第二十六話:エルフの里での生活7(悪しき者)
褐色の肌に妖艶な笑みを浮かべた妙齢の女性を前に跪いていた。
彼女こそダークエルフの王たる人物。
名前:ソニア・スカイリン
レベル:50
種族:エルフ族
職種:精霊術師
スキル:召喚、ダブル召喚、トリプル召喚、精霊ブースト、スキリング
称号:ダークエルフの王
見た目があまりに若いので疑っていたが、どうやら本物のようだ。
それにしても、涼しげな格好をしている。
全体的に黒を基調とした格好で、例えるならば水着の上に黒のハーフコートを羽織り、脚には網タイツといった格好をしている。正直、ちょっとエロい。
ダークエルフだが、鑑定で見る限り、種族はエルフ族のようだ。
エレナから元は同じ種族だったと聞いていたので頷ける。
「頭を上げてくれ。我はこの里の長、ソニアと申す。貴殿の名は?」
少し、堅苦しい喋り方に若干同様するが、淡々と受け答えする。
「お初にお目に掛かります。私は人族のユウと申します。街から街を旅している冒険者です。そして、こっちが、妹の狐人族のユイと、クロです」
クロの説明は、少々省かせてもらう。魔族だなんて言うと、揉め事になる恐れがあるからだ。
隣のユイが少し緊張した様子だった。
ソニアさんから発せられる威圧めいたものに、その場にいられなくなったのか、俺の後ろに隠れてしまった。
「すまんな、怖がらせるつもりは毛頭ないのだが、、許せ。さて、早速だが貴殿らをここへ呼んだ理由は他でもない。それは、エルフ族についてだ」
ソニアさんは口元をニヤリとして続ける。
「門番に聞いたのだが、ここへ来る前にエルフの里に滞在しておったのだろう?」
何故門番が知っているのか聞きたいのは山々だが、この際それは置いておく。
エルフとダークエルフが敵対しているのは知っている。
もしかしたら、俺達がエルフと関わりがあると睨み、この場で容赦なく切捨てる気かもしれない。
しかしそうなったら、こちらとて黙ってやられるつもりはない。
戦うまでだ。
「はい、確かにエルフの里に数日間滞在しておりました。エルフ族がどうかしたのですか?」
睨み返すようにソニアさんに視線を送る。
「貴殿はガリム卿をご存知だろうか?」
「へ?」
全く予期していなかった回答に思わず変な声を上げてしまった。
おおっと、これは驚いた。まさか一番知りたがっていた名前が最初に出てくるとは。
ダークエルフの里を訪れた最大の目的は、ガリムとの繋がりだったのだ。
しかし、以外にもその名を口ずさまれて、俺は最悪のパターンを考えていた。
それは、周りが全員敵かもしれないと言う事だ。
生唾をゴクリと飲み、取り敢えず当たり障りのない回答をする。
「確か、エルフの元老院の1人に同じ名前の方が居たと思います」
俺の回答にソニアさんは、何故だが満足げな笑みを浮かべている。
「知っているならば話は早い。ガリム卿の情報が知りたい。なんでも良いので貴殿の知っている情報を我に教えて欲しい」
ここへ来た本当の理由を話すべきだろうか。もし彼女が敵の場合、それを話した瞬間に俺達は後ろに待機している衛兵に取り押さえられるだろう。
姿は見えていないが、扉の外に待機している衛兵の数が10人程いるのを範囲探索は捉えている。
しかし、何となくだが、目の前のこの人が敵ではないとそんな気がしていた。
あくまでも勘でしかないのだが、その勘に掛けることにした。
まぁ、俺には奥の手もあるしね。
最悪の場合は、ポータルでドロンして逃げればいい。
俺はソニアさんに、この里に来た目的を告げた。
もちろん、最初に観光目的で立ち寄ったのを装った謝罪をきちんとした上でだ。
それにダークエルフの関与はあくまでもまだこちらの推測でしかない事も先に伝えた。
「感謝する。人族のユウよ。そなたの推測は概ね⋯正しい」
概ね正しいとは、どういう意味だろうか?
