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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第1章 雌伏の時
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第5話 俺の覚悟

 槍の訓練を始めて1年が経った。グラン先生から槍の《強化知識》の取り込みも増えたし、

始めたときから比べたら、格段に強くなっている。

当初忙しいと言っていたグラン先生は、3日に1度は我が家にやってくる。

本当に忙しいのだろうか?と疑問に思うが、教えてもらっている立場としては非常にありがたい。

最近は訓練の休憩中に槍以外のこと、魔物や魔法、自国・他国のことなど、色々と教えてくれる。

今や完全に俺専属の家庭教師と化している。

グラン先生は若い頃、武者修行で諸国漫遊の旅をしていたので、驚くほど博識だ。

武者修行はともかくとして、諸国漫遊は俺の夢と同じなので、

それを知った先生は自分の体験談を面白おかしく語ってくれる。




「さて、では今日の訓練を開始する。」


古の森の端で俺に向かって先生はそう宣言した。

古の森、アルガルド大陸にあるもっとも歴史ある森とも言われている。

生命に道溢れ、食材・薬草・鉱物など人間にとって重要な資源が数多く眠っている。

そして別名、帰らずの森とも呼ばれている。

それは過去の王たちがこの森の開拓に挑戦したが、いずれも失敗、

開拓しようと森に入った者は全員全滅したという、いわくつきの森だからだ。

そんな、人が手を出すべきでない古の森だが、実は抜け道もある。

少数で森に入る、森をむやみやたらに開拓しない、これを守れば森は牙を向かないのだ。

とは言っても魔物も数多く存在しているので、森に入ることが危険であることはかわりない。

その古の森がファイマ領内の南に位置している。


「先生、ここは子供は来ちゃいけないと言われているのですが。」


「付き添いがいるから、大丈夫だし、奥には行かんから問題ない。」


ファイマ領で住んでいる子供なら、誰だって知っている。

悪いことしたら、古の森に捨てるぞ!という怒られ方をするぐらい恐怖の象徴なのだ。

そんなことを考えていると、先生は真顔になって、俺にこう問うてきた。


「ジェノ坊、槍を何のために習っている?」


俺は目をつむり、少し考えてから答える。


「楽しいからっていうのもありますが、単純に言えば、自分自身が強くなるため、身を守るため、夢を叶えるためです。」


「身を守るためか・・・だが槍、というより武器の本質は、人や魔物を傷つけるもの、つまり殺すためのものでもある、それはわかるな?」


「!・・はい。」


前世で運動がずっと出来なかった俺は、体を動かすのが楽しくて、槍を習うのが楽しくて、

その本質に気づかなかったが、確かにその通りだ。

地球でなら槍の練習をしたからって、実際に人は殺さないし、動物を傷つけることもない。

せいぜい、そういうクラブとかで、試合をする程度だろう。

この世界で武器を使うということは、強くなるということは、人を魔物を殺す覚悟を持てということだ。

考えいるうちに俺の顔が引き締まっていくのが、自分でも分かる。


「聡いな、わかって欲しいのは必ず殺せということではない、だが殺意を持てる者と持てない者の差は大きい。殺意の籠っていない攻撃など、鍛え上げた武人、ましてや魔物には通じない。真の強者といわれるものは等しく覚悟が違う!一撃一撃に魂が宿っている!・・それは訓練だけでは決して身に付かない。身を心を削り、命の取り合いをして初めて身に付くものだ、強くなるためと言ったな、夢を叶えたいと言ったな、ならここが最初の正念場だと思え、今日はお前の覚悟を見る!」


