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人生詰んでからの異世界転生はギリギリなしの方向で(仮)

作者: シオアジ

 


「明日死ねるーっ!」




 人は、3日あれば餓死出来るらしい。



 オレのくたびれた財布には、25円しか入ってない。

 10円玉が2枚と1円玉が5枚だ。


 細かく言うと他には、中途半端にしかポイントが入ってなくて使えない、どこかのポイントカード数枚といつのだったか覚えてさえいない見向きもしないレシート達。

 あとは、唯一自分の証明となる、個人番号通知書が入っている。どれも金の代わりにならないし、腹の足しにもならない。


 …待てよ?レシートぐらいなら喰えるだろうか?




 今日は、朝から2時間かけて、ここら辺では栄えている町の駅の中心街にある人材派遣会社に赴いた。


 ポストに入ってたチラシの裏を使い、丁寧に罫線まで手書きで書いた履歴書を持って、人材派遣登録しにいったら、憐れむような笑顔で「ごめんなさい」って言われちゃった。

 てへっ。


 まぁ、履歴書用証明写真が、似顔絵だもんなぁ。履歴書はチラシの裏だし。

 オレが人事採用側だったら、やはり即お断りしてる。間違いない。


 仕方ないじゃない!だって写真撮る金も履歴書買う金すら無いんだもの!



 そんな派遣登録すら拒否られた帰り道。オレは勿論、途方にくれていた。


 腹も減った。昨日から何も喰ってない。

 若干思考がおかしくなったのか、電柱を舐めたら、塩っぱそうで腹の足しになるんでは?と考え始めている。



 思えば去年、オレの就職先であった家族経営している零細企業の建築会社が、時代の流れに淘汰され、倒産したことに始まった。

 倒産した事実を知らなかったオレは、朝、何時も通りに出社したら、常に開いてるはずの会社の入口が締まっていた。その次の日も、そのまた次の日も。

 勿論、会社宛に何度も電話をかけたが繋がらなかった。

 社長らが倒産を期に夜逃げしたということが判ったのは、流石におかしいと気づき始めていた3日目の朝だった。とりあえずいつもと同じように出社したら、もう一人そこで働いていた同僚の奴と出くわし教えてくれた。


「オレらの給料も2ヶ月近く未払いのまま姿を消したのかよっ!金払えー!」


 オレはその瞬間、誰もいない会社に向かって絶叫した。



 家族も誰もいない天涯孤独なオレは、その後、少ない貯金を切り崩しながら、日々の生活をなんとかし、次の就職先を探したが、高校中退な学歴では、なかなか次の職も見つからない。


 世の中まだまだ、学歴社会だね!

 いつになったら、来るのかしら?実力社会。つか、来られた処で果たしてオレにその実力があるかどうかは、疑問だが。



 正社員雇用にも執着し過ぎていたオレは就活するも、次々と落とされ、そのうち切り崩していた貯金も底を着き、支払いすべきものもままならなくなった。


 最初にスマホを止められ、次にネットを止められ、電気も止められ、ガスも止められ、そして昨日とうとう、生き物としての生命維持活動で最も重要の一つである水が。


 そう。水道も止められた。



 公共施設は、とうとうオレという一個体の生命を見捨てたのだ。

 …ま、払うものを払ってないものね。



 来月には、溜まりに溜まった未納税とかで、唯一、亡くなったおばあちゃんが遺してくれていた、この家も差し押さえられる…。


 家の差し押さえ勧告が来たその日の夜。生前におばあちゃんが「困ったことがあったらこの箱を開けてご覧なさい」と言われていた箱を開けてみることにした。


 今までも何度も開けようか悩んでは、我慢して今日まで耐えたが、今日こそはもう開けていいでしょ!むしろ今こそ開けるべきでしょ!だって住むところも失うんですよ、これから。



 おばあちゃんの箱を開ける決意をし、その箱の前に正座する。


 何が入ってるか判らないが、困った時に開けるよう言われた箱だ。中身はきっと何かしら助けてくれるモノが入っているのだろう。

 換金性の高い貴金属類とか、もしくはまんま現金とか。

 その箱は、全体が黒い革張りで、ご丁寧に紫色の紐で括ってある。箱からして高級感が溢れ出している。中身がなんなのか、期待せずにはいられない。


 感謝するよ、おばあちゃん!今こそ、この箱開けさせて頂きます!