やはりダークエルフが絡んでいたのだろうか。
疑問の表情を察したのかソニアさんが口を開く。
「そちらも話してくれたのだ、こちらも話さねばならんな」
俺はその話を固唾を飲んで聞き入った。
「少し長くなるが、勘弁してくれ。こちらで確認した確かな情報だ。我々ダークエルフの上層部とエルフの上層部とで不穏な密会がなされていると情報を受けたのがそもそもの発端だ」
会話のやり取りは1時間近く行われた。
ユイは退屈だったのだろう。
立ったまま俺にもたれ掛かって寝ている。実に器用なやつだ。
ソニアさんの話は要約するとこんな感じだった。
怪しいという情報をリークし、諜報員が密かに調査を行なった結果、ダークエルフの上層部の1人が、エルフの元老院と密会している事が判明した。
確認しただけで計3回の密会を確認したそうだ。
密会時の会話の内容までは確認出来なかったのだが、人物の特定まで出来たと言う。
しかし、その人物が厄介で邪神崇拝者だった。
ダークエルフの中には、今でも邪神崇拝者が存在するらしく。公には法的に禁止しているのだが、裏で隠れて崇拝する者など、全てを取り仕切るのは中々難しいようだ。
今回、ガリム卿と密会していた連中は、間違いなく邪神崇拝者との事だ。
なんとなくこれで、話は繋がった。
後は密会していた決定的な証拠があれば、ガリム卿を法的な場へと突き出す事ができる。
元の世界だと、証拠品からの指紋採取や監視カメラの映像など、決定的な証拠は簡単に集める事が出来るのだが、こちらの世界ではそうもいかない。
しかし、ソニアさんには一網打尽にする秘策があるらしい。
「どんな作戦なのですか?」
彼女は「ふふふっ」と妖艶な笑みを浮かべている。
「そんなの、密会現場を抑えるのだよ」
諜報員の最新の情報だと、次に彼等が密会するのは本日の深夜の日付の変わる時刻と、教皇選挙結果発表日の同じく深夜の日付が変わる時刻だそうだ。
ん?
本日と言う事は、今が昼過ぎだから、あと12時間くらいという事になる。
ソニアさんは選挙後の密会を抑えるつもりで現在準備を進めていると言う。
しかしそれだと遅い。
恐らくこのまま行くと、ガリム卿は教皇選挙で当選してしまうだろう。
当選後のスキャンダルは、エレナからも避けたいと懇願されていた。
なんとしても、選挙前に彼を降板させなければならない。
俺は今晩の密会を抑えたい旨を彼女に伝えた。
「それは無理だ。時間がなさすぎる。密会現場を一網打尽にするには、それなりの準備と現場となるエルフ陣営にも承諾が必要なのだ」
「じゃあ、今からすぐにでもエルフの里に行けたとして、尚且つエルフの王の許可も貰えたのなら、可能でしょうか?」
彼女は「何を変な事を言っているのだ」と冷めた目で俺を睨み付ける。
そんなことはありえないと思っているのがその表情から伺えた。
「まぁ、確かにそれなら、可能だとは思うがな」
「と、言う事だエレナ。王様への許可は頼めるか?」
(まったく。いつも唐突で、無茶を言うのですね。でも分かりました。お父様の許可は私が必ず取りますので、行動を開始して下さい)
その場にいる俺以外は、皆不思議そうな顔をしていた。
先程の声は、エルフの里にいるエレナの物だった。
ネタは簡単だ。
先日購入した魔導具のテレコンイヤリングを使ったのだ。
これを使えば、離れた場所にいる相手と直接連絡を取り合う事が出来る。それで、エルフの里にいるエレナと会話が出来たのだった。
そんな説明を掻い摘んで話した。
「カラクリは分かったのだが、どうやって即座にエルフの里に移動するのだ?」
「そちらに関してもこちらに考えがあります。ですが、申し訳ありません。これに関しては秘匿とさせて下さい。こちら側の切札にもなりますので。準備が出来ましたら、すぐにでもエルフの里プラメルに送る事はお約束します」
ソニアさんは、苦笑いをしていた。
呆れているといってもいいかもしれない。
「貴殿は一体、何者なのだ⋯」
「ただの一介の冒険者ですよ」
双方に準備が必要と言う事で、俺達はその場を後にする。集合場所は、ソニアさんのいる、この屋敷だ。
俺は一緒に来ている連れのエルフをここへ連れてきたいとお願いをし、ソニアさんの了承を得た。
せっかくダークエルフの里を訪れたのだから観光したいのは山々だったが、状況が状況なだけに、今回は諦めるとしよう。
時間があるうちにまた立ち寄ればいいしね。俺のやりたい事メモ一覧に書き加えておく。
ザンバドさんと合流し、馬車で里に中に入る。
既に門番にも話が通っていたらしく、素通りする事が出来た。
そして、集合場所の屋敷までやってきた。
案内された部屋に入ると、ソニアさんたちは既に揃っていた。
すぐに作戦会議が始まる。
今作戦のリーダーは、ソニアさんだ。
「まずは、急な召集にも関わらず、集まってくれた事に感謝する。こちらにいる人族のユウ殿の力と助力により、今晩行われるであろう密会の現場を抑えようと思う」
作戦会議は1時間ほどで終了した。
俺たちの役は、密会現場の鎮圧の協力だった。
相手の人数が分からない以上、戦力が多すぎると言う事はないのだ。
それにしても諜報員と言うだけあり、ここにいる人たちはレベルが高い。皆30以上と言うツワモノ揃いだった。
