第6話 牛魔王とジェノン、そして予期せぬ再会
再びドラガンさんと店の中に戻る。料理が出来るまでテーブルで待ってるようにと指示されたので、俺は素直に適当に空いている席に座った。
昼食と夕食の間のせいか、店内の客はさきほど野菜炒めを取りに来た女性二人組のみだった。最初に俺が食堂に来たときにいた客は、皆もう帰ってしまったのだろう。
「それでさあ、最近はクリスとはどうなのよ?」
「えっ!何もないよ・・・クリスって私に興味ないんじゃないかな?」
「そんなわけないじゃん!クリスってば、いっつもいっつもリティアのこと気にかけてるし」
「そうなのかな?」
「そうよ!あれって絶対にリティアのことを好きだからよ」
うーん、そう広くない店内ってのもあるけど、今は閑散としているこの食堂、いやがおうにも俺の耳に彼女たちの会話が入ってくる。
「私のことより、サーラはどうなのよ?」
「あたし、あたしはギークとは何もないわよ」
「ふーん、私、相手がギークだなんて言ってないけど」
「そ・それはあれよ!あたしの近くにいるのは、ギークしかいないから、そう思ったのよ!」
「ほんとに~?」
ちらっと見ればサーラと呼ばれた女性の顔は真っ赤っかだ。あれじゃギークって人のこと、好きなんだなとまったく他人の俺が見ても丸わかりだ。何ともわかりやすい女性だ・・・と分析してる場合じゃない、俺は他人の恋愛話を盗み聞くなんて趣味の悪いことはしたくない。それが勝手に耳に入ってくるとしてもだ。
ただ何もせず待つというこの暇な時間がいけない。暇すぎてついガールズトークに耳を傾けてしまうんだ。だから料理よ、早く来い!
「出来たぞ、ジェラン!」
待ってました!俺の望みが通じたのか、ドラガンさんが俺のテーブルまで、料理を持ってきてくれた。テーブルに置かれた料理、木の皿の上に鉄板、そしてその鉄板の上にこれでもか!と言わんばかりに、分厚いエアーズロックのような肉の固まりがドーン!と自己主張していた。ジューという香ばしい音に、跳び跳ねる肉汁、鼻腔を刺激してやまない蒸気。
「美味しそう!!」
「熱いうちに食え。ドラガン食堂特製牛魔王の背肉焼き、紅サンガダゲ添えだ、味付けはこの森の恵みを使え」
なんだと!牛魔王だって!これはもちろん西遊記に出てくるアイツではない。冒険者の上級クラスでも狩るのが難しいと言われる魔獣で、数も希少な牛の中の牛と言われる幻の牛だ。魔獣に分類されるが、見た目はそれに反し、白一色でとても神々しく、神牛とも呼ばれることがあるらしい。そしてその牛革は革鎧の素材としては、最高級の素材のひとつとされている。
それの背肉・・・つまりサーロイン、半端なく超高級料理だ。それに紅サンガダケも古の森でしか採取出来ない高級キノコ、そして森の恵み、これは古の森で取れる岩塩のことで、浅層を抜け、中層以降でしか手に入らない高級岩塩だ。
あまりに高価な食材のオンパレードに、一瞬食べることを躊躇ったが、俺のために作ってくれたのだ。それに食べる食べない以前に、料理はすでに完成して俺の目の前に鎮座している。だから俺は遠慮なくご馳走になることにした。
「じゃあ、遠慮なくいただきます!」
「おう食え食え」
俺はフォークで肉に切れ目を入れる。ナイフを軽く引いただけで、なんの抵抗もなく肉が切断された。なんという柔らかさ、これが牛魔王か。切れた肉をフォークで突き刺し、ちょんちょんと森の恵みを付け、口に放り込んだ。噛む前に肉が口の中で溶けていく。
肉の脂が口に広がる。脂が多いのに、まるで脂特有のしつこさがまったくない。むしろあっさりとしているぐらいだ。それにこの森の恵み、俺が今まで食べていた岩塩に比べると、信じられないぐらいに風味豊かでコクがある。この塩は普通の料理には逆に使えないだろう。あまりにコクがあり、通常の食材ではその味を殺してしまいかねない。
