闘争なんて先を読んで暗殺に搦め手、何でも仕掛けるのが当たり前だからね。これもダンジョンから魔物を出す段階で考えていた布石の一つ。そう、一つね。

 民に近くあるのが家訓でもトレンティアは大貴族だもの。伯爵令嬢だって甘くないのよ!


「シルビア、そこまでしてたの? 相変わらず可愛いのに恐ろしい子ね」

「ギャップ萌え?」

「ギャップ萌え?」


 自分でどこで覚えた言葉かと頭を傾げたが、先だってタイムに聞いた言葉だった。何故かタイムがマチェールにギャップ萌えの意味を詳細に説明し、マチェールはうんうんギャップ萌えギャップ萌えと呟いていた。これ以上萌えられても困る。ご令嬢だけに! あ、侍女ジニーたち抱腹絶倒。流石に私も(体感温度的に)寒い! (ギャグは寒くないもん!)

 マチェールがジニーたちのお尻を蹴飛ばしていくとタイムが「侍女ジニー、全員○イキック~」とか呟いてた。意味は分からない。お尻を蹴るキックのことかな?


「美味しいダンジョンで笑ってはいけないんだよ」

「そうなの?!」


 まあジニーたちが笑うとちょっと寒いんだけどね。お陰で私のメイン装備はあのあったかコートだし。でもみんな明るくて良い子だしもっと笑って欲しい。


「この子たちにはもっと笑って欲しいんだけどな~」

「俺とマチェールがいない時ならいいよ」


 お? お許しが出た。タイムは熊階層で熊たちと伯爵領での作業の計画を練るのでこれからは時々いなくなるらしい。それとマチェールはコアルーム前に偽のコアルームを作ってそこで番人をすると決めたようだ。ちなみにほんとのコアルームは隠し扉を偽のコアルームの天井(・・)に設置してその上に置くことにした。タイムが考えたんだけど、ずるいよね! 偽のコアルームにはダミーのコアも置くよ。他の階層も現在タイムが隠し扉を置きまくってるそうだ。タイムは本当に頼りになるよね! 便り出す? 頼りになるタイムに頼り出すならエブリタイム(・・・)便り出す!


「侍女ジニー、全員タ○キック~」


 タイムの号令でまたマチェールのキックが炸裂していた。まあこんな環境になっても何故か侍女ジニー職はこのダンジョンの人気職のままだったが。やっぱりジニーたちは私のギャグが好きなんだね! いつかもっと進化させてあげよう!


「とりあえずさ、マチェールはシルビアの護衛として正式に雇って、コアルーム自動帰還能力を渡しておこうと思うんだけど。あと悪いんだけどマチェールはコアへの攻撃禁止にさせてもらうよ?」

「そんなこと出来るの?」

「私はそれで構わないわよ! する気も無いしね! ああ、ずっとシルビアと一緒にいられるのね!」


 タイムによるとこのダンジョンで重要とされる個体にコアへの攻撃禁止とコアへの自由な帰還を、本人が承服した場合に限り付与出来るのだとか。これにより外部の個人やモンスターをガーディアンに設定できるようだ。

 これで外部から強い人を取り込み放題? かと思ったが設定できる人数がダンジョンレベル十ごとに一人という狭き門だった。

 それでこれ以降にマチェールが魔力を強化するのに有益そうなモンスターを配置していこうという話になった。

 つまり、ダンジョンのガーディアンをダンジョンで鍛えてしまおうという話だ。もちろん私やタイムも含まれる。コアが破壊されない限り不死身の私やタイム、ガーディアンに設定されたマチェールにはものすごいメリットがある。

 もっとも、私とタイムが倒されても全快で蘇れる(待機時間は三十分ある)けれど、マチェールが倒されたら体力と魔力はほぼ搾り取られるのでマチェールに限ってはメリットが若干少なくなる。流石にお腹一杯になったらこのダンジョンのアイテムやモンスターを食べられないものね。回避策は、あるんだけど流石にねえ……。


 でも元々私もマチェールもAランク以上の強さがある。私たちはミリアムやガーネット辺境伯リリーナも含めて、女神の世代と呼ばれるほど魔力が強かったのだ。

 今のマチェールがガーディアンについたこの状態は、守りはほぼ磐石と言っても良い。

 これからは攻めの力を蓄えていこう。少しずつ、スタンピードのコントロールの練習を進めていった。





 

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