 紐を解き、いざ高級感溢れる箱、オーープン!






 ……中には、四つ折りにされたメモ紙だけが入っていた。



『元気があればなんでもできる!』


 と、綴られたメモ紙が。




 ダーーッ!

 って、ババアッ!コノヤロッ!


 どこの赤いマフラーがトレードマークのシャクレプロレスラーだよっ!


 元気すらなくなったんですが。

 もう、このまま餓死して野垂れ死ぬしかないのか…。

 まてまてまて!なんかないのか?

 何回見てもサイフの中身は、25円しかないんだが。



 …いや、あるぞ。

 25円で食べ物が買える。そう、チロットチョコならば。


 そう思ったオレは、すぐさまチョコ1粒買う為に最寄りのコンビニまで歩いた。コンビニまでだいたい10分程度のはずなのだが、体力がないせいか、外の厳しい寒さのせいか、今まで何度もなく通っていたコンビニがかなり遠くに感じる。いや、多分両方の要因のせいだろう。

 ぼんやりそんなことを思いながら歩きやっとのことでコンビニに着いた。


 昼間のコンビニには、様々な人間がいた。


 雑誌コーナーで立ち読みしてるフリーター風な奴。会社の外回りで息抜きに立ち寄った風のサラリーマン。何故かこの時間にいる制服を来た学生達。


 オレはというと、コンビニの自動ドアが開くと雑誌コーナーには、目もくれず一目散にレジカウンターに向かう。そこに置いてある、3種類のチロットチョコを睨んで真剣にどれにするか選ぶために凝視する。

 はたから見たら、酷い様だったのか、レジに並んでた奴が「うわぁ…」て顔でオレを避けて定員に買い物カゴを渡していた。店員もオレに明らかに迷惑そうな眼差しを向けながら、POSレジで商品のバーコードを次々とスキャンしている。

 きっと、小さなお子さんが近くにいたら、ママンが「見ちゃいけません!」と言って早急にオレから遠ざけるレベルなのだろう。



 ま、店員に引かれようが他の客に引かれようが、しったこっちゃない。こっちは自分の生命、オレの明日が掛かっているんだ!

 眼前に広がるチロットチョコを、暫くどれにするかじっと真剣な目で厳選していたが、その内1つを決めた。

 中にキャラメルが入っている奴だ。

 決め手となったのは、噛まずに舐めていれば、他の2種類より長持ちするだろうという判断だ。我ながら賢明な判断だ。うんうん。


 オレは、その決め手となったチロットチョコ1粒と22円とをコンビニのレジで等価交換した。


 残り3円…全財産が3円になった。



 よし!今日、チロットチョコを喰ったら、明日は草や虫を喰って生きて行こう!


 そうだ近場で水飲み場も探さなくっちゃ!



 自宅への帰路を歩きながら、最後の晩餐、チロットチョコを食する為に、その包装を丁寧に開封する。

 チョコレート独自の甘い香りがする。今まで何も喰ってなかったからだろうか。その香りだけで口の中の唾液がとめどなく溢れ出した。


 開封すると、ビニールと銀紙に包まれていた四角形のチョコレートが姿を現す。

 ああ。今のオレにはこのチョコレートが輝いて見えるよ!ありがとうチロットチョコ!お前の雄姿、しかと目に焼き付けたぞ!


 これからチョコレート食べれるという興奮からか、腹が減りすぎた禁断症状なのか、震えている手でそっとチョコレートを包装紙から持ち上げる。


 これから食べれるという気持ちが先走って勢い余り、チョコレートを口に頬張る前に上の歯と下の歯がガッチリ出会い、口に運ばれようとするチョコレートをギリでオレの歯が手前でガードしてしまった!その瞬間、オレの歯に阻まれたチョコは反動でオレの指から外れ宙に浮き、そして例外なく重力の法則に従い地面に向かって落ちた。



 コロコロコロコローッピタリ。


 地面に落ちた直後、四角いくせに勢いよく転がったチロットチョコは、そのまま電柱のそばにある犬のフンにタッチダウーーンッ!


