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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第2章 袖振り合うも多生の縁
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第7話 教会での再会

 ドラガン食堂を出た俺はそのまま教会に向かうことにした。別れ際にリティアさんにそう進められたからだ。教会で寄付をするか奉仕をすれば、聖魔法を習得出来るから行ってみてはどうかと。

うーん、教会ねぇ。実は前々からその情報は知っていたのだが、俺はどうも教会に行く気が起きなかった。日本にいた頃、病気で臥せっていた俺に、信心が足りないから病気にかかったのだとか、この壺を買えばたちまち治るとかいう、怪しい宗教の信者が近づいてくることが多々あって、そのせいで宗教に関して否定的になってしまっているからだ。

無論、そんな罰当たり宗教や信者ばかりではないこともわかってはいるし、その人たちも本心からそう思っていたのかもしれないけど、そんなことで原因不明の不治の病が治るようなら、医者はいらないと俺は思っている。そんなわけで、俺は聖属性の魔法を覚えたいのは山々だが、教会に向かう気にならず、今まで放置していた。

そしてもうひとつ、俺が教会に行かなかった理由がある。それは俺の見た目が幼すぎたということだ。年端もいかない子供が、教会に一人で来て聖魔法を覚える・・・どう考えても目立つ、目立ちすぎる・・・そしてそれは俺の望む所でない。

だけどその問題は俺が冒険者(見習いだが)という職を手に入れたことと、背が伸びて見た目が幼年から少年になったことにより、無事クリアした。というわけで行かない理由もなくなったことだし、このままじゃ回復魔法も覚えられないし、リティアさんの誘いをいい機会だと前向きに受け止め、重い腰をあげ、教会に出向くことにしたのだ。


 ところでそもそもの話だが、本当に神はいるのだろうか?俺はこの世界に来る前に『死んだ人間の魂が集まる場所』でそれらしき方と話す機会があったが、俺の精神?魂?に直接その声が聞こえてきただけで、実際に姿を拝見していない。それにあの方もあの時、自分のことを神と称していなかった。

俺がこの世界に転生出来たのが、神のお陰というのなら、全身全霊でその神に感謝を示すのだが、今のところ、この世界に俺が転生してから、神らしき気配を感じたことはない。

そんなことを思案しているうちに、俺はいつのまにやら教会の前までやって来ていた。このアルガルド大陸にはまず三柱の大神が存在している、と定義されている。空を司る神ウラノウス、大地を司る神エザフォウス、水を司る神ネロがそれだ。その三神が始まりの三神と言われ、この三神から川の神や火の神、山の神など、数多の神が生まれ出でたらしい。そこらへんは日本の八百万の神に近い思想だと思う。

俺が住んでいるルーガニア王国は、個人の信仰は自由であるが、国教としては大地の神エザフォウスになっている。そして俺がやって来た教会は、その国教である大地の神エザフォウス神を奉っているエザフォウス教会ファイマ支部だ。




 教会の回りには信者や教会関係者らしき者がまばらに居て、俺はその中から一人で移動していた女性に声を掛ける。教会に戻るところだったのだろうか。


「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」


「なんでしょうか?」


カトリックでいう所のアルバのような祭服を装った女性が、俺の呼び掛けに応えてくれた。ピンク色の髪の毛が印象的な柔らかな感じがする人だった。


「ここで聖属性の魔法を覚えられると伺ったのですが?」


「はい、寄付か奉仕をしていただければ」


女性の話では、聖魔法を奉仕で覚える場合は炊き出しや清掃などを一ヶ月、寄付の場合は1000ゴルドから受け付けているとのことだ。俺は手っ取り早く覚えたいので、1000ゴルドを寄付することを選択した。いままでたくさんの魔物や魔獣を狩り、その素材を売ってお金を稼いでいたので、そのぐらいの金なら即金で払える。ちなみにその素材は、騎士団で使うのだろうか、父さんが買い取ってくれた。それ以外では、フローラ姉さんが薬の材料に引き取ってくれていた。