余計な話をさせるつもりはない、双方が顔を合わせ、席についた所を狙う算段だ。
現行犯逮捕という事だろう。流石にその場に居合わせたら、しらばっくれるのは難しいだろう。
全員が自分の役割を理解出来た所で移動開始だ。
俺は予めロムールの丘の屋敷の裏手をポータルにメモしておいた。
「それではこれから転移を行います。全員横一列に並んで手を繋いで下さい」
全員が手を繋いだ事を確認し、ポータルで転移を行使する。
「それでは飛びますので、安全の為、目を瞑って下さい」
別に瞑る必要はないのだが、あまり見られたくないしね。
そして、一瞬の内に俺達はエルフの里プラメルのロムールの屋敷の裏手まで飛んだ。
一瞬で別の場所に移動した事に、皆一様に驚いていた。
しかし、今は驚いている時間はない。
そこには、エレナも待機してくれていた。
「ようこそ、ダークエルフの皆様。私は、エルフの里の王、ロイドの娘、名をエレナと申します。どうぞ宜しくお願いします」
エレナは深々とお辞儀をした。
ソニアさんが代表して受け答えしている。
「エルフの王女よ、協力頂き感謝する」
「これはエルフ、ダークエルフ双方の問題です。それに私たちの目的は共通です。絶対に成功させましょう」
「うむ。やってやろうぞ」
双方が決意を胸に固い握手を交わしていた。
さて、密会の時間まで1時間を切っていた。
場所は今は使用していない廃墟のようだ。
ここで気付かれてしまっては、折角の作戦が元も子もない。
相手は精霊を利用してくるかもしれないので、ガリム卿の尾行はしない方が良いと、予め助言しておいた。
ターゲットが来るまでに、俺達は所定の持ち場に配置につく。
暫くして、目の前にターゲットの一人が姿を見せた。
どうやら先に現れたのは、ガリム卿のようだ。
ガリム卿が来てから20分が経過していた。
待ち合わせの時間も、既に10分前に過ぎている。
おかしい、遅すぎる。
恐らくバレたな⋯そんな事を内心考えながら範囲探索を頼りにダークエルフの反応を探した。
もし、俺達の張り込みに気が付いての撤退なら、もしかしたらまだこの辺りに居るかもしれない。
俺は、みんなとは別れ、姿を隠したまま走り回る。
そして少し移動すると、探していた反応を発見した。
明らかに怪しい2人組だった。
範囲探索の派生機能で、探し人であるダークエルフの場合、色が変わるように設定していた為に、すぐに発見する事が出来た。
俺は見失わないように、隠れたまま後ろを尾行する。
2人ともフードを被っていた為、顔が良く見えない。
この2人はどうやら、里の外に出ようとしているようだ。
まっすぐに南門を目指している。
逃がすものかよ。
俺はテレコンイヤリングを使い、エレナに応援を要請した。
このまま俺が捕まえてもいいのだが、証人が欲しい為、応援を待つことにした。
南門で一網打尽にしてやる。
エレナに聞いたが、ガリム卿は既に取り押さえたそうだ。
しかし、その場に自分しか現れなかったのを理由に犯行に関しては全面的に否定しているらしい。
実に往生際が悪い。
暫くして、エレナから念話による連絡が入る。
(ユウ様、南門の封鎖が完了しました)
(了解)
やけに対応が早いと思ったら、王様はこうなる事を予期して、警備隊を門の近くの詰め所に召集しておいたらしい。
やるじゃないか。
そして、南門が見えて来た。
目の前のダークエルフたちが警備隊に気が付いたようで、どちらに進もうか躊躇していた。
何やらお互いに相談している。
今ここで、俺が無力化してもいいのだが、出しゃ張るつもりもないので、援軍の到着を待つ事にする。
2人が脇道に逸れて何処かへ向かっていく。
南門が通れないと踏んで、もう1つの出口の東門に向かうのだろう。
しかし暫く進むと、どうやら東門とは方角が違う。
彼らは北側に向かっているようだ。
確かそっちの方向は⋯今は使われていない廃墟街エリアだったはず。
まさか、騒ぎが収まるまで隠れてやり過ごす気か?
俺はエレナに彼らの行き先を伝えた。
後10分程度で追付けるそうだった。
その後も気付かれないように気配を殺して彼らの後を追う。
そして、彼らは予想通り廃墟街に入っていった。
周りをキョロキョロしながら暫く進むと、1軒の廃屋の中に消えた。
すぐにドアを閉められてしまった為、仕方なしに廃屋の外で応援を待つ事にした。
範囲探索の反応はチェックしているので、彼らが今も廃屋の中に居るのは確認してある。
暫くして、俺の後方から10数人の反応が現れた。
エレナに応援要請をしていたダークエルフ、エルフの混成部隊だった。エレナも一緒のようだ。
物音を立てないように、廃屋を取り囲んでいく。
そして俺達が突入の合図を待っていたその時だった。
チャリンッ!
廃屋の中から何が割れる音が聞こえた。
俺は廃屋の中の異変にいち早く気付く。
先程まで範囲探索にダークエルフの2人の反応しか無かったのだが、今はその2人の反応が消えて、変わりにモンスターの赤の反応に変わっていた。
咄嗟に叫んだ。
「小屋の中にモンスターが入るぞっ!」
俺が叫んでから数秒後だった。
屋敷内からの衝撃波で、廃屋を取り囲んでいた俺たちが、廃屋諸共吹き飛ばされてしまった。




