第4話 地下にあったのは
扉を抜けるとそこは真っ白な雪国だった・・・そんなわけもなく、10畳ほどの窓もない殺風景な部屋だった。その何も変哲もない部屋に、一際異彩を放っているものが鎮座していた。魔法石碑だ、それも五体、デデンと部屋の真ん中にこれでもかとばかりに鎮座していたのだ。
五体ある魔法石碑だが、真ん中の魔法石碑が一際大きく、少し小さい魔法石碑四体が、その大きな魔法石碑の回りを衛星のごとく取り囲んでいた。
「これは・・・」
俺は突然の魔法石碑の出現に戸惑いを覚えたが、とりあえず内容を確認するため、魔法石碑の碑文を読むことした。そしてその中でも一番目立つ中心の魔法石碑に目を向ける。
【無より生まれし空間よ 我が声に応え ここに顕現せよ 次元収納】
おっ、これ【次元収納】だ!・・・これがここにあるってことは、つまりここは【次元収納】を覚えられる部屋というわけか。あれ?俺まだ見習いだけど、覚えていいのだろうか。確かギルドでの【次元収納】の習得条件は、ギルドラングが中級になることと、誰か信用のおける者の紹介状が必要なはずだが・・・まあギルド職員が、ここに連れて来てくれたということは、その条件に合致してなくても、構わないということなんだろうなぁ。
しかしどうして?・・・と、考えるまでもなく、百パーセント俺が渡した父さんの紹介状のお陰だろう。中身は読んでないけど、一体全体あれって何が書いてあったんだろうか?
俺としては、自分の実力じゃなく父さんの力だったということに、とても不甲斐ない気持ちを感じているけど、このチャンスを逃すべきじゃないことも理解している。そんな葛藤する思いを抱きながら、俺は魔法石碑に手を当てた。触れたことで、俺の魔力と繋がった魔法石碑が発光し始めた。この状態で碑文をなぞりながら、声を出して正確に読み上げること、つまり呪言を唱えることで、魔法は体内に組み込まれる。
【無より生まれし空間よ 我が声に応え ここに顕現せよ 次元収納】
呪言を唱えると、魔法石碑から何かエネルギー体みたいなものが、俺の中に入って来る。俺はその感覚をもって自分の体内に【次元収納】が宿ったことを知る。そして取り込んだと同時に俺の《強化知識》が機能を始めた。
《無属性魔法、次元収納の呪言を確認、強化知識に取り込みます》
これで俺は【次元収納】を使いたいと思っただけで、《強化知識》に記憶された呪言がフィードバックされる。呪言をいちいち覚えておく必要がないので、本当に便利だ。まあ俺が体内に宿した呪言しか記憶されないのが欠点といえば欠点だが。
今はそんなことはより、手に入れた【次元収納】を試したい。俺は早速覚えたての呪言を唱えた。
【無より生まれし空間よ 我が声に応え ここに顕現せよ 次元収納】
唱え終わると俺の目の前に黒いもやもやみたいなものが現れた。この黒いもやもやしたものこそ【次元収納】だ。俺はおもむろに手を突っ込んでみる。すると何故か中には何も入っていないことが感覚でわかる。俺が消えろと念じると黒いもやもやはすっと消えていった。
さて、目的の物は手に入れたが、魔法石碑は後四体残っている。もちろんここで確認せずに帰るなんて、そんな勿体ないことは出来ない。もう二度とないチャンスかも知れないし。そんなわけで俺は次の魔法石碑に目を通す。うん・・・?これは、俺の知らない文字だ。そう思った瞬間、俺の脳内にアナウンスが流れた。
《言語理解・翻訳能力が発動します 特殊無属性言語、理解開始》
なんなんだ、特殊無属性って?・・・俺は新たな言語の出現に、驚きと興奮を感じながら、魔法石碑の碑文を読む。
【この石碑は次元収納を宿した者のみに効果を発揮す 欲しくば願え 声を上げ唱えろ その名は 自在収納】
なんだ、これ?今まで見たことのないタイプの魔法石碑だ。なんだよ、自在収納って、聞いたことないし。よくわからんけど、魔法石碑の書いてある通り、願ってやることにした。
俺は【自在収納】の魔法石碑に手を当て、【自在収納】と呪言と唱える。先程と同じように何かエネルギー体が俺の中に入ってくる。
入ってきたはいいが、使い方がまったくわかんないのだけど??俺は自分の《強化知識》に【自在収納】を問い質す。
《・・・・・・・・》
返ってきた答えに俺は絶句する。なんだ、これ、めっちゃ便利じゃん!この【自在収納】、俺が触れているものなら、【収納】と唱えるだけで、【次元収納】にそのまま収納されるし、逆に【次元収納】に入っているものは、【顕現】と唱えるだけで自由に取り出すことが出来るようになる魔法だった。
うわー、これも完全にチートだわ。これで槍や盾をずっと手で持たなくても、言葉ひとつで、いつでも自由に取り出せるようになる。
俺は便利な魔法が手に入った喜びを噛み締めながら、次の魔法石碑に目を通す。