「わかりました、ではこちらの方に来ていただけますか」


俺は女性に促されて教会の中に入る。キリスト教会のような感じだろうか?静謐なその雰囲気に、神を信じていない俺でも、自然に身が引き締められるのを感じた。身廊を通り抜け、祭壇の横にある小さなドアを抜ける。ドアを抜ける前のその一瞬、どこからか俺を見張るような気配を感じたが、敵意は無かったので、そのまま通り抜けることにした。そしてその通り抜けた先で、俺は以外な人物と再会した。


「あれ?ジェノン君じゃない!」


ドアを抜けた先にいたのは、以前亡者鬼の件でお世話になったメディーさんだった。先程のリティアさんたちといい、今日は何とも偶然が続く日だ。


「メディー様、お知り合いですか?」


俺を案内してくれた女性がメディーさんと俺を交互に見てそう質問した。


「えぇ、結構な知り合いよ。ね、ジェノン君。久しぶり、大きくなったわね」


「はい、ご無沙汰しております。その節では大変お世話になりました、本当に感謝しております」


「ふふふ、どういたしまして。でもあれが私の仕事なのだから気にしないでいいのよ・・・それよりジェノン君、挨拶が固い、固いわよ。そう他人行儀にならなくても、一晩一緒に過ごした仲じゃない」


メディーさんは俺の固い挨拶がツボに入ったのか、掌を口に当て可笑しそうに朗らかに笑った。それとは対称的にメディーさんの言葉を聞いた女性が、えっ!と驚き、俺を一瞬凝視すると、険しい顔をしてメディーさんを猛然と問い詰め始めた。


「メディー様、それはどういうことですか!」


「ふっふーん。それは私たちの秘密よ」


「はっ!・・・まさか、この少年に!・・・何かしたんですか!何をしたんですか!」


興奮しているせいか、メディーさんに詰め寄る女性の鼻息が荒い。


「あの時のジェノン君は可愛かったわぁ」


「あの、メディーさん。冗談はそのぐらいにしてもらっていいですか」


俺はメディーさんの冗談に苦笑いで返す。俺のそのセリフを聞いた女性は、そうよね、冗談よね、でも本当だったらうらやましいわと小声で呟くと、先程の勢いが嘘のようにおとなしくなった・・・何やら危ない発言が彼女から飛び出していたが、聞こえなかったことにしよう。触らぬ神になんとやらだ。

しかしメディーさんって、実はこんな性格の女性だったのか。あの時確かに一晩一緒にいたけれど、悠長に話している時間なんてなかったからわからなかった。


「ふふふ、そうね。それでジェノン君、今日はどうしてここに?」


髪をかきあげ笑いながら、俺に用件を訪ねてくるメディーさん。かきあげるその仕草が何とも様になっている。


「今日は聖属性魔法を覚えようと思って、こちらに来たんです」


「あ、そうだったんだ。そういえばジェノン君は聖属性だったわね。それじゃ教会で奉仕するのかしら?」


やはり第2騎士団では、俺が聖魔法の使い手と認識されているみたいだな、ギルドで聖属性を選択したのは正解だった。


「いえ、寄付にしようと思っています」


「あら、結構お金持ちなのね。そっか、ジェノン君の実力なら、そのぐらいすぐに貯まるわよね・・・あっ!そうだ!ジェノン君、もしよかったらだけど、寄付じゃなく奉仕にする気はない?」


