第14話 抜刀術を覚えたい
本日もよろしくお願いします。
この異世界には居合いという技がなかった、所謂抜刀術といわれる技は存在しない。刀と言えば抜刀術!という当たり前のイメージがあった日本人の俺にとって、これはちょっとした衝撃だった。父さんに聞いた話だが、剣は手に持って斬った方が速いし正確だし威力も強い。納刀状態から斬りつけるなら、手に持った方がいいということだった、これがこの世界の刀の常識だった。
というわけで結論から言うと抜刀術より、最初から抜き身で振りかぶって斬った方が、剣速も威力も上、そのうえ正確、だから抜刀術の練習などに時間をかけるより、一回でも多く剣を振れということになる。それにそもそも刀を使う人口が非常に少ない。
なぜ少ないと言うと、アルガルド大陸で刀を製造している国は、我がルーガニア王国の東方、海の向こうにあるマドカという島国1国だけだからだ。しかもその製造方法は国によって秘匿されており、鍛冶職人の人数も少なく、そのため相対的に刀そのものの製造数も少なくなってしまうので、手に入れるのも一苦労するからだ。
したがってこのアルガルド大陸でのスタンダードの剣といえば、ブロードソードやバスタードソード、グレートソードと言われる地球でいうところの西洋武器になる。後はそれらと盾を組み合わせたパターンも多い。それらの武器は刀より丈夫でメンテナンスも簡単であり、かつ、鍛冶職人も多いので、価格も安く、手に入れやすいため、アルガルド大陸全体の冒険者や傭兵・軍隊に広く愛用されている。
そしてこの異世界の刀だが非常に重い、父さんが今使っているバスタードソードよりずっと重い。俺は日本の刀の重量がどのぐらいかはわからないが、まず普通の人間は片手で扱える重量ではない。これは切れ味と頑丈さの両方を求めた結果だと思われる、俺が知っている刀といえば、その切れ味を求めた結果、細く鋭くカミソリのように研ぎ澄まされたもので、故に脆く剣同士での打ち合いは出来ない、衝撃ですぐに折れる曲がる反れるものと認識していた。だがこの異世界の刀は頑丈で身が厚く、打ち合いにも耐え、容易には壊れない。とは言っても前述した通り、バスタードソード等に比べると、やはりその耐久度は脆弱でありメンテナンスも難しいことに変わりはない。唯一、勝っている点は切れ味が上なことだけだ。
それに刀は習得が難しい。高重量なので叩きつけても効果はあるが、その本質は引いて斬るという特殊な動作だ、それを覚えないと効果が満足に発揮出来ない。そして重く、引いて斬るという特性上、両手を使わないと扱えないので、盾が装備出来ない。このように切れ味以外はほぼ欠点しかない。こんな扱いにくい武器をわざわざ時間をかけて習得するのは、よほどその武器に愛着がある人だけだろう。
以上のような理由により、刀を使用する者は非常に少ない。それは今や刀発祥の国、マドカでもそうである。マドカ出身者でも今ではその殆どが、バスタードソードやグレートソードを使っている。そして刀や小太刀はいまやその外見の美しさから武器というより、超高級美術品扱いとなっており、輸出品としてマドカの大切な国家財源になっている。そりゃ刀を武器に使おうと思っている者にとって、こんなマイナスしかない環境で、抜刀術が産み出されるわけがない。
というわけで抜刀術自体は存在しないが、実は父さんが小太刀や刀を使っていたのは、非常に稀なことだったのだ。父さんは若い頃、マドカで暮らしていたらしく、その時に初めて出会った刀と小太刀に何故か魅入られ、その時お金を貯めて購入し、みっちり習ったそうだ。じゃあ今はなんでバスタードソードに盾を使っているのか?という俺の質問に、今は人を守る護衛任務が多いので、守ることが出来る盾を持っていると説明してくれた。
