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幻想世界の統合者  作者: 砂鳥ケイ
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第七十一話:ユイの決断

 俺達は、ガゼッタ王国に帰る道中偶然にも狐人(ルナール)の集落を見つけた。


 そう、それは同時にユイとの別れを意味していた。

 元々ユイとは同族の里が見つかるまで一緒に旅をしようという約束をしていたのだ。


 現在、昼食としてBBQを一人の少女を除く狐人(ルナール)全員に振る舞っていた。


 数本の串を手に取り、少女の元へと向かった。

 少女の名前はエルルゥ。いつものお節介焼きが発動してしまい、エルルゥに対して、一人ぼっちが如何に寂しい事なのかを熱く力説してしまった。

 気が付くと、エルルゥが涙を(こぼ)して泣いていた。


「ご、ごめん、何か気に触る事を言ったのなら、謝るよ」


(まったく、ユウさんは⋯)


 何故だかセリアに呆れられてしまった。


「違う⋯の。そんな事⋯言われた⋯⋯は無かったから、私に親身になって話してくれる人。両親以外に居なかったから⋯嬉しくて⋯ぅ⋯」


 エルルゥはまた泣き出してしまった。


 前にもこんな状況があった気がするが、俺は泣いている子のあやし方が分からない。どうすれば、良いか困っているとエレナが現れた。


「はぁ、女の子の泣き声が聞こえたから来てみれば、ユウ様はなんでいつもこう⋯」


 セリアに続いて、エレナもかよ。

 2人が何を言いたいのか、俺には分からなかったが、取り敢えず、エレナが来てくれて助かった。


「話は族長さんから聞いてますし、この状況も大体推測が出来ますので、後は私に任せて下さい。それと、ユイちゃんが探していましたよ」

「分かった。ごめん、後は頼むよ」


 俺が出て行き、家の中にはエレナとエルルゥの2人だけになった。


(ユウ様には自覚がないんでしょうけど、あんまり女の子に優しくしていると、誤解されて後で困るのはユウ様なんですよ)


 皆の元へと戻った俺は早々にユイに捕まった。


「あ、お兄ちゃん! 大変大変大変だよ! お肉が無くなりそう!」

「なんだって⋯単純計算で200人分は用意していたはずだったんだけど⋯⋯あっ」


 そう言った瞬間、大変な過ちをおかしていた事を思い出す。


 それは、ユイの食欲だ。


 ユイだけがただ単純に食いしん坊なだけかと思っていたのだが、もし種族固有のものだとしたら⋯。

 改めて、周りを見渡すと、皆物凄い勢いで食べている。食べ初めて2時間以上経つというのにだ。


 ははっ、これが2時間後の食事風景か?

