第二十話:エルフの里での生活2(精霊教室の視察)
エレナと一緒に屋敷へと戻った。
眼前には、執事が用意したご馳走が並んでいる。
流石に執事と言うだけあり、料理の腕も中々のものだ。ちなみにルナは、まだ料理は勉強中で、これから覚えていくそうだ。
「すごくおいしー!」
「お口にあったようで何よりで御座います」
ユイも満足したようで、良かった。
みんなで一緒に御飯を食べながら今日1日の出来事をエレナに話していた。
まず、魔導具が買えるようにエレナのお父さんに取り計らってもらう約束をした。
「あんな高いものを買おうだなんて、前から聞こうと思っていたのですが、ユウ様はどこかの貴族か王族なのですか?」
「街から街を旅しているただの冒険者さ。道中の遺跡でちょっとした財宝を見つけたりしてね、財布には少し余裕があるだけだよ」
「冒険かぁ⋯いいですね、憧れます。私も王女なんて身分がなければ、色々とこの世界をこの眼で見てみたいです」
「エレナも一緒に旅しようよ」
「そうですね、ユイちゃんと一緒の旅も楽しそうですね」
エレナがユイの頭を撫でる。
相変わらず、頭なでなでされるとユイは嬉しそうにするな。
昼間の話の続きをする。
まず、バトルアリーナについて聞いてみた。
このエルフの里には、3年に1度開催されるこの里でのNo.1の強者を決める催しがあるそうだ。
それが、バトルアリーナなのだが、その3年に1度の催しが、20日後なのだ。
参加者はエルフ以外の種族もOKとの事だが、何せ外部からの訪問者がないので、エルフ以外の参加者は過去にも記録にはないようだ。元々この里の人口もそんなに多くはないので、参加者はいつも20人程度しか集まらないようだ。
エレナから「ユウ様も参加しますか? 」と聞かれたけど、実際の所、参加する予定はないかな。決闘なんて何か怖いし⋯。
次は、ガリムさんについてだ。
「ガリムさんって人、知ってるか?」
「もしかして、元老院のガリム卿ですかね? 彼がどうかしたのですか?」
その人から精霊の気配がしたことを告げた。
「ユウ様みたいな精霊を宿主にしているエルフなんて、少なくとも私は聞いたことがないですね。でもそういうことでしたら、明日ガリム卿の元へ伺う用事がありますので、一緒に行きますか?」
ナイスタイミングだ。是非お願いしますとエレナと約束した。
それぞれの部屋に戻り、寝ることにする。もちろん、俺の横にはユイと、足元には丸くなったクロがいる。エレナも今日は、この屋敷に泊まるそうだ。もちろん部屋は別々だけどね。
朝になり、エレナと一緒にガリム卿の元へと向かっていた。
ユイとクロは屋敷で留守番だ。
エレナと一緒に歩いていると、里中の人が寄って来て声を掛けてくる。相変わらずの人気振りだった。
もはやアイドルと言ってもいいだろう。ご当地アイドルになるのか。いつでも会える、会いに行けるアイドルというのは、どこの世界でも親しまれるものなのだろう。
さて、ガリムさんの屋敷の前まで辿り着いた俺たちは門番に話し掛けようとした所で、先に向こうから話し掛けられた。
「エレナ様、お待ちしておりました。ご当主がお待ちですので、どうぞお入り下さい」
門番が門を開けて中へと案内してくれた。
住んでいる屋敷も十分大きいと思っていたのだが、この屋敷もかなりデカい。こんな巨大屋敷に住んでいる人たちは、迷子になったりしないのだろうか? 内装も似たような感じだし。
ガリムさんがこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
「すみません、エレナ様。お出迎えする事が出来なくて」
「いえいえ、ガリム卿もお忙しい身でしょうから、気にしないで下さい」
そう言い、エレナはニコッと微笑む。
彼はエレナと一緒にいた俺に目を向ける。
「ユウ殿じゃないか。またすぐに会えるとは嬉しい限りですよ」
俺は別に嬉しくないけどね。どうせ再開するなら女性の方がいいし。
セリアが俺の中で話し掛ける。
(やはり間違いないです。近付いてみて、ハッキリ分かりました。彼の中に精霊がいます)
エレナは知らないと言っていたが、どういう事なのだろうか?
