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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第2章 袖振り合うも多生の縁
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幕間2 冒険者ギルド受付マリー

  私はファイマ北区冒険者ギルドで受付を担当しており、その中でも新人の担当を主にしております。本日もギルドの受け付けで、いつものように新規登録する少年の担当をしていたのですが、その少年がお名前を書いたところで、私は興奮のあまり思わず声を上げそうになりました。


ジェノン・レイヴァン!!


ルーガニア王国でレイヴァンの家名を持つものは、ジルオール様のお身内以外にはいらっしゃいません。つまり今、私の目の前に座っている優しそうな少年こそ、あのジルオール様のご子息!


幼少時代、両親からお話してもらった英雄たちのお話の中でも、英雄ジルオール様がルーガニアをお救いするお話が、私は一番大好きでした。それは大人になった今でも変わりありません。私の憧れ、英雄ジルオール様はこのファイマに住んでおられるので、いつかお目通り出来る機会もあるでしょうと思っていたのですが、先にそのご子息にお会い出来るなんて、思いもよりませんでした。

すべての業務を投げ出して、ジルオール様のお話をお聞きしたいと思ったのですが、そんなことは許されるわけもないですし、私自身それは絶対に駄目なことであると理解しているので、泣く泣く諦めました。自身の自制心を誉めたいぐらいです。

私は高鳴る心を押さえながら、ジェノン様が記載する文字を黙って確認することにしました。あら、ギルド名はジェノンではなくジェラン様、有名人のご子息だから、きっと本名が使いづらいのでしょうね。やはりあそこで声をあげずに自制して正解でした。お陰でご迷惑をお掛けせずに済みました。

魔法は聖魔法属性なのですね、貴重属性をお持ちでいらっしゃる。淀みなく綺麗な文字で記載事項を埋めていくジェノン様、違ったジェラン様。

やがて全部を埋め終えたジェラン様が私に用紙を返却、私はそれに漏れがないことを確認して、ギルド会員証を作成するため、通称会員証の部屋と言われている奥の部屋に向かいました。

ギルド会員証は冒険者ギルドでのみ、記載することが出来る信頼と実績のある会員証です。この会員証はギルドでしか作成することができず、偽造も不可能といわれているため、身分証明にもよくご利用されております。

ギルドに勤めて五年経つ私ですが、未だにどうやって作っているかわかりません。そのぐらい機密性が高いことも信頼の証と言えましょう。

私はいつも通り、登録事項が記載された用紙を扉の中央にある小さな窓口に差し込みました。しばらく待つと今度はその窓口から会員証が出てきます。こうやって会員証は出来上がるのです。この扉の向こうに誰がいるのか、どうなっているのかは私たち受け付け程度では、知るよしもありません。

私は出来上がったばかりの会員証をジェラン様に渡し、詳細を説明していきました。全て説明が終わると、ジェラン様は今思い出したとばかりに、封筒を私に差し出しました。

封筒は封蝋がされていて、その絵柄は盾の中にウィリアの花が咲き誇っている美しい意匠でした。私は知っています、これこそまさしくレイヴァン家の家紋です。ウィリアの花というのは、太いつるに垂れるように大きな紫の花と小さい赤い花をなす春の花で、その花言葉は巻き付いたつるが丈夫で離れないことと、大きな紫の花が小さい赤い花を守るように咲くことから、決して離れない永遠の守護の意味を持つ。

まさに守護騎士と称えられるジルオール様に相応しい花です。そのジルオール様の封筒!私は逸る心を落ち着け、ゆっくりと丁寧に封筒を開封しました。


『ファイマ領北区冒険者ギルド 担当者殿


その者、我が息子ジェノンに相違なし。次元収納取得を願う ジルオール・レイヴァン

この紹介状を持ちし者、我が弟子ジェノンに相違なし。次元取得を願う ルーガニア王家特化槍隊名誉隊長グラン


なお、ジェノンにおいては、我々がその資質、能力を保証する』


・・・ため息も出ないとはこの事です。ルーガニア王家特化槍隊の名誉隊長といえば、この国では知らぬ者がいない、もう一人の英雄、必滅剛槍のグラン様のことです。ジェラン様はジルオール様のご子息だけでなく、グラン様のお弟子でもあるのですね、英雄の息子で弟子・・・本当に驚きで言葉が出ません。

このお二方の名前が入った紹介状だなんて、多分、いえ絶対にこの特別紹介状だけでしょう。これを競売にかけたら、大変なものになるでしょうね。もちろんそんなことは出来ませんし、させませんけど。

本来冒険者ギルドで次元収納を取得するためには、中級になることと紹介者の両条件を満たさないと取得出来ない規則なのですが、実は身元がしっかりとした紹介、例えば貴族であれば子爵以上の特別紹介状があれば、その限りではありません。実際貴族の方で紹介を通して、次元収納を取得しておられる方もいます。

ですが特別紹介状は、何か問題が発生した時、通常の紹介状と違い、とてもとても重い責任が発生するので、おいそれと紹介状を書く方はおられません。それなのに、このお二方の名前がここに記載されている・・・ジェラン様はよほどお二方に信頼されているのでしょう。でなければこのお二方がお名前をお貸しなさるわけございません。

ジルオール様は子爵より位の低い男爵様ですが、国家特別栄誉男爵という実際は公爵様と同等の位をお持ちになっているので、その条件に見合いますし、グラン様は貴族ではありませんが、ルーガニア王家特化槍隊名誉隊長という立派な肩書きが御座いますし、何も問題ないでしょう。いえ、むしろ過分に過ぎます。


私は冷静を努めながら、この紹介状が偽物の可能性があるかもと考えましたが、このお二方のお名前を騙るような不届き者がいると思えませんし、今までの私の経験上、ジェラン様が嘘をついていないのは、そのご様子から間違いありません。

