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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第2章 袖振り合うも多生の縁
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第3話 ようやくたどり着きました

 ブラブラと中央区を歩いていく。店の軒先で販売している色取り取りの野菜、果物が美味しそうだ。トルコ料理のケバブみたいなものを販売している店もあり、それが派手でとても目を引く。あ、そういえば先程の武具屋の名前を教えてもらうのを忘れていた。それに店主の名前も聞いてなかった。

・・・まあいいや、今さら戻るのもなんだし、次回にしよう。どうせそのうち貰ったダガーを研いでもらいに行くだろうし、その際に教えてもらおう。そんなことを考えながら歩いていくと、少しずつ人がまばらになり、喧騒が遠ざかり始めた。どうやら中央区を抜けたみたいだ、それを証明するように、少し視線を遠くに伸ばせば、北区の内壁の門が見えていた。

ファイマの防壁の門は、外壁、内壁、共に東西南北にあるが、開いているのは2門ずつになっている。例えば外壁北・南が開いている場合は、内壁東・西となり、外壁東・西の場合は、内壁北・南となっている。これは敵に攻め込まれたとき、まっすぐ一気に中心区の領主館まで侵入してくるのを防ぐための措置だ。

外壁南門から敵が侵入した場合、敵が中心区に入るためには、東門か西門に回り込まないと、内壁内に侵入することが出来ない。この回り込む時間を使い、内壁・外壁の上から矢で敵を射殺したり、内壁の門を全部閉じて、中央区に侵入させないようにするのだ。

ちなみに今日は外壁東門と西門が開いているので、内壁は北門と南門が開いている。つまり俺の家からは、南区から中央区を通って一直線に北区まで行けるのだ。これが逆の日なら、南区から北区に行くには、ぐるっと東西どちらか選んで行くことになる。

北区の門を潜り抜け、俺はようやく目的の建物にたどり着いた。回りから比べても、一際大きく頑丈そうな館、外の壁に紋章が描かれている。盾をバックに、剣が斜めに2本、ばつ印のように重なっており、その真ん中に槍が一本、赤と黒を基調にした、迫力がありながらおしゃれなデザインだ。あれこそが冒険者ギルドの紋章だ、マジでカッコいい、考えた人、センスあるなぁ。

ウエスタンドア、所謂スイングドアを手で押し開け、早速中に入る。朝に出掛けたのだが、寄り道に寄り道を重ねたので、時間は昼前になっていた。そのせいかは知らないが、ギルドは閑散としている。これが朝一番なら、依頼の取り合いで、もっと押し合い圧し合いになっているのだろうか?人混みは嫌だけど、それはそれで興味がある。

さっと回りを見渡し、登録窓口を見つけると、俺はそちらに身を滑らす。カウンター形式の登録窓口には小柄な女性が座っていた、俺は彼女の対面に座る。魔力量で見た目が変わる異世界だから、外見から詳しい年齢は判断できないが、随分と若い。10代でも通用する容姿だ。


「いらっしゃいませ、冒険者登録ですか?」


くりっとした目がとても印象的だ。その愛嬌ある目のせいだろう、一層彼女は幼く見えた。


「はい、よろしくお願いします」


「わかりました、登録担当のマリーと申します。よろしくお願いします」


マリーさんが自己紹介をし、軽くお辞儀をする。俺も同じようにお願いしますと挨拶を交わす。


「ではこの用紙にご記入お願いします」


簡潔な自己紹介を終えたマリーさんが、淀みなく用紙を俺に差し出す。俺はその内容を確認していく。本名にギルド名、年齢に性別、出身地に戦闘方法、魔法の属性、希望業務等、多岐に渡っていた。

まずは名前を書く。そして冒険者ギルドでは本名を隠すことが出来る、それがギルド名というやつだ。地球でいうところの、ペンネームやハンドルネームといったところか。このギルド名、必要ないなら記入無しでいいけど、俺は記入するつもりだ。

それは俺の家名が、レイヴァンだからだ。この国でもっとも有名な守護騎士と同じ家名、その上、ファイマは父さんのお膝元だ。そういうわけで、この家名は良いも悪いも、とても目立つ。

案の定、本名にジェノン・レイヴァンと書いた瞬間、それを見ていたマリーさんが大きく息を呑んだのが聞こえた。そして大きな目を白黒させ、あのレイヴァン家?本当に?といった表情に変わる。やっぱりこうなったか、俺は予想通りの展開に苦笑する。

まあギルドは守秘義務もあるし、マリーさんも表情は変わったが、驚きながらも声ひとつあげなかったことから、よく教育されていることがわかる。この様子なら無用に家名をばらされることはなさそうだ。