 ヤバいな。


 元の世界で、よく2時間食べ放題とかあるが、正直2時間も食べていられるわけがない。

 ペース配分次第だろうが、目の前に美味しそうな食べ物があるのに、誰がそんなにゆっくり食べられるだろうか。

 いいとこ1時間が限界である。俺なんて、30分もたないだろう。


 しかし、眼前の光景はペース配分など無視したハイペースな状態で2時間以上延々と食べ続けている。


 答えは簡単だった。

 つまり、ユイが50人いるという事だ。

 そんなの食材が何人分あったって足りる訳がないだろう。

 こうなったら何時かのダンジョン攻略時の大型モンスターの肉を提供する他ない。

 一応説明欄に食材と書いてあったので、確保しておいたのだ。

 問題は、まんまその姿のままで、まだ捌いてすらいない。

 リンに頼むか。


 今更ストレージを他の人に隠す必要もないだろう。

 ユイに指示して、これから余興も兼ねて解体ショーを始めるという事で、皆に説明してもらう運びになった。


「と言うわけでリン、悪いけど解体頼めるか?」

「はい、ご主人様。この程度、一瞬ですね」

「わざとらしく大袈裟に、それでいてカッコよく頼むよ」

「仰せのままに」


 俺の無理難題に快く快諾してくれた。


 体長20メートル程の巨大マンモスをストレージから取り出した。

 事前に説明していたので、皆驚いてはいたがパニックになる事は無かった。いつの間にかエルルゥもエレナと一緒にみんなの輪の中にいる。


 両親の件もあるので、モンスターという事に若干の気掛かりはあったが、エルルゥの表情とエレナと手を繋いでいる辺り、大丈夫だろう。

 俺はエレナとエルルゥを呼んだ。


「2人にも頼みたい事があるんだけどいいかな?」


 エルルゥは周りをキョロキョロして人の多さに少し圧倒されてはいたが、ハッキリとした返事で「はい」と答えてくれた。


「じゃ、これからこの巨大生物の解体ショーを始めます!」


 俺は巨大な布を床に広げてから、ジラとクロを呼んだ。

 クロにはリンが切ってくれたマンモス肉を食べやすいように串刺しサイズにする役を頼んだ。

 ジラには俺と一緒にクロに切ってもらったマンモス肉を串に刺す役だ。

 エレナとエルルゥの2人には、下ごしらえの完了した串を網に乗せてもらう役だ。

 いつ買ったのかもはや覚えていない大型の包丁を取り出し、リンに手渡す。


「じゃ、リン頼む」


 こうして、リンの解体ショーが始まった。リンの見事なまでの包丁さばきは言うまでもないが、俺たちも見事なまでのチームワークで網に串焼きを乗せていく。

 小さな集落に大きな拍手喝采が起こっていた。

 いつの間にか子供達も網に乗せるのを手伝ってくれている。僅か20分足らずの思い付きで始めた解体ショーだったが、思いのほか大盛況だったようで良かった。

 何より皆が楽しそうだったしね、エルルゥもね。


 食材の準備が出来れば、後はもう食べるだけだ。

 焼き上がった物から、次から次へと狐人(ルナール)たちの胃袋にマンモス肉が消えていく。


「みんな、お疲れ。リンも見事だったよ」


 皆の事もちゃんと労っておかないとね。


 さすがに余るだろうと思っていたのだが、終わってみると完食していた事に再び驚いた。

 何時しか周りも薄暗くなりかけていた。いったい何時間食べていたのか。2時間食べ放題なんてレベルではない。


 こうして、俺たち主催のBBQは終了した。全員から感謝されたのは、言うまでもなかった。


 すでに夕飯の時間だったが、とてもじゃないがお腹に入らない。


 そのままの流れで宿泊用のコテージを2軒借りる事が出来た。

 詰め込めば全員入れそうだったが、皆が気を遣ってくれて、1軒目に俺とユイで、2軒目に他のみんなが泊まる運びになった。


「えへ、今晩だけは私1人がお兄ちゃんを独り占めできるね」


 ベッドの上でユイがじゃれてくる。

 俺は久しぶりに、ユイの狐耳を揉みくちゃにしてその感触を堪能していた。


「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「私と初めて会った時の事覚えてる?」

「ああ、もちろん。あの時は、間一髪だったよな」

「うん、誘拐された私をお兄ちゃんがカッコよく救ってくれたの」


 ヤバいな、この状況で思い出話なんて、泣いてしまいそうになる。しかし、泣くわけにはいかない。ユイの為にも寂しい素振りを見せたら駄目なんだ。ユイの気が変わってしまうような事は避けなければならない。


 あれ?


 何故だろうか、泣いたらだめだと言うのに、次から次へと涙が溢れてくる⋯⋯。鎮まれよ! 止まれって⋯


 泣くなって⋯言ってるだろ!


 ユイを見るとまた、俺同様に目から大粒の涙を流していた。


「私⋯私、、本当は⋯」


 ダメだ! それはダメだ! それ以上言ったらダメだ。絶対にここにいた方がユイは幸せになれるんだ!

 だが、俺も涙が止まらない。こんな状態では何を言っても説得力なんてあるはずもない。


 ユイが抱きついてくる。


「私! お兄ちゃんと離れ離れになりたくない!」


 言われてしまった⋯。


 そう告げると、胸に顔を押し当てて、おいおいと泣き出してしまった。


 俺は何とか涙を抑えて、ユイの説得を試みる。


「ユイ、そのままでいいから聞いてくれ、ユイの今後の幸せを考えたら、ここで仲間たちと共に生活した方がいいんだ。冒険には危険がつきものだし、場合によっては命を──」


 ユイは俺の口に人差し指を押し当てた。まるでそれ以上は言わないでと言わんばかりに。


「私ね、ここに来てまず思ったのは、お兄ちゃんとお別れして、ここで同じ仲間と一緒に暮らすんだって。お兄ちゃんに迷惑掛けたらだめだって。でも、それを考えるとね、この辺りが熱くなって、キューってなるの。だから、その時が来るまで考えないようにしてたの」


 ユイは自分の胸の辺りを手で押さえて、尚も続ける。


「でも、やっぱりお兄ちゃんと別れるんだって、考えたら、涙が出ちゃって⋯それで⋯」


 今度はユイが黙ってしまった。


 依然として、ユイの人差し指で口を塞がれている俺としては、何も喋れないでいた。


「私、お兄ちゃんと一緒なら、何が起こったって、大丈夫⋯だよ」


 ユイの指を除けた。


「ダメだ。ユイにもしもの事があったら、俺はきっと自分を許さない。絶対に。だから、ユイには安全な所にいて欲しいんだ」

「この世界に安全な所なんてないよ?」


「もう、見てられないですね」


 声の主はセリアだった。

 イキナリ現れたかと思えば、ちょこんと俺の肩に座ってきた。


「ユイさんは素直になったんですよ。いい加減ユウさんも自分に素直になったらどうですか?」

「泣きたいなら、私の胸の中で泣いてもいいのよ?」


 今度はノアだった。


「ちょっと、ノアは黙ってて!」


 俺だって、出来ることならばユイと離れたくない。だけど俺はこの世界の住人じゃないんだ。いつ帰ってしまうか分からない。しかし、この事はユイたちには絶対に言えない。少なくとも今はまだ。危険が及ぶかもしれないからだ。


「一緒にいたい⋯」


 ユイの泣き声混じりの素直な気持ちだった。

 先ほどのセリアの台詞が脳裏によぎる。


 くそっ!

 だったら、これだけは確認させてもらう。


「もしかしたら旅の途中で、俺がユイを置いて、二度と逢えない所へ行ってしまうかもしれないんだぞ?」


 最低限言えるのは、この辺りまでだ。


「お兄ちゃんは黙ってそんな事はしないし、もしそうだったとしても、それにはきっと意味があると思うから。それでも私はお兄ちゃんと一緒にいたい。それまででいいから一緒にいたい」


 俺も馬鹿だよな。

 ユイをこの場に置いていくだけなら色々と手はあったんだ。

 俺がユイから嫌われるように仕向ければいい。

 ユイが寝ている隙に出て行けばいい。


 色々あったんだよ。


 でも、やっぱり⋯自分の心に嘘はつけない。


 俺は何も語らず、俺はユイを抱きしめた。只々ユイを抱きしめた。

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