だがそれがこの牛魔王の背肉と合わさることで、お互いが調和し、奇跡のコラボレーションを生み出しているのだ。添えてある紅サンガダケもいい。紅サンガダケ特有の鮮やかな赤が肉料理に彩りを与えてくれる。シャキシャキ感のある食感、味も高級食材だけあって申し分ない。
「ちょっちょっと!ドラガンさん!」
「なんだ、サーラ」
そんな俺の至福の時間を邪魔するかのように、血相を変えて突然ドラガンさんに詰め寄る一人の女性がいた。それは先程ガールズトークをしていたサーラさんという女性だった。彼女は突然どうしたのだろうか?とふと思ったが、今はこの料理から手が離せない、なんせ旨すぎるのだ。だから俺は手を止めず料理を堪能し続けた。
「その子、何者なのよ!!どっかの貴族の子!?」
「いや、見習い冒険者だが」
その通り、しかも今日からです。それにしても本当に美味いな。
「なんで見習い冒険者が牛魔王の肉を食べているのよ!」
サーラさんの絶叫レベルの驚きの声が、店内に響く。
「なんでと言われても・・・俺が奢ると約束したからだが」
「えー!あたしも食べたい」
「お前には代金を払ってもらうぞ・・・ちなみに1000ガラドだが、払えるのか?」
1000ガラドね・・・日本円換算で20万円か・・・20万円!!!あまりの値段に一瞬だけ食べていた手が止まる。だがもう半分食べている、気にしたら負けだ、俺は止めていた手を再び動かした。
「払えるわけないじゃん!」
「だろうな、まあどちらにしろ、もう食材は残ってないがな。今ジェランが食べている分で最後だ、あきらめろ」
「ねぇ!君!!」
ドラガンさんの話を聞いて、矛先を変えてきたサーラさんは、俺のテーブルまでやってくると、両手をテーブルにつき、俺の目をのぞきこんだ。俺は何?と目だけで合図をする。もちろん食べる手は緩めない。
「ちょっとだけでいいの!せめて一切れ」
これはドラガンさんが俺のためだけに作ってくれた料理なのだ、例えどんな理由があろうと渡すわけにはいかない。俺はフルフルと首を横に振る。もちろん食べる手は緩めない。
「えー!今なら中級冒険者のとっておきの話を教えてあげるから」
へぇ中級か。見た目や雰囲気から彼女はまだ十代ぐらいにしか見えない。十代で中級になれるのは、相当優秀な部類に入る。だがそんなことはおいといて、この肉と中級冒険者の話、どっちに天秤が傾くのか、俺にとって考えるまでもない、それは肉だ!ということで、俺は先程と同じく首を横に振る。もちろん食べる手は緩めない。
「そんなこと言わないでさ~、お願い」
俺が拒否するとサーラさんは、俺の目の前で両手を合わせ、お願いのポーズをする。これがグラン先生が仰っていた女性の誘惑?というやつだろうか?さすがに違うな・・・と、そう考えている合間も、もちろん食べる手は緩めない。
そして気がつけば、最後の一欠片になっていた。俺は躊躇せずそれを口に放り込む。肉は俺に打ち震える感動を残して消え去っていった。俺は目を瞑り、その余韻に浸る。
「あー!全部食べたー!」
「サーラ!いい加減にしなさい!後輩にたかるなんて恥ずかしい行為、するものじゃないわよ」
とうとうもう一人の女性、リティアさんに怒られるサーラさん。うむ、なかなかの強敵だった。恨めしそうにこちらを見るサーラさん、というかそもそも俺のための料理だし、それは逆恨み以外の何物でもないと思う。
「ドラガンさん、ご馳走さまでした。こんな美味しい料理は初めてです、大満足です。ありがとうございました」
「そうかそうか、ま、それだけの味が出せたのは、俺の腕ってつーよりも、素材の恩恵が多いがな」
俺の心からのお礼に、わははとドラガンさんが豪快に笑った。確かに高級素材ってのもあったけど、いくら素材が良くても扱う人間が未熟だと、ここまで美味しくはならないと俺は思う。それを伝えると、ドラガンさんは若いのにわかってるなと、嬉しそうに笑った。