マリーさんの驚きはさておき、俺は続きを記入する。うーん、ギルド名、冒険者ネームというやつか、名前何にしよう。地球時代の本名を使ってもいいが、この異世界で日本姓は合わない。俺が生前大好きだった時代劇の主人公から拝借したいが、こちらはもっと合わないので、非常に残念ながら却下だ。

仕方がない、思い付かないし、ジェランにするか。あのグラン先生とのやり取りは思い出したくもないが、一応俺の流派、ジェラン流槍術だし、しかも2代目決定しているし、もうこれでいいや。ジェラン・・・と記入する。

次々行こう、年齢・12才、性別・男、出身地・ファイマと上から順番に記入していく。次は戦闘方法・・・か、一番のメインは槍だが、堂々と自分の得手を他人に曝すのはとても抵抗がある。なのでショートソードによる接近戦と書いておくことにした。魔法属性は全部・・・と書けるわけがないので、どれかひとつに絞らないといけない。

とは言っても書くのは決まっている、聖属性だ。何故聖属性かと言えば、散々マーク兄さんや騎士団の方たちの前で使用したからで、今さら違う属性を書くわけにもいかないからだ。

次は希望業務・・・これは大まかに大別すると4つある。ひとつは討伐、まあ文字通り魔物や魔獣、盗賊などを討伐する業務、次に護衛、これも文字通り人や物の護衛や家の警備などをする業務、それから収集、これはポーションなどの素材を集める業務、最後に雑務、これは主にファイマ内での業務でこれが現代日本に一番近い、つまりアルバイトみたいなものだ。

主にこの四つ、討伐、護衛、収集、雑務が冒険者ギルドの基本業務だ、これ以外にも特殊業務があるらしいが、それはまだ見習いですらなっていない俺には、当分先のことだ、まず関係ないだろう。

俺は兄さんの腕を治すのに素材がいるし、希望業務は収集にしておこう。よしこんなものか。俺はマリーさんに用紙を返却する。


「承りました」


マリーさんは俺が渡した用紙に目を落とし、確認していく。


「特に問題はなさそうですね・・・ではジェラン様、少しお時間いただけますか?会員証の発行準備を行いますので」


そう言うとマリーさんはカウンターの奥に引っ込んでいった。俺は話す相手もいなくなり、暇になったのでギルド内を少し見学することにした。何名かの冒険者が俺をチラチラと見てくるが、俺は気にせず、辺りを見渡す。壁に板が釣り下がっており、そこに沢山の張り紙があった。これがギルドの依頼なのだろう・・・ワクワクしながらいくつかの依頼内容を流し見していく。


初級1 業務:雑務 防壁補修工事手伝い  報酬:10ガラド

初級1 業務:雑務 西区清掃手伝い    報酬:3ガラド

初級2 業務:収集 フィール草      報酬:1本2ガラドより

初級3 業務:討伐 赤鼠         報酬:1匹10ガラド

初級4 業務:収集 ケロケロ鳥      報酬:1羽20ガラド


うーん、これだけじゃ報酬が安いのか高いのか判断出来ないし、どのくらいの仕事量か、掛かる時間はどのぐらいかがまったくわからん。これを剥がして詳しい説明は窓口でといったところだろうか。しかし見習いがまったくないのはどうなってるんだ?


「お待たせいたしました」


背中越しにマリーさんの声が聞こえてきた。俺はその声を聞いて、また窓口の椅子に座る。


「こちらが会員証になります。ご確認を」


俺は差し出された会員証を受けとる。手に平に収まった会員証は、ラミネートカードのようにツルツルだった。これ、どうやって作ったんだろ?土魔法かな?色は黄色、中身を確認すると、小さな文字がいくつも書いてあった。



名前:ジェラン

年齢:12

所属:ルーガニア王国ファイマ北区

階級:見習い1

雑務:成功:0 失敗:0

収集:成功:0 失敗:0

護衛:×

討伐:×


と記載されている。おぉ、なんか文字で見ると、尚更感動するなぁ。護衛と討伐がバツになっているのは、見習いは受けることが出来ないからだ、それはここに来る前に予習済みだ。


「では詳しく説明していきますね」


俺は黙って、そしてたまに相づちを打つ。


「まず名前と年齢、間違いないですね?次は所属は初めて登録した場所、つまりここルーガニア王国ファイマ北区ギルドになります。見習いは1から始まり、5になると初級試験を受けることができます。