エルフ族はもともと精霊と共に暮らしている。精霊が実体化している時ならば、精霊を感じることが出来るが、宿主の中にいる時はエルフでも分からない。
他の人が知らないということは、隠しているのか、外に出た事がないのか、それともエレナが知らないだけなのか?
エレナの用事は大罪を犯したマルベスの処遇について、教皇と元老院の3人と議員10人と王様と王妃の16人からなる、プラメル会議を明日開催するという話だった。
重要案件を決める時や、法律などを決める際はこのプラメル会議を開催するのだそうだ。
ガリムさんは「了解しました」と一言。
エレナの要件も終わったようだし、こっちの要件をストレートに話す事にした。
「ガリムさんは、精霊の宿主をしているのですか?」
彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を取り繕う。
「どうして分かったんだい?」
彼が隠している理由が分からない以上、こちらも素性を晒すのは今は控えておくか。
「なんとなく、そんな気がしただけです」
ガリムさんは少し間を置き、精霊の宿主となっている理由を話し出した。
少し前に、偶然精霊を見つけてしまった彼は、精霊に宿主にして欲しいと直々に頼まれたそうだ。なぜ頼まれたかは教えてくれなかったが、それ以降宿主をしているという話だ。
セリアが話しかけてきた。
「こちらが彼の中にいる精霊とコンタクトを取ろうとしても拒絶されるようです。なぜでしょう?」
何か訳ありだな。少し探ってみようかと思ったが、彼はこの後用事があるようで、急に出かけると言い出した。仕方がないので、俺たちも屋敷を後にする。
その後、セリアに宿主の事について再確認しておく。
精霊が本来、人族やエルフ族といった生物を宿主とすることは稀なようで、事例がない訳ではないが、非常に珍しいことなのだそうだ。
考えられる理由としては、3つあると言う。
1つ目は、彼を宿主にしなければならないほどの命の危機にあった場合。
2つ目は、対象に興味が沸いて、精霊自身の方から懇願する場合。
そして最後は、弱みを握られて、従わされている可能性がある場合。
セリアは、完全に2つ目なのだが、本来精霊は全ての生物において中立な立場にいる必要があるそうだ。
従って、余程の理由がない限りは特定の種族や人物に思い入れる事はないそうだ。
セリアが「私の場合は特別ですけどね」と言っていた。
精霊同士のコンタクトを拒絶する観点から言っても、もしかしたら3つ目なのではないだろうかと推測される。
「これは後で調べてみる必要がありそうだな⋯」
小声で呟く。
エレナはこの後、精霊教室の視察があるということだったので、せっかくなので一緒についていくことにした。
精霊教室というのは、文字通り精霊術師の学校のことで、8~16歳の子供たちが対象だった。
里の中心に2階建ての大きな建物が建っている。
そこが目的地である精霊教室だ。ここでは、精霊術師の子供たちが精霊の召喚方法であったり、攻撃する方法、連携、特技など、基礎を学ぶことが出来る学校だ。
「おれも習ってみようかな」
なんてノリで呟いてみたが、エレナに「無理ですよ」と一蹴されてしまった。
この教室はエルフ族専用であり、他種族は入れないということだ。少し残念。
このエルフの里に来て、精霊術師も悪くないなと思ったんだけどね。
教室は全部で5つあり、1つの教室に生徒は20人弱だ。
座学をしたり、実戦経験を摘むための修練場まで完備してあった。
エレナはやはり子供たちにも人気であり、姿を見る度に「エレナさまー!」 「あ、エレナさまだ!」と
ここでもアイドルっぷり全快だった。
俺も最初こそは物珍しそうな目で見られていたが、すぐに子供たちに受け入れられた。
今は、修練場にて生徒同士の実践訓練を見学している。基本的には精霊1体が使用できる特技は1つと決まっている。
上位の精霊に限っては、2つ、3つ使える精霊もいるそうだが。
