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終わりから始まる物語

 私の作品の中でも特に、主人公がかなり黒いです。

 私は彼と唇を重ねる。その温もりが悠久の時を感じさせるようで。


 ……本当に悠久ならば良かったのだけれど、これは別れのキスだ。私、シルビア=トレンティア=ビスケットは私の都合で彼、エルレア=ノーランド様に付いていけないのだ。

 私の体は硬直している。悲しみに震えている。それを彼は慈しむように抱き締めていてくれる。

 彼はこの国の第三王子で、でも明日からはその地位を捨てて、冒険者となる。地位を捨ててと言っても出家する訳でもなく、王子なので新たに爵位は受けたが、冒険者の爵位など有って無いようなものだ。彼らは自由だし、自由であるべきだからだ。彼らの力をたくさんの弱い人たちが待っている。彼らを拘束しては助けられる人を助けられないのだ。

 私たちに訪れた悲しい別れ、そして悲惨な運命。

 私たちはそれを乗り越えられるかな?

 あなたを、愛してる。





 私の領地、トレンティアは辺境に近い。ガーネット辺境伯の領地のすぐ隣に位置している。……ガーネット辺境伯領の領主は私の友達、同年代の女性になっている。


 ある日、あるダンジョンがスタンピードを起こした。

 ご存知だろうか、スタンピードを。それは凶悪なモンスターたちによる大暴走である。

 そう、そのスタンピードにより辺境は壊滅した。

 暴走したダンジョンの名は古代神殿。誰もがその存在を忘れ、長い時間の果てに迷宮化してしまった、そして暴走してしまった……、今はモンスターの巣窟だ。


 そのスタンピードで我がトレンティア領も四分の一まで攻め込まれてしまって……。モンスターに理性など求むるべくもなく、徹底的な抗戦しかそれを抑え込む術は無かった。多くの兵や冒険者が亡くなった。……私たち家族の大切な彼女()も。

 現在は我がトレンティア領は辺境の役割を担っているが損害は甚大で、民も……大勢亡くなってしまって……。

 挙げ句我が領と辺境伯領が隣接している国、ボンロー帝国が侵攻してくる。幸いなことにこの侵攻はスタンピードで溢れ対処しきれていなかった魔物と、ボンロー帝国で起こった内戦で止まることになったが。


 現在トレンティア伯爵領は、モンスターが多いために冒険者が集まり、経済的な破綻を辛うじて免れていると言う、災い転じて、と言えば良いのか…………そんな状況だ。

 いずれモンスターが減っていけば冒険者も居なくなり、ただ荒らされた領地だけが残ることになるだろう。私の兄、レイアスお兄ちゃんが、母を亡くしてから力を無くしてしまった父の後を継いで失地の再開拓を進めているが、モンスターはまだ残っているのだ。芳しくはない。

 モンスターが居なくなれば冒険者が減って困り、モンスターが増えれば開拓は困難になる。痛し痒しだ。

 これを打開する術として、私、シルビアの莫大な魔力を利用することとした。国王陛下にはすでに許可を頂き、禁術書に子爵の爵位とビスケットの名前までいただいて、私は我が家が有するトレンティア領地の、そして辺境伯領の、すなわちこの国ノーランド王国の失地の回復に挑むために「毒を以て毒を制する」ことにしたのだ。

 それがかつてより多くの人が取り組み、失敗してきた手段で有っても、最早猶予は無い。自暴自棄になっている訳でも無い。

 あのスタンピードからもう三年も経っている。白銀の魔女と呼ばれた、今は亡き母が守ってくれた伯爵領を、彼女から受け継いだ魔力で復活させてみせる。守ってみせる。


 その手段とは、ダンジョンメイク……。禁術である。

 さて…………。始めよう。





 さーてさて? いったい何処にダンジョン作ろうかなぁ?

 ダンジョンは魔物の巣窟だ。あんまり町中近くに作るともしコントロール出来ないと不味いもんね。

 あ、ちなみにビスケットの名は私が決めたのをガルシア王様に認めてもらった。凄い暖かい眼で見られたよ。美味しそうで良い名前なのに。最近ガルシア様がお爺ちゃんのように接してくるんだけど、やはり私の見た目が子供だからかな? むむう。


 それはさておき、私が選んだのはトレンティア伯爵領、ガーネット辺境伯領のちょうど中間地点に位置する小高い丘にある村、チョスケー村だった。これからこのチョスケー村の人たちを説得してダンジョンを作らないといけない。いずれビスケット領と土地の名前が変わるかもしれないけどね。

 冒険者の皆が儲かり「美味しい」と思ってくれるダンジョンを作り、レイアスお兄ちゃんとリリーナ辺境伯の、ノーランド王国失地再開拓を助けないとね。


 私、シルビア=トレンティア=ビスケットは、ここに美味しいダンジョンを作ります!


 早速村長さんにアクセス! 村長さんを尊重しないとダンジョンなんて作らせてもらえない。村長を尊重……、くっぷぷっ……。私ギャグセンス有るのかなあ? なんか北風が強くなった気がするけど……なんで?

 山が高いからなあ、吹き下ろしの風は寒いよね。

 ……大自然まで突っ込んでるよおっ! と後の相棒に言われたけどね……。


 さ、さて、まずは村長のタカリヤさんに話を伺うことにした。

 ちなみに私の容姿は母譲りの白銀の長髪にアメジスト色の瞳、莫大な魔力を持っているため日焼けした事がない真っ白な肌をしている。身長は低いけど……。後の相棒に「合法ロリ」とか異世界の言葉らしい称号を与えられた。年齢は成人なのに見た目がお子様と言う意味らしい。ぐぬぬ……。思い出しても腹が立つので奴は今日もおやつ抜きだ。

 と、まあそんな可愛らしいと自分で言うのもなんだが、……子供のような容姿なので上目遣いでお願いするとタカリヤさんはすぐに認めてくれた。まあ貴族の言うことなので強権を振るえば認められないことは有り得ないのだが、昔から「民と共にあれ」が家訓の、領民との距離が近いトレンティア伯爵家の娘の私はそう言うのは嫌いだ。


 タカリヤさんは唇が特徴的なちょっと怖い感じのお爺さんで、でも村人たちにはいつも元気に「おいっすー!」と挨拶している。子供たちもちゃんと返事を返しているし、尊敬されているリーダーのようだ。

 いずれこのチョスケー村に冒険者ギルドも誘致するのでメリットは大きい事を説明して上目遣いでお願いしたらすぐに許可をくれたのだった。

 流石に村の真ん中にはダンジョンを作れないので北の山際に向かって三十分ほど進んだところに作ることに決めた。


 魔物が出てくるがオーガくらいのものだ。もちろん普通の村人には危険極まりなく騎士でさえも手こずる難敵なのだが、白銀の魔女の二つ名を母から継いだ私には問題がない。ウインドカッターと言う風をノコギリのように滑らせて敵を斬る魔法で一撃で真っ二つにする。


 そんな感じで粗方この辺りの魔物を片付けて、間引いてから準備を始める。片手には国王陛下から授かった禁術魔導書を持ち、片手には家宝の深緑の杖と言うとても貴重なオリハルコンという金属で作られた緑色の杖を持ち、魔法陣を描いていく。


 さあ、ダンジョンメイク、始めます!






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