「奉仕ですか?」


突然そう言い始めたメディーさんの意図が分からず、俺は怪訝な目をメディーさんに向けた。


「えぇ、ちょっと個人的に手伝ってほしいことがあるのよ」


「つまり奉仕は教会の清掃とかではなく、メディーさんの個人的な仕事を手伝う、ということですか?」


「ええ、そうなるわね。どうかしら?」


ふむ、その仕事の内容次第によるが、お金もかからず聖属性魔法が覚えられるし、美味しい話かもしれない。


「そうですね、受けるかどうかは、仕事内容次第ですね」


「それもそうね・・・じゃあ内容なのだけど、私は定期的に国を巡回して、治療活動を行っているの。それについてきてもらおうかなと思って・・・どうかな?」


ほう、メディーさんはそんなこともやっていたのか。しかしその間、第2騎士団の仕事はどうしているのだろう?片手間に出来る仕事じゃないはずだ。


「本業の方は大丈夫なんですか?」


「これは第2騎士団からも認められた仕事の一環だから、その点は心配ご無用よ」


なるほどね、俺の杞憂だったか。


「じゃあ僕はメディーさんにただついていくだけですか?それじゃあ僕はいらないような気がしますが」


「私の護衛と道中の話相手、重要な仕事よ」


話相手というのはともかく、第2騎士団所属の女丈夫に護衛が必要とは思わないけど。


「はぁ、わかりました。メディーさんに護衛はいらないだろうけど、暇潰しの話し相手としてお受けします」


「もう、失礼しちゃうわね、私はこれでも乙女なのよ。男性に守ってほしいの!」


メディーさんがぷくっと頬を膨らます。その愛嬌のある仕草に思わず俺は頬が緩むのを感じた。だけどこの人、確か去年40歳だと自分で言っていたよね・・・だから今年で41歳か、完全におばちゃんだな・・・だが年齢からは信じられん可愛い仕草とその容貌に、俺はこの人もある意味化け物だと思った。


「今、何を考えていたのかしら?」


メディーさんの眼光が鋭くなる。ひぃ!こえぇ!この人、俺の表情から思考を読んだみたいだ。どうやら女性にとって年齢というのは、何時の時代も異世界でも扱いに注意しないといけないみたいだ。


「い、いえ、メディーさんはお綺麗な方だなぁと・・・それより聖属性の魔法なのですが、今は第2騎士団所属のメディーさんの手伝いをすることで、覚えられるのでしょうか?」


形勢が悪くなった俺は、このままではまずいとばかりに、急いで話を変える。そして俺の綺麗発言にそうかしらと、モジモジと満更でもない感じになった、ちょろいメディーさんを横目に俺は、案内してくれた女性に今は教会関係者でもないメディーさんの手伝いで、本当に魔法が覚えられるのかどうか確認することにした。


「えぇ、おっしゃる通り、メディー様は今でこそ第2騎士団所属ですが、元はエザフォウス教の大地の乙女団の団長だったお方です。それに現在もエザフォウス教の信者として、ご活躍されております。そのメディー様が保証してくださるのであれば、こちらは何も問題ありません」


大地の乙女団といえばエザフォウス教の女性神官のみで集められた魔物退治専門の戦闘集団だ。選ばれし精鋭の集まりだと俺も聞いたことがある。純白の鎧と純白のマントをなびかせて、戦場を駆け抜け、戦闘に治療と八面六臂に活躍する彼女たちは、女性の羨望と男性の憧れの的だとのことだ。


「そういうこと。だから私が責任を持って許可するわ。その通路の先に魔法石碑があるから、いってらっしゃい。私はここでララと退屈しのぎに話でもしておくから」


「退屈しのぎは酷いです~」


そうか、女性の名前はララさんというのか。俺は言葉とは裏腹に、ちっとも怒っていないそのララさんの少し甲高い間延びした声を聞きながら、メディーさんの言葉に従い、通路を奥まで進み、その先にあったマホガニー色をした重厚な木のドアを押し開ける。

重そうな見た目に反して、抵抗もなく開いていくドアを通ると、そこは教会の中庭だろう場所だった。そしてその中庭に魔法石碑が9体並んでいた。俺はその一つ一つを確認していく。


宿魂しゅくこんの眼光】

【浄化】

【優しき癒し】

【大いなる癒し】

血源けつげん産生さんせい

【解呪の祈り】

魔防まぼう聖盾せいたて

魔滅まめつ聖矢せいや

魔退またいの結界】


ふむ、全部知っている魔法だな。兄さんの部屋にあった本で読んだことがある。それにしても魔法石碑ってのは、どれも俺の身の丈より大きいからとても迫力がある。それが目の前に9体並んでいるものだから、圧巻の一言だ。