【この石碑は次元収納を宿した者のみに効果を発揮す 欲しくば願え 声を上げ唱えろ その名は 秘密収納】
おいおい、また特殊無属性かよ。名前からして何となくだが予想がつく。俺はもちろんこいつも取り込むことにした。そして俺は何事もなく無事に【秘密収納】を取り込むと、《強化知識》でその能力を確認することにした。
《・・・・・・・・》
やはりそうだったか。この魔法を取り入れた者は、【次元収納】の中に秘密の隠し収納を作れるようになる。正確には自分が隠したいと思う物を、隠しておける機能がアップデートされたみたいだ。
【次元収納】という魔法は、唱えると黒いもやもやが出て、そのもやもやに手を突っ込むことで、中に何かが入っていることを確認出来るようになるし、それを取り出すこともできるようになる。だが実はこれは本人以外が手を突っ込んでも、同様のことが出来るのだ。
だけどこの【秘密収納】は、それを回避出来るようになる。つまり密輸とかもしたい放題というわけだ・・・まあしないけど。
よし、次にいこう。なになに・・・
【この石碑は次元収納を宿した者のみに効果を発揮す 欲しくば願え 声を上げ唱えろ その名は 停止収納】
これはもう《強化知識》に問い質さなくてもわかる気がする。【次元収納】に収納した物の時間を停止させるのだろう。【次元収納】は所謂魔法の袋みたいな物だが、その中身は普通の袋と同じように、時間が停止しているわけじゃない。時間が経てば、生物は腐るし、温かい物は時間が経てば冷めてしまう。
さて、俺の予測は当たっているだろうか?俺は【停止収納】を取り込むと、早速《強化知識》で確認してみることにした。
《・・・・・・・・》
やはり俺の想像通りの魔法だった。だが少し違ったのは、時間停止にするかしないかを自分で選択出来るというところだけだった。
さて次が最後だ。
【この石碑は次元収納と自在収納を宿した者のみに効果を発揮す 欲しくば願え 声を上げ唱えろ その名は 登録収納】
お、ちょっと違うバージョンだ。今度は【次元収納】だけでなく、【自在収納】も必要なのか。登録、登録ねぇ。登録すれば何かが起こるのか?これだけじゃどんな魔法かわからんな。まあ取り込めばわかることだな。そう考えた俺はもちろんこれも体内に取り込んだ。さて取り込んだことだし、早速《強化知識》先生に質問しよう。
《・・・・・・・・・》
ふむふむ、そういうことか。つまりこの【登録収納】で登録しておけば、体に触れていなくても、【収納】の呪言を唱えることで【次元収納】に収納することができるようになるということか。収納出来る距離は自分の最大魔力量に依存、そして登録出来る数は五つまでとなっているみたいだ。
おぉ、すごく便利じゃないか!例えば槍を登録しておけば、投擲しても、自由に【次元収納】に収納することが出来るってわけだろ。これは遠距離攻撃を持っていない俺には、何とも助かる魔法だ。後で収納できる距離を調べなくては。
ここまでの整理をしよう。
つまり俺の【次元収納】は・・・
1.【自在収納】にて自由に収納した物体を出し入れすることが出来る
2.【秘密収納】にて自由に収納した物体の存在を隠すことが出来る
3.【停止収納】にて自由に収納した物体の時間を停止させることが出来る
4.【登録収納】にて登録したものは、最大魔力量によるが、離れていても自由に収納出来る
という機能がアップデートされたわけだ。何とも大幅な機能追加だな。しかしこんな便利な能力だけど、世の中に全然広まっていないのだが、どうなっているんだ?特殊無属性というのは、まだ理解されてない言語なのか?それともこの能力は、秘密にされている?ここから出たら、それとなくマリーさんに聞いてみるか。
コンコン
そう思っていると、丁度良いタイミングで、ドアをノックする音が聞こえた。俺はそのノックの主に応えるべく、閉まっているドアに向かって返事をする。まあたぶんマリーさんだろうけど。
「はい、何でしょう?」
「結構お時間が経ってますが、何か御座いましたか?」
声の主はやはりマリーさんだった。
「あ、ごめんなさい。珍しい魔法石碑があったので、ちょっと時間が経つのも忘れて見入ってしまいました」
「そうでしたか、ですがそろそろ戻ろうかと思っています。申し訳ありませんが、お早くお願い致します」
扉一枚隔ててマリーさんと会話を交わす。最初も入ってこなかったし、今も扉を開けもしないことを考えると、どうやらギルド職員はこの部屋には入らない、それか入れないみたいだな。それにしても時間を掛けすぎたか。
それも仕方ないことだろう、だってこんなレア魔法があったんだから。そりゃ遅くもなるさ。だけど、いつまでも待たすわけにはいかない。
「申し訳ありません。遅くなりました。【次元収納】以外の魔法石碑が気になって色々と調べてました」
俺は扉を開き、開口一番に謝罪の言葉を述べた。