次第に熱を帯びてくるグラン先生の言葉。武人の覇気というのだろうか、

そんな先生から涌き出る迫力に、恐れからか全身が小刻みに震える。


「おっと、すまん。つい熱くなった。怖かったか?」


「はい、凄く怖いです、でも僕のためなんですから、大丈夫です。」


「ジェノ坊は本当に6才とは思えんほど思考が大人だな。だから今回の訓練を行えるのだが。」


そりゃそうだ。本当ならもう30才オーバーの年齢なんだからな。

むしろ、子供のフリをする方がしんどいぐらいだし。

近所の同年代の子供達とも遊んだことあるが、まったく話が合わなかったので、結局ひとりぼっちのままだ。

よくよく考えてみれば友達いえば、前世でお世話になったあの仏頂面の担当医ぐらいしか思い出せん。

うーん、やっぱり寂しい。もうすぐ学校に通う年齢になるし、友達100人ぐらい出来るかな、

出来るといいなぁ。


「とは言っても、そう強い魔物と殺り合うわけではない。今のジェノ坊の実力なら必ず勝てるはずだ。そして武器はこれを使え。」


俺をみてニコリと先生は笑う、そして空中に手をかざした。


【@*$%&よ、我が声に応え、ここに顕現せよ! 次元収納】


先生がそう唱えると、空中に黒いモヤみたいなものが現れる。


《言語理解・翻訳能力が発動します、呪言無属性、理解開始》


おお!知らない言葉だったが、すぐに《言語理解・翻訳》が発動したので途中から意味が理解出来た!呪言無属性か!

ということは、これは魔法!これが魔法なのか!?

先生はその中に手を突っ込み、ゴソゴソとなにかを探す、そして金属特有の銀色に輝く槍を取り出した。

そして取り出したあと、黒いモヤは最初からそこになかったようにスッと消えた。


「先生、今のは魔法ですか!!!」


「おおぅ、大きい声だな。もしかして魔法を見たのは初めてか?」


俺は首を縦にブンブンと振る。


「なるほどのぅ、初めてだったらそりゃ興奮もするか。」


「収納の魔法・・・」


「なに!?今の呪言の意味が分かったのか?」


あっ、そうか!以前先生から聞いていたが、呪言というのは特殊な言語体系が用いられており、

そして訓練無しでは出すことが出来ない特殊な発音が必要だ。

何年も勉強・訓練をしてようやく使えるもので、とても6才の子供が理解できる内容ではない。

だが俺は《言語理解・翻訳》というチートを持っている。

呪言も普通に翻訳されてしまったので、全て理解できてしまう。


「いえ、ですが先生が空中から槍を取り出したから、収納の魔法なのかな?っと」


俺は自分のチート能力や記憶を持っていることを、今のところ誰にも教えるつもりはない。

それは自分の身を守るためにも必要だと考えているし、

伝えることで、もしかすると伝えた方に危険が及ぶかもしれないと考えると、おいそれとは言えない。


「流石ジェノ坊、よくわかったな、これは次元収納という魔法だ。これは旅に出るときなどには凄く役に立つ魔法でな、さっきのように鞄代わりに使える。」


どうやら、うまくごまかせたみたいだ。迂闊だった、今度からは気を付けよう。


「どのぐらいの容量が入るのですか?」


「そうだのぅ、使用する人の魔力次第だな、俺の場合はこの槍で換算すると20本ぐらいが限界だな。」


そう言って、先程次元収納から取り出した槍を俺に渡す。

受け取った槍はずっしりと重い。穂先を触ると金属特有の冷たさが手に伝わり、

これが生命を奪うものだと否が応でも認識してしまう。

それにしてもこの槍、穂先が金属だから以外に重量あるけど、これが20本か・・・結構入るんだな。


「魔法のことはまた後でじっくりと教えてやる、そろそろ行くが、覚悟はいいか?」


俺は手にした槍を構え、上段・中段・下段と連続で突く。

今までの木の棒で出来た槍とは長さも違うし、バランスも異なるし、重量も違うが、

数度槍を振るっているうちにそんな違和感も無くなっていく。


「はい、大丈夫です!」


覚悟は決まった。

俺は俺のため、魔物を糧に強くなってやる。

そうして俺は古の森に進入、初めての実戦に向かうことになった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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