さていつまでも眺めているわけにはいかない。俺はまず以前から欲しかった回復系統の魔法から取得することにした。だから【優しき癒し】、【大いなる癒し】、【血源けつげん産生さんせい】、【宿魂しゅくこんの眼光】を順に取り込んだ。

【優しき癒し】と【大いなる癒し】は回復魔法、まあゲーム的に例えると小ヒールと中ヒールといったところだ。【血源けつげん産生さんせい】は失った血液や体液を増液する魔法だ。【優しき癒し】などの回復魔法は、傷や打撲などの怪我は治せるけど、失った血液などは回復出来ない。【血源けつげん産生さんせい】という魔法はそれを補うことが出来るのだ。

宿魂しゅくこんの眼光】は体の中の色んな情報がわかる魔法ってことだし、怪我だけじゃなく病気にも対応できるようになるかもしれないということで取得した。

これで俺は回復魔法を手に入れたので、怪我にも対応できるようになったし、怪我で失った血液も回復させることが出来るようになった。

回復系最上級【快癒かいゆの聖光】と浄化系最上級の【光照らす聖浄せいじょう】がないのは残念だが、両方とも簡単には手に入らないようになっているのだろう。後で入手方法をメディーさんに聞いておこう。

さて必要な魔法は覚えたが、ここで問題がある。残りの魔法をどうするかということだ。魔法というのは覚えられる量に限りがある。俺は魔力量が普通の人よりかなり多いので、沢山の魔法を覚えられるが、それでも無限じゃない。

調子に乗って、いらない魔法をほいほいと取ってしまうと、いざ覚えたい魔法があった時に覚えられなくなる可能性もあるから、魔法を覚えるのは慎重に慎重を重ねて吟味すべきなのだ。

【浄化】はもう覚えているからいいとして、残りの4種類、【解呪の祈り】、【魔防まぼう聖盾せいたて】、【魔滅まめつ聖矢せいや】、【魔退またいの結界】をどうするかだ。


ちなみにその効果だが、


【解呪の祈り】

対象者に付与された魔法や呪いを解除する効果がある。


魔防まぼう聖盾せいたて

魔物や魔法攻撃を減衰させることが出来る光の盾を発生させる。耐久力以上の攻撃を受ければ破壊される。


魔滅まめつ聖矢せいや

魔獸や魔物にダメージを与えることが出来る光の矢を放つ。それ以外には効果がない対魔専用魔法。その分、魔物系には高い威力を発揮する。


魔退またいの結界】

魔獸や魔物が嫌がる結界を作り出。魔物系以外には効果がない。この魔法の使用中、使用者は魔力が減り続け、他の魔法が使えなくなる。


という魔法効果だったはずだ。「魔法について」という本にそう記載されていたのを覚えている。どれも使えそうなんだけど、正直どれだけ効果があるのかまったく検討つかないな・・・よし止めておこう。必要性を感じてから、覚えに来ればいいか。


 


 しかし、ここの警備はギルドと比べて凄いザルだと思う。中庭は二メートルほどの壁に囲まれているけど、決して登れない高さじゃないし、警備兵にもまったく出会わなかった。いいのか、これで?

さらにいえば1回の寄付・奉仕で9種類の魔法が覚えられるなんて、ちょっとおかしくないか?普通は1回につき、1種類だろうに。こちらとしては凄く特をしているので、文句はないが少し心配になるレベルだ。

話は変わるが、心配といえば、あれほど忌避していた教会だったのに、いざ来てみれば何てことない、別に何の感情も抱かなかった。来る前の俺の葛藤は何だったんだって感じだ、正直拍子抜けした。


「・・・帰るか」


一応目的の魔法を手に入れた俺は、取得しなかった魔法に若干後ろ髪引かれながらも、用事は済んだとばかりにここから退散することにした。

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