「やはりそうでしたか。ですがご心配なく、大抵皆様そうなってしまいますから。それでどうでしたか?【次元収納】は覚えられましたか?」
「はい、お陰さまで。問題なく」
「それはおめでとうございます、ではご確認させていただいて、よろしいでしょうか?」
そしてマリーさんはこれも規則ですのでと、申し訳なさそうにそう付け足した。俺はそれは当然とばかりに【次元収納】を発動させて、使えることを証明する。
【無より生まれし空間よ 我が声に応え ここに顕現せよ 次元収納】
「なんて滑らか・・・あ、すみません。はい、ありがとうございます。これにて【次元収納】の儀は、全て終了致しました」
俺の呪言を聞いて、思わずそう感想を漏らしたマリーさん。俺は呪言を日本語で発言しているだけで、後は《言語理解・翻訳》のチート能力が勝手に無属性呪言に翻訳して発言してくれるのだから、そりゃ滑らかに決まっている。
確認を終えたマリーさんの終了宣言を聞いて、俺は【次元収納】を消失させた。そしてマリーさんに促されて、再び元来た道を戻り始める。俺は少し前を軽やかな足取りで歩くマリーさんに、あの部屋のことを尋ねることにした。
「マリーさん、あの部屋の【次元収納】以外の魔法石碑なのですが」
「はい、なんでしょう」
「結局あれは何なのですか}
「それが・・・ですね、四体ともその言語形態と言いますか、その文体が無属性に似ていることから、何かしら特殊な無属性魔法であるだろうと推論は出ています」
俺は心の中でピンポンと正解のアナウンスを鳴らす。
「そうなんですね」
「えぇ、ですが解明されてませんので、確実とは言えません」
先行していたマリーさんが立ち止まり、ゆっくり俺に振り向くと、さらに説明を付け加えてくれた。
「本当は解明出来ていない魔法石碑をあの【次元収納】の部屋に置いておきたくはないのですが、移動させようにも、魔法石碑は移動させられないものですから、結局諦めてあの部屋に置きっぱなしにしているんですよ」
そう、魔法石碑は動かせない。魔法石碑というのは、尋常じゃないぐらい固い材質で作られていて、どれだけ殴ろうが斬ろうが、魔法を浴びせようが、傷ひとつ付かない。じゃあ回りの地面を掘って、持ち上げて移動させたらどうかという話だが、いくら掘り進めても石碑の切れ目はないとのことだ。
だから建物を建造してから魔法石碑を持ってくるんじゃなくて、重要な魔法石碑のあるところにこのギルドのような重厚な建物が立つ。俺は知らないが、ファイマの領主館や王城にもきっとそういった魔法石碑が秘匿されているはずだ。
「でも危ない魔法だったら、どうするんです?」
「最高峰の知恵者たちの叡智を結集しても、理解出来なかったのです。まず誰も理解できないであろうとの判断から、誰に見てもらっても危険はないと上層部が判断しました」
ナイス判断!上層部、そのお陰で俺は無事魔法を取得出来た。でもここの魔法石碑は便利なものばかりだったからいいけど、もしこれが本当に戦略級の破壊魔法だったらどうするつもりなんだろ?俺みたいなイレギュラーが他にいないとも限らん。
「うーん、そうですか」
俺がまだ気にしていることが伝わったのか、更にマリーさんが説明を補足し始めた。
「先程もご説明しました通り、魔法効果自体はわかっておりませんが、あの魔法石碑は何かの無属性魔法であることまではわかっております。無属性魔法の主な効果は補助効果の魔法ですので、仮にあれが使えたとして、そんなに危険はないでしょう」
そこまで考えているのなら、俺がそこまで心配する必要はないか。ここで問題があるといえば、【秘密収納】ぐらいだけど、個人で運用する分には、たかが知れているだろうしね。
「そうなのですね、安心しました」
「ジェラン様はお若いのに、良くお気遣いが出来る方なのですね」
「はは、心配性なだけです」
「血気盛んで命知らずよりは断然良いです・・・そう、慎重すぎるぐらいが丁度いいのです。ですからきっとジェラン様は冒険者向きの性格ですよ」
マリーさんが真剣な顔で、諭すように話す。マリーさんは冒険者ギルドで働いているから、今までそうやって無茶をして、死んだ冒険者を沢山見てきたのだろう、だからこそ、この助言は金言として肝に命じておこうと思う。
「そうですね、ご助言ありがとうございます・・・それにしても偉い学者さんが調べてもわからなかったような魔法石碑、僕のような素人がいくら調べても、わからないのは当然ですよね」
「いえいえ、いずれ誰かが解明するはずです。それはジェラン様かも知れませんよ」
すみません、実はもう解明してるんです。そう心の中で返事をし、自分のチートを他人に曝す気はない俺は、ご期待に添えるよう頑張りますとだけ返事を返した。こうやって、俺は思ってもみない早さで、【次元収納】+αを手に入れたのだった。