しかしどうしてドラガンさんはこんな超高級料理を、見習いの俺にご馳走してくれたのだろう?そこが理解できない。俺はそれを正直に聞いてみた。
「うーん、そうだなぁ」
俺の質問にドラガンさんは顎に手をやり、思案している。
「俺はもっと美味しい料理を作りたい。それには腕も必要だが、何よりまず食材が必要だ。だがいい食材は手に入れるのは難しい。お前はこの先大物になるだろうと俺は思っている。もちろんさっきの詫びもあるが、お前の将来性を見越して、俺が今出せる最高の料理を出した。
その上でお願いがある。いい食材を手に入れたら、まずは俺のところに持ってきて欲しい。もちろん金も払うし、料理代も俺が持つ」
俺にとって都合の良すぎる話だ。ドラガンさんが俺のどこを高評価してくれたのかはわからないが、その目を見れば、今の話が本気であることが窺える。
俺にとっても美味しい物を食べるというのは、この世界の目的のひとつに合致する。一応俺も料理は家で習ったので、出来ることは出来るが、それはあくまで素人レベルだ。とても本職の人が作り出す料理には叶わない。
ちなみグラン先生も旅が多いせいか、自分で料理が出来る。だがあれを料理といっていいのか俺にはわからない。だって先生の料理は、基本、捕まえた魔獣や動物をそのまま丸焼きという豪快なものだったからだ。
そしてそれ以外の食べ物も豪快の一言に尽きる。野草も生で丸かじりだし、虫も捕まえてはその場で丸かじりだった。幸か不幸か弟子の俺もそれを実体験させられた。その結果、野草はさておき、昆虫がそのグロい見た目に反して、とても美味しいということを知った。
俺はグラン先生にそういった知識、例えば野草であれば生える場所や時期であったり等、何処にいても一人で食材を調達出来るよう、様々な知識をその身に叩き込まれた。だからといって毎回それを食したいわけじゃない。出来ればちゃんと調理されたものを食べたい。今なら次元収納もあるのだし、調理された物をそれに収納して持ち運ぶのが一番だと思っている。その点から考えても、ドラガンさんの提案はとても魅力的なものだ。断る理由がない。
「わかりました、じゃあいい食材を手に入れられるようになったら、持ってきますので、美味しい物、食べさせてください」
「任せろ、最高に美味いもん食わせてやる。じゃあ契約成立だな」
俺はドラガンさんと熱い握手を交わす。
「ちょい待ち~!!」
握手を交わす俺たちの間に、いつのまにやら復活していたサーラさんが割って入る。
「なんだ?」
「なんです?」
「その契約にあたしも入れてよ!」
「何故だ?」
{何故です?」
「あたしも美味しいものを食べるのを人生の生き甲斐にしているからよ!」
腰に手を当て、指先を俺たちに突きつけ宣言するサーラさん。ビシッという効果音が聞こえそうな位、それが様になっている。
「そうなのか?」
「そうなんですか?」
「そうなのよ!」
それであんなに牛魔王の肉を食べたがっていたのか。ただ食い意地張っているだけの人じゃなかったのか。まあ気持ちはわかるな。俺だって美味しい物を食べることに余念がないし。
「まあ僕は構いませんが・・・」
「俺も構わんぞ、だがさっきのようにジェランにはタカるなよ。基本は等価交換だ」
「う・・・わかってます。さっきは取り乱して、みっともない真似してごめんなさい。一度食べてみたかった牛魔王の肉が目の前にあったものだから」
さきほどの自分の行為を思い出したのか、本当にしおらしく謝るサーラさん。まあ俺も意地悪した部分もあったし、ここらへんで手打ちにしよう。
「謝罪を受け入れます。今度はお互いに手に入れた食材で美味しいものをいただきましょう。とは言っても僕は今日冒険者になったばかりの見習いなので、もう少し待って貰わないと、食材を手に入れることは出来ませんが」