それに紹介状の手紙の封蝋は間違いなくレイヴァン家の家紋でしたし、そもそも偽物だとして、それが露見すれば、例え未成年でも重罪は免れないのです。次元収納は時間さえかけてギルドで信頼を築き、きちんと経験を積めば、誰しも取得出来るものです。

だから偽物を使い、危険を犯してまで取得する理由はどこにもございません。以上のことから、私はこれが本物であると確信し、地下にある次元収納の間にジェラン様をご案内することにしたのです。


 私はジェラン様を引き連れ、次元収納の間までやってきました。そしてその次元収納の間を警備主担をしているバレントさんにジェラン様の会員証と紹介状をお渡ししました。するとバレントさんは私と同じように驚愕の表情を一瞬浮かべました。ですがすぐに表情を取り戻すと、私たちに会員証と紹介状を返却し、何事もなかったかのように、扉の鍵をお開けになられました。

聞きたいことが沢山おありでしょうに、まずご自身の職務を全うするその行為は、さすが元上級冒険者まで登り詰めた方です。


ジェラン様はどうしてここにお越しになられたか、まったく状況がわからないようでした。ジルオール様もグラン様も、ジェラン様をビックリさせようと秘密にでもしていたのでしょうか?私ごときでは、英雄のご意志は理解出来ませんが、きっと何か深い訳があるのでしょう。だから私もジェラン様には内緒で部屋にお入りして頂けるように、案内いたしました。

一人部屋に入っていくジェラン様、この次元収納の間は、他人がいると気に散って習得出来ないという方がおられるので、それを回避するため、習得者以外は入ってはいけない規則になっています。だから私も外でジェラン様をお待ちすることにしました。


「おいマリー、あの紹介状だが」


ジェラン様がいなくなった途端、バレントさんが私に詰め寄ってきました。私にはその気持ちが分かります、反対の立場なら、私もバレントさんに詰め寄っていたでしょうから。


「なんでしょう?」


「・・・本物なのか?」


少し間を置き、バレント様がそう尋ねてきました。ですが私はその問いに答えることは出来ません。


「バレント様、その質問はギルド規約違反にあたりますので、お答えできません」


ギルド会員の情報は、ギルド職員以外には秘匿されます。例えそれが貴族であっても、王族であってもです。バレントさんはギルドから依頼されてここを警備しているだけで、ギルド職員ではありません。だからそうお答えを返すしか出来ませんでした。


「・・・すまん、冷静なつもりだったが、どうやらあの紹介状を見て自分が思っていたより、浮かれてしまったようだ」


元上級冒険者なら、ギルド規則を知らないはずがありません。それを忘れるほど、衝撃が強かったということでしょう。


「バレントさん、あの子供、そんなに大物の紹介状を持ってきたのですか?」


もう一人の警備についておられるジャグド様がバレント様の言葉を聞いて、驚きを露にしました。それを見てバレント様はしまったという顔をなされました。それは個人の出自を勝手に話すというのは、冒険者としてとても恥ずべき行為だからです。


「ジャグド、俺の失言だった。何も聞かないでくれ、ここでの発言はすべて忘れてくれ・・・頼む」


バレント様がジャグド様にそう懇願なさいました。ジャグド様は怪我で引退なさりましたが、とても気がよく腕もいい中級冒険者でした。怪我がなければ、バレント様のように上級まで登り詰められたはずです。


「わかりました、元ですが俺も冒険者です。勝手に人の出自を詮索するのは、俺たち冒険者の掟から外れます。ここでのことはすべて忘れます」


「すまんな」


ジャグド様も冒険者として、バレント様の気持ちが痛いほどわかるのでしょう。だから直ぐに詮索するのを放棄なさいました。


私たちは小声で歓談しながら、ジェラン様をお待ちしました。この次元収納の間に入られた方は、出てこられるまで、大抵お時間がかかります。それは解読不明の魔法石碑が一緒に存在しているので、それを調べられる方が多いからです。それ以外では、ただ単に次元収納を中々習得出来ないという人もいらっしゃいます。ジェラン様が後者ではないと私は勝手に思っています。


ジェラン様は私の予想通り、魔法石碑を調べていたせいで、部屋からの退出が遅れたようです。それでも私は規則だったので、本当にきちんと次元収納を覚えているかジェラン様に確認を取りました。

ジェラン様が唱えた無属性言語は物凄く滑らかでした。まるで母国語のように綺麗で淀みない発音、私は仕事柄、様々な人の次元収納の呪言を何度も聞いてますが、これ程まで素晴らしい発音をする方は、ジェラン様が初めてでした。きっとジルオール様とグラン様の指導の賜物でしょう。私もご教授頂きたいものです。


帰り際、ジェラン様はあの解読不明の魔法石碑に問題ないか、私に説明を求めてきました。どうやら安全性を気にしているみたいです。私はあの魔法石碑が誰も解読出来ないこと、無属性言語に近い言語体系であり、危険性がないことをご説明すると、漸く納得してくれました。

この行動から分かったことは、ジェラン様はとても思慮深い方だということです。とても十二歳の少年とは思えません。ここにやって来た人で、そんなことを気になさる方は本当に極少数です。大概の方は次元収納が手に入った喜びで、それどころじゃありませんから。


 ギルドに勤めて五年、まだ日は浅いですが、それなりに数多の冒険者の方とお会いし、それなりに目も肥えてきました。私の経験上、冒険者として大成なさる方はこういった思慮深い方が多いです。だから私は確信しています、ジェラン様はきっと遥か高みに至るでしょう。そのお手伝いを少しでも出来るなんて、ギルド受付冥利に尽きます。

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