 最後の晩餐しゅーりょー。




 …泣いた。

 大の大人がチロットチョコすら食えずに泣いた。

 公道のアスファルトの上でガッツリ落ちたオレは、四つ這いに這い蹲り泣いた。



 世の同い年の連中の中には、スポーツ選手になってメジャー的なとこで大活躍して何十億も稼いでいる奴もいる。そこまで行かなくても、家族を持ち、多少の不満はあっても何不自由なく幸せに暮らしている奴だって沢山いるのに、この今のオレはどうだ?


 22円のチロットチョコが食えることに興奮し、あまつさえ、そのチロットチョコすら落として喰えずに本気で泣いている成人男性27歳…。



 よし、もう何もない!

 食べものもない!飲みものもない!職もない!金もない!住むところもない!替えの服もない!連絡手段もない!お世話して貰えるアテもない!夢も希望も活力も体力も気力もない!ないないなーい!なーんもない!


 ついでに知力もないんですが!



 …詰んだーこれ。

 人生を詰むってこーゆーことを言うんだぞ!多分。




 ……犯罪するか出家するか。


 頭の中にポッとこの2択が浮かぶ。

 え?!この2択しかないのオレ?


 おわたー。



 ここまで来たらもう、どうにでもなれ的な?

 でも犯罪に手を染めると天国のおばあちゃんが悲しむに違いない。なので、とりあえず昔からあるけど一度も行ったことのない、あの名も知らない山にある良く分からない寺に行ってみるとか?



 オレ、出家します!メシにありつくために!



 そんな邪な目的で出家をする決意をし、目の前に見える山にある寺へ向かうことにした。


 勿論、移動手段は徒歩だ。

 そうと決まればひたすら歩くのみ。

 空腹に耐えながら、体力切れで重い体をなんとか動かし、目の前の山に向かってひたすら歩いた。

 目の前の山と言っても山の麓に着く頃には、黄昏れ時になっていた。もう直ぐ日が暮れる。


 ま、もう引き返す気はないから行くだけ行ってやるさ。半分ヤケになりつつ、よく分からない寺に向かって名も知らない山を登山し始めた。


 やがてどれぐらい山道を歩いただろうか時計がないから解らないがなんとか、よく分からない寺の入り口までたどり着く。気づけば周りは真っ暗だ。




 意外と立派な門構えな寺だな。


 そんなことを思いながらも、とりあえず周りには、寺以外ないのだから、どんだけ音や声がしてもご近所迷惑には、ならないだろうと思い、寺の門を思いっきり、叩いた。


 ドンドンドンッ


「何方かいますかー!ここに出家希望者いるんですがー!」


 ドンドンドンッ


「今すぐ出家できますよー!なんせ明日の予定ないですしー。というか明後日もそのまた次の日も向こう一年どころか、この先ずーっと予定ありません!ついでに住む処もなくなりますしー!」


 ドンドンドンッ


「結構、切羽詰まってるんですが!メシを食わせて貰えたなら、ついでに坊主になっちゃいますよー!」


 ドンドンドンッ


「ゴラァッ!出てこいやっ!奥に灯りがついてるから居ることは分かってんだぞー!出て来ないなら、燃やすーー」


「五月蝿いやつじゃな。今、何時だと思ってるんじゃ!」


 門の隣にある小さな扉が開き、怒声した。年老いた僧が出てきた。ここの住職か?


 とりあえずチャンス到来!