「うんうん、それは大丈夫よ。ドラガンさんの人を見る目は確かなのよ。そのドラガンさんが間違いなしというのだから、絶対よ。君はきっと大物になるわ」
両腕を組み、頷きながら、そう力説するサーラさん。どうやらドラガンさんは中級冒険者が認めるほど、一廉ならぬ人物のようだ。
「よし、じゃあ契約成立だ」
ここに俺とサーラさん、そしてドラガンさんの三人にて美食同盟?が結成された。そんな熱い俺達におめでと~といかにも興味なさそうに所在なく緩く手をパチパチと叩くリティアさん。
「よかったね、サーラ。サーラって本当に美味しい物食べるの大好きだものね。あなたもそうなのかしら?」
「ええ、人生の醍醐味のひとつといっても過言ではないでしょう」
俺の言葉にドラガンさんとサーラさんが我が意を得たりと大きく頷く。
「ふーん、そうなのね。私も美味しいものは好きだけど、そこまでじゃないかなぁ・・・それよりあなた、ジェラン君と言ったわね、何処かで私と会わなかった?」
リティアさんは俺をじっと見つめると、使い古されたナンパ師みたいなことを俺に言ってきた。俺は自分の記憶を探すため、リティアさんの顔を凝視する。言われてみれば確かにリティアさんのこの顔、どこかで見たような・・・どこだ、どこだっけ?
あ!思い出した!この人、古の森で四つ目熊に殺られそうになっていたパーティーの一人だ。確か彼女は聖属性魔法を使って・・・えーと・・・そう!四つ目熊にやられたギークさんって人を治療していた。そしてサーラさんも、そのパーティーメンバーの一人で確か弓使いだったはず。
・・・何年前だったっけ?確か俺が八歳ぐらいの頃だから、概ね四年前か。その頃から比べると、俺は大分背も伸びたし、顔つきも変わった。気づかないのも無理ないだろう。
俺は一瞬その時のことを話そうかと思ったけど、冷静に考えれば八歳の子供が一人で古の森にいたことや、あそこで彼女らより、高い戦闘能力を持っていたことの説明を求められても面倒なので、知らない振りをすることにした。
「いえ初めてだと思います。それよりご紹介が遅れました。ジェランと申します。本日見習い冒険者になりました、よろしくお願いします」
俺は素知らぬ顔をして、この話はこれで終いにすべく、二人に挨拶をする。
「うーん、そうかなぁ?あの時の子に似ているような気がするんだけどなぁ・・・他人の空似かしら。私はリティア、彼女はサーラ。〈守護の指先〉って部隊に所属しているわ。よろしくね」
リティアさんが首を傾げながら挨拶をした。思いだそうとしていたのを諦めたのだろう。
「彼女たちはまだ若いが中級冒険者だ。最近の若手冒険者の中では一番の逸材だ」
ドラガンさんが補足説明してくれた。
「そうでしたか、お二人ともお若いのに、凄いんですね」
あの四つ目熊の件以降も冒険者を続けていたのだなぁ。殺されかけたトラウマもあるだろうに、心折れずに乗り越えたのだろう、本当に称賛に価する。
「いやー、まーそう言われると・・・ねぇ」
モジモジするサーラさん。俺の掛け値なしの称賛にテレッテレだ。この人、本当によく表情が変わって面白い。俺と違って感情表現がとても豊かだ。
それにしても〈守護の指先〉か。これはどう考えても父さんの守護騎士から取ったパーティー名だな。俺が父さんの息子だと知ったらどんな反応するだろうか?試してみたいけど、その後の展開を考えると面倒事が増えそうなので、これも黙っておこう。
「こう見えても色々あったのよ、魔物に殺されかけたこともあったし。私の魔力量がもう少し多ければね」
「あー!またそんなこと言ってる!リティアの聖魔法がなかったら、今ごろギークは死んでいたし、あたしだってリティアが怪我を治してくれたから、こうやってここにいるけど、もしいなかったらとっくに引退してたわよ」
サーラさんがリティアさんの発言に、両手でバンとテーブルを叩きつけて反論する。
