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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第1章 雌伏の時
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幕間2 グランとジルオール

 「グラン殿、息子に槍を教えてやってくれないでしょうか?」


久しぶりに会ったジルオールの第一声はそれだった。

俺は先日6年間の大遠征を終えて、ようやくファイマ領にやってきた。

このルーガニアはアルガルド大陸の東に位置し、森や海や山といった自然に囲まれた資源の多い国だが、

発達していない地域も多く、その分、野盗に魔物も多く存在しており、

定期的にそいつらを刈らないと商業も滞るし、民にも被害が出る。

なので王家が精鋭部隊から数人ずつ選び、修行も兼ねてルーガニア全土を警備して回る。

これは将来の幹部候補たちが各領の状況、地理、魔物の習性などを知るためにも必要なことだが、

実際の多くの討伐は各領の部隊や冒険者ギルドがメインなのは間違いない。

俺は王都のルーガニア王家特化槍隊隊長という肩書きを持っていた。

年老いて後人に道を譲ったのだが、絶対に辞めないでくれと泣きつく軍務大臣に乞われ、

仕方なく名誉隊長という役目を引き受けた。

だがコイツ引き受けてすぐに、名誉隊長なら大遠征にも先導役として参加してくださいとぬかしやがった。

俺をルシアとその子供達から6年間も離させるとはなんと鬼畜の所業か。

すでに軍務を引退した俺は、あの子らに会うことだけが楽しみなのに。

槍で突き刺してやろうとも思ったが、王家の勅命になったので、引き受けざるをえなかった。


「ん?マークをか?構わんが、マークは争い事は向かんぞ。」


あいつは頭は切れるが、運動はダメだ。本当にダメだ。

剣を振り降ろせば自分の足に刃を当てて斬ってしまうし、槍を突くぐらいなら出来るが、

腰も足もまったく動かないで突くから、威力も速さも足りない、何度修正しても直らなかったし。

だがその分、子供の頃から人一倍知識旺盛で利発な子だった。


「いや、それは私も理解しています、あれに戦闘を仕込むなんて、神様でも無理でしょう。」


まあ自分の息子のことだから、そりゃ一番わかっているだろうが、

神様でも無理とは言い過ぎじゃねえか・・・・いや、言い過ぎじゃないな、無理だ。


「マークの最大の武器はその優秀な頭脳なので、武器なんて必要ないでしょう。あれは武辺一辺倒の私に似ず、優秀で過ぎた息子だ。」


「お前のどこが武辺一辺倒なんだ、それは俺のようなやつが言うことだ。」


このジルオールという男、剣の腕も顔も超一流、

知勇に優れ、陛下の懐刀、ルーガニア王国の守護騎士とも言われている。

30年前の魔物大恐慌で壊滅しかけた我が国を救った功労者の一人だ。

俺も武にかけては自分でも言うのはなんのだが、ひとかどの人物であるが、

それは個人の勇であって指揮能力の才能は皆無だ。

仮に1対1で殺しあえば、無傷ではすまないが、十中八九俺が勝つ。

少数の集団戦までなら、いい勝負をすることは出来るだろう。

だが軍隊での戦闘になったら話は別だ、蹂躙されて終わる。


「ははは、グラン殿は誰よりも勇ましく先陣を突っ走る方ですから。」


思わず男の俺がみても惚れ惚れとする笑顔だ。

王都では吟遊詩人や絵師がこぞってコイツの歌を歌い、絵を書くのも分かる気がする。


「息子というのは、3男のジェノンのことです。」


「なん・・だと、俺が遠征に行っている間に子供が生まれていたのか。」


「えぇ、ちょっと変わった子ですが、ルシア似の可愛い男の子です。」


ルシアは平々凡々とした顔立ちだが、一緒にいると何故か心が癒される。

戦いでささくれだった精神を落ち着かせ、とても満ち足りた暖かい気分になれる稀有な女性だ。

俺がもう20才若ければ、拝み倒してでも結婚してもらいたかったほどだ。

大体、コイツがこのルーガニアでも田舎のファイマ領に来たのは、ルシアのためもあった。

王都でコイツと結婚したルシアが他の貴族の令嬢たちにやっかみを受けたのが原因である。

まあそのあと、その令嬢と親たちはそれなりの制裁を受けることになったが。

なんせ王家も一目置いているコイツの妻を侮辱したのだ、結果は推して知るべしである。

無論、それだけで陛下の懐刀、守護騎士とまで言われた男を王家が王都から手放すはずがない。

実はそれだけファイマ領という土地は重要なところなのである。

ファイマ領の領内は広くないし、田舎であるが、実は魔法石碑なるものが多く存在している。

魔法石碑とは魔法を使うのに必ず必要になる呪言というものが書かれた石碑だ。

普通、人間は魔法を使えない。

使うには条件をいくつも越えなければならない。

まず、魔法を使えるぐらいの魔力をもっていること。

その次に魔法石碑の呪言の文字を理解し、呪言を手でなぞりながら正しく詠むこと。

こうすることで、体内に魔法が組み込まれ、発導体を使うことで魔法が使用可能になる。

このとき、石碑の魔法を使える魔力が足りないと覚えることができない。

魔法は戦いの戦局をいともたやすく変えるものもあるので、どの国も国家が管理している。

この魔法石碑の多いファイマ領は、ルーガニアでも非常に重要度が高いこともあり、

陛下の実の弟であるレイグリット殿下が領主になり、王家直轄領として石碑を厳重に管理している。

まあ今はそんな話はどうでもいい、俺にはルシアの子供の方が重要なのだ。


「教えるのはいいのだが、大丈夫か?子供はどいつもコイツも俺の姿を見るとびびってしまうのだが。」


こいつらの子供が小さいときも、散々泣かれたのだ。

そのたびに俺は悪くないのに、ルシアに理不尽に怒られた。


「ははは、そういえばうちの子供達を泣かして、よくルシアに怒られてましたね。」


そう、それでも懲りずに何度も足を運び、ようやく慣れて泣かなくなったのに、

まさかの大遠征強制参加とは・・・くっ、やはり軍務大臣はあのとき殺しておくべきだった。


「だがなぜ槍なんだ?剣は教えないのか?」


「ジェノンが槍がいいと言うもので。」


ジルオールのやつ、苦虫と噛み潰したような顔をしているな。

どうやら息子が自分の得意な剣でなく俺の得意な槍を選んだのが、くやしいらしい。


「いや、槍の次は剣も習うと約束してくれましから。」


にやにやと笑う俺の顔から感情を読んだのか、先手を制してきた。


「わかったわかった、とにかく会ってみよう。今から会いに行くか。」


「よろしくお願いします、くれぐれも泣かさないでくださいよ。」


「それは保証できん。」


さて、剣でなく槍を習いたいという姿勢は非常に気に入った。早速会いに行くぞ!

待っておれ、ジェノン!

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