 すぐさま怒声がした扉の方に近寄り、とりあえず申し出る。


「出家希望するんで、メシ食わせて下さい!」


「出家希望の割には、さっきここを燃やすとか言ってたよーじゃが?」


「こ、言葉のアヤですよー。出家して立派な僧侶になって、少しでも人を救いたいぐらい心を燃やしているということですよ!嫌だなー。早とちりされちゃあ」


「ふむ。なるほど。それだけの決心してここにきたのならば、良い心掛けだ。ならば、手始めにお前さんの欲望を断ち切る為に、お前さんの全財産を此方にお布施として差し出すがよい!」


「はい!喜んで!」


 オレは全財産の2円を差し出した。


「馬鹿にしておるのかっ!」


「真剣に2円しかないんですっ!」


「ふ、不憫…」


「でしょー!もう出家するしかないんですよねー」


「なるほどのぅ………んじゃ、そーゆーことで」


 そっと扉を閉め始める老僧。


「待て待て待てーいっ!どーゆーこと?」


「え。だって金ないんじゃ、ちょっと…」


「え?!出家するのも金次第なのかっ!」


「ごめんねー」


「そんな無慈悲なーっ!」


「それにワシ、バイトじゃし」


「バ、バイト?!坊主、時給制なの?!」


「じゃからワシ決定権ないんで。ではではー」


 バタリ。ガチャッ。

 アルバイト時給僧に扉を堅く閉められた。



「責任者だせゴラァッ!」


 叫んでも扉は開かれることはなかった。




 再び、おわたー。

 もう家に帰る気力も残されてない。

 こーなったら、この寺の門の前で野垂れ死んで、評判ガタ落ちにしてやるー!

 人を救う寺が寺の目の前で人を見殺しにしたら、そりゃもう評判ガタ落ちですよね?


 オレは、寺の門の前で大の字になり、寝転んだ。

 もう何もないオレには、こーゆー最後でも何も悔いなどない!




 嘘です。


 後悔だらけだーーっ!

 一度でいいから感動する程の料理をたらふく喰ってみたかった。世界の色んなところを旅して視野を見聞を広めてみたかった。人並みに家庭を持ち、幸せを掴んでみたかった。



「つか、寒っ。」


 真冬の寒さに大の字でいることすら叶わず、数秒で縮こまった姿勢で寝転がった。


 あー、寒い、寒い寒い寒い寒い寒い…寒い…寒い…眠い…。




 …眠い?

 あー、これが雪山遭難とかでなっちゃう死の間際ってやつかー。寝るなー死ぬぞーってな。

 あれ?このまま逝ったら、餓死か凍死か判らないんですけどー。

 ま、いいかもう。どっちでも。



 どんどん意識が遠のいていく。もう、寒さも余り感じなくなった。こうやってオレの人生は幕が降りるのかぁ……



 ………



 ……



 …





 …お……い…?


「……おーい。聞こえるー?」



 幻聴か?遠のいた意識の中誰かの声が急に聞こえた。直ぐに返事をしたいが、意識だけが先走って声が思うように発せられない。


「………」



「おーい」


「………死…後…の…セカイ?」


 なんとか声に出来た。そう、おそらくオレは凍死だか餓死だかで死んで、今死神だか神様だかに話しかけらてるんではないだろうか。本当にあったんだ、死後の世界。



「死んでない死んでない。お前まだ死んでない」


「…えっ。…だって、真っ暗…で何も…見えないし?」


「それは、お前が目を瞑ってるからだよ!」


 あ。なるほど。

 そりゃ確かに目を瞑ってちゃ見えないわな。

 とりあえず目を開けてみよ。


 ぶはっと、目を開けたら、パンチの効いたどアップな顔が視界いっぱいに入ってきた。


「顔近っ!鼻長っ!」


 思わずツッコんでしまった。

 え?!鼻長い?


「ま、天狗だしなー」


 天狗と名乗ったそいつは、幾分顔を引いて答えた。


「て、天狗って!」


「天狗ですが何か?」


「ええっ!って、ええーっ!」


「レアキャラでしょ?」


「自分からレアキャラ言ってるー!つか、どーせこの後、お決まりのルートでなんだかんだ正当性がありそうな理由つけて異世界転生する展開なら、可愛い女神とかが良かったー!天狗って!」


「レアキャラの天狗に対して扱い酷っ!とりあえず、たまたま死にかけてるお前見つけたから、気まぐれで治してやったぞ。感謝するがいい」


「野垂れ死ぬことすら叶わなかったー!って、どうやって治してたんだ?も、もしかして神通力とか天狗に代々伝わる秘薬とか?それによりチート的な能力が付与されちゃったとか!」


