第17話 ダリエ村攻防戦1 ファイマ領第2騎士団 テオ
前回から話は続いています、当分このダリエ村関連の話が続きます。
俺とパトリックは深夜、俺たちが所属する第2騎士団のアルバ団長から特務任務を受け、ダリエ村に向かっている。今回の任務は、ダリエ村に出没した亡者鬼を偵察、場合によっては村人を守るために、戦闘行為もこなさねばならないという難度の高い任務だ。深夜の騎馬の疾駆は暗闇で障害物に当たって大ケガ、運悪い場合は死ぬ可能性もある非常に危険な行為だ。それに魔物も夜は活性化するので、そうとうな命知らずや何か切羽つまる理由、つまり今回の任務とかでなければ、普通こんなことはしないし、したくない。
とは言っても俺は闇属性持ちなので、【暗視】魔法を使うことで、暗闇も問題なく駆け抜けることが出来る。相棒のパトリックにも【暗視】を掛けてあるので、2人とも問題ない。そしてそのパトリックは風属性持ちだ。やつの風魔法【風隠】で騎馬の足音や嘶きなどを消音することが出来るので、移動音で敵に発見される可能性も低くなる。俺たちはお互い魔法を掛け合い、深夜の疾駆を続けている。星明かりのもと、夜通し音もなくひたすら黙々と進む。
俺たちはそのまま休憩することもなく駆け続け、空が白み始める頃、ようやくダリエ村が見えるところまでやってきた。俺はパトリックと目配せをする。【風隠】は会話も消音してしまうので、俺たちはあらかじめ騎士団で決めてある手信号で会話する。
(進行?停止?)
(停止)
パトリックの手信号を見て俺は騎馬の速度を段々と落としていく。やつも俺の隣で速度を落としていく。
(切れる 魔法 待機)
【風隠】の効果が切れるまで待機ということだろう。もう夜も明けてきたし、村も近い。ここらへんで一度作戦を練り直すのもありだろうし、そもそも次の魔法を使うのに、【風隠】が掛かっている状態では、呪言も消音されてしまうので、使用することが出来ない。この魔法は完全に音が消えるので便利だが、それが最大の弱点にもなっているので、使用するときは注意が必要だ。
(了解 待機)
俺は了承をパトリックに伝えると、走り続けて乾いた喉を潤すため、水筒に手をやる。喉を通る水に生き返るような気分になる。しばらくして魔法効果が切れ、パトリックが声をかけてくる。
「テオ、魔法の効果が切れたようだ。さて、これからだが予定通り、歩きで行こう。」
「そうだな、騎馬は目立つからな。いつも通りの作戦で行くぞ。」
パトリックは俺の言葉に頷きながら、俺のすぐ側までやって来ると、呪言を唱える。
【風よ 全ての囁きをその風に乗せ 我に届けよ 風耳】
【風耳】の魔法は普段聞き取れる範囲を数倍まで広げることが出来る魔法、斥候では非常によく使われる魔法だ。このように風属性は【風隠】もそうだが、斥候向きの魔法が多い。そして俺が持っている闇属性も以外と斥候向きの魔法が多い。
魔法は相手に極力近づくことで、相手と自分両方に魔法が掛けることが出来る。ただ、使用魔力量は自分と相手ということで、いつもの魔力より2倍必要になる。そして相手に触れて魔法を使用すると、相手にだけ魔法を掛けることも出来る。どういう理屈でそうなるのかはわからんが、俺はそっちの専門家ではないし、便利なことには違いないので、あまり深く考えたことはない。
【その闇の効果により 見るもの目を惑わせ 惑いの闇】
俺もパトリックに続き、呪言を唱える。指輪に付けた発動体から俺の魔力が抜けていき、呪言と魔力が混じりあい、魔法が構築され完成、無事発動する。【惑いの闇】はこちらの存在を気づきにくくする魔法だ。物凄く勘が鋭い人間などには通じにくいが、それでも近くに寄るまでは自分の存在を隠すことが出来る。
魔法が面白いと思うのは、【惑いの闇】のように自分を相手に認識させない魔法でも、1人の魔法使用者が2人同時に魔法を掛けた場合は、掛かった者同士には、その効果が発揮されない魔法があるということだ。つまり、今回俺が俺とパトリックに【惑いの闇】を同時に掛けたので、俺たち2人はお互いにのみ魔法効果が発揮されず、俺は今まで通り、パトリックを認識することが出来、パトリックは俺を認識できる。これが相手に触れ、相手にだけ魔法を掛けてやると魔法使用者本人ですら【惑いの闇】を掛けた相手を認識出来なくなってしまう。だが【風隠】などの魔法は、2人同時に魔法を掛けると、お互いにも魔法効果が発揮され、お互いに会話が出来ない状態になる。
それが何故だか俺には全く理解できないが、まあそういうものなんだろうと自分に言い聞かせている。このように魔法は、不思議で本当に意味のわからん存在だ。そして魔法は、その便利さから、あるとないでは大違いであり、戦闘や斥候などの結果に密接に関わってくるので、俺たちのような仕事をしている者にとって、必須の技術の1つになっている。
俺たちは第2騎士団でお互い相棒として、斥候役としての仕事が多い。実際、俺たちは騎士団の訓練も斥候の訓練に一番時間を割いている、いわゆる第2騎士団専門の斥候である。闇と風の魔法を掛け合い、斥候の技を駆使して、偵察、潜入、時には威力偵察や索敵偵察も行う。
「よし、行くか。」
そうしてお互い魔法を掛け合った俺たちは、目立ちにくい木々の茂みに馬を隠して繋ぎ、ダリエ村の偵察を開始することにしたのだった。
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