術者が召喚した精霊に命令し、戦いを行う。下位レベルの精霊でも、相性と術者の的確な指示によっては、上位レベルの精霊に勝つことが可能なようだ。
今対戦しているのは、レベル8のフィローという火を吐くハリネズミのような精霊とレベル6の素早い動きが得意な、テディーベアのような外見のリトルフッドだ。レベル差で考えるならば、フィローの方が有利なのだが、勝敗が決して見ればリトルフッドが勝利していた。
素早い動きで、火炎を避けていき、拳をクリーンヒットさせて勝負あり。
実にいいものを見せてもらった。
エレナに感謝しつつ、視察を終えた俺たちは、生徒たちに手を振り、精霊教室を後にする。
ちなみに精霊は、同時に複数体召喚する事が可能なようだ。
しかし、同時召喚にはかなりの集中力を必要とするそうで、ある程度熟練した精霊術師である必要があると言う事だ。
あまりユイを放っておくと怒られそうな為、俺たちは屋敷へと戻ることにする。
エレナは視察の報告をする為に一度王宮に戻ると言うので見送りし、別れた。
屋敷に戻る道中に剣の稽古をしているエルフの青年がいた。
「ハッ! やぁ! とぉ! 」
無駄な動きも多少目立つけど、なかなかの剣さばきだな。
暫くその姿を観察していたら、彼が気が付いてこちらの方に歩み寄ってきた。
「あなたは確か、人族のユウさんですよね」
どうやら俺の事を知っているようだ。有名になったものだな。
「ええ、そうですけど」
「噂は聞いています。なんでも、ものすごい大魔導士だとか⋯」
彼は目を輝かせていた。噂というのは、尾ひれがつくものだ。しかし、大魔導士とは、これいかに⋯
そして彼が俺に頼み込んできた。
「僕の妹の先生になってくれませんか!」
頼まれることは嫌ではないけど、あまり長くこの里に滞在する気もなかったので、断るしかなかった。
しかし、彼もなかなかにしつこい、というか諦めない。いつだかの怪我を治してあげたエルフの女性もそうだったが、エルフ族は諦めの悪い人が多いのか?
彼が必死なって頼み込んでくるので、取り敢えず理由を聞いてみる。
彼の名前は、アスト・ヘイルデューン。なんとエルフ騎士隊の隊長だそうだ。妹の名前は、ミア・ヘイルデューン。魔術師だという。
このエルフの里において、精霊術師の割合は7割ほど、残りの3割が他職種な訳だが。
騎士隊の隊長であるアストは、ミアには魔術師隊の隊長になって欲しいと常日頃から願っていた。
しかし、ミアにはやる気はあるのだが、才能というのが皆無なのだとか。どんなに勉強しても、努力しても思うように魔術が発動してくれないらしい。
この2人が強くありたいと思う理由は、簡単に言えば親の敵討ちだった。
単純に敵討ちならば、協力しないつもりでいた。
しかし、2人は違った。
自分たちが強くなり、この里を外敵から守り、私たちのような思いをする子供たちを2度と作ってはならないと強く願っていた。
途中から当の本人のミアも加わり、俺を口説こうと会話に入ってくる。流石にここまで言われれば「はい、さようなら」では、俺も心が痛い。
可能な限り協力するという条件でミアの先生となることを快諾した。
早速明日から訓練を開始しようということで、今日は解散となった。
屋敷に戻った俺は、案の定機嫌を損なっていたユイのご機嫌取りに必死だった。
「悪かったってユイ。ほら、お土産を買って来たんだから、そろそろ機嫌を直してくれないか?」
「もう、物で釣ろうなんて私はそんなにあまくはないよ!」
こうなることを予想していた俺は、お土産を買っていたのだ。
それは、この間食べたラミアだった。
朝一に予約しておき、帰りがけに受け取っていた。
普通に並んでいたらきっと2,3時間待たされてしまっただろう。
美味しそうに食べている。どうやら機嫌は直ったようだ。
先ほど、物では釣られないと言っていたような気もするが、バッチリ釣られている。
チョロイな。
ユイが暴走したら俺には止められそうにないしね。