「…えーっと、コレ…」


「え?!元気ハツラツ!オロナミソD!」


 天狗の手には、お馴染みのラベルの茶色のビン容器があった。

 オレ、110円程度で生き返ったんだ…。



「な、なんかスマン…」


「い、いや。こっちこそなんか過度な期待して、なんかゴメン…」



 お互い気まずい雰囲気になった。



「ま、まぁアレだ。もう大丈夫そうで何よりだな。じゃあオレもう行くわ」


「あ、うん。オロナミソDご馳走さま」


「あ。いちよー、ついでだからお前にちょっとした能力を授けといたからー」


「え!マジ?マジで!」


「うん」


「キタキター!それそれ!そーゆーの欲しかったんだって!オレもその能力使って一躍有名になってセレブの仲間入りに!いや、むしろ僕が新世界の神になる!的な?!いやー天狗様、マジ感謝!」


「いやー。そこまで喜んでくれるなら授けた甲斐があるってもんだなー」


「んで?どんな能力なのよ?炎や水やら出ちゃう系?あらゆる知識が詰め込まれた系?時間を操る系?空飛べちゃう系でもいいぞ!」



「えーっと。…ゆで卵と生卵の区別を一瞬で見分けることが出来る能力」



「それ何時使いどきが来るんだよっ!」


 …全くもって、役立たない能力だった。


「うっかり、ゆで卵と生卵を冷凍庫の中で一緒にしちゃった時とか?」


「とっとと帰れーー!」


「ははっ。それだけ元気があれば、もう大丈夫そうだな。ではさらばだ。死にかけた者よ」


「はいはい。いちよー礼は言っておくよ。…ありがとう天狗」



 天狗は、フワッと高くジャンプすると、そのまま闇夜に溶けて消えてしまった。




 暫く呆けたオレは、冷静になって思った。


「…あれ、やっぱホンモノの天狗だったのか?ん?そしたらこれって奇跡体験?!」



 とりあえずこの不思議体験を誰かに伝えたくて、再び寺の門を叩いた。



 ドンドンドンッドンドンドンッドドドドドドッドンドンッ!


 出て来るまで連打してやる。


 ドドドドドドッーー


「あー!五月蝿い五月蝿い!」


 勢いよく隣の扉が開かれ出てきたバイト時給僧。


「またお前かっ!」


「天狗でちゃった」


「え?天狗」


「天狗、天狗!」


「何をたわけたことを……」


「ホントホント!長い赤っ鼻の意外と軽装な天狗が!」


「……そ、その天狗とやらの服装の色は?」


「柄の入ったショッキングピンク?あ、あと結構タメ口だった」


「それって、うちの寺に代々伝わるという………お主、本当に会ったんじゃな?」


「だから本当だって!」


「だったら、まさかとは思うが何か授かったものとかあるのか?」


「えーっと…能力?なら」


「誠か!」


「ま、まーねー」


「ど、どんな能力を授かったんじゃ?!」


 うーん。なにか急に興味深々だな、このバイト時給僧。

 でも、その授かった能力って、ゆで卵と生卵を瞬時に見分ける能力という超絶役に立たない能力なんですが。

 口に出して馬鹿にされるの嫌だなー。



「なんというか…」


 若干、言いづらくて口篭ってしまった。


「そうか。ここじゃなんじゃな。……少し奥で話を聞こうか」


 バイト時給僧がいい方向に勘違いして、変に気を回してくれたのか、寺に入れるらしい。ならばここは、チャンスだ。寺に入れるついでに言うだけ言ってみよう。


「メシ出る?」


「出してやる!出してやるから着いて来い!」


「よっしゃーー!メシキター!」



 こうして、洸太こうたは寺に入れた。


 その後、なんだかんだでその寺で出家に成功した洸太は、寺に住み込み僧侶として精進しつつも、天狗から授かった能力の詳細は隠し続けることにした。


 そのうち逆にそれが功を奏して、「あの寺には、なにやら凄い能力を持った僧侶がいるらしい」と噂に噂が広がり、何時の間にやら一躍有名人、時の人なり讃えられたことになるのは、この後、ずっと先のお話になる。








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