そんな欠点の多い刀だが、俺はそれでも元日本人として抜刀術を使ってみたい、強烈な憧れがある。幸いなことに手元に刀も小太刀もある、そして何より俺には人並み外れた身体能力がある、それはもちろん体力や運動神経だけでなく、筋力もそうで、成長するとともに桁外れに強くなってきている。その筋力のおかげで、小太刀は最初から片手で扱うことが出来ていた。最近刀も試してみたが、俺の身長が低い分、長いので扱いにくいが、重量的には特に問題なく扱うことが出来たので、将来順調に背が伸びれば、問題なく刀も扱うことが出来るだろう、つまり俺の方の身体的な条件はほぼ満たしていた。
だが教えてくれる人がいないので、空いた時間を使っては自分で試行錯誤しながら抜刀術の練習をしていたのだが、そこでまたもや俺の便利能力《強化知識》が発動、抜刀術の知識と技術が突然頭の中に入ってきた。誰に見せてもらったわけでもないのに何故?と考えていて気づいたのだが、どうやら前世が絡んでいるっぽい。俺は前世で抜刀術、剣道など武道の動画をインターネットでよく観ていたのだが、それが知識として入っていたみたいだ。本当にそうかはわからないが、消去法で考えていくと、それ以外には考えられない。
結果、《強化知識》で気付かされてのは、俺が今まで居合い斬りだと思っていたのは、ただの速く刀を抜いただけの斬りつけで、そこに居合、つまり抜刀術の技術など1つもなかったことだ。俺はただ速く刀を鞘から抜き、斬りつけることが抜刀術だと思っていたが、それは全然違っていた。
抜刀術は速い、この世界の人間はそうじゃないと思っているだろうが、技術が伴ってくると、その速度は恐ろしく鋭く速くなってくる、そして驚くほど正確な斬撃になる。それを俺は何度も観た動画で知っているし、《強化知識》がその技術を教えてくれた。刀を鞘から抜くのでなく、鞘と刀をお互い同時に逆方向に抜く、むしろ鞘を刀から抜くことを強く意識する。そして鞘をカタパルトにし、鞘走りさせて剣速を加速させる。さらに刀を抜いて、構えて、振りかぶって、斬るという複数ある行程を、抜く斬ると簡略化させる。
言うは易く行うは難し、実際にやってみると非常に繊細でその技術を覚えるのは難しい。そりゃ日本でも開祖から連綿と続く技術の継承、各々の苦労や努力、挫折に栄光、果てなき長い道を通って、その技術は日進月歩してきたのだ。いくら俺の身体能力が異常に高いと言っても、一朝一夕での習得は無理に決まっている。それでも俺は、小太刀をゆっくりと抜きながら斬り、そして鞘に戻しを繰り返していく。何回も何回も少しずつ修正しながら、確認しながら、地道に体に染み込ませるように、その動作を覚え込ませていく。
こうやって訓練している抜刀術だが、その抜刀術の始まりはなんなのか?と言うと、それは至近距離で相手が短刀とかを持って襲ってきた場合、どうやって1メートル以上ある納刀状態の刀で対応するのか?というところから来ている。つまりもう刺されちゃうぞ、刀抜いてる暇なんてないよね、と言うか近すぎて抜けないよね、どうすんだよ?このままじゃ死んじゃうぞってことが発端になっている。それに対抗するために編み出されたのが抜刀術なのだ。
そしてそれ以外で抜刀術を使う時ってどんな状況なのか?行き着く答えは不意打ちだろうと思う。相手にしてみれば、納刀していて攻撃できる状態じゃないはずなのに、気づいたときはいきなり斬りつけられているのだ。こんな恐ろしいことはない。そして納刀しているので、太刀筋も読みづらいし、間合いも読みづらい。まさに抜刀術が一撃必殺といわれる所以だ。その分刀は接近戦用の武器なので危険度も高い。実際俺は中・遠距離の槍をメインに使っているので、覚える必要のない技術なのかもしれないが、せっかく刀がこの異世界にもあるのだ、俺はやっぱり抜刀術を覚えたい。
なにせ抜刀術、ロマン溢れるじゃないか、日本男児ならこれで燃えなきゃ嘘だろ。
槍や刀や抜刀術に対しての記述もそうですが、この小説はすべて筆者の妄想の産物ですので、本物と違う!とお怒りの方もいると思います、ですがこれはあくまで娯楽作品ですので、温かい目でお読みくださるよう、よろしくお願いします。