「サーラの言うとおりだ、リティア。部隊に一人、聖属性がいるだけでも本来贅沢なことだ。それにお前は少しでも戦力になるため、弓も扱えるよう修練しているだろう」
ドラガンさんが助け船を出す。俺もそう思っている。パーティーに回復役がいるのといないのでは雲泥の差だ、まず安定感が違う。何せ怪我や毒も自分たちでその場で治療が出来るからだ。これがいない場合、ポーションを使うか、教会などで治療してもらわないといけなくなる。
そのどれもにお金が必要だし、教会での治療は、そこまで連れていかねばならない。その連れていく間に、治療が遅れて死んでしまう可能性もあるのだ。というわけで、聖魔法の使い手がいるだけで、経済的にも安全面から考えてもパーティーにとってプラスが多い。
「でもその弓はまだまだだけどね」
「そりゃそうよ、子供の時から狩猟の生業をしていたサーラに叶うわけないじゃない。それに私、元々運動は苦手だし」
「まあそこはね、要練習ってことで。それにリティアに弓の技術をそう簡単に抜かれたら、今度はあたしが落ちこんじゃうわよ」
「リティアさんの魔力量って、そんなに少ないんですか?」
「そうなの、だから回復量の多い魔法は覚えられないし、魔法を使える回数も少ないの」
魔法を覚えられる数や威力の高い魔法を覚えるには、自身の魔力量が高くないと無理になる。少ない魔力量だといわゆる初級レベルしか使えない。リティアさんが嘆くのも無理はない。
「でも聖属性は希少ですし、魔力量の少なさを差し引いても、部隊では必須の存在だと思います」
「ほら、新人君ですら、ちゃんとわかってるのよ。もうそんなしょうもないこと言わないの」
サーラさんがリティアさんの憂いを吹っ飛ばすかのように、明るく笑って励ます。
「そうね、いつまでも気にしちゃいけないわね。そういえばジェラン君の属性は何なのかしら?」
サーラさんの励ましが効いたのか、声のトーンが明るくなったリティアさん。
「僕ですか?リティアさんと同じく聖属性ですよ・・・とは言っても【浄化】しか覚えていませんが」
「ほう!」
ドラガンさんが目を見開く。
「君も!なのね。見習いで魔法を使える人は珍しいわね・・・もしかして貴族でしょうか?」
マーク兄さんに教えてもらったのだが、ルーガニア王国で魔法勉強が始めるのは、11歳からだそうだ。そこで自分の属性を知り、その属性の呪言を2年みっちりと勉強し、13歳になってから順次魔法を覚えていく。
だがお金のある家庭や貴族などでは、もっと前から家庭教師を付けて覚える者もいるとのことだ。だからリティアさんは見た目幼い俺が【浄化】を使えると知って、貴族と思ったのだろう。言葉使いが急に丁寧なものに変わった。
「えっ、いやいや。まあ一応貴族ですけど、僕はしがない三男坊で家も継げませんし、そのうえ年下ですし、言葉遣いはそのままで結構ですよ」
「えっ、構わないのかしら?」
「いいんじゃない。うちのクリスやギークだって貴族だけどあんな感じだもん、ジェラン君も似たようなものなんでしょ。それにジェラン君自身がいいって言ってるんだしね」
リティアさんと違って、サーラさんは俺が貴族と知っても、気にする様子は一切なかった。まあ元々こういうざっくばらんとした性格なのだろう。
「そうそう、サーラさんの言うとおり、気にしないでくださいね」
「そう・・・ね。じゃあそうするわ」
それからしばらく雑談をしていたのだが、途絶えた客足が戻ってきて、ドラガンさんは再び厨房に戻っていった。これから段々と書き入れ時になるのだろう。すでに食べ終わった俺がいてもお邪魔になるだけなので、サーラさんたちに別れを告げると、俺は活気を帯び始めたドラガン食堂を後にした。
誰も覚えていないと思いますが(筆者も名前は忘れていました)サーラとリティアは第1章の第10話ならびに幕間5に登場しています。