それと見習いは雑務か収集のみの業務となり、護衛と討伐は初級になるまで行えません。それと見習い期間の間、窓口から指定された業務しかお受けできません。

そういうわけですので、先程ジェラン様がご覧になられていた依頼板は、初級1からになっていますので、今は使用出来ません」


そうか、あのボードは初級からか。どうりで見習いの依頼がないわけだ。それに見習いは信用度も経験値も何もかもが足りないだろうし、護衛・討伐が出来ないのも、まあごく当然か。


「ここまでで何か質問は?」


俺はありませんとばかりに首を横に振る。


「では続けます、依頼が終了するたびに成功か失敗のどちらかに数字がつきます、成功数が増えてくると、見習い2に昇級出来ます。失敗ばかりが重なるようなら、ギルドから指導が入ります。

あと失敗には罰則金があるのもございますが、見習いは依頼失敗をしても罰則金は発生しないので、この期間に出来ること出来ないことも、たくさん経験するために、色々と挑戦してください。

それとこの会員証ですが、触ってもらってわかるように、偽造防止されておりまして、ギルド職員以外は書き込めないようになっております。ちなみに会員証の偽造は重罪になりますので、絶対にしないでくださいね」


「もちろん、そんなことしません」


ギルドは独立採算制というか、どの国にも属さない中立的な組織で、各国に存在している。そのためギルド自体が一つの国家と言っても過言ではない。そのギルドの会員証は国が発行する通行証と同じ、若しくはそれ以上に信用されており、その分不正や偽造をした者は断罪に処せられる。

ギルドを敵に回した者は、何処に逃げようとも、ギルドから指名手配され、地の涯まで処刑人が追いかけてくるという話だ。頼もしくもあるが、恐ろしい組織、それが冒険者ギルドである。そんなわけで、ギルドを敵に回すのは、愚かな行為であり、俺の先程の発言に繋がってくるというわけだ。


「その他詳細はギルド入り口の冊子に記載されております、よろしければ退出時にお持ち帰りください。それでは他にご質問は御座いますか?」


「あ!そういえば一応紹介状があるんです。確認をお願いできますか?」


俺はここにきて、父さんから貰った紹介状のことを思い出した。封蝋にレイヴァン家の家紋が刻印されてある紹介状、それをマリーさんに手渡す。


「では拝見させていただきます」


両手で恭しく受け取ったマリーさんが紹介状を開封し、視線をそちらに移す。黙ってそれを見ていたのだが、読み始めたマリーさんの表情は、面白いぐらいに二転三転し、最後は何とも形容しがたい顔でこちらに顔を向けた。あの紹介状、一体何が書いてあったのだろうか?


「わかりました、ではジェラン様。ご案内致します」


立ち上がったマリーさんは、そう言って俺に着いてくるように促した。俺は何事かと首を捻りながらも、黙って窓口の横に設置されてあるスイングドアを通り、マリーさんに着いていく。窓口の奥にある階段、その階段を降り、地下に向かう俺たち。カツンカツンという足音だけが俺たちを包む。

降りた先には扉があった。その扉の前に警備をしているのだろう男たちが2人いて、不躾な視線を俺に向けている。マリーさんは男たちに軽く挨拶をすると、その扉の鍵を開け、中に入っていく。俺は男たちの値踏みするような視線を無視して、それに続く。

扉を抜けた先は、通路になっていて、何回か分かれ道がなっていた。マリーさんはその分かれ道にも迷うことなく、ずんずんと進んでいく。そしてまた扉が俺たちの前に現れた。ここにも最初の扉と同じく、二人の男が警備にあたっていた。


「お疲れさまです。対象者をお連れしました」


「ご苦労様です。では会員証と紹介状の確認をさせていただきます」


「わかりました、ジェラン様。では会員証をお願いします」


俺はマリーさんの言葉に従い、警備の男に会員証を手渡す。それと同時にマリーさんも、紹介状を男に手渡した。男の表情がえっ!という表情に一瞬変わるが、それは本当に一瞬だけですぐに表情を繕うと、俺に会員証を返還し、持っていた鍵で扉の鍵を外した。


「ではジェラン様、どうぞ」


マリーさんが扉に入るように促す。どうやら入るのは俺だけらしい。


「それはいいのですが、どうにも状況が掴めないのですが」


「あれ?紹介状にここに連れてくるよう書いてあったのですが、お父上から何もお聞きしておりませんか?」


「はい、紹介状を渡すようにと言われただけですので」


「そうでしたか・・・でも大丈夫です。入れば分かりますよ」


俺の言葉に思案顔したマリーさん、だけどそれはほんの少しのことで、すぐに悪戯っぽい瞳を俺に向けた。そのお茶目な仕草に危険はないだろうと俺は意を決して、扉の先に向かうことにした。

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